《異世界冒険EX》勇闘會①
「……ちょっと張するな」
周囲を見渡し、俺は思わず呟く。
大観衆が見守る闘技場の中央。四角い石造りの舞臺の上には、俺を含め百人近くの人間が立っている。
その中にはあのフロリアの元仲間の三人の姿もあった。表を見る限り、納得して來ている訳ではなさそうだ。
「…………」
メアリーが倒れた日から、一ヶ月近くの時が過ぎた。
その間に俺はAランクになり、屬魔法も全て覚え、カード化もその選別も済んでいる。
勇者パーティーの前回の戦いの様子も見れたし、使用する魔法に関しても把握できている。
不安に思う必要はないはずなのに、何だか落ち著かない。
もちろん失敗した時の為の策もあるけれど、フロリア的には國民の前でしっかりと倒すことに意味があるらしい。
「あら? 悠斗らしくないわね?」
と、フロリアの事を考えていると、本人のご登場だ。し姿を消していた彼は、いつの間にか俺の橫に戻ってきている。
それにメアリー、アルフ、エレナも一緒だ。
「いやいや、だってほらもし負けたら……」
「その時はその時よ。失敗にはなるけれど、別に命までは取られないわ。ま、あり得ない話だけれど」
「…………」
どこから來るのかこのフロリアの自信は。
……いや、違うか。フロリアにとってはここで不安な様子を見せるわけにはいかないんだ。
周りにはフロリアの集めたAランクのパーティーがいる上に、勇者の倒し方も重要だから。
勇者がいなくなれば、魔王を倒せる者もいなくなり、國民は混してしまう。だけど勇者を倒した者がいれば、その混もすぐに収まる。
だからフロリアは、國民の前で勇者パーティーを倒したいらしい。
だがまぁ、実際には次の魔王を倒す訳にはいかないから、フロリアは勇者を倒した後は神の手下として別の世界へ向かう事になっているけれど。
そしてメアリーがこの世界の王として、皆を率いて戦う事になる。
やがて人類の數が調整された時、アッサムにより新たな勇者が生まれ、その勇者とメアリーにより魔王は倒され、ハッピーエンドという訳だ。
と、ここまでがフロリアの計畫だ。
勇者パーティーを堂々とこの場で倒し、その後自分は魔王に殺されたことにでもして異世界へ、妹のメアリーは王として勇者や冒険者を率いて魔王と戦う。
……フロリアはそれがベストだと言ったけれど、本當にそれがベストなんだろうか。
「…………」
「悠斗」
フロリアは考え込む俺の耳元で、小さな聲で呟く。
「これは私が私の為に立てた計畫、そして実行するのも私。例えこの先、多くの命が失われようと悠斗が気にする事はないわ」
「…………そんな事じゃないよ」
それも気にはなるけれど、一番気がかりなのはフロリアとメアリーがどう考えても幸せになれないと言うことだ。
異世界で孤獨に戦うフロリアも、勇者が生まれるまでは減らし続けるとわかっていながら戦わないといけないメアリーも。
本當にこれでいいのか? もっと――
「……前回の戦いを見て、よくもこれだけの數が集まったものだ」
「っ!?」
舞臺上空、雲ひとつない青空に浮かんだ五つの影。
風と共に現れた五人の姿は、アッサムにより見せられた勇者パーティーの姿と一致する。
一般的な槍よりも更に長い槍を使う褐の年、ノード。
彼がもつ槍はただ長いだけではなく、特殊な構造により魔法を槍から放つことが可能となっている。
カード戦でも強いが、カードに縛られない戦いでは勇者と並ぶ程らしい。
「…………本當にこの中にいるのか?」
「もちろん。あの五人ならきっと魔王も倒せるよ」
そのノードと笑いながら會話をわしているのがアロード。
勇者パーティーの中でも一番のクズ野郎であり、魔法の実験と稱して何百人もの犠牲者を生み出している。
だが、その実験の果である通常と違う魔法は驚異だ。先の戦いで見た明化や石化、それに分魔法。
「……あら? フロリアちゃんがいるじゃない」
フロリアに手を振ってくるフロリアと同い年位のカーラ。
彼は類稀なる運能力を持ち、相手にカードを出させない、出させても使わせないとばかりに距離を詰めてくるインファイターだ。
更に自はしっかりとカードを使用してくる。これまた厄介なだ。
「ふぁーあ、早く終わらせて、ずっとお晝寢したいですねぇ」
目を閉じ、欠しながら浮かんでいるスフィリア。彼はその圧倒的な魔力量で戦線を支える回復の使い手だ。
前回の戦いではオートヒールを設定していたのか、眠りながら十秒ごとに勇者パーティーを回復していた。
ダメージも負っていないのに回復を続ける勇者パーティーの姿は、若干シュールだった。
「始めるぞ」
そして真ん中に佇む年、彼こそが勇者スレイだ。
前回の戦いではほとんど何もしておらず、戦闘スタイルも剣を使うこと以外はわからない。
俺からするとそこまで驚異的な剣技でもなかったが……逆にそれが俺の不安の種なのかも知れない。
「まずは俺達と戦う一組を決める。申請してきたパーティーの數は二十組。トーナメント表はこちらで作っておいた。早速――」
「「俺(私)達は棄権する!」」
男、り混じった聲が闘技場に響く。
かねてから決めていた話だ。
フロリアは他國含め全てのAランクパーティーに出向き、勝負を挑んだ。そして勝利すると、カードを返す代わりに勇闘會を棄権するよう迫った。
その果が今である。
「…………頼むわよっ!」
そしてこの一瞬こそが、最初にして最大のチャンスだ。
戦う準備の出來てない勇者パーティーに向けて、フロリアはCHAOSの準備を始める。
そのフロリアを囲むようにアルフ、レオナとジーク達三人が勇者パーティーそれぞれを相手取りカードを生し、構える。
フリーの俺とメアリーも刀と槍を創造し、フロリアの前に立ち、相手のきを待つ。
「<<魔力変換>>」
更に今回はそれだけでは無い。
フロリアは神の指からAランク以外の他の冒険者から奪ったカードを取りだし、地面へとばら撒く。
そしてその次の瞬間には、ばら撒かれたカード全てが消失し、巨大な魔力の塊が生まれた。
フロリアの持つ二つの固有魔法の一つ、魔力変換。これはその名の通り魔力を変換する能力だ。
他人の魔力を自の魔力に変換できる強大な能力だが、もちろんそれには條件がある。
その條件の一つは、二秒以上れたことのある魔力しか変換できない、と言うことだ。
簡単そうだが意外と難しい條件だったりする。俺のように仲間であるなら簡単だが、敵の場合攻撃魔法にれるか、防魔法にれるかしないとならない。
実際他の異世界ではあまり使い勝手は良くなかったようだ。
が、この世界にはカードがある。
カードも元は魔力。つまり、フロリアは相手のカードにれる事が出來ればそれだけで、相手の魔力を自分のものに出來るのだ。
俺に頼んで來た冒険者狩りもその為だ。結局俺が斷ったので自分でやったようだけど。
そして更に……。
「な、魔力が……!」
「おい! 聞いてないぞ!」
魔力変換のもう一つの條件。それは半徑二十メートルにある魔力だけ。
つまり、先程ばら撒いた他の冒険者のカード化してあった魔力は変換できるが、現在離れた場所にいるその冒険者のに殘っている殘りの魔力は変換できないと言うことだ。
だが、それも同じ舞臺にいるAランクの方々は違う。
カードを返す前に二秒以上れている上に、半徑二十メートル以に居るのだ。あるだけ全て変換できる。
「…………くそ……」
ばたりばたりと倒れていくAランクパーティー。
それに比例するようにフロリアの目の前に生まれた魔力球は大きくなっていく。
これがフロリアがAランクパーティーを増やしていた理由だ。
それにしても……。
「……フロリア、おかしいぞ……っておい! 大丈夫か!?」
「だ、大丈夫よ……!」
ある違和に気づき顔だけで振り返ると、フロリアの目と鼻からとめどなくが流れている。
膨大な魔力があっても、それを制出來るかはフロリア次第だ。どうやら相當無理をしているようだ。
「シフォン、回復魔法!」
「必要ないわ! それよりさっき言いかけたのは何なの?」
必要ないって言われても明らかにやばいって。下にの池出來てるし。
だが、本人がそう言ってるのに加え、これ以上話しかけて負擔を掛けるのも不味い、更にもしかすると他の魔力が影響して、魔力の制が上手くいかないかも知れない。
様々なかも知れないが浮かんだ結果、俺は何も言わないことに決めた。
「……いや、気のせいだった」
「なによそれ……」
気になったのは勇者パーティーのきだ。てっきりすぐに戦闘態勢にるかと思っていたが、驚いた顔でこちらを見るだけ。
あれは驚きでけないだけってことなのか……?
「あとは……」
フロリアは二十枚のカードを生し、その全てをスライドさせ重ねていく。
「……はぁ……はぁ……うっ……!」
短く息を吐き、遂に膝をついたフロリア。
額には大粒の汗が浮かんでおり、目と鼻だけでなく口や耳からもが流れている。
「これはっ……ちょっと……一発、しか無理、ね……」
フロリアはそう呟き、震える指で重ねたカードをタッチした。
「本當に大丈夫かよ…………っえ?」
明らかにおかしいフロリアの狀態に、メアリーと視線で合図しあい、ごとフロリアの方を振り向く。
そしてそこには、発音、雷鳴、地響き、あらゆる轟音を鳴らしながら佇む、真っ黒な球が浮かんでいた。
球の周囲の空間は歪み、振り返った際に當たってしまったのか俺の刀が消失している。
俺の右手ごと。
「……これ俺達もやばくねーか?」
「やばいわね……でも行きなさい!」
フロリアの聲に合わせるように、球は空に浮かんだ勇者パーティーの元へと飛んでいく。
「全員退避! メアリー、皆を頼む!」
「はい! フロリア姉さまは頼みます!」
俺は慌てて他のメンバーに指示をだし、ジークの盾を創造する。
俺とフロリアもメアリーに移させて貰いたいが、人數オーバーな上に位置関係が悪すぎる。
「悪いけど、私の命は預けたわよ」
「わかってるって!」
けない様子のフロリアを抱き締め、盾の影に隠れる。
この時ばかりはが小さくて良かったと心の中で思った。
「……いや、凄いな。混合魔法の前の魔法もそうだけど、よくこれだけの魔力を制出來たものだね?」
CHAOSの球が迫ってもアロードはただただ驚きの表を浮かべている。
それ以外の面々も驚いてはいるようだ。
だが、焦りは見えない。
「……素晴らしい魔法だが……」
勇者のスレイは靜かにつぶやくと、発寸前のCHAOSの球に近づき、腰の剣に手をかける。
何だ? 斬るのは不可能…………まさか!
「俺に魔法は効かない」
空気を切り裂く音と同時に、轟音を鳴らしていた球が消失し、世界は靜寂に包まれる。
「…………」
「…………」
ずっとざわついていた観客も、俺も、フロリアも。
その場の誰もが口を開くことが出來なかった。
「じゃあ、始めようか? 戦いを」
そんな中でただ一人、勇者スレイだけがそう呟き、舞臺に降り立った。
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