《不良の俺、異世界で召喚獣になる》3章2話

「キョーガっ」

「あァ……んっだよアルマァ?はよ寢ろや長しねェぞォ?」

「……何が長しないのかは、あえて聞きませんよぉ」

深夜。リリアナ宅。

いつも通り、枕を持ったアルマが、キョーガの部屋にやって來た。

「……んでェ、何しに來たんだァ?言っとくがァ、俺ァまだ寢ないぞォ?」

「あれ、珍しいですぅ。何かしてるんですかぁ?」

言いながら、アルマがキョーガに近づく。

そのキョーガの手には……い子どもが読むような本があった。

「えっ、と……それ、なんですぅ?」

「……言葉の勉強してんだァ、邪魔すんなァ」

「え?……キョーガ、文字がわからないんですぅ?」

アルマの問い掛けには返事せず、ただ無言で本を読む。

そして―――唐突に、パタンと本を閉じた。

「……終わりだァ」

「諦めるんですぅ?まあでも、文字を覚えるなんて何日掛かるか―――」

「違ちげェ違ちげェ……覚えたってんだよォ」

「えっ……え?覚えたって……えっと……いつから勉強してるんですぅ?」

「あー……10分前だなァ」

『10分で文字を覚えた。理解した』と言うキョーガ。

もちろん、アルマは信じていない。

というか、キョーガが文字を知らなかった事に驚いている。

「うっしィ……次だなァ」

「……?……それは、何の本ですぅ?」

「知らん。リリアナに借りたァ」

雑に返事しながら、キョーガが本に目を通す。

その様子を黙って見ていたが……ふと、何かに気づいたように聲を上げた。

「それ……『神族デウスロード』の本……ですぅ?」

「『神族デウスロード』ォ……?んっだそりゃァ?」

「えっとぉ……普通の召喚獣なんて相手にならないほどの実力を持つ、神と呼ばれる種族ですぅ」

「……神ねェ……」

どこか嬉しそうなキョーガに、嫌な予じる。

「あのっ……キョーガ?その、『神族デウスロード』に喧嘩を売るのはやめた方が良いかとぉ……」

「わかってるわかってるゥ……アルマァ、その『神族デウスロード』ってのについてェ、詳しく教えろやァ」

「見かけたら喧嘩売る気ですねぇ……」

大きくため息を吐き、ベッドに座る。

キョーガも本を閉じ、アルマの隣に座った。

「えっと……先ほど言った通り、『神族デウスロード』は神と呼ばれる種族ですぅ。とにかくデタラメに強くて、『サモンワールド』を治めている種族、と言っても過言ではないですぅ」

「強つえェっつってもよォ……アルマは勝てねェのかァ?」

「相手によりますよぉ……倒せるとすれば、そうですねぇ……『月神ツクヨミ』や『狩猟神アルテミス』ぐらいでしょうかぁ……でも、ボクも本気を出さないと勝てませんけどねぇ……」

指折り數えながら、それでも神に勝てると言うアルマ。

心強いアルマに笑みを向け―――ふと思い出したように、慌てて続けた。

「あ、あっ、でもでも、『神族デウスロード』を倒したら、他の『神族デウスロード』が復讐に來ますから、手を出さないのが一番ですよぉ」

「あァん?報復に來んのかァ?」

「う~ん……どうやって説明しましょうか……」

悩むように腕を組み……ゆっくり、1つずつ説明を始める。

「まず、『神族デウスロード』を倒す事を『神殺し』と言うんですよぉ」

「『神殺し』ねェ……」

「『神族デウスロード』はプライドがとても高いので、『神殺し』を恐れてるんですぅ……だから、もしも『神殺し』が起きたら……その負けた『神族デウスロード』もろとも、『神殺し』をなした召喚獣を滅殺するんですよぉ」

恐れるように話すアルマ……と、今の話の中で、疑問にじる箇所があった。

「報復する事がわかってるって事ァ……誰か『神殺し』をした事あるんかァ?」

「はいぃ……『神殺し』は、これまでに3回あってますよぉ……1回目は、數百年前に『盾神アテナ』が殺された時。そして、その『盾神アテナ』を殺した者を、『太神ラー』が殺そうとして、返り討ちにされた時……これで2回なんですよぉ」

「……つまりィ、同じやつが2回も『神殺し』をしたって事かァ」

「その通りですぅ。その召喚獣は、『サモンワールド』じゃない世界……この世界で殺されましたけどぉ」

「へェ……その2回も『神殺し』をした召喚獣ってのァ、何者なんだァ?」

何気ないキョーガの問い掛けに……悩むように沈黙した後、決心したように答えた。

「……『死霊族アンデッド』、『反逆霊鬼リベリオン』の『オルヴェルグ』ですぅ」

「『反逆霊鬼リベリオン』だとォ……?」

「はいぃ……そのオルヴェルグという『反逆霊鬼リベリオン』は、伝説の『死霊士』が使役していた召喚獣なんですよぉ―――あ、そうですぅ」

再び思い出したように聲を上げ、キョーガの額ひたいに指を當てた。

その部分は―――『紅角』が生える部分だ。

「前にキョーガ、魔法が使いたいと言ってましたよね?」

「あァ、んな事言ったなァ……なんだ、使えんのかァ?」

「はい……あ、正確には魔法ではないんですけどぉ……知りたいですぅ?」

「勿振もったいぶんなァはよ話せェ」

「うぅ……キョーガ、せっかちさんですぅ……」

早く言えと顎をしゃくるキョーガに、殘念そうに口を尖らせるアルマ。

「……角の生えた鬼……キョーガや『悪鬼羅剎ワストデモン』、それと『鬼夜叉デモニア』などの事ですぅ。これらの鬼は、『焼卻角砲ホーン・ファイア』という『種族能力』が使えるんですよぉ」

「……『焼卻角砲ホーン・ファイア』ってのも気になるがァ……その『種族能力』ってのァなんだァ?」

「えっとぉ……サリスが『三頭犬の狩猟ヘル・ハウンド』という魔法を使うのは知ってますよね?」

「あァ、あの分する魔法だろォ?あれ便利だよなァ」

「あの魔法は、正確には『種族能力』なんですよぉ……『地獄番犬ケルベロス』のみが使える魔法だから、『種族能力』に分類されるんですぅ」

珍しく、ポカンとした表を見せるキョーガ。

つまり……まったく理解できていない、という事だ。

「え、えっと……『金竜ファフニール』の『破壊の咆哮デストロイ・クライ』がありますよね?」

「……あァ」

「あれも『竜族ドラゴニア』なら誰でも使える『種族能力』なんですよぉ……多、出力に差が出ますけどぉ」

……無言。

腕を組み、眉を寄せるキョーガは―――1つの答えに行き著いた。

「……つまりィ、特定の召喚獣のみが使える魔法、もしくは能力がァ『種族能力』って事かァ?」

「はいそうですぅ!で!キョーガたち『角を持つ鬼』は、共通して『焼卻角砲ホーン・ファイア』という『種族能力』が使えるんですぅ!」

言っている事が伝わって嬉しいのか、親指を立てて肯定する。

「……でェ、その『焼卻角砲ホーン・ファイア』ってのはどんなのなんだァ?」

「えっとぉ……ボクは『角を持つ鬼』じゃないから詳しくはわからないですけどぉ……『角の先端に魔力を凝して、高熱の球にして発する』……的なじだったと思いますぅ」

「詳しいんだなァ……アルマってェ、意外に頭いいんかァ?」

「……昔、々な召喚獣と手合わせをする機會がたくさんありまして……」

そう言って、キョーガから視線を逸らす。

その顔は―――前に見た、スゴく悲しい顔だ。

「ったくよォ……んな顔すんじゃねェ」

「ぁ……え?顔……ですぅ?」

自覚が無いのか、自分の顔に手を當て首を傾げる。

「……なァおいアルマァ」

「はい?」

「おめェ……過去に何があったァ?」

直球の質問に、アルマの表が強張こわばる。

そんなアルマに手をばし……その小さな頭を、優しくでた。

「……話したくねェんならァ、話さなくていいんだァ……ただァ、ちっと心配でなァ」

「心配……ですぅ?ボクの事が?」

「……ちっとだけなァ」

ゴロンとベッドに寢転がり、枕元の裝置に魔力を流す。

よくわからないが、この裝置に魔力を流すと、部屋の照明が消える仕組みなのだ。

「えへへ……ボクは大丈夫ですぅ。それに、何かあっても、キョーガが守ってくれますよね?」

「…………………………あァ」

「……えへ、へへへ……えへへへ……」

「んっだよ気悪わりィなァ……寢るんだから早く布団れやァ、寒さみィだろォ」

キョーガは気づいていないが……アルマはしっかり気づいた。

アルマが部屋に來て、一緒に寢ようとすると文句を言っていたキョーガが……自分から、一緒に寢るようっているのだ。

「……えへへ……失禮しますぅ」

「あァ……」

キョーガの背中に抱きつき、力を込める。

―――離さないと、離れないと、そう態度で表すように。

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