《異世界冒険EX》勇闘會②
「不味いねこれは……」
現在の狀況は最悪と言っていいだろう。
魔力を殆ど使い果たしたフロリア。無傷の勇者パーティーに國民の前というこの狀況。
もしもここで俺達がボロボロに負ければ、國民達からの信頼を得ることは到底不可能だろう。
どうするかねぇ……。
「仕方ない、か」
俺はジークの盾を放り投げ、メアリーに視線を送る。
「フロリア、頼む」
そしてフロリアに耳打ちし、し距離を取り、刀を勇者へと向ける。
「人使いが荒いわね……もう」
ふらつきながらも何とか自分の足で立つフロリア。
「……信じてますよ。ユウトさん。……アルフさん! エレナさん! 退卻します!」
俺からの視線をけ取ったメアリーはアルフとエレナを呼びよせる。
「はぁ……はぁ……」
その一方で荒く息を吐きながらフロリアはアロード達に向けてカードを生する。
これでフロリアと生しっぱなしのジーク達三人により、勇者パーティーの面々は理的な攻撃は出來ないはずだ。
あとは……。
「おっと、逃さないよ!」
「逃がせよ<<ALL UP LV.10>>」
筋力や判斷力、思考力に魔力など、あらゆる能力を十段階上げた俺は、メアリー達目掛けて降りてこようとするアロードに巨大な火球を飛ばす。
慌てて回避するアロードだが、服の一部が焦げている。
「うわっと! ってスレイ、ちゃんとやってよ!」
メアリーがエリアテレポートを発するのを邪魔してくるアロードに対し、勇者スレイは棒立ちのままだ。
「…………っ」
結局彼は、黙ったままメアリー達を見送った。
ように見えた。
「……やっている」
そう呟いた勇者の周囲から、金屬がぶつかり合う音が響く。
「マジかこいつ……」
俺の全速力の斬撃。この數秒間で何十回と斬り込んだというのに、全て弾かれてしまった。
音すら今鳴り響く程の速度で斬り込んだのに、馬鹿げている。何なんだこいつは。
「代役はこいつで充分だろう。……他の死にかけと雑魚四人は捨て置き、お前らは空から牽制しろ。両手で攻撃されては俺も無事では済まないからな。だが、これ程の強化魔法なら長くは持つまい」
「っ……くそ」
正確にこちらの狀況を読んでくるスレイに、思わず悪態をつく。
……それにしても代役、ねえ……。
「スレイがそこまで言うなんて……君は本當に何者なのかな? まあいいや。ノード、カーラ、それからスフィリアも起きなよ。仕事の時間だよ!」
アロードはそう言うと生しているカードを同時に三枚重ね、何らかの魔法を発する。
「「さてさて、この人數の攻撃を防げるかな?」」
同時にアロードの姿が一瞬ぶれ、二人に増え、四人に増えたかと思うと倍々ゲームのようにどんどんその數を増やしている。
「分魔法か……!」
「「あれ? 知られてるみたいだね?」」
「と、あぶねえな!」
石化の魔法が一歩下がった俺の足元に著弾する。
その隙を突くように二つの影が視界の端にちらつく。
「見えてるって!」
アロードの影に隠れるように近づいていたノードとカーラに向け、雷と氷の槍を飛ばす。
「ちっ!」
「…………」
アロードの分はただの目くらましだ。アイツの分はただそこにあるだけ。攻撃してこないし、攻撃しても無意味。
「面倒な魔法だな……」
ただし、それもアロードが意識を移せば別だ。
アロードは分のどれにでも意識を移せ、どの分からでも攻撃してくる。
しかも分は分だからそれを破壊しても無駄、という訳だ。あくまで本を攻撃しないと、ダメージがらない。
ゲームによくいるタイプの敵だ。面倒くさい。
「「スレイと斬り合いながら死角からの攻撃を防げるかな?」」
既に空は増え続けるアロードによって埋め盡くされている。
時折、その隙間から石化魔法や屬魔法、カーラやノードが飛び出てくる。
「……くっそ。イライラする」
一番ムカつくのが、スレイやアロード、ノードやカーラ達も本気で俺をどうにかしようと思ってない事だ。
奴らの目的は現狀維持。時間が経てば経つほど俺が不利になるのをわかっているのだ。
「あーもう! 邪魔だって!」
苛ついた俺は風魔法を発し、空に浮かぶアロード達を吹き飛ばし、その影に隠れていた二人も弾き飛ばす。
「お前さえ倒せば……!」
そしてその隙にスレイの目の前に移し、瞬時に納刀した刀を再び抜き放つ。
神速の抜刀だ。片手の力で足りないのならば、鞘走りを利用するだけだ。
「あら? そっちに行くならフロリアちゃんには眠って貰うわね」
「おやあ? カーラがフロリアに迫ってるよ? 助けなくていいの?」
わざとらしいアロード達の聲が上空から聞こえる。
噓くさいが確かにカーラがフロリアに迫っているのを背中にじる。
だが、今はこちらが優先だ。
「…………ふっ!」
俺は最速で刀を抜き放ち、
そのまま投げ飛ばした・・・・・・・・・・。
鞘走り? 何それ。
「「な……何で?」」
俺の右手上空と背後で、アロードとカーラの驚愕の聲が上がる。
何もないように見える右手上空の空間には、投げ飛ばした俺の刀が突き刺さり、夥しいが流れている。
「く、くそ…………」
と、呟く聲と同時にドサリと何かが落ちる音が響く。
そして舞臺上には、だらけで橫たわるアロードの姿が現れた。
「…………くっ!」
明化の魔法が解けたのか、に刀が突き刺さったまま青い顔でこちらを睨んでいる。
「あまり俺達を甘く見るなよ」
「まったくですね」
スレイの前から一歩飛び退き、フロリアの所に戻ると、そこには逃げたはずのメアリー達三人が立っていた。
「……貴も終わり」
と、エレナによって倒れていたカーラの首が、黒い鎌で斬り落とされる。
あまり……見たくはなかったな。
「よし。問題はここから、か」
何はともかく作戦は功だ。あらかじめ決めていた作戦の一つが綺麗にハマった。
今回の作戦は、何らかの手段でフロリアのCHAOSが防がれた場合の為に考えていたものだ。
まずフロリアには、囮になってもらう。明らかに弱っているフロリア狙ってくるのは確定だからな。
一方でメアリー、アルフ、エレナにはエリアテレポートで別の場所へ逃げてもらう。
前回の戦いを知る勇者パーティーからすると、また今回も第二王のメアリーを逃したように見えただろう。
だが、今回は違う。狙うは勇者パーティーの一人であるインファイターのカーラ。
奴の戦闘スタイルは一見、この世界にあったもののように思える。
圧倒的なスピードで相手に接近。自の魔法を発後、相手の腕を摑むことで防魔法を使わせないまま、自の魔法を當てる。
運能とこの世界の仕組みを利用した見事な戦。
だが、本當にそうだろうか?
俺はこの戦闘スタイルは弱點の裏返しではないか、と考えた。
何故なら魔法の一番の利點は、離れた場所からでも攻撃可能な點だ。
地球でも戦闘においては、程は長いほど有利なのだ。
なのにわざわざ接近するなんて、おかしい。もちろん、ここに至るまでは相手の防魔法を封じる為、というもっともらしい理由があった為に半信半疑ではあった。
が、今回。
奴はアロードやノードとは違い、俺やフロリアに向けて一度の魔法も使用していない。
やはり……カーラは魔法の制を近くでしか出來ない。
そう確信した俺はカーラだけを突破させる事で、フロリアの近くへとい出し、そのカーラをフロリアを目印に再び現れたメアリー達が、不意を突き倒したのだ。
し卑怯な気もするが、堂々と倒すことが不可能になった以上、なりふり構っていられない。
アロードの方も似たようなもので、だまし討ちに近い。
アロードは気づかなかったようだが、三枚カードを重ねていたのが視力を強化した俺には見えていた。
そして、分を始めたアロードから石化の魔法が飛んできた。
あの時見える範囲で起こったのはそれだけだ。つまり一枚は分、もう一枚は石化魔法ということだ。
じゃあ殘り一枚は?
アロードの分魔法の弱點は、他の分に意識を移している間は本が隙だらけという點だ。
だからアロードは覚えたのだろう、明化の魔法を。
あとは前回と同じだ。苛ついた振りをして風魔法を使い探知し、スレイに攻撃する振りをしながら、攻撃した訳だ。
抜刀なんてわざわざ納刀してまでやる技じゃない。格好良いけれど。奧義はいつか必ず使うけど。
ま、とにかくこれで向こうは四人、こちらはフロリアを抜いても七人。
何とかなりそうだ。
「……スフィリア」
「あ、はーい」
そう、甘く考えたのがいけなかったのか。また奴らは俺の想像を超えてくる。
「は? 噓……だろ?」
いつの間にか地上で立ったまま眠っているスフィリアが、一枚のカードにタッチする。
すると首を斬り落とされたカーラの切斷部から、骨がが管が、新しい首と頭部が生えてくる。
「……う……」
最悪なものを見た。……ちょっと今日はご飯は食べれそうにない。
普通にグロすぎる。
「……アロードも何を遊んでいる」
「「はーい」」
「なっ!?」
いつの間にか倒れていたはずのアロードの姿がない。
代わりとばかりに上空を埋め盡くすアロードの分達。
「「いい読みしてたけど、そもそも僕の本はここにいないんだよー♪」」
無駄に明るい聲でこちらを挑発してくるアロード。
「…………やられた」
最悪だ。どうやらここに來ていたアロード自が、分だったようだ。
前回の戦いでフロリアのご両親が暴いた弱點も、こんな真似されては意味がない。
「…………」
ここまで卑怯な相手だったなんて。そうだよな、所詮奴らにとっては力を見せつける為の舞臺。姿さえ見せれば本か分かなんて関係ない、か。
「……どうする? まだやるか?」
迎撃の為に、なのかそれとも答えがわかっているとでも言いたいのか、一度抜いた剣を再び腰に戻しながらスレイが尋ねてくる。
「…………無理。降參」
ちょうど魔力も切れた俺は、そう言って刀を地面に突き刺し、座り込む。
もう駄目だ。これ以上は戦えない。ここまで作戦は全てハマった。なのに、その度に向こうが想像を超えてきている。
今の狀況からでも使える作戦はあるが、無理だ。どれも犠牲無しに進められそうにない。
そう考えた俺は尋ねてきたスレイに降參の意思を伝えた。
「ユウトさん! 何を言っているんですか!?」
「…………」
メアリーは驚いた顔でび、こちらを見る。フロリアも黙ったまま、じっとこちらを見てくる。
アルフ達も黙ったままだが、何か言いたげにこちらを見ている。
「……ただし、俺以外は見逃してしい」
「……っ!」
後ろでメアリー達の息を呑む音が聞こえる。彼達も気づいたようだ。
もうフロリアの作戦は駄目だ。俺の作戦へと移行する。
「…………」
あとは……最後まで俺の読み通りにいくかどうかだ。
「だ、駄目ですよ! そんな、ユウトさん一人を犠牲するなんて……!」
思い出したように後ろで騒ぐメアリー達を無視して、俺はスレイの言葉を待つ。
ここが正念場だ。
「…………」
スレイは黙ったまま俺に近づき、しゃがみ込み、俺の目を覗き込む。
キスでもするのかという程の至近距離で。
「ち、近くね? 俺にそんな趣味ねーぞ?」
「え?」
心の揺を悟られぬよう、し冗談めかして答えてみる。
何故かフロリアから反応があったが、今は気にしている場合ではないだろう。
「………………」
「………………」
一方でただ黙って俺の目を真っ直ぐに見てくるスレイ。
……くそ。なんて目をしてるんだ。こいつ。
暗い、ただただ暗い。の欠片もじさせ無いほどの、真っ黒な目。
……絶対にこいつの過去は知りたくないな。
「……いいだろう。他の奴は見逃してやる」
「ありがとさん」
そう言ってホッと一息ついた俺に、スレイは立ち上がり言葉を加える。
「だが、條件がある。それは――」
……まあ、予想通り……かな。
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