《【新】アラフォーおっさん異世界へ!! でも時々実家に帰ります》第3話『おっさん、王宮への用改めについて聞く』前編
ちょっとだけ……。
短い上に主人公が出てこないので、サブタイトルに無理はありますが、そこは見逃してください……!
「用改めである!」
その日、テオノーグ王宮門前に天網監察の聲が響いた。
十名で編された監察隊はすべて帝都所屬のエリートたちで、マーガレットやテレーザの姿はない。
隊員たちの隙のない所作からそれぞれかなりの使い手であることがわかる。
シゲルが見れば問答無用で訓練所にい出しそうだ面々だった。
「し、しばしお待ちを……」
「案は無用だ」
リーダー格らしき男はそう言うと、衛兵を無視して歩き始めた。
「ちょ、困りま――」
數名いる門番のひとりが進路を遮ろうと立ちはだかったが、すべてを言い終える前に首が落ちた。
衛兵たちのあいだからどよめきがおこるなか、隊長のすぐ後ろにいた隊員のひとりが、いつの間に抜いたのかサーベルの振りをして刃についた糊を飛ばす。
「無禮者。この紋所が目にらぬか」
彼は靜かに、しかしよく通る低い聲で集まった衛兵たちに告げ、腰に佩いた鞘の側面に浮かび上がる桜の紋を誇示しながら、サーベルを収めた。
衛兵たちがたじろぐなか、天監たちは何事もなかったように歩き始める。
監察隊が敷地を進むにつれ、各所に配置された兵士が集まってきたものの、ひとり斬られたことがすでに周知されているのか、彼らはただ遠巻きに見守るだけだった。
「な、なにをしておるのか――」
そんな中、王宮からそこそこ高い地位にありそうな者が駆け出してきたが、即座に頭部の上半分が焼失した。
下顎のみを殘した、炭化した頭部からプスプスと煙を上げながら、男の死はバタリと倒れた。
監察隊の中に杖を掲げる者はあったが、全員歩みを止めることはなく、淡々と進んでいく。
靜かに歩く監察隊とは対照的に、衛兵たちのどよめきはさらに大きくなった。
「馬鹿な……、敷地は魔を封じられているはずだろう……?」
各所で似たような聲が上がった。
王宮敷地ではセキュリティ上の都合により、魔の使用が止されている。
にもかかわらず、隊員のひとりは魔を行使した。
しかも人の頭を一瞬で焼失させるような、威力の高い攻撃魔を、である。
「あの杖にが……?」
「それならいいが、もしあの桜の紋に仕掛けがあるとすれば、ヤバいぞ」
魔士だけが魔を使えるのと、全員が魔を使えるのとでは話がかなり違ってくる。
それぞれかなりの使い手だとしても、たかが十人。
最悪王宮で迎え撃てば、闇に葬れる可能がゼロではなかった。
しかし、それはお互いが魔を使えないという前提の話である。
仮にひとりふたり魔師がいたとしても、玉砕覚悟で全衛兵が戦いを挑み、かつ王都の兵士を呼び寄せればなんとかなるかもしれない。
しかし自分たちは一切の魔を使えない中、相手は攻撃魔を始め、防魔から支援魔、回復まで使えるとなると、その戦力差は天と地ほどに開き、たとえ王都中の兵士を集めてもこの十人に勝つことはできないだろう。
結果、衛兵たちはなすすべなく監察隊を見送ることになったのだった。
**********
「天帝はお怒りである! これよりさき、行く手を阻む者は三族まで死罪とする!!」
王宮にったあとも、監察隊は淡々と進んでいった。
本來王宮というところは防衛的な理由から迷路のようになっていることが多い。
とくに王族のプライベート空間となると、多慣れた者でもし油斷すれば迷子になってしまうほどだ。
しかしそんな中を、監察隊はあらかじめ地図が頭にっているかのように迷いなく歩いた。
王族に直接仕える使用人たちだが、衛兵に比べて戦闘能力は低いものの忠誠心は高い。
行く先々で、命がけで隊員たちの行く手を遮る者が現われた。
そして十名ほどを敗したところでうんざりした隊長は、先のような言葉を発したのだった。
自分だけならともかく、家族にまで累が及ぶとなると、さすがの忠臣たちも二の足を踏むようだ。
「控えよ!!」
そこに新たな聲が響いた。
通路の奧からひとりの男が監察隊に向かって歩いてくる。
「おお、エリオット殿下」
「王子、よいところに……!」
第一王子の登場に、使用人たちがめき立つ。
エリオットは凜とした態度のまま、畏れをひとかけらも見せず監察隊へと歩み寄っていく。
心強い援軍の登場に、にわかに明るくなった使用人たちだったが、王子が監察隊に近づくにつれ彼らを取り巻く雰囲気は加速度的に暗くなっていく。
このままでは王子も斬り伏せられるのでは……? と、忠臣たちは不安に思ったが、それは杞憂に終わった。
王子が監察隊に膝を折るという、意外なかたちで。
「お勤めご苦労様です。ここからは私がご案します」
「お心遣い、謝します」
王子は立ち上がると踵を返して歩き始め、監察隊が後に続いた。
使用人たちは、そんな彼らを唖然とした様子で見送るのだった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
申し訳ありませんが新作に注力したいので、この先は更新がほぼ停滯するかと思います。
たまに思い出したようにちょこちょこっと更新するかも知れませんが……。
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