《不良の俺、異世界で召喚獣になる》4章1話

「……………」

―――早朝。

の上で胡座あぐらを掻き、瞑想する年。

落ち著いたその姿は……場所が場所なために、かなり異様な景だ。

「…………ッ……く……」

「―――キョーガ殿っ!」

ふと、キョーガを呼ぶ聲が聞こえた。

聲を聞いたキョーガがゆっくりと目を開き……大きく息を吐き出した。

「―――はァッ!……あァ……きちィなァ……」

から立ち上がり、ズボンに付いた汚れをパンパンと払い取る。

そのままピョンと屋から飛び降り……軽やかな著地を決め、褐に兇悪な笑みを見せた。

「えっと……何をしてたであります?」

「あァ?息止めて瞑想してたんだよォ……集中力を高めよォと思ってなァ」

「おお……瞑想!瞑想でありますか!カッコいいであります!」

何がカッコいいのか、興したシャルアーラが握った拳をブンブン振り回す。

「何がカッコいいのかわかんねェがァ……まァいいやァ。んでェ、何しに來たんだァ?朝飯にゃァまだ早はえェぞォ?」

「はっ!自分は早寢早起きが得意……と言うより、習慣なのであります!そういうキョーガ殿こそ、早起きでありますね?」

「あァ、朝ァ時間があっからなァ……早起きすりゃァ、そんだけ暇な時間ができるゥ……『最強』にるための時間ができるってこったァ」

「最強!いいでありますね最強っ!なんかもう、響きがカッコいいでありまぁす!」

相変わらず『カッコいい』の基準がよくわからないシャルアーラに苦笑を向け、先ほど聞いた事をもう一度問い掛ける。

「んでェ、何しに來たんだよォ?」

「いえ、朝焼けでも見ようかと思って外に出てきたのであります……しかし、キョーガ殿は何時に起きたのでありますか?自分より早いとは驚きであります」

「……よく覚えてねェがァ、2時間は外にいんなァ」

「に、2時間でありますか?!自分が5時に起きたでありますから……さ、3時に起きたでありますか?!」

指折り數え、驚愕に聲を上げるシャルアーラ。

時間の數え方は元の世界と同じなのか、とか思いながら、唐突にキョーガがシャルアーラを抱き上げた。

突然抱き上げられた事にシャルアーラが目をパチクリさせ―――直後、キョーガが大きく飛び上がった。

を打ち付ける風と衝撃に、シャルアーラが思わず目を瞑り―――

「よっ、とォ……おゥ、いつまで目ェ閉じてんだァ?」

恐おそる恐おそる目を開き……目の前に広がる景を見て、シャルアーラが嘆のため息をらした。

「……わぁ……!スッゴいであります……!」

「やっぱ高い所から見る景は違ちげェなァ……」

一跳躍で屋に登ったキョーガが、彩られてゆく朝空を眺めて目を細める。

……綺麗だ。

元の世界でも朝焼けは何度か見たが……心の持ち方の違いだろうか。以前に見た朝焼けよりもしくじる。

何も言わずに、朝焼けを眺める2人……と、シャルアーラが思い出したように問い掛けた。

「……そういえばキョーガ殿。の調子は、もう良いのでありますか?」

「あァ、心配すんなァ。むしろ絶好調だってのォ」

心配そうに見つめるシャルアーラの頭を、苦笑しながらでる。

シャルアーラが心配しているのは……この前キョーガが気絶した事だろう。

あの発作的な癥狀は……たまに起こるのだ。

過去の研究員やマリーが言うには、『脳に負擔が掛かりすぎたため、脳が強制停止する』のだとか。

キョーガの脳は、過去にあった出來事を全て覚えている。

それらの記憶が、何らかのキッカケで一気に放出され……脳じゃ処理しきれなくなるらしい。

故に、強制停止が起こるのだ。

「にしてもォ……キレイだなァ」

「はっ!とても綺麗でありますっ!」

雲のような白髪を揺らし、空のような蒼眼を細めるシャルアーラが、き通った笑顔を見せた。

その無邪気な姿に、釣られて思わず笑みがれる。

「さてェ……そろそろ戻っかなァ。朝飯の準備もしなきゃなんねェしィ」

「あ、自分も手伝うであります!」

「……んじゃァ、手伝ってもらうぜェ」

「はいであります!」

再びシャルアーラを抱え、屋から飛び降りた。

軽やかな著地を決めたキョーガがシャルアーラを下ろし、そのまま家の中へ消えて行く。

「……誰も起きてねェなァ」

「まあ、自分たちが早すぎるのでありますから……仕方がないであります」

―――ちなみに、シャルアーラがどこで寢ているのか。

この家には、個別の部屋は4つしかないため、シャルアーラが住む部屋がない。

だから……シャルアーラは、アルマの部屋で寢ている。

まあ、アルマはキョーガの部屋で寢るので、アルマの部屋は使われていないと思っていいだろう。

「……アルマ……ねェ」

「キョーガ殿、どうしたでありますか?朝飯、作らないでありますか?」

「あァいやァ……今行くゥ」

―――キョーガはバカではない。

他人のには多疎うといが……それでも、アニメや漫畫に存在する系主人公ほど鈍ではない。

だから……アルマが自分に好意を持っている事もわかっている。

というか先日、のアルマがキョーガの服をがそうとした時點で確信した。

だが……アルマの心は、ただの勘違いだ。

考えてもみろ。こんな男を好きになるなんて……普通、いないだろう?

アルマは期を暗い牢獄で過ごしていたため、父親や祖父以外の男とは話した事がないのだろう。

だから……勘違いしている。

アルマがキョーガに抱いているのは『』ではなく、ただの『兄妹』のだ。それを、心だと勘違いしている……と、キョーガは考えている。

「……気にしてもしゃァねェかァ……んじゃァ、始めっかァ」

「はっ!頑張るであります!」

アルマの事を頭の片隅に追いやり、シャルアーラと共に朝ごはんの準備を始めた。

―――――――――――――――――――――――――

「……?……キョーガさん、これは?」

「あァいやァ……シャルが作ったんだがァ……まァ、見た事ねェ料理だなァ」

目の前に出される料理を見て、リリアナが不思議そうに首を傾げる。

一緒に料理していたキョーガも、鍋で煮えたぎっているを見て驚きを隠せない。

ジャガイモのような野菜を、何も手を加えずそのまま鍋にれ、調味料のようなを心配になるほどれたこれは……見た目だけで言えば、シチューに似ている。

「なァシャルゥ……こりゃなんだァ?」

「はっ!『地霊ドワーフ』の名料理であります!特に名稱はないでありますが、とても味しいであります!」

「……えっと……す、スゴい香りですね」

「……まァ、シャルが食えるって言ってんだァ……食って死ぬ事ァねェだろォ」

笑顔のシャルアーラが、上機嫌にシチュー(のような何か)をつぎ分ける。

鼻を突く強烈な塩や調味料の香り……思わずリリアナと顔を見合わせ、諦めたように肩を落とした。

意を決し、キョーガがシチューを口に運ぶ―――と。

「……………」

「き、キョーガさん?」

スプーンを口にれたまま、固まった。

……なんだこれ。

なんか、しょっぱいしジャリジャリする……あ、塩か。塩が溶けてないのか。

それに、スゴい固い何かが……ああ、これ、あのジャガイモみたいなやつか。

この赤いスープは……そういえば、調味料をめっちゃれてたな。あれのか。てかめっちゃ辛いな。

……まあ、あれだ。

控えめに……そう、控・え・め・に言って、ヤバイ。

不味いとかじゃなくて、ヤバイ。

「キョーガ殿、どうでありますか?!」

笑顔で返事を求めるシャルアーラに……ポンと。

頭に手を乗せ、無理矢理笑みを作って……言ってしまった。

「……いいと思うぜェ」

「本當でありますか?!栄であります!」

無邪気な笑顔を浮かべるシャルアーラと、引きつった笑みを見せるキョーガ。

「まァ、もうし塩やら調味料やらを抑えていいかも知れねェがァ……せっかく作ってくれたんだァ、しっかり食わせてもらうぜェ」

「はっ!次からは気を付けるであります!」

出された料理を食いきったキョーガとリリアナは―――次から気を付けるんじゃなくて、次からは料理を遠慮してくれと願ったそうな。

―――――――――――――――――――――――――

「……あァ……なんかヤベェなァ」

「はい……調が悪いですね……原因は、何となくわかってますけど……」

町を歩く、キョーガとリリアナ。

―――もうすぐ卒業式がある。

その時に著る服を注文しており、今こうして取りに行っているのだが……

どうやらその服、リリアナの父親が注文したらしい。

そのため、どんな服なのかがサッパリとの事。

「……大丈夫ですかね、アルマさんたち……」

「俺ァ知らん。アイツらの事だァ、うまくやるさァ」

今頃、アルマやサリスもシャルアーラの料理を食べているだろう。

一応、キョーガも朝ごはんを作ったのだが……さすがにシャルアーラの料理を食べた後に食う気にはなれず、そのまま臺所に置いてきた。

「あの料理ィ、ほんとに『地霊ドワーフ』の名料理なのかァ?」

「シャルアーラさんは普通に食べてましたし……私たちとは味覚が違うのかも知れませんね」

「……これから飯作る時ァ、アイツの分だけ味を濃くしねェといけねェなァ」

先ほど、シャルアーラの料理を褒めた事といい、いつからそんな気を使うようになったのか。

最初のキョーガの格を知っているリリアナは、不思議そうに……でも、嬉しそうに、キョーガの橫顔を眺める。

「んっだよォジッと見やがってェ……なんか付いてるかァ?」

「いえ、なんでもないですよ!」

視線に気づいたキョーガが問い掛け、それとなく誤魔化して先を急ぐ。

―――卒業式は、明日だ。

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