《異世界冒険EX》初めての戦闘

「……ここでいいわね」

「そうだな」

フロリアとゴートは近くの平原まで來ていた。その周りを囲むように冒険者や町の人も見に來ている。

暇な人が多いのか、それとも別の理由があるのか……。

「後ろに隠れてないで、いい加減出てきたらどうかしら? 気付いてないとでも思っているの?」

「なんだ気付いていたのか?」

「當たり前でしょ」

馬鹿にしたように鼻を鳴らすフロリア。

ゴートの巨に隠れていた三人の気配をしっかりとじ取っていたようだ。

しかし、

「ア、アンタ達……」

出てきた三人を見てフロリアの表が曇る。明らかに揺している。

それを見たゴートはニヤリと嫌な笑みを浮かべた。

「おやあ、気付いてたんじゃなかったのか? 俺の今のパーティーがお前の昔のお仲間だってことに」

「あなた達……なんで?」

「なんで? お前が一番わかってるだろうが!」

フロリアの問いかけに、鎧を著た男がぶ。

その裝備はを包む鎧だけでなく、大きな盾も持っており、完全に守りを固めている。

「俺達はもともと勇者パーティーなんかと戦うつもりは無かったんだよ!」

「なのにあんた達が勝手に挑戦するなんて言って……!」

ナイフを持ったぶ。男とは逆に、隨分と軽裝だ。腰の左右に替えのナイフと思われるものを差している。

と思われるもう一人のも言葉こそ口にしないが、憎々しげにフロリアを睨みつけている。

隨分と恨まれてるみたいだな。フロリアは。

……それにしても、まともな武を持ってる奴がいない。やはり剣や槍は人気がないのか……。

「……あんたが今までどこに行っていたのかは知らないが……その間、俺達がどんな目にあってたかわかるか? 冒険者には臆病者だと馬鹿にされ、町の人には卑怯者だと罵られ、挙句の果てには相応しくないとSランクの稱號も剝奪された……」

「これで恨むなって方がどうかしてるよ」

「……あなたを殺すしかないの」

三人はそれぞれ武を構える。

どう考えても逆恨みだ。実際そうなんだから甘んじて批判はれるべきだろう。

というか、そもそもパーティー間での意思の疎通が出來てなかったのが一番の理由じゃないか?

その點はフロリア達にも落ち度があるように思えるけど……。

「かっかっか! 恨まれたもんだなあ? フロリア」

「……そうね。あの三人とはアンタをぶっ殺した後で話し合うことにするわ」

「話すことなんて無い! さっさと始めるぞ! ゴート!」

「だ、そうだ。じゃあ三人とも、作戦通りに頼むぞ」

「「わかった!」」

口を揃えて答えた三人は、それぞれ息のあったきでフロリアへと迫る。

鎧の男は盾を構えてフロリアへ突進し、ナイフを持ったはそれをサポートする為にナイフを投げる。

は全員にそれぞれ何らかの付加魔法を使用しているようだ。

「…………」

ゴートはカードを生し、油斷なくフロリアの行を見ている。

ゴートのカードは八枚。フロリアのカードからじたような魔力の奔流というか、迫力はじられない。

だが、A級と言う位だ。油斷はだろう。

「……邪魔よ」

フロリアが自の生したカードの中の一枚をタッチする。

その瞬間、巨大な竜巻が四人を捕らえる。

ナイフは當然弾かれ、周囲の小石を巻き上げながら、竜巻は勢いを落とすことなく吹き荒れる。

おかげで周囲の観客は慌てて距離を取る。土や小石が當たって痛いからだ。

良かった。離れてて。

飲まれた四人は當然吹き飛ばされ……てはいなかった。

「変わってないな! 最初はいつもそれだ!」

鎧の男が竜巻の中から勢いよく飛び出してくる。

殘りの三人もそれぞれ多のダメージは負っているものの大きな怪我はなさそうだ。

どうやら四人共、風魔法に対する耐が付加されていたようだ。

竜巻から飛び出た鎧の男は、そのままフロリアへと突進する。

「今だな」

ボソリと呟いたゴートがカードにタッチする。

瞬間、フロリアの周りを炎の矢が取り囲む。

「うおおおおおおお!」

鎧の男が吠え、盾を構えながらフロリアを追い詰める。

避けようにも周囲は炎の矢に囲まれている。

そしてその矢もまた、フロリア目掛けて飛んで來る。

「甘いわ」

しかしフロリアは、また一枚カードにタッチすると、上空へと飛び上がる。

飛行の魔法か……羨ましい。

「ちっ!」

目標を無くした鎧の男と炎の矢は衝突するが、盾で弾くことで男にダメージは無かった。

……なるほど。炎の矢が當たる瞬間に弱まっていた。どうやら魔法に耐がある盾のようだ。

盾がそうなら鎧もおそらくは似た効果を持っているはずだ。と、なると理で倒すのが効果的か……。

「終わりよ!」

上空に浮かび上がったフロリアは、三枚のカードを重ね、同時に発する。

雲ひとつなかった草原に、轟音と共に雷が降り注ぎ、大地に亀裂を走らせ、巨大な炎の塊が降り注ぐ。

「……なんちゅう……」

思わずポカンと口を開けてしまう。こんなん世界の終わりじゃないか。

俺はある程度距離を取っていたからいいが、近くで見ていた観客達は先の竜巻に続き、今度は落雷に地割れに降り注ぐ火の玉て……。

何人か死んでるんじゃないだろうか?

魔法っぽいのを発してる奴もチラホラいるな……。

ちなみにゴート達も対処しようとしているが、地面の揺れでバランスをとることができなかったようで、降り注ぐ雷と炎の塊に飲み込まれてしまった。

……どうやら俺の心配は杞憂だったようだ。圧倒的だ……。

ゴートが何とか水の防魔法を発しているが、範囲が狹い上に雷と炎、それぞれの熱によって蒸発し、全く防げていない。

「降りたところを狙え!」

攻撃をけながらもゴートがぶ。

誰に向けての指示なのかわからないが、なくとも他の三人はそれぞれ自分のことで一杯だ。

盾の男は盾を上空に構え防ぎ、盾の橫を通る攻撃を僧の子が後ろで防魔法を展開し、防いでいる。

唯一、降りたところを狙えそうなのは防を二人に任せているナイフのだけだが、この炎と雷の雨の中では難しいだろう。

だがしかし、どうやら飛行魔法は発後はカード化していない魔力を使用しないといけないようで、フロリアもそう長くは飛んでいられないみたいだ。

だけどそれでも、

「そんなことができるかしら?」

フロリアはカードにタッチし、またもや巨大な竜巻を起こす。

そして、フロリアはその中心に降り立った。そりゃ當然、その辺りの対策はしているだろうよ。

……にしても風魔法いいなぁ。使いやすそうだし、攻守に使えるし……。

「そもそも、あなた達もう立っているのがやっとじゃないの」

「くっ……」

たとえ竜巻による妨害がなくとも、降り注ぐ雷と炎によりゴートも、鎧の男も、他の奴も誰一人けずに居た。

當たり前だ。それにそれぞれが負ったダメージも軽くは無い。

ゴートにいたっては左腕が完全に燃え盡きている。

幸いにも傷口が炭化し、出多量には至っていないようだが、それでも重癥である。更に左腕がないと魔法も使えないはずだ。

「……っ!」

の子が、他の仲間を回復させようとカードにれようとする。

だが、フロリアはそんな隙を逃すほどお人よしではない。

「死になさ……っ!」

「……よし」

フロリアがカードにタッチしようとした瞬間、その背後から矢が放たれ、フロリアの背中に突き刺さる。

突き刺さった矢は、鏃が完全に見えなくなるほど深く刺さり、フロリアのきが止まる。

「……油斷、したわね……」

フロリアが振り返るが、背後には驚いた顔の観衆がいるだけだ。

「くっ……!」

そしてまたもや振り返ったフロリアの背後から矢が飛んでくる。

今度は何とか回避したようだが、矢は複數の方向からどんどん飛んでくる。

「どうしたものかしらね……?」

背中の矢を引き抜き、四方八方から飛んでくる矢を回避しつつ、フロリアは考える。

「さぁ! 仕切り直しだ!」

だが、フロリアの考えがまとまるよりも早く、ゴートの聲が響いた。

「……ゴート!」

フロリアが矢を躱しているその間にも、僧の子がカードでの同時回復を行っており、既に彼以外の三人は完全に回復している。

その彼も疲れてはいるが、まだカードが出ているという事は、魔力切れには至っていないようだ。

「隨分と景気良く魔力を使っていたが平気なのか? うん?」

「……うるさいわね……アンタの知った事ではないわ」

フロリアの顔が苦渋に歪む。

どうやらフロリアは短期決戦に賭けていたようだ。

確かに長引けば総合的な魔力量も手數も多い相手が有利だろう。

だからこそ、一気に決めにいった。

一方で、ゴートたちは僧の子以外はほとんど魔法を使わず魔力の溫存に功している。

「……なるほど、ね」

もしもフロリアが降り立った後、魔法が発できていたならフロリアはあっさり勝利していたはずだ。

だが、

「……アンタの前のパーティの奴らね」

「正解。卑怯とは言わないよな? ルールなんて決めてないんだしよぉ?」

ゴートのあの指示は、他の三人に向けたものではなく、観客に紛れたゴートの元パーティーの奴らへの指示だったようだ。

「……ちっ」

フロリアの額には大粒の汗が浮かんでいる。

仮に正面に全ての敵がいるのなら、倒すことも可能だろう。フロリアの浮かべているカードにはそれだけの魔力をじる。

その上、ゴート達はそれに気づいていない。油斷しきっている。

だが、ゴートの元パーティーの奴らは観衆を隠れ蓑にしている以上、攻撃することができない。

関係ない観衆を攻撃すれば更に敵が増えかねないからだ。

……全く良く考えたものだ。仕方ない。そろそろこうかね。

「……っ……ジーク! レオナ! シフォン!」

俺のメッセージに気づいたフロリアが、仲間だった三人の名をぶ。

呼ばれた方は不機嫌そうに顔を顰める。

「私だってあなた達には言いたいことがあるのよ。……あの時! あなた達が一緒に戦ってくれれば、私達は勇者達を倒せていた……!」

「はぁ!? あれだけ無様に負けといて今更そんな負け惜しみ……」

フロリアのびに、レオナと呼ばれたナイフ使いのが答える。

他二人もその通りだと頷き、ゴートはニヤニヤと笑みを浮かべている。

「負け惜しみじゃないわ。……私にはあるのよ。勇者にすら通じる、とっておきの魔法が!」

「……噓だな。それなら俺達が棄権した後でも使えば良かったはずだ」

ジークと呼ばれた男が冷靜に答える。

「あなた達の協力がないと不可能な魔法だったのよ! 私も驚いたわ! 開始早々三人ともリングから降りるんだから!」

「……私達は馬鹿じゃない。殘ってたらあなたの両親、王様達と同じ目にあった」

、シフォンが呟く。

え? 王様? そういえばゴートも何か王族とか何とか言ってたな。

……まあいいか。だからといって何か変わるわけでもない。

「かもしれないわね! でも、それが仲間でしょ!? 辛いことも嬉しいことも分かち合おうって言ったじゃない!」

フロリアはいつになく真剣な表ぶ。周囲の観客の目など気にもしていないようだ。

また、観客もフロリアと元その仲間の會話に夢中だ。

おかげでやりやすい。

「馬鹿か! 全員で棄権すれば辛い目にあう必要も無かったじゃないか!」

「それじゃ勇者パーティが倒せないでしょうが! あなた達は何も思わなかったの!? あいつらのせいで街の人がどんなに苦しんでるか、知らなかった訳じゃないでしょ!?」

「それは………そうだけど! だって俺達には関係ない話じゃないか! 何で俺達がやらないといけないんだよ!」

「力があったからよ! 力を持ったものには同じだけの義務が生まれるわ! それを果たせないなら力を持つ資格がない、勇者パーティと同じよ!」

「……いい加減にしろ」

ヒートアップするフロリアとジークに水を差すように、ゴートがカードをタッチし、魔法を発する。

突如として上空に現れた無數の石が、流星群のようにフロリアへと降り始める。

大きさこそ拳程度だが、スピードの乗ったその石の破壊力は、あまり防力が無さそうなフロリアには致命傷となりえる。

更に、

「お前らも參加しろ! 後は數で押し切れる!」

ゴートが観衆に紛れ込ませた仲間へとぶ。

確かにフロリアは防戦一方だ。あとは連続して魔法を撃ち続ければ、いずれ防魔法の切れたフロリアの負けだろう。

しかし、

「殘念だったね。もうそいつらは倒したよ」

そう言って、ゴートの前に三人の男達を放り投げる。

もちろん強化魔法を使っている。じゃないと、大人三人は流石に重い。

「……お前、誰だ?」

ゴートは凄むような目つきでこちらを睨む。

全く、気な小學三年生に向ける目じゃないよ。本當。

「俺? 俺はただのフロリアの仲間だよ? ギルドでも隣に居たでしょ?」

「…………」

「反則、なんて言わないよね? ルールなんて決めて無かったんだからさあ!」

の戦闘の流れは摑めた。さっさと終わらせてしまおう。

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