《不良の俺、異世界で召喚獣になる》3章7話

「よォ、調子はどォだァ?」

ポカンと自分を見上げるアルマを見て、キョーガが1歩牢獄に近づく。

「……おい、何とか言ったらどォなん―――」

「ウソ………………つき……」

「なっ……ァ……?」

自分のを抱き締めるようにして震えるアルマが、キョーガを見る―――いや、睨み付ける。

「ウソ、つき。ウソつきウソつきウソつきウソつきっ!キョーガのぉ、ウソつきぃ!」

「な、あァ?!てめェわざわざ助けに來た俺にィ、いきなりウソつきたァどういう事だァ?!」

「キョーガ、ボクを守ってくれるって言ったのに!ボコボコにやられてたじゃないですぅ!脳筋だとは知ってましたけどぉ、あそこまで力任せに戦うなんてバカですよぉ!」

「バ、カだとォ……?!」

キレるアルマに、青筋を浮かべるキョーガ。

ズカズカと歩みを進め、アルマを閉じ込めている牢獄に手を掛け―――ビクともしない。

「はっ、あァ……?!んだこれァ、固すぎんだろォ……!」

「……それは『オリハルコン』で作られてるから當然ですぅ……いくらキョーガでも、それを壊すのは無理ですよぉ……」

力を込めるキョーガを一瞥いちべつし、アルマが深くため息を吐く。

「ちィ……うざってェなァ……!アルマァ、ちっと離れてろォ。俺も本気で―――」

「もういいですよぉ」

「………………はァ……?」

「だから、もういいですぅ」

冷たい壁に背を預け、煌々と輝く『紅眼』がキョーガを見據える。

その顔は……いつもどこか抜けているアルマではなく―――覚悟を決めたような顔だ。

「………………お祖父さんとは……『紅眼吸鬼ヴァンパイア・ロード』とは會ってないですよねぇ?」

「あァ……だから、今のに―――」

「無理ですよぉ……お祖父さんからは、お父さんからは……逃げられないんですぅ……それに、お祖父さんと會えば……キョーガもボクも、簡単に殺されちゃいますよぉ……」

覚悟と諦めがり混じった複雑な表を浮かべるアルマ。

「……そもそも、無理な話だったんですよぉ……昔からお父さんの言う事を聞いていたボクが、今さら逃げようなんて……」

「……………」

「もういいんですぅ。もう、充分すぎるんですよぉ……ボクみたいな『吸鬼ヴァンパイア』が、未來をむなんて、贅沢な話だったんですよぉ……」

ふるふると震えながら、にへらっとキョーガに笑みを向けた。

「ご主人様と、サリスと、マリーと……キョーガ。4人との思い出があれば、お父さんの訓練も頑張れますよぉ……ね?ボクの事は心配要りませんから、早く逃げてくださいよぉ」

そこまで言って―――ハッと、予想外の何かを見たように目を見開いた。

視線の先には―――顔をうつむかせたキョーガが、何かを堪えるように震えている。

「よォ……ロリ吸鬼ィ……」

ユラリと鉄格子に近づき、ガシッと摑んだ。

「……てめェ、さっきから無理だの何だのうるっせェんだよォ……あァコラ……」

怒りに震えるキョーガの額に、『紅角』が現れる。

「なんでてめェが俺の無理を決めてんだァ?てめェ、俺の何を知ってるつもりでいるんだァ?」

グッとキョーガが力をれ―――鉄格子が悲鳴を上げ始める。

「……コラアルマァ……俺がこの鉄格子を壊すのは無理だっつったよなァ」

鉄格子が歪み始める。

「まァ、今までお前らに見せてた俺の力ならァ、無理だったろォなァ……けどよォ」

鉄格子が大きく歪む。

「―――俺がいつ、お前らに本気を見せたってェ?」

鉄格子が冗談のようにちぎれ、ちぎった鉄格子をグシャッと握り潰して兇悪に笑う。

「……ぇ……そんな……オリハルコンを……素手でなんて……」

「8割…………いや、7割ってとこかァ……まァ、俺に壊せねェァねェけどなァ」

呆然とキョーガを見上げるアルマが、あり得ないと首を振る。

「……どォだアルマァ?」

「どうだって……何がですぅ?」

「これでもォ、まだ無理とでもほざく気かって聞いてんだよォ」

その言葉を聞いたアルマは―――文字通り、固まった。

今の言葉は、前にどこかで聞いたような―――

『これでもォ、まだ獨りだとほざく気かァ?』

―――ああ、そうか。

今の言葉は……あの時の……

「……あのよォ、無理ってのァ自分で決める事だァ。他人がどうこう言う権利もォ、言われる権利もねェよォ」

ガシガシと暴に頭を掻きながら、アルマの隣に座る。

「おめェは優しすぎんだァ……だから他人に口出ししてェ、無理をさせないよォに気を使う……まァ、良い事なんだがなァ」

……優しい。

それが原因で……ボクは牢獄に……

「よォアルマァ」

「………………はぃ……?」

「……こんな所にいてェ、楽しィかァ?」

……楽しいわけ、ない。

「人の言いなりって楽しィかァ?」

……楽しいわけ、ない。

「……誰にだって、言いたくねェ過去があるゥ……おめェだって、俺だってそうだァ」

「…………キョーガ……にも……?」

「あァ」

苦笑を浮かべ、牢獄の天井を見上げる。

「誰だって人にゃ言えねェ何かを持ってんだよォ……人によっちゃァ、それが孤獨だったり、悩みだったりィ……過去だったりするゥ」

言いながら、キョーガが手をばし……アルマの頭を優しくでる。

「……1人じゃ背負いきれねェ過去があるんならァ、俺が一緒に背負ってやるゥ……重てェ荷ァ、1人で持つためにあるんじゃねェ。誰かと協力するために存在するんだァ……」

「キョーガ……」

「だからァ、おめェの背負ってるもん、俺にも一緒に背負わせろォ……1人じゃ無理でも、2人なら可能になるかも知れねェだろォ?」

ニカッと兇悪に笑い、続ける。

「おめェは良い子すぎんだァ……ちったァ周りに迷を掛けろォ。言われた事じゃなくてェ、やりたい事をやれェ……37年も生きてんだァ。反抗期の1つや2つ、あってもいいだろォ?」

立ち上がり―――アルマの前に、手を差し出す。

……手を取れば、キョーガと一緒。でもお父さんに逆らう事になる。

でも………………それでもボクは……!

「……2人でなら、怖くないですよぉ……」

ガッシリと手を摑み、立ち上がる。

そして―――おもむろに抱きついた。

「……ボク……獨りじゃないんですね……?キョーガと一緒なんですね……?」

「あァ……一緒に並んで歩いてやんよォ」

「なら……なら、ボクは何も怖くないですぅ!」

安心させるように頭をで―――先ほど下くだってきた階段に向けて聲を掛けた。

「……いつまで見てんだァ?そろそろ姿現せよォ」

「……おやおや、気づかれていたとはね」

「はん、姿が見えてねェんならともかくゥ、姿が見えてるやつにゃァ気づくに決まってんだろォ」

コッ、コッ、コッ……と、軽やかな足取りで、何かが階段を下りてくる。

その聲を聞いたアルマが表を強張こわばらせ……歩み寄る強者の気配に、キョーガが嬉しそうに笑う。

「……自己紹介は不要かな?」

「あァ……『紅眼吸鬼ヴァンパイア・ロード』だなァ?」

「その通りだ」

姿を現した初老の『吸鬼ヴァンパイア』。

自分の後ろにアルマを隠し、キョーガが鬼気を放ち始める。

「ふむ……若いの、1つだけ聞かせてくれ」

「あァん?」

「……君とアルマは、どういう関係だ?」

輝く『紅眼』を鋭く細め、初老が問いかける。

……俺とアルマが……どういう関係か?

「別にィ……を吸わせてやったりィ、飯を食わせてやったりィ……一緒に寢たりするだけだァ」

「一緒に…………寢たり……だと?」

豹変する初老に、『しまった!』とキョーガが口を閉じるが―――遅かった。

「……アルマに近寄る害蟲か……よかろう、ワシが駆除してやる」

「ちィ―――アルマァ!摑まれェ!」

「は、はいぃ!」

背中に抱きつかれる覚をけ―――勢いよく真上に飛んだ。

天井を破壊し、地面を貫通して―――地上へと舞い戻る。

そして―――キョーガが開けたから、赤黒い霧が噴された。

「……あァ……そォいや『紅眼吸鬼ヴァンパイア・ロード』ってこんな霧を出すんだったなァ……」

「キョーガぁ……」

不安そうに力を込めるアルマ……対するキョーガは、不敵に笑った。

「大丈夫だァ……俺1人なら苦戦しそォだがァ、おめェが一緒なんだァ」

「ボクと……一緒……?」

「あァ。俺とおめェ、2人で戦うんだァ……それならァ、無理じゃねェだろォ?」

―――と、地面を突き破り、アルマの祖父が現れた。

その姿は、先ほどの初老ではなく―――20代前半の若い男のようだ。

「さァ……やろォかアルマァ!」

「……はい、ですぅ!」

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