《不良の俺、異世界で召喚獣になる》3章12話

「はァァァ……なァんか疲れたなァ」

「あは~♪確かに、ちょ~っと大変だったね~♪」

リビングに置いてある椅子。

アルマとリリアナが風呂に行っており、マリーはシャルアーラにの調整を頼んでいるため、この空間には2人しかいない。

「……にしてもォ、アルマとリリアナが一緒に風呂たァ珍しいなァ」

「ん~……確かにねっ♪しかも、アルちゃんからってたしね~♪リリちゃんがしくなったのかな~?」

「はん……まだまだ子どもだなァ、アイツもォ」

機の上に置いてあるコップを手に取り、中にっているコーヒーのようなを一気に飲み干す……苦い。それに、お世辭にも味しいとは言えない。

「っかァ……苦にげェなこりゃァ」

「よく飲めるね~♪そんな苦いのっ♪」

「他の飲みが甘ったる過ぎんだよォ……どうも甘あめェのァ口に合わねェ」

「わがままだね~♪好き嫌いしてちゃ、大きくなれないよ~?」

ニコニコと笑顔をり付けたまま、サリスが自分のコップに注がれている水をちびちびと飲む。

「それにしても、『紅眼吸鬼ヴァンパイア・ロード』を倒すなんて、キョーちゃんスゴいね~♪」

「たまたまだァ……アイツの使う『毒魔法』とォ、俺の質の相が悪かっただけェ……質の相がなかったらヤバかったなァ」

「ふ~ん♪……ね、キョーちゃん♪」

コトッとコップを置き、サリスが笑みを浮かべたままキョーガの目を覗き込む。

「キョーちゃんってさ、どこから來たの~?何者~?」

「あァん?んっだよいきなりィ?」

「いや~前々から気になってたんだよね~♪キョーちゃんがどこから來たのかっ♪……召喚獣なのに『サモンワールド』を知らないし、文字も知らなかったし……何より、『サモンワールド』に『反逆霊鬼リベリオン』はいなかったし♪」

ヘラヘラと笑ってはいるが……その目は、しっかりとキョーガを捉えている。

めんどくさそうにため息を吐きながら―――キョーガが話し始めた。

「何つーかァ……俺ァ『アナザー』でも『サモンワールド』でもねェ世界から來たァ」

「ん~?……そんな世界があるの?」

「あァ……ま、信じねェだろォがなァ」

「んふ~♪………………信じないわけじゃないけどさっ♪キョーちゃんの世界に住んでた人って、み~んなキョーちゃんみたいに強かったの~?」

「んなわけあるかよォ……全員俺だったら世界滅びてるってのォ」

「あは~♪じゃ、キョーちゃんが特別だったって事だね~♪」

何気ないサリスの言葉。

でも―――グサッと。

キョーガのどこかに、深々と突き刺さった。

「…………はん……俺が特別ねェ」

「ん~♪違うのっ?」

「あァ………………俺ァただの一般人だったァ……何の力もォ、知恵も持ってねェ弱者だったァ」

ただの一般人だった。

特別な何かを持っているわけじゃない、脇役だった。

歩むはずだった人生を―――簡単に、ひっくり返された。

「こんな力ァ、んでなかったァ……しいとも思わなかったァ」

「ん……♪あたしと同じだね~♪」

「あァ?何がだァ?」

「…………しくない力を得て、周りから々言われて……そんなつもりもないのに、怖がられて……ほんと、力を持ってても良い事なんてなかったね~♪」

目を閉じ、笑みを深める。

「……でも、リリちゃんと契約して♪キョーちゃんたちと會って……あたし、嬉しかったんだから♪」

「何がだよォ」

「純粋にあたしを必要としてくれて♪強いのはあたしだけじゃなくて♪……あたしと同類がいてくれて、嬉しかったんだ~♪」

先ほどまでのり付けたような笑みではなく、心底嬉しそうに笑いながら、サリスが水を一気に飲み干した。

「……もしも……もしもさ、キョーちゃん♪」

「あァ」

「あたしがアルちゃんみたいに連れて行かれたら……助けに來てくれてた?」

「……はァ?アホかてめェ?」

ギロッと、キョーガの瞳がサリスを捉える。

「助けるに決まってんだろォがよォ。なんだァ、俺がそこまで薄な奴とでも思ってんのかァ?」

「……あ……はっ♪即答されるとは思ってなかったよ~♪」

「んだよォ……てめェは確かに強つえェ。だがァ、俺の方が100倍強つえェんだァ。だからァ、なんかあったら俺を頼りゃァ良い……俺ァ最強、他の奴らは俺以下だァ」

「傲慢だね~♪……でも、良いと思うよ、そういうのっ♪」

言いながら立ち上がり、う~んと大きく背びをする。

「さ~て♪あたしは寢よっかな~♪」

「まァ夜中きっぱなしだったからァ、この時間に眠たくなるのはわかるがァ……せめて風呂はっとけェ、おめェ一応だろォがよォ」

「ん~♪……そだねっ♪それじゃ、リリちゃんたちに突撃してこよっかな♪」

臺所にコップを置き、そのまま風呂場へと向かって行く。

と、サリスとれ替わるように、2階からマリーとシャルアーラが降りてきた。

「【好調】 さすがは『地霊ドワーフ』。良い仕事をする」

「そう言ってもらえると栄であります!……あ、キョーガ殿!何をしてるでありますか?!」

キョーガを見つけた瞬間、嬉しそうに駆け寄ってくる。

「あ、これ、コーヒーでありますか?キョーガ殿、よくこんなを飲めるでありますね」

「んやァ……クッソ不味かったがなァ」

「そうでありましょうね。こんなクソマズイを好き好んで飲む人はいないと思うであります」

空となったコップを覗き込み、シャルアーラが苦笑いを見せる。

「……そォいやァマリー」

「【返事】 どうしたマスター?」

「んやァ……魔力を大量に消費したっつってたけどよォ、何かあったんかァ?」

キョーガの質問に、困ったように頬を掻く、という機械らしからぬ作を見せ……恥ずかしそうに言った。

「【報告】 最初は、當機が家を直そうとした。しかし、生を殺すために作られた當機には、建を直す事は困難を極めた」

「……おゥ、それでェ?」

「【報告】 當機なりに必死に頑張って、搭載されている兵を全て使い、家の修復に當たったが……焼け石に水と言うか、無駄骨というか……」

「回りくどいなァ……もっと簡単に言えよォ」

「【簡略】 慣れない事をして疲れた」

なるほど、わかりやすい。

おそらく、自の知能をフルに活用し、頑張って修復しようとしたのだろう。

だが……『機巧族エクスマキナ』には難しかったらしい。

というか、搭載されている兵を使って直そうとするとか、バカなのだろうか。

「……まァ、なんつーかァ……お疲れさん」

「【肯定】 お疲れさんだ」

くてっと椅子に座り込み、無表のまま、機に頭を乗せる。

「おめェもォ、家を直すために召喚されたとか災難だったなァ」

「あ、いえ!自分は『反逆霊鬼リベリオン』に會わせてもらえて激でありますっ!家なんかホイホイっと直すでありますっ!」

「……『反逆霊鬼リベリオン』なんかのどこが良いんだァ?」

「はっ!『反逆霊鬼リベリオン』は最強なのであります!『力とはすなわち、己の存在価値。筋力とはすなわち、己の存在証明。暴力とはすなわち、己の存在意義。破壊とはすなわち、己の存在意味。殺戮とはすなわち、己の存在肯定』っ!最高の名言でありますっ!あ、これはオルヴェルグという史上最強の『反逆霊鬼リベリオン』が殘した言葉で―――」

「……オルヴェルグってのァ、イカれた脳筋だったみてェだなァ……名言っつーか迷言の間違いだろっがよォ……」

予想を大きく上回る脳筋ぶりに、思わず頭を押さえた。

「で、なんでシャルアーラは『反逆霊鬼リベリオン』が好きなんだァ?その迷言がカッケェからかァ?」

「いえ、あの……それもあるでありますが……昔、遠い遠い昔に、『地霊ドワーフ』はオルヴェルグにお世話になっているであります」

「へェ……何をしたんだァ?」

「『地霊ドワーフ』の暮らしていた場所をぶっ壊したらしいであります」

お世話になったと言ったから、何か良い事でもしたのかと思えばとんでもない。そういう意味でお世話になったのか。

「遠い昔。『地霊ドワーフ』は地面にを掘って暮らしていたであります」

―――その話は、こんなじだ。

『地霊ドワーフ』にとっては、地上より地中の方が過ごしやすいらしい。

そのため、今から400年ほど前までは地中にを掘り、住居を建て、地中を國として生きていた。

だがある日、額から『紅角』が生えた男がフラッと顔を出し……こう言った。

『はン、暗い場所だなァ……てめェら、ンな所に暮らしててェ、息詰まンねェかァ?』

そう言うと、男は地中にあった國や住居を1つ殘らず破壊して回った。

圧倒的な破壊者を前に、『地霊ドワーフ』はただ逃げるしかなかった。

そのまま地上へ出て―――『地霊ドワーフ』は、空を見た。

『気分はどうだァ?天井があった地中よりィ、天井がねェ地上の方がァ、世界が広くじンだろォ?』

『地霊ドワーフ』は、初めて見上げた空に……悔しいが、してしまった。

―――なんて明るいのか。なんて広いのか。世界とは、こんなにも自由だったのか、と。

「自分は、広くて大きな空が好きであります……制限がなく、自由に満ちた空が……」

しずつ明るくなる窓の外に目を向け、何か眩しいを見るかのように目を細める。

「だから、自分は謝しているであります。地中以外の世界を見せてくれた『反逆霊鬼リベリオン』に……『反逆霊鬼リベリオン』がいなければ、自分は空を知る事ができないまま、先祖殿と同じく地中で暮らすしかなかったであります」

くるりと振り返り、キョーガと向かい合う。

雲のような白髪がふわっと揺れ、空を宿したような蒼眼が、キョーガを映し出した。

「……でも、『地霊ドワーフ』は『反逆霊鬼リベリオン』を恨んでいるであります。國を破壊した破壊者として、命を奪った殺戮者として……」

「まァ、だろォなァ」

「それでも自分は……自分の中では『反逆霊鬼リベリオン』が英雄なのでありますっ!空が好きと言って嫌な目を向けられても、『反逆霊鬼リベリオン』が好きだと言って異端児として扱われても……自分のヒーローは、『反逆霊鬼リベリオン』だけなのでありまぁす!」

グッと拳を握り、熱く語るシャルアーラ。

と、ようやく自分のテンションの高さに気づいたのか、恥ずかしそうに顔を俯うつむかせた。

「も、申し訳ないであります。1人で勝手に盛り上がってしまって……」

「んやァ……いい。おもしれェなァおめェ」

「へ?」

「もっと聞かせろよォ、大好きな『反逆霊鬼リベリオン』についてェ……なァ、シ・ャ・ル・ゥ」

「はっ、い、良いでありますか?自分、止まらなくなるでありますよ?良いんでありますね?では話すでありまぁす!」

嬉しそうに話を始めるシャルアーラの弾んだ聲に、キョーガは心地よさそうに耳を傾けた。

―――――――――――――――――――――――――

「……えっと……♪」

「さ、サリスさん……」

―――時はし戻り、風呂場。

風呂にはれとキョーガに言われたサリスは、そのまま風呂場へと直行し―――乙を見た。

「ど、どしたのアルちゃん♪顔、真っ赤だよ♪」

「……サリス、ですぅ……?」

ゆっくりと顔を上げるアルマ。

は真っ赤に染まり、顔からは幸せな雰囲気がれ出している。

でも、目だけがウルウルと今にも泣き出しそうに潤んでおり……その『守ってあげたくなる弱そうな雰囲気』と相まって、可憐な乙にしか見えなかった。

「り、リリちゃん……♪何があったの♪」

「えっと……それは、その……」

言いづらそうに、アルマとサリスを互に見る。

アルマが近くにいると話しづらいのか、サリスの耳に顔を近づけた。

「……キョーガさんから助けてもらった時に、告白されたそうなんです」

「………………は……♪」

と、聞こえていたのか、アルマの顔がますます赤くなる。

その反応を見たサリスは……心の中で思った。

―――お前ら、あたしがレテインと戦ってる間に、何やってたんだよ。と。

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