―――ザワザワと。

通路を歩く人たちが、１人のの橫を通り過ぎる度に、嘆のため息をらす。

綺麗な茶髪に、明るい笑顔。

見る者全てを魅了する不思議なが、視線に気づいて笑みを深めた。

「ん～♪悪くないね～♪」

満足そうにそう言って、クルリと振り返り、視線を向けていた人に向かって手を振る。

その仕草に、男たちの半數が心を奪われ……殘る半數はの隣に座る黒髪の男に視線を向け、『なんでこんなやつが、こんなに可いと一緒にいるんだよ』と、不満そうな表を見せた。

「チッ……サリスゥ、あんま目立つんじゃねェよォ。視線が鬱陶うっとうしィだろっがァ」

男たちから理不盡な視線を向けられるキョーガが、舌打ち混じりにサリスへ目を向ける。

「……【知】　『人類族ウィズダム』どもからマスターへの敵意を確認。マスター、焼卻の許可を」

「アホか大人しく座ってろォ」

「【反論】　しかし、あの『人類族ウィズダム』どもは、マスターに―――」

「だからって焼いていいわけねェだろォがァ……大人しくしてろォ」

「……【了解】」

無表のまま座り、キョーガの手をにぎにぎと遠慮がちに握る。

その作を見る男たちが、再び嫉妬混じりの視線を向ける―――と。

「はぁ、ふぅ……キョーガ、を、をぉ……」

「んっだよオイ、朝吸わせたばっかだろォがよォ」

「そ、そうですけどぉ……まさか、徒歩で學院に向かうなんて思いませんですよぉ……」

歩いて學院に向かうだけで太にやられてしまったらしいアルマが、青い顔でキョーガに抱きつく。

ダルそうにため息を吐き……吸しやすいように制服のボタンを外した。

「あ、ふ……おいひぃ……」

首元に顔を埋め、幸せそうに吸を始める。

―――今日は、リリアナの卒業式。

リリアナだけは教室に行き、キョーガたちは卒業式が行おこなわれる育館で待機しているのだ。

「……それにしても、なかなか始まらないでありますね？」

「あァ……退屈だなァ」

キョーガの後ろに座るシャルアーラが、退屈そうに呟く。

その言葉にキョーガが同調し―――ふと、何者かの気配をじて振り返った。

「……キョーガ殿？どうかしたでありますか？」

「……チッ……わざわざ俺たちん所とこに來んじゃねェよォ……」

苛立たしげに立ち上がり、歩み寄ってくる４人の男と向かい合う。

「……久しぶりだな、『反逆霊鬼リベリオン』」

「あァ……久しぶりだなァ、カミール・ベルガノートォ」

「おや……自己紹介をした覚えはないが？」

「はっ、リリアナから教えてもらったってんだよォ」

キョーガに聲を掛けてきたのは―――リリアナの父、カミール・ベルガノートだ。

その背後には、リリアナの姉、シャーロットが立っている。

「カミール・ベルガノート……って、リリアナ殿の父殿でありますか？！」

「あらあら。可いわね、この子」

「え、と……失禮でありますが、リリアナ殿の姉殿でありますか？」

「あらあらまあまあ！嬉しい事言ってくれるわね！でも殘念。私はリリアナの母、ユリエ・ベルガノートよ。あなたは？」

「じ、自分は『地霊ドワーフ』のシャルアーラ・オルオンであります……気軽にシャルと呼んでほしいであります」

「シャルちゃんね、わかったわよろしくね！」

ユリエにで回されるシャルアーラが、戸いながらも自己紹介を返す。

「……でェ？なァんでわざわざ俺らん所とこに來たんだァ？まさか一緒に座りたいとかじゃァねェだろォ？……何の用だァ？」

目を細め、威圧的に問い掛ける。

キョーガ本人は至いたって真面目なのだが……アルマを抱っこし、マリーに手を握られているという姿なため、カミールからして見れば『舐められている』としかけ取れない。

「當然、お前と一緒に座るつもりなどない……と、言いたい所だが……他に空いている場所が無いからな。仕方がない」

「ふざけんなよォ？なんで俺がてめェの近くに座らなきゃならねェんだァ？」

前の席に座るカミールを見て、キョーガが心底不快そうに顔を歪める。

―――と。キョーガをジッと見つめている年の存在に気づき、視線をギロッとかした。

「……何か用かよォ……」

「ん、ああいや……あんたがキョーガだよな？」

腰に剣をぶら下げてる年が、鮮やかなオレンジの髪を揺らしながらキョーガに問い掛ける。

「……あァ、そォだがァ」

「あんたの事は、リリ姉ねぇから詳しく……ってか手紙によく書かれてるから知ってる」

「だから何だよォ？」

「……あんたのおかげで、リリ姉ねぇが無事に卒業できるって。あんたがいたから、リリ姉ねぇは卒業式まで頑張れたって。あんたが一緒だから、毎日が楽しいって……全部、あんたがいてくれたからだって、手紙に書いてた」

言葉から察するに、この年がアグナム・ベルガノート……リリアナの弟だろう。

「だから……こう言うのも変だけど、ありがとう」

「……意味がサッパリわかんねェよォ……なんで俺がてめェに謝されなきゃならねェ？」

「……わからない……けど、こうするべきだと思った……母はバカだから手紙の容を理解できてないし、リリ姉ねぇの事が大好きな父とシャロ姉ねぇは論外だ……誰も、あんたという存在の大切さをわかってない」

そう言って、アグナムがキョーガに手を差し出した。

突然の謝に警戒を深めるキョーガ……リリアナの父と姉の格を知っているアルマも、警戒と共にアグナムに鋭く睨み付ける。

「……チッ……てめェら一家と一緒にいるとォ、頭がおかしくなっちまいそォだァ……」

「キョーガ、どこに行くんですぅ？」

「ちっと外の空気でも吸ってくらァ」

吸していたアルマを離し、機嫌悪そうに席を立った。

「それなら、ボクも付いて行きますよぉ」

「……おめェは大人しく座ってろォ。外に出て太にやられたりしたらァ、まァた吸しなきゃなんねェからなァ」

「……ボクは、構わないですよぉ？」

「俺が構うってんだよォ」

アグナムに舌打ちを殘し、キョーガが育館の外へと向かった。

―――――――――――――――――――――――――

「―――【発見】　こんな所にいたのか、マスター」

「………………マリーかァ……何しに來たんだァ？」

「【説明】　もうすぐ卒業式が始まるため、マスターを呼びに來たのだが……いきなりどうしたのだ？」

「……何でもねェよォ」

「……【理解】　マスターはリリアナの両親、姉弟が苦手と判斷」

「苦手っつーか何つーかァ……」

學院のベンチに座るキョーガに、無表のマリーが歩み寄る。

「……意味がわかんねェんだよォ、アイツゥ」

「【質問】　あいつとは誰か？」

「あのアグナムって野郎だァ……なんで俺がアイツに謝されなきゃならねェ？」

そう言うキョーガは―――どこか、怯えているようだった。

キョーガは、他人のに疎うとい。

リリアナのおかげでようやく理解し始めた所だ。

だからこそ、あの年がキョーガに謝した事が理解できない。

「……【理解】　マスターは、他人から謝されるのが苦手」

「……あァ……そォかも知れねェなァ」

苛立たしげに頭を掻き、キョーガがベンチから立ち上がろうとして―――ピタッと、固まった。

―――ビリビリと、を刺すような気配。

『金竜ファフニール』や『氷結銀狼フェンニル』なんかよりも強い何かが、學院にっている―――？

「……なんだァ……？」

「【知】　この異様な気配……おそらく『神族デウスロード』だと判斷」

「『神族デウスロード』だァ……？」

「【推測】　おそらく、『神族デウスロード』と契約している生徒がいるのだろう」

できれば関わりたくないと、マリーが眉を寄せながら気配の出所を探る―――と。

「―――キョーガ殿っ！」

「んァ……？シャルかァ？何しに來たんだよォ？」

「卒業式が始まったでありますっ！早く戻るでありますっ！というかマリー殿、キョーガ殿を見つけたなら報告してほしいでありますっ！」

「【謝罪】　すっかり忘れていた」

どうやら、マリーとシャルアーラはキョーガを探すために走り回ったらしい。

その事に気づいたキョーガが、２人に禮を言おうとして―――

―――世界が、黒に包まれた。