《異世界冒険EX》丘の上の戦い⑥
「そ、そんな……馬鹿な!?」
丘の上に突き刺さる無數の槍。ニルギリによるものだ。
「相変わらず燃費が悪いなぁ……」
しかし、ユアの周囲だけには一本たりとも存在しない。
「何をやったのですか!?」
「言うと思う?」
ニルギリの質問に対し、質問で返すユア。
そのユアが使ったのは無屬魔法。
この魔法は屬も何もない代わりに、全ての質を消してしまうのだ。
対魔法では何ら意味のない魔法だが、質的な攻撃に対しては非常に効果的である。
だが、消費する魔力が大きい。
ユアになった事で、悠斗と茜の魔力が掛け合わされ、途方もない魔力量となっているが、それはこの戦いを終わらせる為に使うものだ。
だからこそ、とある丸薬を使った。
丸薬と言っても薬でも何でもない。ただの魔力の塊だ。
悠斗が全魔力を込めて創造魔法を使い、創り出した小さな丸い塊。平和な地球での毎日の中で悠斗がせっせと溜め込んだものだ。
これを魔法解除することで、解除された魔力、すなわち悠斗の全魔力を使用することが出來る。
「とにかく、君たちに勝ち目はもうないよ」
そして今からユアが使うチートこそが、この戦いを終わらせる為に……というよりも、一度は使いたかったが、必要な魔力量の関係で使えなかったチートだ。
「<<高次元化ネクストステージ>>」
ユアのからが溢れ、大量の魔力が失われていく。悠斗の時でも、茜の時でも到底賄えないほどの消費魔力量。
流石は神が使うチート魔法である。
「これはアレシアの……何故……」
ユアの発したチートを見て、ニルギリが唖然としながら呟く。
アレシア。彼こそかこのチートの持ち主であり、それを悠斗に與えた神だ。
「…………これは……凄いな」
高次元化ネクストステージは消費魔力も凄まじいが、その効果も凄まじい。
扱う魔法や道の効果が一段階上に上がるのだ。例えば、
「<<進化魔法>>」
強化魔法は進化魔法へ。
これは自のを強化するだけではなく、進化させることが可能となる。
空を飛びたいと願えば翼が生え、防力を上げたいと願えば堅くなり、もっと強くなりたいと願えば……ラスボスの敗北フラグとなる。
「っ! 空中戦ですか」
ユアが浮き上がると同時に、ニルギリも飛び上がる。
當然だが、ユアとしてはそんな事がしたいわけではない。
「ニルギリさん、僕にはあなたを無傷で捕らえる方法はこれしか思いつかなかったよ」
創造魔法の更に先、記憶にあるものだけでなく記憶にないものですら生み出す事が出來る。
「<<想像魔法>>」
ユアが手を下に向けると共に、白い點が地面に向かい、降り注ぐ。
まるで雪のようなそれがニルギリの、アッシュ達のにれる。
「<<魔吸雪雨まきゅうせつう>>」
想像魔法で想像した魔法。その能力は……。
「魔力が抜ける……」
単純な効果だ。相手の魔力を吸い取るだけ。ただそれだけだ。
「……!」
ニルギリが何かに気づき、慌てて矢のように上昇していく。そう、これは辺り一帯に降らせている。だから、前後左右に逃げるよりも上に逃げるのが正解だ。
だが、
「<<完全世界>>」
完全結界の更に上の魔法、完全世界。
「っ! ……何故、一向に高さが変わらないんですか!」
世界の掌握。それが完全世界の能力だ。ニルギリの地點から上への距離を無限にばしている。
いくら、ニルギリが上へ進もうと無駄だ。無限を越える事は出來ない。
「いいの? ニルギリさんならともかく、今のアッシュ君達の魔力量では……」
「……下劣な!」
ニルギリは今度は地面へと降りていく。當たる雪を気にも留めず、ただ、アッシュの元へ。
「もしかして、とは思ったけど……やっぱりニルギリは……」
羽を広げ、アッシュ達を包んだニルギリはそのままけずにいる。
もう彼に出來る事はそれだけだ。
◆◇◆
「終わったね」
しばらくの時が経ち、ニルギリは倒れた。念の為、アッシュ達の魔力も空にして僕は高次元化ネクストステージを解いた。
はっきりいって限界だ。いくら何でも消費量が多すぎる。これは使いどころを選ぶ必要がある。
ただ、今回のようにお互いの魔力量が減った狀態で合してこれなら、通常の狀態で合すれば楽勝かもしれないとも思う。この辺りも一度試してみよう。
さて。それじゃあ……
「まずは四人の皮を剝いで、害蟲の風呂につけてやらないとな」
四人の服をがし、慎重にを皮下脂肪ごと剝ぎ取っていく。
顔は絶の表がわかりやすいように殘しておこう。
「…………」
……大分気が要るなあ。四人分かあ。それに死なないように気をつけないと。
まあ、念のため回復しすぎない程度に自でヒールを設定しておこう。
次に創造魔法を使い、明で縦長の箱を用意し、そこに知る限りの毒蟲と害蟲をれていく。
……これなら、想像魔法でもっとえげつない生を生み出せばよかった。
ついでに毒耐や麻痺耐低下などバッドステータスを付加し、痛覚神経だけは強化魔法で強化しておく。
後はこの害蟲の箱に四人をれたら、お目覚めの時間だ。
あ、発狂するだろうから混耐と気絶耐も上げておこう。
じゃあ始めよう。
(始めよう、じゃないよ! 悠斗!)
(悠斗くん……流石にドン引きだよ……)
茜とアイギスが思いっきり引いている。まさかアイギスまで割り込んでくるとは。
(え? だってこいつらのせいでどれだけの時間を無駄にした? 本來なら茜と一緒にずっといちゃいちゃしてたはずなのに)
(……それはわからないけどわかったから、出來ればまともな狀態でこちらに戻してほしいんだけど……。記憶に欠陥が生まれたら困るし)
(ボクとしても串刺しにするぐらいでまあ、許してあげたいかな。確かに一度、悠斗くんを殺したのは許されないけどね)
(茜ちゃん……あれもホントなら最初に悠斗なら躱せた筈だからね……。まあとりあえず、全員私のところに集まらない? この世界の管理権も完全に掌握できて、崩壊の心配もないしさ)
(だねー。あ、ちゃんと元に戻さないとね。という訳で悠斗くん、回復魔法お願いね。ボクは使えないから)
(わかった)
(あ、合も解くよ。もうそんなグロは見たくないから……<<四則演算『除算』>>)
茜が魔法を発した瞬間、俺と茜は二人に別れた。
茜は奴らの方から視線を外し、俺が回復魔法を発させるのを待つ。
それにしても。
「確かに気持ち悪い……」
なんだこいつら。これ生きてるのかね……。俺もちょっとやりすぎたな。うん。本人達にバレないように、目覚めないに回復しよう。
……剝いだ皮はどうしようかな。持っておくのもなあ……まあ、アイギスの指にでも突っ込んでおくか。
ついでに、落ちていた三人のアクセサリー類もボッシュート。
何かアイギスの悲鳴が聞こえた気がしたが気のせいだろう。指にれたもののイメージは共有されるが、あのアイギスが今更、生皮程度で驚くとは思えない。うん。
あの修行期間はマジでトラウマだ。
(悠斗、お前いきなりはやめろ)
アイギスからの通信を無視して、死んだ奴らのを回収する。あの馬鹿二人は生き返らせてやらないといけないしな。
それに、他の奴らも何かに使えるかもしれない。
それにしても疲れた。まさか、こんなに時間がかかるとはなあ。
俺はため息をつき、茜を抱きしめながら転移結晶を砕いた。
やっぱり癒されるなあ。
おずおずと抱きしめ返してくれる茜を見ながら、俺はそう思った。
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