《【新】アラフォーおっさん異世界へ!! でも時々実家に帰ります》第1話『おっさん、テオノーグ王國近現代史について學ぶ』

現テオノーグ王バートランドは、凡庸な王として知られていた。

偉大な先代と有な次代とのあいだを繋ぐだけの、聡明とも暗愚とも言えない平凡な王。

このまま順當に王位継承が行なわれれば、ただ年表を埋めること意外に特筆すべき功績のない、無の王。

それが彼に対する一般的な評価だった。

先王ザラカイアの時世、ジニエム山を越えた向こう側にある迷宮都市ザイタより溢れた大量の魔が、山を越え、さらには森を抜けて王國領に押し寄せるという事件があった。

後に魔集団暴走スタンピードと認定されたその魔の襲來を、先王はの解放によりほとんど被害のない狀態で殲滅することに功した。

各ギルドや周辺の王國、そして天網府を通じて天帝に呼びかけることで、ひとりの優秀な魔士に戦級の魔を習得させることに功したザラカイアは、その魔士の力で魔の集団の大半を倒させ、殘りは軍を持って掃討し、民間人への被害をほとんど出さずに魔集団暴走スタンピードを終息させた。

その後ザラカイアは魔集団暴走スタンピードの責任を問わない代わりに、迷宮都市ザイタとのあいだに有利な條件での易を結ぶことに功した。

さらに、殲滅の大魔導と呼ばれるようになった件くだんの魔士を魔士ギルドから冒険者ギルドへと鞍替えさせ、王國統括ギルドマスターとして抱え込むこともできた。

一説にはの習得により魔の使用を封印されそうになった彼の柄を、冒険者ギルドのグランドマスターと協力して半ば強引に預かったと言われている。

「迷宮都市産の良質な魔石を多く手にれられるようになったおかげで、ウチの王國は隨分と潤ったらしいよ。とくにザイタとの中継點になったここヘイダの町が一番恩恵をうけただろうね」

敏樹はこの日、テオノーグ王國の近代から現代史についてファランに教えを請うていた。

彼の隣でロロアも真剣な表で話を聞き、ファランの隣ではベアトリーチェが寢息を立てながら、わずかに開いた口からよだれを垂らしている。

いびきをかいていないのが救いか。

「ちょうどウチもお祖父さんから父さんに代替わりするころでね。當時は材木問屋だったドハティ商店だけど、魔集団暴走スタンピードのせいで森に異変があって木があまり取れなくなったんだ」

集団暴走スタンピードの影響によって周辺の地形はかなり変わってしまい、林業従事者の多くが職を失うことになった。

「當面は王國から補助金が出ることになってたから、林業の衰退とともに町も廃れるだろうと思っていたお祖父さんは、補助金を手に町を離れて別の場所から再スタート刷るつもりだったんだけど、ザイタとの易が始まるという報を得た父さんに説得されてね」

結果クレイグの読みは當たり、ただの材木問屋だったドハティ商店は、魔石の売買を皮切りに業績をばし、やがて王國でも一目置かれる商會へと長できたのだった。

「なるほどねぇ。しかしその殲滅の大魔導とやらいう魔士を抱えることに、よく他の王國が納得したよなぁ」

「まぁ一応冒険者ギルドは中立の組織だからね。その建前がある以上、殲滅の大魔導は仮に王と天帝の利益が相反した場合、天帝側に與するかたちになるわけなんだけど……、そんなことにはならないかなぁ、普通は」

先代の偉業についてある程度わかったところで、続いて有な次代へと話は移る。

「エリオット殿下の功績はなんといっても文化の発展だろうね」

バートランドの長男にして王太子のエリオットは、立太子以降數年で文化の発展に盡力した。

特に食文化と蕓文化の発展はめざましいものがあるという。

食文化に関しては、単純に味しい料理を広めるというだけなく、これまで食材として認識されていなかった多くのに目を付けることで、食糧自給率の上昇に大きく貢獻した。

分野に関していえばエリオット自になにか秀でた才能があるわけではないが、優れた蕓家を見いだし、育てることが上手いのだと言われている。

とくにここ2~3年で発的に流行した歌劇――音楽と演劇を組み合わせた娯楽――は、高級役人や大店の商人などの富裕層に大けしているという。

王都や商都などの大きな街では歌劇場の建設ラッシュが始まっており、いまやその人気は庶民にまで広がりつつあるのだとか。

「歌劇ってことは、オペラみたいなもんか?」

「お、トシキさんってその辺詳しいの?」

「いんや、全然」

次男のヴァルターは武蕓に秀で、その威風堂々たる容姿や言から軍部からの信頼が厚い。

「ちょっと荒っぽいところが人によっては目につくらしいけどね。まぁそこが人気の要因だったりもするんだけど」

このように、偉大な先代と有な次代とに挾まれるかたちでただ現狀を維持しているのが、現王バートランドというわけである。

「んー、その現狀維持ってのが案外大変なんだけど、それはあんまりわかってもらえないんだろうなぁ」

組織というのは何もしなければ急速に崩壊していくものだ。

人がなにもせずただぼんやりと突っ立っていれば、いずれ疲労で倒れ、死してしまうように。

放っておけば衰退するものを維持すると言うことは、緩やかに長させなくてはならず、特に大過なく王國という巨大な組織を運営しているというのであれば、現王はかなり有能な部類にるのではないか。

先王から引き継いだものをただ食い潰しているだけというのであれば、そういった空気が國にも流れ始めるものだ。

ここヘイダの町を始め、なくとも敏樹が訪れたことのある商都、州都は活気に満ち溢れていた。

となれば、現王バートランドは相応の手腕をもって國家運営に盡力しているはずである。

敏樹の嘆息するような呟きに、ファランは軽く笑みを浮かべながら口を開いた。

「ま、その辺りのことはある程度力のある商人や役人たちはちゃんと把握しているのさ。でも一般人がトップに興味がないってことは、裏を返せば不満がないってことだからね」

「なるほどね」

「ただ……」

と、ファランの表がわずかに曇る。

「現王に唯一不安要素があるとすれば、メアリー王かな」

現王バートランドには3人の子がおり、メアリー王は先日15歳で人を迎えたばかりの末っ子である。

期からなにかと優秀だったふたりの兄とことなり、このメアリー王には容姿以外に特筆すべき點がない。

「もしかすると現王はふたりの王子に嫉妬みたいなものをじてるのかも知れない。でもそれを表に出さない代わりに、王を溺するようになった……っていうのが世間一般に囁かれているもっともらしい話さ」

そして現王バートランドのを一けるメアリー王には、あまりよくない噂があった。

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