《異世界冒険EX》魔王②
「……やっと父さん達の仇を討てる」
「ああ。エレナ、勇者はユウトさんが倒してくれるはずだ。僕たちはこいつを……」
アルフとエレナはそれぞれ武を構え、アロードを睨みつける。
周囲には焼けた家屋や、無數の墓石が並ぶ廃村。
「…………そういうことか」
一方でアロードは自の服を眺め、呟く。
いつもは表かな彼だが、今は能面のように無表だ。
アルフ達もいつもと違うアロードの様子にしだけ揺する。
「ど、どうした? いつもと雰囲気が違うじゃないか」
「うるさいよ」
アロードが瞬時にカードを生し、重ね、発する。
「っ!?」
「お兄ちゃん!」
途端に辺り一面の地面がぬかるみ、殘っていた家屋も墓も柵も何もかもが沈んでいく。
「僕たちの村が……!」
アルフはアロードに対し、し問答をしようと考えていた。
何故自分たちの両親を殺したのか、それだけでなく村の大人達までも殺したのか。
聞きたいことがいくつもあったからだ。
だがそれはアルフだけだった。アロードにとってはそんなことどうでもいい話だ。
だから彼はもう――。
「…………っ!」
泥沼になった地面に、アルフ達も沈んでいく。慌ててエレナが闇屬魔法を使い、足場を生み出すが……すでにアロードは次の攻撃を終えている。
上空から雨のようにいくつもの石化魔法が降り注ぐ。
「……エレナ! <<炎剣開放>>」
「……任せて」
アルフは剣に指をらせ、剣に炎を纏わせるとアロードに向かい、飛び上がる。
アルフからの呼びかけに応じると共に、エレナは生したカードにタッチする。
正方形の黒い板が上空に生み出される。
「拡大」
エレナが呟くと同時に黒い板は巨大化し、降りそそぐ石化魔法をその闇に吸収していく。
同時にアルフが、開放した剣を振り上げながらアロードへと迫る。
「終わりだ!」
「…………」
容赦なく振り下ろされた剣は、アロードのを燃やしながら斬り裂く。
しかし、
真っ二つになって燃えながらも悲鳴一つあげないアロード。
「……ちっ。やっぱり分だ」
アルフが吐き捨てると同時に、さっきまで燃えていた死が炎ごと消失する。
「とりあえず連絡を……」
◆◇◆
「やってくれるわね。ユウトのヤツ。罰としてメイド服を著せてやるわ!」
「……悪いけど足止めさせてもらうわ」
前後左右に果てしなく広がる草原。
ヴェノメ平原と呼ばれるその場所は、魔王城から遠く離れた所にある。
「足の早いあなたでも、もう間に合わないわ。諦めておとなしくして貰うと助かるのだけれど」
「あらぁ? フロリアちゃんは私に恨みはないのかしらぁ?」
そこで向かい合う二人の。フロリアとカーラだ。
「別に無いわ。そこまでね。街の人たちの前だったら別だけれど」
「……ふーん。意外とドライなのね」
「ただ勇者の奴だけは別よ」
フロリアにとって勇者パーティーは全員許せない、という訳ではない。
當然憎しみはあるが、殺されなければならない程ではない。
勇者達が弱ければ、逆にこちらが殺していたはずだ。だから両親の仇を取る、なんて今はそれほど考えていない。
神の手駒として戦うに、そう変わってしまった。
だが、それでも許せないのがスレイの態度だった。両親を殺した時も、そのあとこちらを見た時も、スレイの目はまるで蟲でも見るような、一切の興味を持っていない目だった。
だが、そんなスレイの態度が気にらないから殺す、ではいくらなんでも周囲から賛は得られないだろう。
だから仇討ちを大義名分としていたのだ。
「……そう言われるとおとなしくする訳にはいかないわねぇ」
「そう……抵抗するのね。なら……」
「<<ALL UP L V.2>>」
フロリアが片手にレイピアを構え、カードも生しようとした瞬間、カーラの姿は消えていた。
見えるのは舞い上がる草花。超人的な速度でカーラは逃げていった。
「……これでいいのかしら?」
追うこともせず、フロリアは誰にでもなく呟いた。
◆◇◆
「…………」
「これはこれは……一番つまらなそうな人が來てしまいましたね」
メアリーはすでにカードを生し、ノードを待ち構えていた。
いや、それどころではない。
「…………っ!」
ノードの足元には更に魔法陣。そして、二人がいる場所は神竜の巣と呼ばれる火山の麓だ。
思わず顔を引きつらせたノードは全力で抵抗しようとするが、出來るものではない。
「では、頑張ってください」
「…………くそ」
いい笑顔で一禮するメアリーに、最後の足掻きとばかりにノードが槍を突き出し、もう片方の手でカードにタッチする。
すると槍の先から紫のシャボン玉が飛び出していく。
槍の先に塗ってあった毒を水魔法で利用したノードのオリジナル魔法だ。
「無駄ですよ。では」
しかし、その魔法が屆く前にメアリーはその姿を消し、同時にノードも姿を消した。
◆◇◆
「眠いけど……戻らないと」
「そうはいかないんですよ」
眠たそうに目をるスフィリアの前には、三人の男の姿が映る。
盾を構えた男、厚手のローブを著た、薄手の服にいくつかの暗を隠している。
フロリアの元パーティーの三人だ。
「…………」
キョロキョロと辺りを見回すスフィリア。
やがてそこに誰もいないのに気づくと、大きくため息をついた。
「私がやるしかないのかぁ……面倒」
「? あなたは回復しか出來ないはず……」
言いながら盾を構え、警戒するアレン。今まで回復魔法しか使っていなかったが、もしかすると攻撃魔法も使えるのかも知れない。
そう考えたようだ。
だが、
「…………終わり」
「う、うわあああああ! 俺の腕が!」「ああああ!」「きゃあああああ!」
空から降り注いだの欠片。
日のの元ではほぼ見えないそれらが、三人のにれた瞬間、れた箇所が膨張し、破裂する。
「……ふぅ。スレイさんかアロードが來てくれるのを待ちますか」
飛び散る赤いを気にすることもなく、スフィリアはその場に座り込み、眠りについた。
◆◇◆
「始める前に一ついいか?」
「……ああ」
俺とスレイは互いに武に手を置いたまま、會話をわす。
抜いてしまえばもう戻れない。そう考え、抜けずにいた俺にとっては願ってもない展開だ。
「何で俺たちと敵対するんだ? 表から察するにお前は、明らかに悩んでいるようだが……」
意味がわからないと言った表でこちらを見るスレイ。
……やっぱりそうなのか。他人から見てわかるぐらい今の俺は……。
アイギスの修行で、初めての殺人は終えている。だから必要なら俺は殺せる、と思っていた。
見知らぬ他人と、知人ではこんなにも違うのに。
馬鹿な作戦を考えて、挙げ句の果てはこの狀況だ。
本當に無様だな。俺は。
「……生きる為」
それでも譲れないものはある。
俺はまだ大好きな茜に何もしてやれていない。
それに毎日思い出す茜の泣き顔。
あれが最後の表なんて最悪だ。
だから、茜の笑顔を見る為に俺はスレイを殺し、元の世界に戻らないといけないんだ。
もう一度、茜と生きる為に。
「……? 俺達を倒すこととそれが何の関係があるんだ?」
「それは――」
決意した俺が刀を抜き、答えようとした瞬間、巨大な火球が降ってくる。
相當な魔力を使用して作られたであろうその火球は、半端ではない熱量を持っている。
近づいてくるにつれ、全の皮からダラダラと汗が吹き出てくる。
「どうやら邪魔者がいるようだな」
「邪魔者はお前だろう?」
スレイが軽く剣を振り、火球を打ち消しながら上空を睨む。
そこには先程俺が倒した筈の魔王が、笑みを浮かべてこちらに手を向けている。
「……分、か」
「正解だ」
はっきり言って、俺一人でスレイに勝てる自信はない。
負けるとも思わないが、勝てるとも思えない。予想がつかない相手なのだ。
だから一人で戦おうとは思わなかった。だから……
「……ちっ。気付くべきだったな。何であれだけ反対してたお前が孤児作りを手伝いだしたのか」
俺は信頼を得るために孤児作りにも協力したかった。だが、それはとても許容出來る行いではない。
だから分魔法を覚えたのだ。
「だが、おかしいな。確か自分の分以外は作れないはずじゃ……」
そう。便利すぎる分魔法の不便な所の一つ、それは自分自の分しか生み出すことができないという點だ。
魔力を元に分を作る以上、自分の分にしかならないのは當然だが、それでは殺害対象の分を作り、それを殺すという俺の計畫はうまくいかないことになる。
だが、俺にはフロリアがいた。
フロリアの魔力変換を利用し、俺の魔力をそれぞれの魔力に変換すれば、分は生み出せる。
「そこは緒かな。でもって當然……」
「あいつらを待ち構えていたのも分か」
「正解よ。流石ね、勇者様?」
部屋のり口にはフロリアを先頭に、アルフ、エレナ、メアリー、アレン達三人が揃っている。
「ユウトさん、話している時間はありません! アロードが向かっているはずですし、カーラも向かっているそうです!」
アルフがぶ。その手には既に開放されている剣が握られている。
「だ、そうだ。魔王、協力しろよ」
「わかっている。ユウト」
八対一。
卑怯すぎる気もするけれど、こうでもしないと不安要素が多すぎる。
そして最後に……。
「……降參しない? スレイ」
「…………」
武力を盾に降參を促すなんて、あんまり趣味じゃないけれど、出來ればそうしてしい。
全員で考えれば、もしかしたら誰も犠牲にならない方法が思い付くかも知れないし。
そう考え、スレイの言葉を待つ。
「…………殘念だが」
本當に殘念だよ。スレイ。
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