「それでは第一回戦、ミカ　ＶＳバーサス　パイロン！　開始！」

戦いの火蓋は切られた。

ミカの本當の意味での最初の実踐だ。

「うぃー、ぱっぱとやっちゃうよー」

いつものあっけらかんとした様子でミカは両手にナイフを構える。

ナイフは武道大會仕様になっていて、刃の部分にはガードがついている。

「くふーっ。まさかこんな可いの子と対戦できるとは格闘家冥利に盡きますなー。知っていますかな？　人間のというのはとてもらかい。人に拳がめり込むときのと言ったら極上のデザートのようなものですぞ」

パイロンは鼻息を荒くしてまくし立てる。

「うわー、なんかキショいし」

ミカはすぐさま攻撃に移った。

サイドステップを踏みながらパイロンに近づいていき、右手のナイフで顔を目掛けて一閃。

「ほほお、見た目以上に素早いき。これは毆りがいがありそうですなぁ」

パイロンはさらりとミカの攻撃をかわした。

町一番の拳法家というのはどうやら伊達じゃないらしい。

「このー！　まだまだ行くってのー！」

今度は左手のナイフでパイロンの左脇をえぐるように振り上げた。

――ブニョッ

「あれっ！？　當たったのに手ごたえないし……」

「くふふっ、狙った場所が悪かったですな。私の腹回りは分厚い脂肪で守られていますのでね」

パイロンは好機とばかりにずっしりと腰を落とし、正拳突きをミカのお腹に叩き込んだ。

「うぐっ――」

思わず嗚咽をらすミカ。

「予想以上に良いですな！　興してきましたぞ！　ふんっ！」

またしても正拳突きがミカの腹にった。

「ごへぇっ」

ミカは苦しさのあまり目に涙を浮かべている。

俺は見ていられなくなってぶ。

「ミカ！　無理せず降參するんだ！」

「……しないし。うちも戦えるところ――――見せるし！」

必死の形相でミカはナイフを用いた反撃をする。

しかし振り払ったナイフが當たった場所はまたしても脇腹だった。

パイロンは下卑た笑いを浮かべて再び正拳突きの構えを取る。

「くふふふふっ、三度目のの馳走――いただきますぞ！」

「――させないっての！」

パイロンが腰を落として一瞬止まる瞬間をミカは見逃さなかった。

「とやぁっ！」

――チーン

ミカが振り上げた足はパイロンの間を捉えた。金的である。

パイロンは聲を上げる余裕すらなく白目をむいて倒れこんだ。

「うぇーい！　ざまーみろー！」

さっきまで悶えていたとは思えないほどにミカのテンションは高い。

脳麻薬がドバドバと出ているのだろう。

それにしてもミカの奴、あえて脇腹への攻撃をすることで正拳突きを発するなんてやるじゃないか。

「勝者はミカ！　お気遊び人のミカさんが見事ノックアウト勝利！」

興した様子で司會が絶する。

ミカは観客席にひとしきり手を振った後、リングから降りてきた。

「へへーん！　うち凄かったでしょ！」

屈託のない笑顔で俺を見る。

「ああ、凄かった。俺も次の試合頑張らなくちゃな」

ミカとハイタッチをわし、俺はリングへと歩を進めた。