《【新】アラフォーおっさん異世界へ!! でも時々実家に帰ります》第14話『おっさん、ひとまず解決する』

「狼藉者をひっとらえろ!!」

憲兵隊副隊長レンドルド・バースの號令で、同行していた隊員たちは素早く展開し、敏樹らを半包囲した。

(昔の警察ってじの制服だな。明治とか大正とか)

憲兵隊は全員が帽子をかぶり、黒い制服にを包んでいた。

おそらく服の中にはチェインメイルを著込んでいると思われ、彼らがく度にかすかではあるがジャラジャラという金屬がこすれ合う音が鳴った。

そして全員が揃いのサーベルを腰に下げていた。

対する敏樹ら特に慌てる様子もなく、天監のテレーザは剣を収めて一歩前に進み出た。

「私は天網監察のテレーザという。この邸宅の主、レンドルト・バースが天網を犯しているとの報を得てここにいる。我らに仇なすということは天網府に、ひいては天帝に弓引く行為であると知れ!」

いくら憲兵であっても、天帝に連なる組織の人間に逆らうことはできない。

しかしこの場にいる憲兵たちは、テレーザの言葉にじる気配を見せなかった。

「ふむ、どの組織にもくだらん連中というのはいるものなのだなぁ」

どうやら敏樹らを包囲しているのは、副隊長個人へ忠誠を誓っているタイプの連中らしい。

となれば先ほどの執事同様、すべてを亡き者として処理しようという算段なのだろう。

「ふん! そもそも私が天網を犯しているなどという証拠がどこにある!!」

後方にいた副隊長レンドルトが、隊員たちのあいだを割って敏樹らの前に現われた。

「そこに立派な証人がいるではないか」

テレーザの示した先には、ロロアとマーガレットに救出された水人のバレウがいた。

「くくく……はっはっは! なにを馬鹿なことを!!」

得意げな笑みを浮かべたレンドルトがバレウのほうへゆっくりと歩み寄っていく。

それを見たロロアはバレウをかばうように彼の前に立った。

「ねえちゃん、大丈夫だから」

しかしバレウはロロアにそう告げ、近づいてきたレンドルトと対峙した。

「この方は我が家にとって大切な客人だ。憲兵隊副隊長である私が、まさか人に危害を加えるなどあろうはずがなかろう?」

レンドルトはあいかわらず卑しい笑みを浮かべたまま、わざとらしく肩をすくめた。

「まったく。どうせ私の名聲を貶めようとでもいうロクでもない輩のくだらん報に踴らされたのでしょうが、天監ともあろうお方がけない」

続けてレンドルトは、口元に笑みを浮かべながらも鋭い視線をバレウに向ける。

「しかし、々長くお引き止めしてしまったかもしれませんな。そろそろ故郷・・がしくなってくる頃かもしれませんが……、當家としてはいましばらくおもてなしをしたいところですなぁ」

わざわざ“故郷”というところを強調することで、山賊の被害にあっていた集落へと気を向けようとしたのだろう。

レンドルトはまだ山賊団『森の野狼』が壊滅し、集落に憂いがなくなったことを知らない。

「とにかく! 當家とバレウ殿とは友好な関係を築いております。天網違反などとんでもない!!」

今度はマーガレットに対してアピールするように両手を広げてそう告げたあと、レンドルトは再びバレウを見た。

「我々は良き友人。ですよねぇ? バレウど――ぶべらっ!!」

念押しとばかりに発したバレウに対する言葉だったが、それは途中で遮られてしまった。

若い水人の強烈な右ストレートによって。

「なっ!?」

「副隊長っ!!」

隊員たちはバレウに毆られてふっ飛ばされたレンドルトのもとへと駆け寄る。

「ぐへっ! げほ……げほ……! な、何をする小僧!?」

數メートル吹っ飛ばされ、地面に落ちたあと何度か咳き込んだレンドルトは、バレウを怒鳴りつけた。

レンドルトの周りには、彼を守るように隊員たちが陣取り、剣を構えて敵意を剝き出しにした。

ただ、ひとりだけ反応しそびれたのか、最初に敏樹らを包囲した場所からかない隊員がいた。

敏樹らを警戒するために敢えてその場に殘ったのかもしれないが。

「姉ちゃんには手を出さないって……」

「あぁ!?」

「姉ちゃんには手を出さないって約束したじゃないかぁ!!」

バレウの言葉に、レンドルトは首を傾げる。

「姉? なんのことだ!? 私は知らんぞ!!」

「いやいや、知らんじゃないでしょうが」

そこで敏樹が呆れたように口を開く。

「な、なんだ貴様は!?」

「あ、どうも。冒険者のオーシタといいます」

そこで敏樹は反的にペコリと一禮したあと、話を続けた。

「バレウくんはね、お姉さんに手を出さないという條件で不當な扱いを甘んじてれてたんですよ。あんたは若い人の戯言とでも思って軽んじたんでしょうがね」

「な、なにを言うか! 私はコイツの姉など知らんぞ!! 私は手出ししていない!!」

「だからそれが問題だっての。あんたは何よりもまずバレウくんのお姉さんの安全を確保すべきだったんだよ。それをほったらかしにしたもんだから、彼のお姉さんは山賊にさらわれて、それを知ったからこそ今回バレウくんは俺たちに協力したのさ」

これに関しては多の誇張が混じっている。

確かにバレウは姉のことを知って怒り、素直に敏樹の説得に応じたが、仮に姉のことがなくとも説得材料はいくらでもあったのだ。

例えば集落の長であるグロウを転移で連れ出して説き伏せるというのも有効な手だし、それこそ彼の姉であるニリアを連れてくるのでもいい。

仮に姉のニリアが何事もなく平和に暮らしていたとしても、弟を救うためなら協力してくれただろうし、姉の説得があればバレウもレンドルトに逆らおうという気もなっていただろう。

「つまり、あんたがバレウくんの言葉を軽んじず、彼のお姉さんをしっかり保護していれば、こんなことにはならなかったってわけだ」

と、あえてレンドルト自の不手際によっていまの事態を招き寄せたと思えるようなことを言ったのは、単なる嫌がらせである。

「ぐ……こ、殺せ……!」

バレウに毆られた頬を押さえながら、レンドルトは周りに集まっていた部下に命令を下す。

「この場にいる狼藉者を全員殺せ!! 全部なかったことにしろぉ!!」

剣を構えた隊員たちが、再び包囲網を展開し、にじり寄ってくる。

それに対して、テレーザは剣を抜き、マーガレットも2本の短剣を構え、バレウをかばう位置に立ち、靜かに腰を落とした。

ロロアは憲兵に向けて弓を構え、バレウもまた拳を握って構えた。

ただ、敏樹はとくに構えるでもなくただ立っているだけであり、シゲルもそれに倣ったのか、屋敷の前で棒を持ったまま突っ立っていた。

「その狼藉者とやらには我らも、そして水人のバレウ殿も含まれていると考えていいのだな?」

剣を構えたテレーザが副隊長を含む憲兵たちに問いかける。

「我らに敵対し、人に危害を加えるということがどういうことかわかっているのだな?」

「うるさい、黙れぇ!!」

「ふん。いま剣を引けば見逃してやる。そうでないなら天網監察に対する敵対、および人に対する殺意ありとみなす!! 最後のけだ! いますぐ剣を引けぇ!!」

テレーザの宣告に対し、憲兵隊員は誰ひとり剣を引かなかった。

「だれも剣を引かないようですよ」

敏樹のその言葉が向けられたのは、ひとり離れた位置に立っていた隊員だった。

彼は他の隊員同様剣を構えていたが、敏樹の言葉をけて構えをとき、剣を収めた。

「ふむう……。以前から腐っておるとは思っていたが、バースよ」

「は?」

平隊員に突然名を呼ばれたレンドルトが戸いの聲を上げる。

「お前さん、腐りきっとるなぁ」

言いながらその男は、目深にかぶっていた帽子を取ると、白髪じりの短い茶髪が現われた。

帽子のつばで隠れていた顔にはどことなく威厳があり、初老と思われるその男はとても平隊員には見えなかった。

そして、その男の顔を見た副隊長と他の隊員たちの顔がどんどん青ざめていく。

「そ、そんな……、グレイビー隊長……!?」

その男は、州都憲兵隊隊長ドラモント・グレイビーだった。

「な、なぜ隊長がここに?」

「なに、善良なる市民からの報提供をけてな。正直眉唾もんだとばかり思っておったが、殘念ながらと言うべきか、大當りだったようだな」

「ぐぅ……」

「しかし天網違反とは大それたことをしたなぁ、バースよ」

そこまで穏やかだったドラモントの表が険しくなり、聲のトーンも低く、そして重くなる。

「お前さんがた全員、覚悟はできておろうな?」

隊員たちは明らかにうろたえていたが、レンドルトは暗い表のまま口元に笑みを浮かべた。

「くくく……いい機會だ……。おい、ここであの邪魔者を排除すれば、州都憲兵隊は私のものだ」

その言葉に、隊員たちはざわつき、それぞれ顔を見合い、意を決したように剣を構え直す。

「邪魔者とは俺のことかな? そしてお前さんがたのその態度、憲兵隊への謀反とけ取るが、よいか?」

重く響くドラモントの言葉に、隊員たちは一瞬怯んだが、これまでへたり込んでいたレンドルトが立ち上がり、前に出る。

「あなたは前から目障りだったのですよ」

「ふむう。しかし、州都憲兵隊長を殺すと大事になると思うがなぁ」

「ふふん。殘念ながらここには誰もいなかったことになりますから。そしてあなたはこの先どこにもいなくなる」

「隊長が行方不明というのも、それはそれで大事だと思うが?」

「ご心配なく。この先は私が隊長となり、この街の秩序を守りますので」

「はぁ……それはまた、ロクなことにならなそうだ」

呆れたように息を吐きながらも、ドラモントは慌てる様子もなく懐に手をれた。

「しかしバースよ。お前さん腐っとる上に無能だな」

「なんだと……?」

「俺がなんの容易もなしにここへ來ておるとでも思ったか?」

「なに?」

隊長が懐から手を出すと、そこには1枚の紙片があった。

「それは……」

「突の命令書だよ。すでにそこまで來でおるぞ?」

「なっ!? かかれぇ!!」

レンドルトが號令をかけた時點ですでに命令書は通信箱に送られたが、ここまで來て踏みとどまるわけにもいかなかったのだろう。

レンドルトの命令をけた隊員たちがドラモントに殺到する。

「シゲルっ!!」

「おうっ!!」

隊員たちがき出すのとほぼ同時に敏樹がシゲルに呼びかけ、即応したシゲルは手に持っていた棒を投げた。

それは閃のごとく飛來し、ドラモントの數メートル手前の地面にドスッと鈍い音を立てて突き刺さった。

まさに包囲網を狹めようとした先に、猛スピードで飛んできた棒が刺さったため、隊員たちのきが一時止まる。

ほんの數秒ではあったが、その間にシゲルは屋敷前から駆け出し、目にも留まらぬ速さで包囲網の中心に踏み込むと、地面に突き刺さった棒を引き抜いてブンッ!! と一振りした。

「「「「うわああっ!!」」」」

暴風のようなひと薙ぎに驚き、そのあとに続いた風圧によって隊員たちは勢を崩した。

そしてにわかに門のあたりが騒がしくなったかと思うと、ドラモントが呼び寄せた憲兵隊が踏み込んできたのだった。

**********

した憲兵隊によって、レンドルトの率いていた隊員と、バース家の警備兵および執事のフォスが引っ立てられていく。

「ご協力謝いたす」

ドラモントは敏樹に手を差し出し、握手を求めた。

「いえいえ。余計な手出しをしてしまってすいませんね」

出された手を握り返しながら、敏樹はそう答えた。

最後、シゲルの介がなくとも、ドラモントひとりであの場を切り抜けることはできただろうし、もう1拍あればテレーザとマーガレット、それにロロアも援護にっていたはずだ。

「まぁでも、犠牲はないほうがいいですからね。たとえ罪人であっても」

「む……」

そしてあのまま戦に突していれば、あるいはどさくさに紛れてレンドルトが害されていたかもしれない。

「というわけで、レンドルト・バースはこちらに引き渡してもらおうか」

「むむ……」

ふたりのあいだにテレーザが割ってる。

した憲兵隊は、レンドルトも合わせて拘束し、引っ立てようとしていた。

テレーザとドラモントは無表のまま見合っていたが、ほどなく隊長の表が緩んだ。

「無論だとも。憲兵隊は天網監察に逆らうなど、ありえんからな」

「ふん、懸命な判斷だ」

レンドルトはテレーザに引き渡され、一行は監察署に戻った。

「すまないが、バレウ殿はしばらくこちらで保護させていただく。さすがに彼の証言は必要だからな」

監察署に戻ったあと、レンドルトは留置所に拘束され、バレウは客人として遇されることになった。

數日後には王都か、あるいは本部から人が派遣され、事聴取などが始まる予定だ。

本來であれば敏樹らも天監の聴取をける必要があるのだが、今回の手柄をすべてマーガレットとテレーザに譲ることを條件に免除してもらった。

「わたくしどもとしましては、善良な市民の協力者として表彰などしたいところなのですがねぇ」

「面倒だからパスで」

マーガレットは敏樹の返答に苦笑を浮かべて肩をすくめる。

「しかしトシキよ。よくもまぁ憲兵隊の隊長を味方につけられたものだなぁ」

「まぁ経歴からして有能で清廉な人っぽかったですから」

州都憲兵の隊長であるドラモントは、若くして王都憲兵隊の副隊長にまでり上がった秀才だった。

しかし彼の出世はそこで止まり、以降は地方を転々とすることとなった。

そして50歳を目前にしてようやく州都憲兵隊の隊長職に就くことができたのだった。

「あー、真面目すぎて上に疎まれるやつは、こういう経歴になることが多いな」

テレーザが納得したように頷く。

実のところ敏樹は天監以外にも使えそうな協力者を探しており、『報閲覧』でいろいろと調べ上げた結果、ドラモントという人に目をつけていたのだ。

「さて、トシキよ」

テレーザが表を改める。

「レンドルト・バースからはいろいろな報が得られるだろう。それによって大きなきがあるかもしれん」

今回の件では、人奴隷に対して天監がき、それなりに大きな果を上げることができた。

憲兵隊が協力したという事実があるのも大きい。

これ以降、人奴隷に関する捜査は大きくき始める可能が高い。

「なので、これからも協力を頼む」

テレーザは強い意志を込めた目を敏樹に向け、手を差し出した。

「ええ、こちらこそよろしくお願いします」

そして敏樹は、差し出されたてを握り返しながら、そう答えた。

**********

監察署でしばらく話し込み、徐々に日が暮れつつあった。

特にロロアとバレウは、話が盡きないようだったが、一件落著してからもっとゆっくり話せばよかろうということで、話を切り上げた。

夕暮れの街並みを、ロロアと並んで歩く。

「とりあえずよかったな、バレウくんを助けられて」

「はい。いつもありがとうございます」

し嬉しそうに答えたあと、ロロアは立ち止まってペコリと頭を下げた。

ちなみにシゲルだが、彼は副隊長宅の騒が終わったあと、監察署には戻らずそのまま冒険者ギルドへと向かっていた。

「あー、ちょっと小腹空いたなぁ」

「だったらほら、屋臺がありますよ!」

敏樹らが歩いている道の端には、ぽつぽつと屋臺が並んでいた。

その中から、ふたりはいい匂いを漂わせていた串焼きを購し、歩きながら食べた。

グレートホーンという牛型の魔を焼いて甘辛いタレをつけたもので――、

(うん、まんま牛串だな。普通に味い)

というのが敏樹の想だった。

「あ、トシキさん、ちょっと」

串焼きを食べ終わった敏樹の顔を覗き込んだロロアは、腰のポーチからハンカチを取り出した。

「口元、汚れてますよ」

そう言ってハンカチで敏樹の口の端についたタレを拭き取った。

「お、おう……、ありがとう……」

「ふふ……どういたしまして」

それからしばらく後、ふたりが宿屋につくころ、あたりはすっかり暗くなっていた。

「おお、トシキ殿ー! ロロア殿―! 遅かったではないかー!!」

宿に著くと、ロビーでガンドが待っていた。

ガンドは待合用の椅子から立ち上がると、ふたりのもとへ小走りに寄ってきた。

「どうしました、ガンドさん?」

「うむ。シゲル殿とジールたちにはギルドで伝えたのだがな」

そこまで言ったあと、ガンドはニコリと笑い、敏樹の肩にドンと手を置いた。

「おめでとう! このたびのDランク昇格試験、全員合格である!!」

ふたりは昇格試験の合格を告げられたのだった。

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