《不良の俺、異世界で召喚獣になる》3章10話

辺りの木々を燃やしながら、キョーガの放った火球とミロードが森の奧へと消えて行く。

―――れたら反応する毒ならば、れなければいい。

そんな単純でメチャクチャな考えに行き著いたキョーガは……アルマの言っていた『種族能力』というのを思い出した。

魔力を角の先端に集め、高溫の熱球にして放つ『角を持つ鬼』が使える『種族能力』、『焼卻角砲ホーン・ファイア』。

迫るミロードを火球でぶっ飛ばし、天覚でその『種族能力』を手にしたキョーガは―――

「あっづッ?!んだこりゃ熱あちィなァ?!」

―――何故か、火球を放ったキョーガが熱がっていた。

見ると……キョーガの額から生えている『紅角』が、これまで見た事がないほど赤々と輝いている。

『種族能力』の代償か。それともただ使い慣れていないからか。輝く『紅角』が、尋常ならざる熱を持っていた。

ブンブンと頭を振って必死に角を冷やすキョーガ……と、アルマが異様なほどに靜かな事に気づく。

どうしたのか?と視線を向け―――アルマの目に、涙が溜まっていた。

「お、おィ?どォしたんだよォ?」

何かを我慢するように握られる拳が、フルフルと震え―――アルマが、キョーガに飛び付いた。

「―――うわぁあああああんっ!よかったですよぉおおおおおっ!」

「うォ―――づッ?!」

大人の姿になっているアルマが、勢いよくキョーガを押し倒した。

普通の人間ならば、ちょっと痛いで済む程度だろう。

だが、飛び付いてくるのは『紅眼吸鬼ヴァンパイア・ロード』で……それも『力解放』しているため、その力はデタラメだ。

飛び付くアルマのスピードは目に見えず―――唐突な衝撃に、キョーガは抵抗する間もなく地面に倒れ込む。

「う、おォォォォ……ッ!てめェ、いきなり抱きつくんじゃ―――」

「あっ、うぁ、うぅぅぅあぅぅぅ……!」

キョーガが痛みに顔をしかめ、そのまま文句を言おうとするが……泣きじゃくるアルマを見て、苦蟲を噛み潰したような表になる。

「…………チッ………………すまん、悪かったァ……心配掛けたなァ」

相手を殺したと思い込ませて、隙を狙う。

意識の外から攻撃する事を決めたキョーガは……わざと毒竜の攻撃をけ、ミロードの隙を狙った。

―――お前の背負っているを、一緒に背負ってやると。お前の隣に並んで、一緒に歩いてやると約束した、アルマの手を振り払って。

その時のアルマの気持ちを考えると―――さすがのキョーガも、悪い事をしたな、と反省するレベルだ。

「……もう、ウソはつかねェ……約束だァ。もう二度とォ、おめェにゃァウソは言わねェ」

「………………ひっ、く……ほんと、ですぅ……?…………ぐすっ……今度こそ、ほんとのほんとですぅ……?」

「あァ。ホントのホントだァ」

『大人の姿なんだから、もうし相応に振る舞えよ』とか思いながら、アルマの頭をで―――意識は、飛んで行ったミロードに集中している。

―――アルマのじいさんの意識は……まだあるな。

だがく気配はない……つまり、けないほどの重傷という事。

なら、アルマのじいさんを警戒する必要はないだろう……次はサリスの援護に―――

「……いやァ、やめとくかァ」

し離れた所で、剛爪を振る

普段は嬉々とした表は―――今はただ『無』に染まっている。

よくわからないが……あの表のサリスを見た時、キョーガは底知れぬ覇気をじたのだ。

いつものニコニコしたサリスなら、勝負の時は不安だが……今の『無』の狀態のサリスなら―――

「……心配なんざ必要ねェ……かァ」

しずつ晴れて行く赤黒霧の空を見上げて、キョーガはアルマの頭をで続けた。

―――――――――――――――――――――――――

あたしは、産まれた瞬間から何もかもを決められていた。

『地獄番犬ケルベロス』として生まれ、天才ばかりの『ドゥーマ家』に生まれたあたし。サリス・ドゥーマ。

あたしは期待されていた―――知ってる。

パパやママより強かった―――知ってる。

他の『地獄番犬ケルベロス』は、あたしを恐れて近づかなかった―――知ってる。

最強の『風魔法』、『荒狂の嵐爪テンペスト・クロウ』を使えるのは、あたしだけ―――知ってる。

『風魔法』だけじゃなく、『獄炎魔法』という珍しい魔法使えるのも、あたしだけ―――知ってる。

「スゴいなサリス……お前は、『ドゥーマ家』の誇りだ!」

―――そんな言葉、んでない。

「さすがサリスね。この調子だと、パパのお仕事も早く継げそうね」

―――そんな言葉、しくない。

「サリスに勝てる『地獄番犬ケルベロス』は、いないんじゃないか?」

―――そんな言葉、いらない。

「サリスなら、他の種族に1人でも喧嘩を売れるだろうね」

―――そんな事、知らない。

あたしがしいは、いつも手にらない。

この小さな手にあるのは……殺しの才能と、戦いの才能と、しくもない稱賛だけ。

大人は、あたしを見て將來を描く―――と見せかけて、あたしを利用するためにびを売る。

子どもは、あたしを見て褒める―――と見せかけて、あたしを裏でヒソヒソ指をさす。

こんな才能、んじゃいない。

しかったのは―――楽しい事。それだけ。

簡単に手にるように見えて……まったく手が屆かない。

―――楽しくない事なんて、したくない。

いあたしは……パパから継いだ『門番』の仕事を、早々にサボるようになった。

來客の相手なんかしないで、朝も晝も夜もずっと眠って。

パパに叱られても、ママに怒られても……ああ、楽しくないな、ってしか思わなかった。

そうやって過ごしているに―――ふと、気づいた。

―――楽しくないのは、楽しもうとしていないから。楽しもうとすれば、楽しくなるはず……と。

その日からあたしは、ニコニコ笑って過ごす事にした。

人と話す時も、食事の時も、戦う時も……常に楽しむ事を意識して、ニコニコと、楽しそうに。

でも、どうしても『門番』の仕事だけは楽しめなかった。

どれだけ楽しい事を思い描いても、ニコニコ鼻歌を歌っても……楽しいなんて、一瞬も思えなかった。

―――でも、違った。

楽しいと思わなくても……楽しいと思える事は、たくさんあったんだ。

それを教えてくれたのは……キョーちゃんと、アルちゃんと、リリちゃんと、マリーちゃん。

あの4人と過ごす日々は……毎日が、楽しくてしょうがなかった。

キョーちゃんが怒って。アルちゃんが顔悪くダルそうにを吸って。リリちゃんが幸せそうに笑って。マリーちゃんが無表に立っていて。

そして……ようやく気づいた。

―――ああ。しかったのは楽しい事じゃなくて、あたしを友達として見てくれる者だったんだ、と。

だから―――

「助けるよ、アルちゃん♪……あたし、友達を見捨てるなんてできないから、さ♪」

―――――――――――――――――――――――――

「ぐっ、ぬっ……!」

見えない敵を追いながら、サリスが無表に剛爪を振るう。

と、爪が當たったのか、何もない所からが飛び散った。

ユラリとサリスが構え直し―――飛びかかる。

冷たく、一切のがないその顔は……まるで、人形のようだ。

「こ、の……っ!お前、わかっているんだろうな?!ドゥーマ家は、我々エクスプロード家より下の家柄だぞ?!お前のやっている事は―――」

「うるさいよ」

連続して剛爪を振り回し―――あちこちからが噴出する。

レテインが姿を現せば、ボロボロとなって現れる事だろう。

「くっ―――そぉぉおおおおおおおッ!」

ヒュンッ、と風を斬る音。

レテインの持つ不可視のナイフが、サリスの首へと迫り―――

「―――『付屬魔法・獄炎加護エンチャント・ヘルフレイム』」

「なっ―――」

―――サリスの手を、黒い炎が覆った。

その炎を見たレテインが……奇妙なを見たように、パクパクと口を開閉させる。

―――『獄炎魔法』。

それは、『炎魔法』の上位魔法にして、限られた天才にしか扱えない特殊な魔法。

「……天才ばかりのドゥーマ家……やはりお前も、天才だったか」

ポツリと溢すレテイン―――と、そのが燃え上がった。

―――『獄炎魔法』は特殊な魔法。

一度燃え移れば、使用者が解除を命じない限り燃え続ける、殘酷な魔法。

「地獄の業火で反省しなよ……今まで、アルちゃんにしてきた事を……ね」

赤黒霧が晴れた空の下、吐き捨てるようにそう言った。

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