《不良の俺、異世界で召喚獣になる》2章10話
「あァ……スッゲェ調子良いなァ……」
額ひたいから生えた紅角をりながら、キョーガがピョンピョンとその場で跳ねる。
その背中には、黒いローブを著たアルマが、ぐったりとしたまま吸をしていた。
「【命令】 『殲滅組2班』と『殲滅組3班』が來るまで、破壊されない程度に戦え」
「「【駆除】【掃討】【破壊】」」
キョーガから距離を取る3機の『機巧族エクスマキナ』が、それぞれに備え付けられた銃を構える。
「『裁きの線ジャッジメント・レイ』」
「『神風の突貫ウィンド・ゲイル』」
「『魔の熱線イグナイツ・レーザー』」
大きな銃を構える『機巧族エクスマキナ』の銃口にが。
右腕が吹き飛んだ『機巧族エクスマキナ』の左腕の銃口に風が。
『指示者コマンダー』の左腕に備え付けられた狙撃銃に青白い炎が。
3機それぞれの遠距離武に力が収束し―――キョーガたち目掛けて放たれる。
対するキョーガは……1歩もかなかった。
―――回避は間に合わない。確実に直撃だ。
白いが、不可視の風が、青い熱線が……棒立ちのキョーガに襲い掛かる。
『指示者コマンダー』の口に、勝利を確信した笑みが浮かんだ。
「―――へェ。機械も笑うんだなァ?」
「―――ッ?!」
聲を掛けられると同時、『バギンッ!』と鈍い音が響く。
『指示者コマンダー』の振り向いた先には……攻撃を食らったはずのキョーガが、何食わぬ顔で笑っていた。
その手には、大きな銃を持った『機巧族エクスマキナ』が、頭とを引きちぎられた狀態でぶら下がっている。
―――【エラー】
何故、こいつはここにいる?
【エラー】【エラー】
先ほどの攻撃を食らっていないのか?避けたのか?いつの間に?回避は不可能だったはずだ。直撃したはずだ。
【エラー】【エラー】【エラー】
そもそも、何故、こいつは飛んでいる?
【エラー】【エラー】【エラー】【エラー】
『反逆霊鬼リベリオン』は飛べないはず……なのに、何故、飛んでいる當機たちと同じ高さにいる?
【エラー】【エラー】―――【理解】
『反逆霊鬼リベリオン』の背中に、黒い翼が生えている。あれで飛んでいるのか。
だが何故、『反逆霊鬼リベリオン』に翼が―――?
「【駆除】【掃討】【破―――」
「うるせェ、寢てろォ」
もう1機の『機巧族エクスマキナ』が、銃口に風を収束し始めるが―――それより、キョーガが拳を放つ方が速い。
キョーガの拳を食らった『機巧族エクスマキナ』―――その頭部が弾け飛び、頭部を失ったが、力無く地面へと落下する。
「おめェもォ―――落ちなッ!」
「あっ―――ぐぅ?!」
『指示者コマンダー』の頭部に鋭い衝撃が走り―――その威力に、為なすすべなく落下。
轟音と共に地面に叩き付けられ―――起き上がると、目の前には兇悪に笑う男の姿。
「……うぅ……キョーガ、重たかったですよぉ……」
キョーガの背中から、アルマが疲れた顔をひょっこりと覗かせる。
その姿を見た『指示者コマンダー』は理解した。
―――あの黒い翼は、『吸鬼ヴァンパイア』の翼だ。背負われていた『吸鬼ヴァンパイア』が『反逆霊鬼リベリオン』を持ち上げて飛んでいたのだろう。
しかし、先ほどまで力を失っていたはずの『吸鬼ヴァンパイア』が、何故、回復をしている―――【理解】 あの『反逆霊鬼リベリオン』がを供給しているのか。
「さてとォ……どうするんだ親玉ァ?降伏かァ?」
兇悪に笑う『反逆霊鬼リベリオン』を前に、『指示者コマンダー』が思考を加速させる。
―――『殲滅組2班』と『殲滅組3班』から、返事が來ない。
つまり―――『地獄番犬ケルベロス』に殺られた。
狀況は最悪。殘っているのは當機のみ。
―――『反逆霊鬼リベリオン』と『吸鬼ヴァンパイア』を相手にして、當機が勝てる確率、ほぼ0%……逃げられる確率、およそ2%……【理解】 完敗した。
「【敗北】 ……當機の負けだ。完敗だ」
「さすが機械だァ、分かりが早くて助かるぜェ」
「【完敗】 早く當機を破壊するがいい」
「……は?何言ってんだてめェ?」
「………………は?」
「いやァ、俺ァ住民を探しに來たんだァ。てめェを壊すつもりなんかサラッサラねェよォ」
『何言ってんだコイツ?』みたいな視線を向けるキョーガに、『指示者コマンダー』の脳を再び【エラー】が支配する。
「【理解不能】 當機を破壊するために戦ったのではないのか?」
「んなわけねェだろォ、俺ァ住民を探しに來たんだァ……ってかァ、てめェらが手ェ出して來たから反撃してんだよォ。何もしないんだったらこっちだって何もしねェっつーのォ……おらァ、住民がどこにいるか言えやァ」
「……【解答】 町の西部にある教會の地下に捕獲してある」
「西部……地下かァ。行くぞアルマァ」
「はい、ですぅ」
―――――――――――――――――――――――――
「ここかァ?」
「教會……ですね。どうします、キョーガさん?」
「どうするって言われてもなァ……」
町の西部―――そこに堂々と立つ、しい建。
キョーガたち6人……正確には、5人と1匹は、教會の前に立っていた。
―――『指示者コマンダー』の報を聞き、リリアナの所へ戻ったキョーガは……驚愕した。
デントと『金竜ファフニール』がいた事にも驚いたが……アルマとサリスが、リリアナの元から離れていた事に一番驚いた。
「……まァ、てめェも大変だったんだろォからァ、あんま文句は言わねェけどよォ」
「あは~♪さっきまでプンプン怒ってたクセに、よくそんな事が言えたね~♪」
ニコニコと笑うサリス……その左腕には、ローブが巻き付けてある。
―――サリスから聞いた話だと、『殲滅組』と呼ばれる『機巧族エクスマキナ』6機に襲われたらしい。
突然の不意打ちに、サリスは左腕を焼かれるも……6機全てを破壊し、リリアナの所へ戻っていたとの事。
「地下にいるなら、中にって地下室を探した方が良くないですぅ?」
「そうだなァ」
『主よ。我は邪魔になりそうだ……『サモンワールド』に帰るぞ』
「ああ。お疲れファニア」
『金竜ファフニール』のが、淡く輝き始める―――と、その巨が消えた。
予想外の出來事に、顔面塗れのキョーガが驚きに目を見開く。
そのキョーガの額ひたいには……『紅角』が無かった。
どうやら、任意で出したり引っ込めたりできるらしい。
「……行きましょう、キョーガさん」
「あァ……」
ゆっくりと扉が開かれ……教會の中にる。
「……ってかよォ、なんでてめェはァここにいるんだァ?」
「ん?ダメなのか?」
「ダメっつーかァ……不思議っつーかァ……」
當然のように一緒に行するデントを見て、キョーガがイマイチ納得できない表を見せる。
「……ん……こっちだね~♪」
「サリスさん、わかるんですか?」
「あは~♪臭いがするんだよ~♪……大量の『人類族ウィズダム』の臭いが、ねっ♪」
すんすんと臭いを嗅ぎながら、サリスが教會の長椅子に近づく。
そして、ちらっとキョーガの方を見て、ちょいちょいと手招きした。
「この下だね~♪キョーちゃん、ちょっと持ち上げて~♪」
「チッ……てめェでも持ち上げられっだろォがァ」
舌打ちしながら長椅子を持ち上げ―――その下に、隠し階段が現れる。
「……俺から行くゥ……おめェらァ後から付いてきなァ」
「キョーガさん……気を付けてくださいね」
薄暗い通路を進み―――異様な存在を放つ牢屋に辿り著いた。
その中には……老若男、多くの『人類族ウィズダム』が収容されている。
「……え……『機巧族エクスマキナ』じゃない……?」
「誰だ?新しく捕まった『人類族ウィズダム』か?」
ざわざわと騒がしくなる牢屋……と、リリアナが牢屋に近づいた。
何かあってはいけない、とキョーガもその隣を歩く。
そして―――牢屋に向かって、リリアナが力強く言い放った。
「大丈夫ですっ、『機巧族エクスマキナ』はこの人たちが倒しました!すぐにそこから出します!―――キョーガさん!」
「あァ?俺の仕事かよォ」
「私には無理ですっ」
「……ま、そォだろォなァ」
キョーガが鉄格子てつごうしを摑み―――歪な音を立てながら、鉄格子がグニャリと曲がる。
その景を見ていた住民は……急な出來事に、頭の理解が追い付いていない様子だ。
「……なァに黙ってんだよォ……てめェらァ助かったんだァ。『召喚士 リリアナ』とォ、その召喚獣によってなァ……しっかり喜べェ」
決して、優しくはない言葉。
命令的に『喜べ』と言われた住民たちは……ようやく助かった実が湧いてきたのか、小さな子どもたちが泣き始めた。
その泣き聲を切っ掛けに、大人たちも歓聲を上げ始める。
「……チッ……うるせェなァ」
「ありがとう!お兄ちゃん!」
「……はァ?」
「助けてくれて、ありがとう!」
―――小さな男の子の、謝の言葉。
それをけたキョーガは……苦笑しながら、男の子の頭をリリアナに向けた。
「……謝するんならァ、あいつにするんだなァ」
「え?」
「俺ァただの召喚獣……あいつが行くって言ったから付いてきただけだァ……だから、謝はあいつにしなァ」
キョーガの周りに集まっていた子どもたちが、一斉にリリアナの元へ駆けていく。
慣れない謝の言葉に、リリアナが慌てる様子は……なかなか面白かった。
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