《【新】アラフォーおっさん異世界へ!! でも時々実家に帰ります》第12話『おっさん、事を聞く 前編』

「勉強しかしてこなかったが都會に出て悪い男に騙される。どこにでもある話よ……」

目を覚ました優子は敏樹に請われ、これまでの経緯を淡々と話し始めた。

隨一の進學校を出て最高學府に學した優子は、都會で遊びを覚え、よくない友達が増え、これまでの自分とはわることのない世界に住む男に惹かれていく。

そこからの話はひと昔前に流行ったケータイ小説のようなどろどろとした容であり、他人事とはいえ聞いていて気分が落ち込むようなものだった。

「これでも頭はそこそこいいからさ」

いろいろあって大學を中退し、夜の世界にを投じた彼だったが、持ち前の頭脳でそれなりの地位を得て、30半ばにしてクラブを経営するに至ったらしい。

(フリーターから派遣を経て就職したもののこき使われて、おけでフリーランスになった俺とはえらい違いだな)

それから彼は40になるまでのあいだ、複數のクラブやバーなど夜の店を経営し、それなりの果を上げていたのだとか。

「まぁ思ってたのとは違ったけど、悪くない人生だったと思うよ。祐輔も生まれたし。ま、男運はちょっと悪かったけどね」

妊娠が判明した瞬間に蒸発されたり、付き合う男の大半から日常的に暴力を振るわれたり、収の大半を貢がされたりすることを“男運がちょっと悪い”で済ませるのは語弊があるような気もするが、そのあたりの価値基準は人それぞれなので、あえて言及しなかった。

「でも、母さんが死んだって知ってさ……。急に虛しくなっちゃって」

が母親の死を知ったのは、SNSのタイムライン上でだった。

優子は偽名でSNSに登録し、時々思い出したように故郷の同級生の向をのぞき見していた。

そんな中、自分の母親が死んだこと、それを優子に伝えられる者はいないかという記事が拡散され、彼の目にとまったのだった。

「私、海外の企業に勤める自慢の娘だってさ。大學を中退したのは、在學中にスカウトが來たからなんだって。笑うでしょ?」

それは優子が母親についた噓だった。

勉強なら誰にも負けない自慢の娘だっただけに、夜遊びしすぎて単位が足りず、中退するなどとは口が裂けても言えなかった。

そこで、海外の企業から聲がかかったので、一度大學をやめる。

必要なら向こうの一流大學にいつでもれるといった噓を並べて母親を納得させた。

母親の方も、まさか真面目一辺倒だった自慢の娘が、夜の町で働いているなど思いも寄らなかったのだろう。

水商売に関わったおかげで稼ぎだけはよかったので、仕送りは欠かさなかった。

おかげでシングルマザーとして苦労して自分を育ててくれた母親には、充分恩返しができたと思っていた。

たまに時間ができて連絡したときなどの様子から、とても元気そうではあったし、SNSから垣間見える母親の生活ぶりは決して悪くなかったようだ。

落ち著いたら祐輔を連れて帰ろうかと思っていた矢先、母親の死を知った。

特に持病などもなかったのだが、ある日買いに出かけた先で、突然倒れてそのまま帰らぬ人となったらしい。

「運がよかったと言うべきなのかしらね……」

ひとり暮らしだった母親が家ではなく外出先で倒れたことは、たとえば家にひとりでいるときに倒れて何日も発見されずにいる、ということよりはたしかにマシなのかも知れない。

また、SNSのタイムラインに流れてきたのを早い段階で発見できたというのも幸運だった。

いくつもの店を経営するである優子は、毎日SNSを覗くほどヒマではないので、たまたま見た日に報が流れてきたということだった。

「でも、祐輔のことは、報告もしてなかったんだ……」

結果、彼の母親は自に孫がいることを知ることなくこの世を去った。

「……で、それがあの男ととうつながるわけ?」

「ちょっとぉ! こういうときは相づちだけ打って話は最後まで聞くものよ?」

「いや、知らんよ、そんなこと言われても……」

「やれやれ、そんなんじゃモテないぞ……って、別にいいのか。綺麗な奧さんいるみたいだし」

「「はぁっ!?」」

優子の言葉に敏樹とロロアが同時に聲を上げる。

ちなみに現在の狀況だが、こちらに転移してきた5人は引き続きロロアのテントに滯在していた。

優子に刺された男は相変わらず昏倒したままで、祐輔に関してもまだ事をあまり知られたくないという母親の要により、眠らされたままだ。

テントの中央に用意されたちゃぶ臺を挾んで敏樹と優子が向かい合って座り、ロロアは敏樹のし後ろに控えていた。ちゃぶ臺にはロロアが用意した紅茶が用意されていた。

「ちょっと、なによ……」

敏樹とロロアが見せた予想外の反応に、優子のほうも顔を引きつらせた。

「もしかして結婚してなかったの?」

「いや、その……」

「あぅ……」

ふたりの反応に優子は呆れたように肩を落とした。

「はぁ……。大下くん、こんな私がいうのもなんだけど、いい年なんだからきっちりしないと……。彼はまだ若いみたいだけど……」

「あの……同い年です……」

「はぁ?」

「ひっ……?」

急に険しくなった優子の表と口調に、ロロアは思わず聲をらす。

「ねぇ、大下くん?」

「あ、はい」

敏樹に向き直った優子は完璧な笑顔を浮かべていた。

もし夜のお店でこんな笑顔を向けられたら、大抵の男はイチコロだろうな、と思いながらも、敏樹はなぜが背筋が寒くなるのをじた。

「私、彼が何を言っているのかよくわからないんだけど?」

そう言って可らしく首を傾げる優子だったが、それはただいたずらに敏樹とロロアの恐怖心を煽るだけに終わった。

「だ、だからさ……、彼は俺たちと同じ、しじゅ――」

「――だめぇーっ!!」

「もがっ!?」

優子は手をばし、敏樹の口を押さえて彼の言葉を遮る。

「だめよ……それ以上は言っちゃダメ。わかった?」

さきほどまでの笑顔は消え、般若の形相で睨む優子に対し、敏樹は涙目でふるふると頷いた。

「あの! 暴は、よくな――」

「おだまりなさいっ!」

「――ひぃっ!?」

敏樹から手を離した優子は再びロロアに向き直る

「大あなたどう見ても二十代前半でしょう!? それが大下くんと同い年だなんて……っていうか、髪青くないっ!? え? なに? そんな青かったっけ……?」

向こうの世界にいるとき、優子がロロアの存在を認識したのは転移直前の一瞬だけだった。

しかし元々記憶力がいいうえに高級クラブなどで培われた観察力が加わったせいか、なにがどうとはっきりとは言えないが、ロロアの髪が青いことに違和を覚えているようだった。

「まぁ細かいことは後回しでいいじゃないか。で、結局あの男はなに?」

「……はぁ、そうね。いろいろと聞きたいことはあるけど、それはお互い様でしょうし、本題に戻りましょうか」

と口調を改めて姿勢を正し、優子は用意された紅茶をひと口すすったあと、ほっと短く息を吐いて顔を上げた。

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