《不良の俺、異世界で召喚獣になる》3章6話

「『大地の拳撃アースド・ナックル』ッ!」

「―――るァッ!」

ボゴッと地面が盛り上がり―――歪な土の拳を作り出す。

その大きさ、キョーガの長ほど。

とも言える土拳が、凄まじい勢いを持ってキョーガに迫り―――迎撃するようにして放たれたキョーガの拳撃をけて、々に砕け散った。

「『闇影の黒球シャドウ・ボール』ッ!」

「『猛炎の火球ファイア・ボール』ッ!」

「しゃらくせェッ!」

間髪れずに、黒い球と火の球が放たれ―――迎撃するキョーガが拳を突き出し、そこから放たれる風圧で霧散。

舌打ちしながら辺りを見回し、近くのサリスに聲を掛ける。

「サリスゥ!敵の數はァ?!」

「……う~ん……♪5匹……6匹………………まだまだ増えるね♪」

すんすんと臭いを嗅ぎながら、サリスが遠くに目を向ける。

「……めんどくさっ♪ちょっと本気で殺ろっかな~♪」

「あァそうしとけェ、油斷して殺られんのが一番ダセェからなァ」

「よ~し♪―――『荒狂の嵐爪テンペスト・クロウ』」

剛爪を構え、虛空をでる―――と、辺りの木々が一刀両斷され、その先にいた『吸鬼ヴァンパイア』が真っ二つになる。

いや……それだけでは止まらない。

さらに奧……おそらくアルマが閉じ込められているであろう『吸邸』、その2階部分がいとも簡単に切り離された。

「はっ…………あァ……?!」

「あっはははぁ~♪た~のし~ぃねぇ~♪」

―――『荒狂の嵐爪テンペスト・クロウ』。

簡単に言うならば、爪から不可視の斬撃を放つ魔法である。

似たような魔法に『追撃の風爪エア・クロウ』という魔法があるが……攻撃範囲も、その破壊力も、『追撃の風爪エア・クロウ』なんて比にならないのだ。

真っ二つにされた5匹の『吸鬼ヴァンパイア』が、ようやく斬られた事に気づいたように、それぞれの斬られた部分に手を當て……力なく、地面に沈んだ。

「……おめェ、やっぱ強つえェんだなァ」

「まあ、あたしも一応最上級召喚獣だからね~♪」

ニコニコと殘酷に笑いながら、サリスが地面に沈んだ『吸鬼ヴァンパイア』に近づく―――と。

「……はァ……まァだ増えんのかァ」

「ん~多いね~♪……ど~しよっか♪」

「はっ、愚問だろォサリスゥ……目の前に立つ障害はァ、全部ぶっ潰して押し通るゥ……だろォ?」

「……あはっ♪……ほんとキョーちゃんは騒だね~♪」

「家ごと『吸鬼ヴァンパイア』を真っ二つにしたてめェにゃ言われたくねェなァ?」

どんどん増える『吸鬼ヴァンパイア』が、敵意を剝き出しにしてキョーガたちを睨み付ける。

「チッ……おいおいそんなに殺意向けんなよォ―――殺したくなるだろォがァ」

―――辺りを覆う、息が詰まるほどに濃な殺気。

その殺気がキョーガから出ている事に気づくのに、そこまで時間を必要としなかった。

「さァて……誰が死にてェんだァ?」

兇悪に笑いながら1歩踏み出す―――と、サリスが何かに気づいたように、慌ててキョーガの制服の襟元えりもとを引っ張った。

「キョーちゃんっ!」

「うッ?!何しやが―――」

勢を崩すキョーガを突き飛ばし、サリスが剛爪を構えて振るい―――『ガキィンッ!』と、甲高い金屬音が響いた。

「……ほう……まさかバレてるとはな」

「あは~♪の臭いが充満してるけど、嗅ぎ分けるなんて簡単だよっ♪……特に、憎たらし~い相手の臭いなんて、ねっ♪」

剛爪を振り、サリスが虛空を斬り裂く。

直後、再び甲高い金屬音が響き……ようやく理解した。

―――アルマの父親か……!

「……ピンポイントで迎撃するとはな……見えているわけでもないだろうに……」

「あっはぁ♪敵の臭い、武の臭い、服のれる音、土を踏む音、武を振る音……あたしなら、ピンポイントで迎撃できるの~♪……ま、1歩間違えば死ぬけどっ♪」

ブンブン剛爪を振り回し、見えない敵を迎撃し続ける。

―――どうするべきだ?

サリスに手を貸すか?……いや、アルマの父親が相手なら、俺は邪魔になる。

ならば―――!

「サリスゥ、ちっとここァ任せっぞォ」

「うん♪任せといて~♪」

そう言って、キョーガが腰を落とし―――発的な腳力で、一気に『吸邸』へと突っ込んだ。

―――アルマの父親は、サリスに任せる。

その間に俺は……アルマを見つける。

おそらく、あの屋敷の中には、サリスが危険視していた『紅眼吸鬼ヴァンパイア・ロード』がいるだろう。

だが……だからなんだ?

『紅眼吸鬼ヴァンパイア・ロード』だろうが何だろうが……全員ボコボコにするだけだ。

そして……アルマを……!

「絶対見つけてやっからなァ……!」

―――――――――――――――――――――――――

「……行かせて良かったのか?」

「あは~♪……あなたの相手なんて、あたしだけで充分だっての♪」

見えない敵と対峙しながら、サリスは思考を加速させた。

―――あたしは鼻が利くし、耳だって良い。

だがキョーちゃんは……鼻が利くわけでもないし、耳が良いわけでもない。

正直、アルちゃんを探すのは、あたしの仕事だと思ってた。

だけど……

「……ま、の子のお迎えは、男の子の仕事だしね~♪」

―――キョーちゃんなら、大丈夫だ。

見えない敵には手も足も出ないけど……目に見える相手なら……キョーちゃんは大丈夫なはずだ。

それこそ、『金竜ファフニール』すらも凌駕する腕力を持っているのだから。

「―――ふんッ!」

「『追撃の風爪エア・クロウ』っ♪」

迫る気配に不可視の爪撃を放ち―――パラパラと、服の切れ端が地面に落ちる。

「危ない危ない……もうしで真っ二つになる所だった」

「大人しく死んでなよっ♪ヘタに避けると、ムダに痛い思いをしちゃうよ~♪」

そう言って、ニコニコと殘酷に笑みを深める。

「……そう言えば……貴様、先ほど『サリス』と呼ばれていたな?」

「あは~♪……だったらなに~?」

「………………ふ……ははっ……ふははははっ!」

いきなり笑い出すレテインに、サリスが警戒を深めながら気配を探る。

「そうかそうか、お前がサリス……天才ばかりの『ドゥーマ家』に産まれた、落ちこぼれか!」

バカにしたような聲に、ムッとサリスが頬を膨らませ―――迫る気配に、剛爪を振るう。

ナイフと剛爪が差し―――そのまま曲蕓のようなきで爪を振り続ける。

「どうした、ムキになって……図星か?」

「うるっさい、なぁ♪」

大きく踏み込み、何もない所に爪を振る。

「……れているぞ」

「―――ッ?!」

本能的に危険をじたサリスが、大きくその場を飛び退いた。

直後、サリスが立っていた所に斬撃が走り……し遅ければ、ナイフの餌食だっただろう。

「あ~もうイライラするな~♪」

「心當たりがあるからではないか?」

「ペラペラうるさいよ~♪ちょっと黙ってよっか♪『荒狂の嵐爪テンペスト・クロウ』っ♪」

怒りを抑えながら、剛爪ならぬ轟爪を振り抜く。

ブオッ!という風を斬る音と共に、不可視の轟爪が放たれ―――辺りに集まっていた『吸鬼ヴァンパイア』を、見るも無慘に斬り殺した。

「……落ちこぼれ、ね……♪」

「なんだ?傷ついたか?」

「べっつに~♪落ちこぼれなのは事実だし、反論もできないよ~♪」

だけど―――と。

「落ちこぼれなのは『門番』の仕事だけで……戦闘に関しては、パパとママよりあたしの方が強いんだから」

剛爪を構えるサリス―――その顔に、いつもの笑顔はなかった。

―――――――――――――――――――――――――

―――抗えない。

暗い牢獄に閉じ込められたは、うつろな思考で現狀の理解を急ぐ。

お父さんからは……逃げられない。従うしかない。

ボクには……どうする事もできない。

……もう、終わりなのか。

優しいご主人様にも、いつもニコニコ笑って楽しそうな『地獄番犬ケルベロス』にも、のない機械なのに人間にしか見えない不思議な『機巧族エクスマキナ』にも。

―――ボクの事を優しくめてくれた、強くてカッコよくて優しい『反逆霊鬼リベリオン』にも。

……もう二度と會う事はないだろう。

それに……たとえ助けに來てくれたとしても……お父さんとお祖父さんがいる。

いくらキョーガでも、お祖父さんに勝つのは無理だ。

なら……このまま、靜かに―――

「あァクソ……屋敷ん中にも『吸鬼ヴァンパイア』がいるのかよォ……しかもォ、地下室があるなんてなァ」

……幻聴だろうか。

まさか、こんな所でキョーガの聲が聞こえるなんて……ボクは、どれだけキョーガの事が―――

「おうコラァ、いつまでうつむいてんだよォ……顔上げろやァ」

……幻聴……じゃ、ない……?

「はっ、ずいぶんとまァ辛気くせェ顔してんじゃねェかァ……遊びに來たぜェ」

ドサッと暴に『吸鬼ヴァンパイア』を投げ捨てるキョーガが、ニヤっと笑いながら立っていた。

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