《異世界冒険EX》丘の上の戦い①
「あの、茜。ちょっと待って。ここは俺に任せて」
と、とにかく茜が怪我する可能がある以上、ここは俺がやるべきだ。俺はそう考え、茜の隣に降り立つ。
うん。たとえ可能はわずかでも。それが男って奴だろう……茜が俺より強くても。
「そんな訳で茜は元の世界に戻ってくれ。この結晶を砕けば戻れるから」
そう言って転移結晶を取り出し、茜に渡そうとするが茜は軽く、首を振りけ取ってくれない。
「そうしたら悠斗くんが怪我するかも知れないじゃん。殺すだけならこのままボクがやるよ」
「いやいや俺がやるって」
「いやいやボクがやるから」
「俺だ!」
「ボクだ!」
「俺だ!!」
「ボクだ!!」
(じゃあ、私が)
「「どうぞどうぞ」」
と……こんなことやっててもしょうがない。割り込んできたアイギスのせいでし乗ってしまった。
「じゃあ、ジャンケンで決めよう」
「うーん……しょうがないなあ」
よし。ジャンケンに持ち込めればこっちのものだ。俺には確定未來がある。
欠點消去。
設定グーを出す。
確定未來、発っと。
…………あーね。茜もそんな手を使うようになったか。
……まさか俺を気絶させるなんてな。
うん……し茜から距離をとろう。
「あ、悠斗くん。確定未來使ったでしょ?」
「いやいや、そんな気軽に使えるものじゃないって」
「怪しいなあ。いつもポンポン使ってるし。まあ、いいや。じゃーんけーん……」
茜はし疑わしそうにしながらも、手を振り上げる。
やばい。急がないと。
欠點消去。設定パーを出す。確定未來。
負け。てことは茜はチョキ。
うおおおおお! 閉じろ俺の右手!
……。
…………。
「……よし。俺の勝ちだな」
「待って! それグーじゃないでしょ! 中高一本拳じゃん!」
「いやグーだよ、ぎりぎり。毆れるし」
「いや、認めないよ。だからもう一回! じゃーんけーん……」
可いなあ。
まあ、もう一回やっても確定未來があれば俺の勝ちは揺るがない。可い茜のわがままなら何度でも聞いてあげようじゃないか。
欠點消去。
設定グーを出す。
確定未來。
よし。勝ちだな。そのままだ。
「……はい、俺の……か、負け!?」
「ボクの勝ちだね」
「あれ? え?」
「……やっぱり確定未來使ってたみたいだね。そのうろたえようは!」
ドヤ顔でを張り、指を差してくる茜。可い。その突き出された指を舐めてみたい。
「いや……まあ、そうなんだけど。なんで?」
「確定未來っていったって現時點で確定してる未來だからね。使った後でボクが考えを変えれば未來も変わるよ。そんなに萬能な魔法じゃないよ? それ」
煽るような表の茜に、俺の中のMが歓喜の聲を上げるが、今はそんな場合ではない。
まさかそんな方法があったとは。これは確定未來だけは敵に知られないようにしないと……。
「うっ……。つまり、俺が発した時點ではチョキを出すつもりだったのを、発後にパーに変えたって訳か。確定未來を知ってるからこそ出來た対策だな」
「そうだね。ま、ボクの勝ちだしさっさと終わらせてくるよ」
そう言って止めを刺しに行こうとする茜。頼もしすぎてやばい。
「待った!……よく考えたら今回の敵がラスボスじゃない可能もあるし、なるべく生け捕りにしたいんだけど、茜じゃ難しいんじゃないか?」
アイギスからの依頼はこの世界の容量を空けることだが、首謀者の捕縛もやっておいた方がいいだろう。
「いや、出來るよ。任せて」
「いや、俺の方が上手くやれるから。な?」
「いや、ボクの方が」
「いや俺の方が」
(あのーじゃれ合ってる間に敵増えてるけど。ついでに言うと結界も壊されてるね)
「「えっ?」」
アイギスに言われて、敵の方を見ると確かに年の橫には新たに軽裝の鎧の男と、私は魔です、とでも言いたげなとんがり帽子のが立っている。
年はどちらも三十半ばぐらいか。
なんて卑怯な奴らだ。こちらは中學生二人だというのに。
「敵の前でめるなんて隨分と余裕じゃないか。……正直言って、お姫様を召喚したと思ったら魔王が來た気分だけど……まぁ、魔王退治は慣れたものだよっ!」
何とか息を整えた年が立ち上がり口を開く。何かうぜえなこいつ。
「それにこの二人を見ろ。君の同級生だろ?」
どの二人だよ。なくとも見知った顔は……あ、今更あの時の二人が戻ってきた。赤い髪の……確かフレアと、青い髪のセリエだったかな。
一応、鑑定で固有魔法や能力に関しては把握してるから問題は無いな。もちろん、同級生でもないし。
「ほらあ、悠斗くんが邪魔するから増えたじゃん。しかも何か調子に乗ってるし。何が魔王だよ。慣れたものだよっ! じゃないよ!」
やばいやばい。茜が怒ってる。茜は怒ると怖い、どころか怒ると死ぬ(誰かが)だからなぁ。
ここは一つ、よし。決め顔を作って……
「……まあでもさ、男としてする人に戦わせるわけにはいかないじゃん?」
キラリと魔法を使い、歯をらせてみる。無駄な活用に見えるが、俺の中では最重要なのだ。
「するって……!」
そのおかげもあってか、茜の顔はどんどん赤く染まっていく。おー照れてる。可いなあ。
(……悠斗もね。顔真っ赤だよ)
馬鹿な。
「おい。神木! 俺だよ、田沼だよ」
あまり筋のついていない俺への當てつけか、って位に鍛えられた男が何か言ってるがどうでもいいな。
どう見ても豚の魔の変異種だし。生意気に人間様の言葉を喋りやがって。
「ま、とにかくさ。ここは俺に任せといてよ」
そう言って今度こそ茜の前へと出る。
だがまたしても茜は俺の手を摑み、俺の歩みを止め、真っ赤な顔でこちらを見る。
その視線はバッチリと俺の視線とぶつかり合った。
「いや、その……ぼ、ボクだって、その、あ、する人を守りたいんだ!」
うわあああああっ!
駄目だ。會心の一撃だ。もう死んでもいいわ。
いや駄目だわ。一秒でも長く、この幸せを噛み締めていたいわ。
(あのー……ここは間を取って悠斗の他の世界でのお仲間を召喚して戦わせたらいいんじゃないの?)
「お。召喚できるのか?」
(うん。まあ、やっとニルギリのロックも大方解除出來たし、悠斗の制限解除も途中で止めてるからね)
「ふむふむ。ニルギリとやらの柄は?」
「ニルギリ?」
刃のない剣を構えた年がその名に反応するが、教えてやる必要はない。それより、この聲どこかで聞いたと思ったが、結界越しに會話した相手のようだ。
大人びた印象だったんだけど、まだ子供だったのか。……まぁ同い年位のようだけど。
(殘念ながら逃げられたよ。……それより、どうするんだ? 召喚しとく?)
「そうだね。そうし……茜?」
「……なに?」
「なんでそんな拗ねてるんだよ?」
茜は不貞腐れたようにそっぽを向き、頬を膨らませている。
相変わらずたまに子供みたいな真似をするなぁ。
「べつに~。拗ねてなんかいないよ~」
「いや、そんなほっぺた膨らませてたら説得力ないぞ?」
頬を膨らませ、そっぽを向いているこの態度を見て拗ねていないと判斷する奴は居ないだろう。
「べつに~、せっかく悠斗くんと二人っきりなのになあ、なんて思ってないよぉ」
……可い。もう可い。本當に可い。
「ちょっ悠斗くんっ!!」
「えっ?」
あ。いかん。可すぎて抱きしめてた。
近くで見るとなおさらだ。驚いているその姿もたまらなくおしい。
「という訳でアイギス、召喚はなしで。その代わり俺の制限を解除してくれ」
(はいはい。あ、また敵が一人)
「流石にこの狀況は見過ごせません」
そこにはアイギスと似たが立っていた。違いと言えば、しだけ羽のが灰に近いことと、目が細いこと位か。
あれ開けてるのかね?
「ニルギリ。お前、無事だったのか?」
「何とか。……ですが、アイギスに追いつかれてはお仕舞いです。一応時間稼ぎはしておきましたが、早く逃げましょう」
「そう、か。いや、でもまあ、これで多は勝ちの目も出てきたかな」
神が來たことで、どうやら勝てると判斷した年は刃のない剣を構える。
「アッシュ!? 戦うのですか!? ハッキリ言ってあなたでも制限を解除された神木悠斗に勝てるとは思えません。逃げるべきです」
「逃がしてくれるとも思えないし、やるしかないでしょ……大丈夫だよ。あいつらを仲間に出來れば僕はきっと……」
「誰だ? 信頼できるのか?」
軽裝の鎧姿の男がアッシュとやらに尋ねる。その目はニルギリを油斷なく見つめている。
厄介だな。あれは。相當に強い。
「ああ。僕が保障する。それよりありがとう。來てくれて」
アッシュは疲れた顔に笑顔を浮かべる。……なるほどね。
「お前に言われたら斷れねーよ。ま、アイツは來てないみたいだけどよ」
「仕方ないさ……來てくれてたらまた違ったんだけどね」
それにしてもあの年の名前はアッシュか。まあ、こっちでの名前なんだろうけど。どう見ても日本人顔だし。髪のだけおかしいけど。暗い灰て。
(ちなみに、アイギスは來れないのか?)
(いや~お二人の邪魔は出來ないっす~)
(冗談はいいからさ)
(それが何故か上からあんまり茜ちゃんと接というか、実際に會ったりを止されてるんだよねー。まあ、やんわりとなんでどうしてもというならアレなんだけど)
(うーん……)
(あと、そこのニルギリが私の世界に今度はウイルス仕込んでたみたいで、地球から私の空間に転移してくる人が多すぎてその対応で忙しいんだ。後三十分はかかるかな)
(ふーん……ま、しょうがないか。茜が怪我しそうなら一人呼んで。シアンがいいかな)
(いや無理。悠斗の制限解除で容量ギリ。それにマジで忙しいんだって。ニルギリの野郎もう生存ルート消えたぞ)
(りょーかい。……野郎ではないだろ)
(報だけは伝えとくけどニルギリの能力は絶対防。理、魔法どちらも効果ないから頑張って。あと、一撃必殺の槍も持ってた気がする)
(あい。……え?)
……どないせいっちゅうんだそれ。
うーん……魔力切れ狙いかなあ。となるとちょっときついか。しょうがない。
「……ごめん、茜。一緒に戦ってくれ」
俺は茜に向き直ると、頭を下げる。茜は戻らないだろうし、意地を張って一人で戦い、負けたら最悪だ。
そうなるぐらいなら二人でササッと片付けてしまおう。
「ふふ。ありがと、悠斗くん。ボクを頼ってくれて」
茜は俺の顎に手を當て、下がっていた頭を持ち上げると満面の笑みでそう言った。
これが顎クイって奴だろうか。逆な気がするが。……悪くない。
「ただ、ね。魔力が殘りないから、たいしたことは出來ないかも。結界も小さいの三つが限度かな」
「そうか。と、なると……」
「でも、一つだけやってみたいことがあるんだ」
この顔は悪戯を思いついた時の顔だ。にやついた茜は俺の耳に顔を近付けると小さな聲で作戦を告げる。
「今回の転移で得た固有魔法の――」
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