《死に戻りと長チートで異世界救済 ~バチ當たりヒキニートの異世界冒険譚~》第77話『と幸せこそが最大の武』
明日、タバトシンテ・ダンジョンへ向かうことにした俺たちだったが、その日はエベナの宿に止まることにした。
エベナからタバトシンテ・ダンジョンは2時間もあれば著くからな。
というわけで、宿屋での作戦會議となった。
「ではデルフィーヌさん、ヘクターくんがなぜあのようになったのかわかるかね?」
「アイツの頭がオカシイだけでしょ?」
「ま、それもあるけどね。でも頭のオカシイ奴が全員兇行に走るワケじゃないからね」
「あ、頭がオカシイのは認めるんだ」
「そりゃそうでしょ。まともな思考回路があればどういう狀況であれあんな事にはならんと思うし」
まあ俺は心理學者でもなんでもないから言ってることはテキトーだけどね。
「さて、ではどうすればヘクターを止められるのか。簡単な話、ハリエットさんに目を向けないようにすればいいだけなんだよ」
「それが出來れば苦労はしないでしょ。どうやんのよ?」
「ふっふっふ。ヘクターくんには幸せになってもらおうと思います」
**********
「というわけで、タバトシンテ・ダンジョンにやって來ました」
今回の作戦についてデルフィは、あまりいい顔はしなかったが、本人が納得するなら口出しはしない、ってことになった。
「夫婦で楽しめる吸鬼の館、行く?」
「行かない」
なんてやり取りをしつつ俺たちが訪れたのは『魔の館』だった。
「いらっしゃい」
ムチムチグラマーのおばちゃんが、キセル片手に出迎えてくれる。
相変わらず絵になるねぇ。
「おや、ウチは夫婦やカップルはお斷りだよ」
「ああ、客じゃないんです」
「へぇ、じゃあ冷やかしかい? なおさらお帰り願いたいねぇ」
「いや、そういうんじゃないです。ここにアレシアというコがいると思うんですが」
「……あの子になんの用だい?」
「えっとですね、縁談を持ってきました」
「はぁ!? 何言ってんだい?」
「縁談です。僕はのキューピッドなのです」
「……いや、何言ってんだい?」
「まぁ冗談はさておき、アレシアに紹介したい男がいるんですよ。彼、旦那さんがどうのこうのと言って客取ろうとしないでしょ?」
「よく知ってるね……。まあウチには縁談や請けの話は腐るほど來るから一応聞いてあげるけど、アンタが紹介したい男ってのはちゃんとしてるんだろうね? 箸にも棒にも掛からないような男に請けさせたとあっちゃあウチの信用に関わるからね」
「Aランク冒険者、そこそこ男前でもちろん獨。歳は……三十過ぎかな? あ、遠い先祖に魔族がいるって話しで、先祖帰りで闇屬の固有能力持ちです」
「ほう、魔族ねぇ……。悪くない件だ」
ちなみに魔族ってのはヴァンパイアやサキュバス等、闇屬に適応のある數民族の総稱ね。
彼らも俺たちと同じ人間で、魔とかとは一切関係ありません。
「しかし請けとなるとそこそこな金額が必要になるよ?」
「Aランク冒険者ですよ? 大丈夫でしょう。ダメなら俺がなんとかしますし」
「……わからないねぇ。そこまでしてなんのメリットが?」
「守りたい人がいるので」
隠してもしかたがないので、ハリエットさん絡みの事を簡単に説明する。
「そのためにアレシアを利用するってのかい?」
「はい」
「そんなヤバそうな男と上手くいったとして、アレシアが不幸になったらどうすんだい?」
「死んでお詫びします」
「……なんだいそりゃ。ワケがわかんないねぇ」
実は今回の作戦を実行するにあたって<スタート地點更新方法切替>を5000萬ptで取得しており、この件が一段落著くまではスタート地點を更新しないことにしている。
もしこの計畫でしでもアレシアが不幸になりそうなら、死んでやり直すつもりだ。
「ま、アタシの人生じゃないし、決めるのはあの子自だ。アタシとしても働きもしないを養わずにすむならありがたいしね。それでアンタの話に乗って不幸になったとしても、ここに籍を置いてわがまま言い続けたあの子の業ってことにしとこうかね。……アレシア! アレシア!!」
「はーい」
「え……?」
軽い返事とともに現れたアレシアの姿に、デルフィが驚く。
そういやデルフィは大人になったアレシアしか見たことないんだったな。
「その人がアタシの旦那さん?」
「この人は客じゃないよ。それにもう相手がいるだろ?」
「えー。別にお妾めかけさんでもいいんだけど?」
「は? アンタ何いってんの?」
アレシアの発言にデルフィが反論。
うん、俺としてもハーレムとか興味ないんで、結構です。
「アンタに縁談を持ってきたんだとさ」
「縁談? ホントに!?」
縁談という言葉に、アレシアの目が輝く。
その様子を見たデルフィが呆れたようにため息を吐いた。
正不明の初対面の男から持ちかけられた怪しさ全開の縁談に興味を示すなんざ正気の沙汰じゃないよな。
うーん、このコが不幸になったとしても、自業自得な気がしてきたぞ……?
まぁ俺が関わる以上はちゃんと責任取るけどさ。
「うん。とりあえず場所変えようか」
**********
「こういう渋い顔は嫌いじゃないし、Aランク冒険者って言うのがいいわね。あと『幻想の魔道士』っていう二つ名も好きよ」
近くのカフェでヘクターの寫真を見せ、プロフィールを紹介したところ、なかなかの好を得ることが出來た。
あとでごちゃごちゃ文句言われても面倒なのでハリエットさん関連の事もきっちり説明しておく。
それで斷られるな仕方がないと思っていたが
「略奪ね? 燃えるわ!!」
と、逆に乗り気な様子。
うーん、ヘクターはハリエットさんのものじゃないから略奪ってのは見當外れも甚だしいのだが、本人がやる気になってくれたようなので水を注さないでおこう。
「どうせウチにいたって働きゃしないんだ。ちょっとぐらいなら連れ出してもらっても問題ないさね。アレシア、やるからにはしっかり落とすんだよ?」
と、ママの許可を頂いたのでアレシアを連れてトセマへ。
アレシアには、ママと『収納』を使って通信をとれるようにしてもらう。
なにかあれば隨時相談出來るように。
「ふふん。サキュバスの手練手管が的な魅了だけじゃないってこと、アタシが証明してあげるよ」
ママ、意外とノリノリだった。
**********
「まずは敵を知らないとね!」
意気揚々と魔士ギルドにっていくアレシア。
ここでいう敵とは、標的ではなく障害のことで、今回の場合はハリエットさんがそれにあたる。
そしてハリエットさんを一目見たアレシアは、水をかけられた炎のようにションボリとしぼんでしまった。
とりあえず生けるとなってしまったアレシアを引きずってし離れたカフェへ。
「おい、急にどうした」
ションボリと俯くアレシアに聲をかける。
「……抱いて」
「は?」
「お願い、抱いて」
「ちょっと、アンタ何いってんの?」
アレシアの突然の告白に反論したのはデルフィだった。
「だってあんなキレイな人に勝てるわけ無いじゃなない!! 最低でも大人にならなきゃ太刀打ち出來ないわよ」
ああ、そういうこと。
「だから俺に抱けと?」
「そうよ。1回でいいからお願い!! ねぇデルフィもいいでしょ?」
「う……いえ……でも」
「あのハリエットさんって人のためにも、ね!?」
「ハリエットさんのため……うーん、でも……」
「ねぇ、ショウスケにとっても悪い話じゃないでしょ?」
「デルフィが許可してくれるってんなら、サキュバスの貴重な処をいただけるってことか。まぁ男ならこれほど味しい話はないわな。それでヘクターを落とせる確率が上がるってんならやらない手はないかもな」
「でしょ? じゃあ」
「だが斷る」
悩みすぎて大変な表になっていたデルフィがほっと安堵の息をつく。
「なんでよ!!」
「ヘクターが貞だから、だな」
その聲はアレシアの背後から飛んできた。
アレシアが驚いて振り返ると、そこには男が2人。
フランツさんとフレデリックさんだ。
こんなこともあろうかと、既にこの2人とはコネを作っている。
現在裝備している既品はすべて二人の店で揃えたのだ。
この世界では『収納』を活用した通販も出來るのでね。
もちろん何度か店に通って、顔なじみにはなってるけどね。
「やあ、フランツさん、フレデリックさん」
「ここ、いいかな」
俺がしずれ、フランツさんがアレシアの正面に、フレデリックさんがアレシアの隣に座る。
「で、貞だからって、どういうこと?」
「うむ。ある程度歳のいった貞というのは、に処であることを求めるのだよ」
「いや、あのハリエットってひと、絶対違うと思うんだけど」
「ま、その辺が壯年貞男の勝手なところでな。自分が特別視するに関しては全てを許せるんだ。まぁ後になって文句を言い出す奴もいるがね。ただ、特別でないに対しては処であることを求めるだろうな。なくともヘクターの場合は」
「ぐぬぬ……。でもそれじゃああのハリエットって人は絶対勝てないわよ?」
「そうかな?」
ここでフレデリックさんが反論する。
「ヘクターはああ見えて……、いや見たとおりかもしれないけど、ホントに慣れしてないんだ。そういう彼が、に優しくされたら、案外コロッといくんじゃないかと、僕は思ってるんだよね」
フレデリックさんの言ってることは大いに共できるな。
元の世界でも、やたら清純さにこだわる非モテ男が、どうみても遊び慣れてるギャルに優しくされてコロッといく場面を、俺は大學生時代に何度も見たからな。
普段掲げる理想のタイプと、実際付き合う異のタイプが異なることなんていくらでもあるもんだ。
かくいう俺も本來はハリエットさんみたいに満な方が……
「イテッ!! なに?」
なんかいきなりデルフィに頭シバかれたんだけど
「わかんない。なんかイラッときて無に叩きたくなった」
ぐぬぬ……、エスパーかよ。
「アレシア、あとはこの2人にヘクターのこと聞いて、気になることがあればどんなくだらないことでもいいからママに相談するんだ」
「……がんばる」
「フランツさん、フレデリックさん、ご面倒おかけしますがよろしくお願いします」
「いや、我々の方こそいい機會を與えてくれて謝している。アレの奇行も最近目に余るものがあったのでな」
「ホント。これで正気に戻ってくれたら僕達としてもうれしいかぎりだよ。は良い奴なんだ、アイツ」
俺たちが出來るはここらへんまでかな。
あとはり行きを見守るしかないか。
**********
あれから1ヶ月ほどたった。
最近、大人になったアレシアとヘクターが仲よさげに街を歩く姿をよく見かけるようになった。
聞けば、以前あれだけ”働きたくない”と言っていたか彼が、今やヘクターのパートナーとしてダンジョン探索や冒険者依頼を獻的にサポートしているらしい。
わずか1ヶ月でDランクまで上がってるっていうんだから、相當頑張っているんだろう。
ヘクターの目をハリエットさん以外に向けるという俺の作戦は、どうやら功したらしい。
ヘクターからのつきまといがなくなったハリエットさんは、なんとなくだが元気になったように見える。
なんやかんやでやっぱ結構キツかったんだな。
「ねぇ、これでよかったのかしら?」
カフェでイチャイチャしているヘクターとアレシアを視界に収めつつ、デルフィがつぶやく。
「ま、2人とも幸せそうだしいいんじゃない?」
「うん……」
「まぁ俺的には”働きたくない”っていうアレシアの気持ちは痛いほどわかるし、ヘクターと上手く行けば専業主婦と稱して家に引きこもってダラダラ過ごすと思ってたんだけどなぁ。俺とは出來が違ったみたいだわ」
「ふふ……。えっと、ヒキニートだっけ?」
「そ。まぁ主婦の人はしっかり家の事を守ってるから、自宅警備員と比べちゃいけないんだけどね」
「あ、また知らない言葉」
デルフィには俺が働きもせず親の脛をかじっていたことはちゃんと話してある。
そしたらなぜか『たかが30年足らず親の世話になったのがなに? 私は100年よ!!』と、謎の自慢が返って來たわ。
まぁ彼なりに俺が負い目に思っているのを察して気を使ってくれたんだろうけど。
「あ、オーダーメイドの裝備出來たってさ。取りに行くついでに一狩りいこうか?」
「ええ」
その後、ヘグサオスク行きの高速馬車に乗った俺は、およそ1ヶ月ぶりにスタート地點を更新した。
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