《異世界冒険EX》お泊り
「お邪魔します。頭を下げる」
「はい。フロリア様、今帰りました」
「? ……お疲れ様」
怪訝な表を浮かべたフロリアに迎えられた俺は、ペコリと頭を下げ、家の中へとる。
二階建ての大きな豪邸。それがフロリアの住んでいる場所だ。
白を基調としたクイーンアン様式の、まるでお城の様な家だ。
流石は王族と言った所だろうか。
「ところでランク上げと魔法の習得は順調かしら?」
「はい。現在、風と土の二つの屬を習得し、ランクもDになっております」
「フロリアの後に続き、廊下を歩く」
「もうし距離を空けてください」
家の中へとっていくフロリアのあとを、し距離を空け、歩く。
ちなみにギルドの付のに薬草を渡したところ、引きつった笑みでけ取ってくれた。
その後、重量を測定し、その結果に応じたポイントをゲットし、Dランクまで上がることが出來た。
しかし、次も薬草採取をけようとしたところ、普通に斷られてしまった。
曰く、冒険者ならもっと冒険しましょう。
もっともだ。……別に冒険者ではないんだけれど。
「椅子に座る」
「はい」
「……ところで、それは何なのかしら?」
フロリアは訝しげな視線でこちらを見ると、そう尋ねてくる。
そうだ。フロリアなら辭めさせられるのではないだろうか? フロリアがやらせてるのかと思ってたけど違うようだし。
「矯正です。ユウトさんをマトモな道に戻す為に、行を全て私が管理しようかと」
「それ矯正っていうより…………いいえ、なんでもないわ。その調子で頑張りなさい」
「はっ。お任せを」
「ちょっと待ってっ!」
ガタリと思わず立ち上がった俺の右太ももに、背後に立っていたメアリーの鞭のような蹴りが炸裂する。
「……座る」
「はい」
蹴りのレベルがどんどん上がってきている。そう遠くない未來、俺の太ももは消失してしまうかも知れない。
「とりあえず初日のり出しとしては、いいじじゃないかしら?」
「はい」
「というよりも、予想以上ね。そこで、追加でお願いがあるのだけれど」
「なんでしょう?」
俺はもう貝になろう。そうしていれば蹴られる事もない。
そう考えた俺は二人の話を聞くことに専念する。
……念の為、防魔法がしい。
「今後、パーティー申請が來ると思うのだけれど、斷らないでしいの」
「それは……何名まででしょうか?」
「そうね……。五名までかしら? それ以上でもメアリーがAランクまで持っていけると思えたなら、數は増えても問題ないわ」
……ん? 何かわかりにくいな。
パーティー申請を斷るな、ということは仲間を増やせということか。
そしてその數は五名程度、だがメアリーがそれ以上増えてもAランクまで上がれると考えたなら、それ以上でもいいってことか。
……大見えてきたな。フロリアの狙いが。
「まぁどの程度の數になるかはわからないけれど、例え無理な數でも一度私の所に來るように伝えてちょうだい」
「わかりました」
……ところで、居間にこうして座っているが料理が運ばれて來る気配はない。
そろそろお腹が空いたのだけれど。
「じゃあ、話は終わり。食事にしましょう。今日は私が作るわね」
などと考えていると、フロリアが手を打ち鳴らし、立ち上がろうとする。
「おやめください」
しかし、席を立とうとしたフロリアをメアリーは両肩を摑んで止める。
立場上の靜止以上の理由をじる。主人に許可なくれるなんてよっぽどだし。
「…………前から思っていたのだけれど、メアリー。あなた料理が下手よ?」
「フロリア様こそ、期にお父上が泣きながら食べられていたのをお忘れですか?」
仲良さそうな二人だったが、お互いに譲れないところもあるようだ。
俺としては何か危険をじるので、逃げ出したいのだが……どうせ立ち上がった瞬間、蹴りがれられるので貝になっておくしかない。
「そうね。いい加減はっきりさせましょう。あなたと私、どちらの料理がおかしいのかを」
「……ちょうど第三者がいますし、そうしましょうか」
「あの、間をとって俺が作るというのは……」
「行くわよ」
「わかりました」
俺の提案は當然のように無視され、二人は廚房へと向かう。
部屋に殘された俺はただ神に祈るしかない。
(……死ぬなよ)
神には祈ってはいないのだが、神からの絶のメッセージをけ取り、俺はこっそりと胃薬を創造しておいた。
◆◇◆
「……ふむふむ。箸を置く」
二人の皿を食べ終え、俺は創造した箸を置く。
メアリーの作り出した卵だった何かと、フロリアの作り出したネトネトとした塊。
どちらも甲乙付けがたい出來だった。
「うーん……どっちも信じられないぐらい不味いんだけれど……僅差でメアリーの方がマシかな」
「そんな!?」
「腹の立つ言葉ではありますが、勝ちは勝ちですね」
不味いは不味いけど……胃薬使う程じゃ無かったな。お母さんのおかげで耐が出來てるのだろうか。
「とりあえず、今後は俺が作るから」
「明日こそ勝ってみせるわ」
「返り討ちにしてあげますよ」
……俺の言葉はまたしても屆かない。
ああ、ギルドのハンバーガーがしい。
「じゃあ、悠斗、とりあえず部屋に案するわ」
「わかった。席を立ち、フロリアのあとについて部屋とやらまで歩く」
「はい」
俺が席を立つと、メアリーも當然のようにあとを追ってくる。
「部屋は一応用意していたのだけれど、ちょっと別の人が使う事になったの。そういう訳で悪いけれど、私かメアリーのどちらかと相部屋になるわ。どちらがいいかしら?」
二階に上がった直後、フロリアは俺にそう告げる。
二階には扉の數から推測するに、二部屋しかない。
それぞれフロリアとメアリーの部屋なのだろう。
「ど、どういう事ですか! フロリア様!」
それを聞いたメアリーが慌てて、フロリアに尋ねる。
「仕方ないじゃない。急だったんだもの」
「ちゃんと部屋は分けるって仰っていたではないですか!」
「そうだったかしら? ならいいわ。悠斗、私の所でいいわね? メアリーは駄目なようだから」
「え? ……まぁ、うん」
なくともメアリーと一緒は不味い。俺の右太ももが朝には存在を無くしてしまうかも知れない。
「じゃあ決まりね。こっちよ」
そう言ってフロリアは右の扉のドアノブに手をかける。
「お待ち下さい! ……わかりました。私が、私が犠牲になりましょう!」
しかしメアリーは、悲壯な決意とでも言いたげな表で、俺の著ていたジャージの襟を摑む。
……ちなみにこのジャージはアイギスとの修行時に著ていたもので、ホコリなどがつかない防塵であり、防力もそれなりに高い。
だが、それでもメアリーの蹴りは防げないが。
「ええ!? お、俺はフロリアとがいいな!」
「……っ! ……だ、そうだけれど? メアリー」
「駄目です。許可しかねます」
「あら? 雇用契約上、私はあなたに許可を得る必要はないのだけれど」
「雇用契約上ではなく、親友として申しています」
……もうギルドの宿屋でもいいから、開放してほしい。
バチバチと火花を散らす二人に挾まれた俺はそう願わずにはいられない。
「……はぁ。わかったわ。こうしましょう。三人で私の部屋を使う。これでいいわね?」
フロリアは一つため息をつくと、そう告げる。
「……余計に駄目に決まってます」
しかしメアリーは頑として譲らない。何としてもフロリアと俺を一緒にする訳にはいかない、とでも考えているのだろう。
……俺の信用度低いなぁ。
「わかったわ。そろそろいい時間だし、とりあえず一緒にお風呂にりましょう」
「……あ、もうそんな時間ですか。準備して參ります。……ユウトさん、わかっていますね?」
「わかってる」
メアリーはパッと俺の襟から手を離すと、一階へと降りていく。
俺に念押しをして。……ふう。
「まったくあの子は心配なんだから……」
「まぁ、それだけフロリアの事が心配なんだろう。そう言った心配は俺には必要ないけどね」
だって俺には茜がいるからね。例え異世界でバレないとしても浮気するつもりはない。
……いや、ほら◆◆◆◆はさ……◆◆◆じゃん。――修正がりました――
「…………そうね。まだ九歳、もしくは七十九歳、どちらも男の時期ではないものね」
……なんだかそう言われると悲しい。
「フロリア様、ご無事ですか!? お、風呂の準備が出來ました……」
階段を駆け上がってきたメアリーが、フロリアにそう告げる。
急いだのかハァハァと苦しそうに息をしている。
……はぁ。
「じゃありましょう」
「ユウトさん、わかっていますね? そこで待機ですよ?」
「混ざりたいなら混ざってもいいわよ?」
「フロリア様!」
じゃれ合いながら階段を降りていく二人を見送り、俺は一つため息をつく。
……ちょうどいいや。さっき思いついた計畫をアッサムに話しておこう。
もしもフロリアの計畫が駄目だった場合に備えて。
◆◇◆
「なんでさっき修正ったの?」
「「さあ?」」
アイギスの空間で震えるように俺とアイギスは茜の質問に答える。
おっさんも素知らぬ顔で惚けている。
「……まあいいや。地球に戻ってから問い詰めよう」
「…………」
これはアッシュとの戦いより前に、俺の命は無くなる可能が出てきた……な。
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