《不良の俺、異世界で召喚獣になる》1章12話
―――『完全記憶能力』という言葉を聞いた事があるだろうか。
景、、人……さらに言えば、『何月何日の何曜日、どこで何をしていた』まで記憶していられるという能力の事。
「……100萬でどうだ?」
「100萬……?!この子で100萬も貰えるんですか?!」
「えぇ……むしろ、100萬で良いのか?こちらとしては、もうし出せるのだが……」
―――とある家庭に、赤ちゃんが生まれた。
年の名前は……『Xエックス』としておこう。
この『X』、冒頭で紹介した『完全記憶能力』を所有する者だった。
『X』、この世に生をうけて0ヶ月0日3分……この『X』が最初に記憶した景は―――自分のが、白を著た男に売られる景だった。
「さて……それでは実験を始めるとしよう」
「……研究長……この年、全然泣かないですね?」
「ああ……不気味なじだな」
『X』を見た男たちが、不気味そうに眉を寄せる。
―――生後1ヶ月を過ぎた頃、『X』は人実験の道として扱われるようになった。
実験の容としては……生後1ヶ月の人間は、どれだけの力に耐えられるか等だ。
もちろん、年『X』はただの赤ん坊……特別な力も、特別な知恵もない。
この時、この『X』がじていたのは……地獄のような苦痛と、絶え間ない絶だった。
『X』には『完全記憶能力』があるため……この苦痛と絶は、永遠に忘れる事がないだろう。
―――時は過ぎ、年『X』は3歳となった。
この時から、実験の容はガラリと変化する事になる。
何故か?理由は簡単だ。
研究員たちが気づいたからだ―――『X』の『完全記憶能力』に。
「……これは?」
「3つ前の絵に出てきた……左から2番目にいた男の子」
「正解だ……これは?」
「57個前の絵に出てきた……100人の男が集合してた……右から39番目のの子」
「……正解だ」
『完全記憶能力』が、何故バレたか。
早すぎたのだ―――この年が、意味のある言葉を話し始めたのが。意思のあるコミュニケーションを取り始めたのが。
文字を覚え、言葉を覚え、意味を覚えた『X』は……遊び道も遊び相手も存在しないこの研究機関で、ただただ研究員たちの會話を記憶していた。
そして……自己流で言葉の意味を理解し、コミュニケーションを取るに至ったわけだ。
「……研究長……?どうかされましたか?」
「…………ふっ……はは……はははははははっ!いい事を思い付いたぞ!」
「いい事……ですか?」
「ああ……この年に、『筋増強実験』を行おこなう」
「『筋増強実験』をですか……?!しかし、功した事は一度も―――」
「今回は初めての功になるかも知れないだろう……実験室へ連れていけ」
「……了解しました」
高速に縛られている『X』が、とある部屋へと運ばれる。
―――年『X』は抵抗しなかった。
抵抗しても無駄だし……力を消費するだけだと理解しているからだ。
だが―――
「うっ―――ううううううっ……!」
この実験への恐怖だけは、どうにもできない。
あの苦痛が、あの絶が、再びを襲ってくると考えると……とても正気ではいられない。
「……研究長、聞きたい事があるのですが……よろしいでしょうか?」
「なんだ?」
「何故この子に『筋増強実験』を?」
「……こいつの『完全記憶能力』……もしこれが、『武の達人の技を記憶する』としたら?『複雑な機械の扱い方を記憶する』としたら?」
研究長の言葉に、若い研究員は首を傾げる。
「……『完全記憶コピー』に『完全再現リコール』……これができれば、最強の『改造人間』が造れる……!」
「し、しかし……武の達人のマネともなれば、筋の量や、筋の強度が足りない―――あ」
「そういう事だ」
―――この時、研究長は1つ大きな間違いをしてしまった。
それは……『筋を増強し過ぎた』という事だ。
―――年『X』は11歳となった。
「―――ふゥッ!」
年『X』が放つ蹴り―――その勢いだけで、辺りに暴風が吹き荒れる。
そして―――目の前にあった500キロの鉄を砕した。
その鮮やかな蹴り技―――達人の領域だ。
「……素晴らしい……」
「研究長……彼、どこか変じゃないですか?」
「ほう……どこがだ?」
「うまく言えないんですが………………なんと言うか、口調と言いますか……」
11歳になった『X』は……相変わらず実験を繰り返していた。
しかし、前のような『に痛みをもたらす』実験ではなく、『研究長の出した映像を見て、それをで再現する』という実験だ。
3歳の頃に行われた『筋増強実験』により、『X』の筋力はあり得ない事になっていた。
「……しかし……そろそろ時か」
「何がです?」
「あいつを殺すぞ」
「こ、殺すんですか?!せっかくの『功作』を?!」
「考えてもみろ。あいつが我々に反逆したら……我々は為すも無く殺される。殺られる前に殺っておく。これが一番だ」
だが、この年『X』は、簡単には死ななかった。
鈍で毆っても、刃で斬りつけても……何事も無かったかのように、平然としているのだ。
ならば毒ガスを使うか?と考えたが……『X』が赤ん坊だった時に、毒の抗を持たせていた事を思い出す。
そこで、この研究長は―――『X』を死させる事にしたのだった。
―――『X』、12歳。
彼は―――暗い獨房の中、空腹と戦っていた。
意識も途切れ途切れ、ボンヤリとした頭で『X』は考える。
……俺は……何をしている?
―――寢てる。床に寢転がってる。
……なんでこんなに腹が減る?
―――研究員が飯を持って來ないからだ。
……なんで、こんなに辛い?
―――あの日から……あの日俺のを売られた日からだ……
なんで俺は……あいつらの言う通りにしている?
―――わからない。
なんで俺は、あいつらの言う事を大人しく聞いている?
―――わからない。何故だ?
なんで俺より弱・い・や・つ・の言う事を聞かなければならない?
―――わからない。何故だ?何故なんだ?
この空腹から、苦痛から、絶から……解放されるには、どうすればいい?
―――殺せ。
ここから逃げるには、どうすればいい?
―――殺せ。殺せ。
飯を食うには、どうすればいい?
―――殺せ。殺せ。殺せ。
……ああそうか……俺、なんでこんな簡単な事に気づかなかったんだろ。
―――全部……全部……全部……全部……全部……全部……全部……、全部、全部、全部、全部、全部、全部、全部、全部、全部、全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部ぜん部全ぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんブゼんブゼンぶゼンブゼンブゼンブゼンブゼンブゼンブゼンブゼンブゼンブゼンブ―――殺せば良いのか。簡単な話じゃないか。
「……あァ……ははっ……」
年『X』、12歳。
この日、彼は初めて―――自分で考えて行した。
「―――研究長!『検番號 100番02號』が逃げ出しました!」
「ふん……やはり、言う事を聞くだけの子どもではなかったか……」
モニターに映る『X』……その姿は、まさに悪魔そのものだった。
立ちはだかる研究員を毆り殺し、立ち塞がる壁を砕し、飛來する武を簡単に避け、まだまだ止まらない。
そのまま真っ直ぐモニタールームに向かってくる。
「け、研究長……」
「……一度見せた攻撃は絶対に通じない……同じ手段は通じない……なるほど。やはり『完全記憶能力』は厄介だな」
―――と、モニタールームの扉が砕された。
何がって來たか―――確認するまでもない。『X』だ。
「……空腹による暴走……従順だった100番02號も、三大求の1つには勝てなかったか」
ヒタリ、ヒタリと歩み寄る『X』……その足音は、死へのカウントダウンで、その姿は、さながら死を與える死神だ。
「……見つけたぜェ……」
「ふむ……『検番號 100番02號』……お前に名前を與えよう」
「研究長!早く逃げましょう!」
もう逃げても遅いというのに、それでも逃げようとする研究員を無視して、研究長が嬉しそうに笑った。
「『飢』により生まれた『狂者』……『狂きょうが』なんてどうだ?」
「はっ……死ぬ前にそんな事言えるとは余裕だなァ……なんか言い殘す事ァあるかァ?」
「おめでとう。君は自分の力で『自由』を勝ち取った……さあ、思いのまま、殺すがいい」
そう言って両腕を開いた研究長―――その頭が弾け飛んだ。
ビシャッと辺りにが飛び散り、頭部を失った研究長はそのままフラリと溜まりに沈んだ。
「……弱なんじゃくで脆弱ぜいじゃく……人間ってのはしょぼいよなァ」
こうして世界に、最強の『改造人間』が解き放たれたのだった―――
―――――――――――――――――――――――――
「―――って話だァ」
話し終えたキョーガ……その表は、どこかスッキリとしているように見える。
「狂……って、キョーガさんと同じ名前ですか?」
「あァ……まァ字が違ちげェけどォ、読み方は同じだなァ」
リリアナは……何となく。そう、何となくわかった。
……今の話は……多分、キョーガさんの―――
「きょおがぁ……何してるんですぅ……?」
「アルマァ……起きたのかァ?」
「はい……あ、ご主人様も起きてたんですね……何かあったんですぅ?」
「いえ、ちょっと眠れなかっただけですよ」
「あは~♪みんな起きてるなんて、不健康だね~♪夜更かしすると長びないよ~♪」
眠たそうに目をこするアルマと、いつも通りニコニコと笑うサリスが、2階から下りてくる。
「不健康ってェ……おめェも起きてんじゃねェかこのエロ犬ゥ……」
「あっは~♪エロ犬なんてっ♪キョーちゃんは口が悪いね~♪あたしじゃなかったら怒ってるよ~♪」
「怒ってねェんならその手を引っ込めろォ、爪が危ねェんだよォ」
「ごめんね~♪『地獄番犬ケルベロス』の本能が『バカにされた』って訴えてくるの~♪」
取っ組み合いになるキョーガとサリス……それを見るアルマが眠たそうにあくびをする。
「……おいッ!てめェ本気だなァ?!」
「あはははは~♪ほら、もっと力れてよ~♪退屈しちゃうよ~♪」
「てめェ……ッ!」
『反逆霊鬼リベリオン』と『地獄番犬ケルベロス』が手四つになり、力を込める―――それだけでビリビリと空気が震え、2人から放たれる覇気だけで床や壁がミシミシと悲鳴を上げる。
「づッ―――痛いだだだだだだだァッ?!おめェ、爪刺すんじゃねェ!ィ出てんだろォがァ!」
「あっ、はぁ……っ♪しょうがないよ、ねぇ……♪あたしもっ、本気だからぁ……♪」
「このやろォ……!上等じゃねェかァ……!」
楽しそうに笑みを浮かべるキョーガ……その顔を見たリリアナが、優しく眼を細めた。
―――1つ、リリアナが聞きたい事がある。
「……キョーガさん」
「あ、ァ……?!なんだリリアナァ……!」
「……今、幸せですか?」
いきなりの問い掛けに、キョーガがポカンと口を開き―――サリスの握力に顔を歪めた。
「いっでででェ?!ちょおま、このやろォ……!」
「あっは~♪力を抜くなんて、舐められたもんだね~♪」
「チッ……!いい加減にしとけこのエロ犬がァ……!」
「あっ―――痛い痛い痛い痛い痛い痛いっ♪待って待ってぇ!ほんとに折れちゃうよっ!」
「ふゥ……!……リリアナァ」
絶するサリスから眼を逸らし、キョーガがリリアナを見て表を緩めた。
「………………俺ァ今、スッゲェ幸せだァ」
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