《死に戻りと長チートで異世界救済 ~バチ當たりヒキニートの異世界冒険譚~》第78話『深淵の最奧に待ち構える者』

深淵のダンジョン

トウェンニーザ州エイラン地區にある、未踏破のダンジョンであり、現在確認されている中でおそらくは最大規模のものとなる。

このダンジョンの特徴は、淺層から強力なダンジョンモンスターが出現すること、帰還玉が使えないこと、そして移用の転移陣がないこと。

深淵のダンジョンでは階段、通路、そして落としを使って階層間の移を行う。

「階段と落としはともかく、通路?」

今俺はエイラン地區の冒険者ギルド出張所で、深淵のダンジョンに関するレクチャーをけている。

前回は來る機會がなかったからね。

というか前回、ダンジョンコアの停止と聞いてなぜここをスルーしてたのか、當時の自分を小一時間ほど問い詰めたいわ。

とりあえずコンちゃんを倒すためにはダンジョンコアをひとつでも多く停止しなくてはいけないんだが、どうせ國が許可してくれるわけはないので、未踏破のダンジョンであるここ深淵のダンジョンを訪れたってわけ。

ここなら今すぐ停止させても誰にも文句は言われないからね。

「つまりですね、緩やかな坂道になっている通路を歩いていると、いつの間にか階層が変わっている、っていうことがあるんですよ」

「なるほどねぇ」

「しかし、本當に探索するんですか? 我々に止める権限はありませんけど、Eランク冒険者にはし荷が勝ちすぎるダンジョンですよ?」

「ふっふっふ。これを見なさいな」

と、俺はダンジョンカードを提示する。

「Aランク探索者!? いや、普通ダンジョン探索で魔石集めれば自然に冒険者ランクも……あ? もしかして『ヤマオカズ』ってあの『ヤマオカズ』ですか!?」

「どの『ヤマオカズ』かは知りませんが俺たちは一応『ヤマオカズ』です」

「えっと、フェイトン山でゴーレム狩りまくったっていう……」

「じゃあ、その『ヤマオカズ』ですね」

「そうですかそうですか!! いやあ、ありがとうございます!! お二人のおかげで三工ギルドと新たに提攜が取れまして、魔石価格が下落しているなか非常に助かっとるんですわ」

三工ギルドってのは鉄工ギルド・石工ギルド・木工ギルドのことね。

フェイトン山には金屬系だけじゃなく、ロックゴーレムや、ウッドゴーレムも出るから。

「……しかし、だとしたら一度エベナ辺りの冒険者ギルドに行かれては? おそらくそれだけの貢獻があればなくともBランクぐらいにはなれると思いますよ? ウチみたいな出張所じゃあ手続きは無理ですけんども……」

あ、そうなんだ。

「いや、まあどうせここは制限もないし、ひと當たりしてから考えるよ」

「そうですか……。いや、まぁ『ヤマオカズ』のお二人なら大丈夫でしょう!!」

というわけで、ギルドが持っているダンジョンの報を教えてもらい、俺たちは深淵のダンジョンに挑むこととなった。

先述したとおり、深淵のダンジョンは転移陣も無ければ帰還玉も使えない。

他のダンジョンのように、とりあえず行けるところまで行って限界が來たら帰還玉、という手が使えないのだ。

つまり、帰りのことも考えて探索を進めなくてはいけないわけだ。

探索者の中には『収納』を上手く利用して、と外で連攜しつつ資を調達し、年単位で潛っている者もいるという。

ここエイラン地區にはそういう資のやり取りに応じてくれる収納屋もたくさんいるみたいだ。

一応俺の<アイテムボックス>は無制限にを納められる上、収納の時間も止まるので、食料に関してはエベナのいろんな店で出來たての料理を収納済みだ。

もちろん食べやすい攜帯食料も多數用意しているが、それだって保存に重きをおいた不味いものじゃなく、サンドイッチや串焼き等、ちゃんとしたお店のテイクアウト品だ。

さらに寢床としてキッチン風呂トイレ完備のコテージを特別に作ってもらい、それを収納してある。

この<アイテムボックス>ってやつがどれぐらいの大きさのものまで収納できるのか知らんが、なくともコテージぐらいなら大丈夫みたいだ。

水回りは魔や魔法でなんとでもなるし、設置場所だって<地魔法>で整地出來るようスキルレベルを上げておいた。

もちろんコテージを展開できる場所が常にあるとは限らないので、テントも用意してある。

他にも必要と思われるものは自重せず揃えておいた。

萬が一のために補給用の収納屋とも契約済みだ。

「よし、じゃあサクッと行って制覇しますか」

「……なんというか、他の冒険者の皆さんに申し訳ない気分になるのは私だけかしら?」

ま、世界救済のためだ。

大事の前の小事ってやつじゃね?

気にしたら負け負け。

**********

深淵のダンジョンは他のダンジョンに比べて難度が高い。

その要因として、転移陣がないことや帰還玉が使えないことはもちろんあげられるわけだが、ダンジョンモンスターが強い、ということもある。

特に淺層であっても、時々とんでもなく強力なモンスターが現れることがあり、それが多くの探索者の命を奪っていった。

しかし俺たち2人はあの百鬼夜行を経験済みだからな。

あれに比べればヌルすぎるわ。

とりあえずギルドが持っていた50階層までの報を元に、探索を進める。

20階層ぐらいまでは結構細かく報があり、マップの度もしっかりしていたのだが、それを過ぎたあたりから報があやふやになり、マップもかなりいい加減になっていった。

それでも何も報がないよりは遙かにマシで、俺たちは1週間ほどで50階層に到達した。

そこから先は全て手探りか? といわれればそんなことはない。

俺には加護があるからね。

<空間把握>と<環境把握>というスキルを習得し、レベルをマックスまで上げる。

これに<魔力知>を合わせると、かなりの度で周りの狀況を把握できるようになった。

簡単にいえば、マップのようなものが何となく把握できるようになったのだ。

敵もどんどん強くなってきたが、がしゃどくろや泥田坊をほぼ一撃で倒せる俺たちの敵になるようなモンスターはおらず、世界最難関のダンジョンとはいえ、世界滅亡に比べればおままごとみたいなもんだったよ。

まぁいくら戦闘に苦労せず、周りの狀況が把握しやすくなると行っても広さと深さはかなりのものなわけで、最深部である100階層に辿り著いた時、出発から1ヶ月ほどたっていた。

**********

最深部のダンジョンボスである神竜を危なげなく倒した俺たちは、いよいよ深淵のダンジョンのダンジョンコアと対面することになった。

ダンジョンコアの居室は例のごとく現代日本風だった。

大きなモニターにはゲームの畫面らしきものが映しだされており、その前には革張りの豪華なソファがある。

そこへ、進者である俺たちに背を向ける形で座っている者がいたのだが、不思議な事に1人ではなく2人いた。

「おいじーさん、客だ。1回止めるぞ」

「アホ抜かせ!! 儂が有利じゃからというて途中で投げ出す気じゃな?」

「んなんじゃねーよ。10年ぶりの客なんだからちゃんと出迎えないとだろ? この勝負はじーさんの勝ちでいいからよ」

「ダメじゃ!! 決著はきっちりつけんとイカンぞ!!」

何やらゲームをしながらもめているらしい。

あれは……マリカー?

対戦してるってわけか。

うん、勝負に水を注すのも悪いしな。

「あー、それ終わってからでいいですよ」

「おう! そうか!! すまんの!! あと1分もかからんでの」

じーさんと呼ばれている男は振り向きもせず応える。

「ちっ……しゃーねーな」

おそらく若いほうがダンジョンコアなんだろう。

というわけでしばらく待つ。

「よっしゃあ! 儂の勝ちじゃあ!!」

「あーはいはい。じゃあちっとひとりで遊んでてくれや」

「おう」

ようやく勝負がついたらしく、ソファに座っていたひとりが立ち上がってこちへやってきた。

「深淵のダンジョン攻略おめでとう。俺がダンジョンコアだ」

「あ、どもっす」

そう言って名乗ったダンジョンコアは、やはりどう見ても日本人だった。

「しかし、アンタらすげーな。ここは結構鬼畜仕様なのに、たった2人で、1ヶ月程度でクリアとはね」

ああ、流石ダンジョンコアだけあって、遊んでてもダンジョンの様子は把握してるわけね。

「……つか、アンタ日本人か?」

「うん。山岡勝介。こっちは妻のデルフィ」

「どうも、デルフィーヌです」

「妻……だと……?」

「ええ、まあ……」

「もしかしてだけど、エルフ……だよな?」

「うん、彼はハイエルフだね」

「かぁー!! 羨ましいぜっ!! こちとらここ10年ジジイとふたりっきりでゲームばっかやってたってのによぉ……」

「そりゃご愁傷様」

「にしても、アンタ何もんだ? もしかしてすげーチートもらったとかか?」

「あー、つよくてニューゲームって言えば分かる?」

「そういうことか!! つまり、アンタがここ最近起こってたループの起點てわけだな?」

「そういうこと」

そこで俺は自分の境遇や使命について簡単に説明した。

「そうかそうか。つまりようやく俺を停止してくれる存在が現れたってわけだ」

「で、応じてくれる?」

「俺としてはありがたい申し出だが……じーさん!!」

「なんじゃい!!」

ソファに座ったままゲームに興じている男が振り向きもせず返事だけする。

「殘念だがタイムアップだ。どうする? 順番変わるか?」

「しょうがないのう。じゃあ約束通り、まずは儂とお主の勝負じゃ」

聞けばこのじーさん、10年ほど前にこの深淵のダンジョンをソロで攻略したらしい。

しかしダンジョンコア、名を野中武というらしいが、野中の持っているゲーム・漫畫・アニメ・映畫にどハマリしてしまい、次の攻略者が來るまで、という條件で居座っているのだとか。

「で、勝負の方法は?」

「もちろんマリカーじゃ!!」

「はいはい。じゃあお二人さん、そこでゆっくりしていってよ」

テーブルとティーセットを用意してくれたので、俺とデルフィは勝負の行く末を見守ることにした。

「……なんなのよ、あれ」

デルフィが呆れ顔で俺に尋ねてくる

「あれはゲームっつってな。畫面の向こうの仮想世界でいろんなことが出來る遊びだよ」

「ここのダンジョンコアを停止するかどうかって凄く重要な事でしょ? それをあんなもので決めてもいいのかしら?」

「まぁ、あれだ。絶対に負けられない戦いがそこにあるってことで」

「……アホらし」

結局、野中とじいさんのマリカー十本勝負はじいさんの勝ち越しということで幕を下ろした。

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