《【新】アラフォーおっさん異世界へ!! でも時々実家に帰ります》第2話『おっさん、テオノーグ王家の話を聞く』

テオノーグ王國、王都セニエスク中央にある王宮の一室。

小太りの中年男に若いがしなだれかかっている。

「ねぇお父様さまぁ……、蜥蜴とかげの涙石がしいのですけどぉ」

そうやって甘えたような聲を出す若いは名をメアリーといい、この王國の王であった。

「む、むぅ……。しかしだな、いまは天網府がいておるゆえ……」

と困ったように返した男こそ、テオノーグ王國現國王バートランドである。

バートランドは現在私室にいるため私服姿だった。

その服裝は一見してシンプルなデザインだが見る人が見れば仕立てのいいことはすぐにわかるだろう。

対して娘のメアリーはずいぶんと奇天烈な服裝だった。

ベースとなるドレスこそシンプルなレザー仕立て――とはいえ王族にしてはし奇をてらいすぎているはあるが――だが、そのうえからファーのファーのストールを羽織り、のそこかしこにカラフルな裝飾が見て取れる。

ただ、服裝の中に金屬製のは見あたらず、生の牙や角を加工したが目立った。

なにより目を引くのが首から提げたネックレスだろう。

黃金の中に、様々な黒い模様のった丸い寶石のようなものをいくつも連ねたそれを、メアリーはつまんで持ち上げた。

「ここに蜥蜴の涙石がると、もっと華やかになると思うんですの」

「だがなぁ……。蜥蜴の氏族は王國領にあるので、逆に手を出しづらいのだ……」

が首に提げたネックレスに使われている『涙石』というのは、非常に希価値のある寶石としてごく一部の好事家から好まれるものだった。

しかし多くの場合は、それをにつけているだけで眉をひそめられる類いのものでもある。

なにせそれは人からえぐり出された瞳から作られるものなのだから。

「ええー……お父様は國王なのに、涙石のひとつも手にれられないんですの?」

「いまは時期が悪いと言っているのだ。もうし待ってほとぼりが冷めればそのうち……な?」

「ふんっだ。お父様の役立たずっ!!」

ぷいっと顔を背けたメアリーは、そのまま國王から離れて立ち上がった。

「や、役立たず……。そんなことを言わないでおくれよメアリー」

する娘を失させたことに肩を落とす國王に背を向けたまま、メアリーは首を回してチラリと父親を見て、口元に妖艶な笑みを浮かべた。

「だったらぁ、メアリーのお願いを聞いてくださらない?」

「む、むぅ……わかった、なんとかしよう」

「あはっ!」

くるりと自分のほうへ向き直り、無邪気な笑みを浮かべる娘の姿に、バートランドはの奧が熱くなるのをじた。

「お父さまだーいすきっ!」

そしてに飛び込んできた娘を抱きとめ、優しく頭をでながら、バートランドは心底幸せそうな笑みを浮かべていた。

**********

「あら、お兄さまごきげんよう」

自分の部屋へと帰ろうと歩く廊下で、メアリーは長男のエリオットに遭遇した。

エリオットは妹の姿を視界にれた瞬間、不機嫌さを隠す様子もなく渋面を作った。

「メアリー、そんな格好をして恥ずかしくないのか?」

「あら、どうして?」

首を傾げたメアリーは、ひと呼吸後にその場でくるりと回り、兄に笑顔を見せる。

「素敵でしょう?」

「く……」

「それではごきげんよう」

さらに表をゆがめた兄の傍らを、メアリーは軽やかなステップで通り過ぎていった。

「まったく、どんな神経してるんだか……」

背後から聞こえた聲に、エリオットは表しだけ緩めながら振り返った。

「カーティスか。なんの用だ?」

カーティスと呼ばれたのは、まだどこかあどけなさの殘る容貌の青年だった。

平服と禮服を合わせたような、しかそれを絶妙に著崩した格好の青年は、人の良さそうな穏やかな笑みを浮かべ、ゆったりとした足取りでエリオットに近づいていく。

「いえね、例の歌劇場の建設のことでいくつか従兄にいさんに確認したいことがありまして」

カーティス・テオノーグ。

彼は現國王バートランドの弟クリフトンの三男であり、巷では『道楽貴公子』と呼ばれていた。

「ふむ。ではこのまま私の部屋で話を聞こうか」

そう答えたエリオットは、眉間にしわを寄せ、メアリーが去って行ったほうへ視線を向けた。

それにつられるようにカーティスもそちらに目を向け、呆れたように苦笑をらす。

「聞けば先日の夜會に、あの格好で出たらしいですね」

「ああ……」

揶揄するような笑みを浮かべて放たれた従弟の言葉に、エリオットは苦蟲をかみつぶしたような表で短く答えた。

「いい加減何とかしといたほうがいいと思いますけどね」

「わかっている……! だが父上がな……」

メアリーがに著けているは、涙石のネックレスを始め、レザーのドレスも、ファーのストールも、そして彼を飾るあらゆる裝飾品のすべてが人の素材でできていたのだった。

**********

人を害するのは天網違反なんだろ? そんなのにつけてて大丈夫なのか?」

ファランからメアリーの話を聞いた敏樹は、の辺りにムカムカするものをじながら、首を傾げて疑問を呈した。

青ざめた顔で俯くロロアが手を握ってきたので、汗ばむ彼の手を強く握り返してやる。

本人は獣人だが親が人であり、かつ40年間人を隣人として過ごしてきたロロアにとって、メアリーの話はあまり気分のいいものではない。

なのでファランは事前にロロアには席を外すように勧めたが、彼が拒否したので話を続けていた。

「たしかに人を害することは天網に反するけど、人の……その……素材、を扱うこと自は違法じゃないんだ」

「なんでだ?」

「悲しいかな、人が売りに出するからなんだよね」

ロロアの故郷であるグロウ率いる集落は、幸い米の栽培に優れ、酒を扱うことで金銭を得ることができている。

しかし中にはそういった産業を上手く持てない氏族もいるのだ。

食事も睡眠も必要としない人なので、ただ生きるだけなら金も食料も必要ない。

現代でも人とわらずに、靜かに暮らす人もいるが、多くの場合は人の文明にれ、娯楽を求めるようになった。

しかしそういった娯楽をするには金銭が必要となり、その金銭を得るためには何かしらの産業が必要になる。

しかしそういった産業をもてない人たちはどうやって金銭を得るかというと、同朋の死を売りに出すのだ。

中には自分のの一部を売りに出す者もいた。

「なるほど。売買をじれば當の人が苦しむ場合があるのか……」

なので、市場に出回っている人の素材を購し、につけたり飾ったりすることは違法ではない。

だが、そうやって同朋の死を売りに出す人はなく、市場に出回っている――ごくわずかにではあるが――人の素材の多くは違法に採取されたものだ。

「でも、そういう希を扱う人たちってのは大抵権力を持ってるからね。なかなか尾を摑ませないんだよ……ただ」

そこでファランの口元がにやりと歪む。

「ここ最近だれかさんのおかげで捜査が一気に進んでね。メアリー王、そろそろヤバいらしいよ」

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