《不良の俺、異世界で召喚獣になる》4章4話

「……どうしよっか♪」

「困りましたねぇ……始まっちゃいましたよぉ」

場を始める生徒たちを見て、アルマとサリスが困ったように眉を寄せた。

マリーとシャルアーラがキョーガを探しに行ったが……大丈夫だろうか。

「……あ、リリちゃんだ~♪やっぱりあの服、か~わい~いね~♪」

「當然だ。リリアナは何を著ても似合うからな」

「……はぁ……リリアナ、可いわ……」

サリスの言葉に、カミールとシャーロットが同調する。

そんな3人を橫目で見ながら、アルマは小さくため息を吐いた。

……やっぱり、ボクが行くべきだった。

心がわからないマリーだと、キョーガを見つけた後、なんと聲を掛ければいいのかわからないだろうし。空を飛べないシャルアーラだと、そもそもキョーガを見つけるのに時間が掛かるだろう。

今からでも遅くない。やっぱりボクが―――

「まあ落ち著きなよ♪とりあえず、マリーちゃんとシャルちゃんに任せよっ♪」

背もたれに寄りかかり、ニコニコといつもの笑みを崩さぬサリスが、背後をチラッと見ながら続けた。

「……それに、もう戻ってきたみたいだしね~♪」

「え……?」

靜かな育館―――り口の扉が、ゆっくりと開けられた。

生徒や保護者たちも、誰がってきたのかと振り返り―――

「……キョーガじゃないですよぉ……」

「あ、あれ……♪勘違いだったかな……♪恥~ずかし~……♪」

―――そこには、リリアナと同い年くらいの年が立っていた。

服裝を見る限り……この學院の生徒だろう。

「……あれ?もしかして『ガルドル』じゃない?」

「ほんとだ……卒業式始まってんのに、何やってんだ?」

ざわつき始める生徒たち……それらを冷たく一瞥いちべつし、ガルドルと呼ばれた気弱そうな年が、右腕を大きく上に掲かかげた。

「……來て。『神族デウスロード』、『忌箱パンドラ』のミーシャ」

―――カッ、と。

白いが辺りを包み込んだ。

アルマとサリスも、思わず眼を閉じ―――慌てて眼を開いた時には、銀髪のが、退屈そうにアクビしながら立っていた。

「……わー、『人類族ウィズダム』がいっぱーい……あれ?」

靜寂に包まれた室を見て、銀髪が首を傾げた。

その視線の先には―――戦闘態勢にったアルマが立っている。

「…………歴代最強の『紅眼吸鬼ヴァンパイア・ロード』、アルマクス・エクスプロード……まーさかこんな所で會えるなんてねー……10年ぶりくらいかなー?元気だったー?」

「……あなたは……『忌箱パンドラ』のミーシャ……!」

「覚えてるよねー?忘れるわけないよねー?―――あれだけミーシャをバカにして、忘れたなんて言わせないよー?」

「相変わらずしつこい方ですねぇ。ボクに散々やられたくせに、まだ戦やる気ですぅ?」

赤黒い魔法陣を手の上に浮かべ、『忌箱パンドラ』を睨み付けるアルマ。

ようやく『忌箱パンドラ』が自・分・達・に・敵・対・意・識・を・持・っ・て・い・る・事に気づいたサリスが、靜かに剛爪を構えた。

「さーて……ガルドル、どーするー?」

「範囲は學院で……學院外にいる一般人は巻き込まないように……お願いできる?ミーシャ?」

「はいはーい―――『封じられし忌迷宮ナイトメア・パンドラ・ボックス』」

―――『忌箱パンドラ』のから、真っ黒な霧が噴出される。

迫る黒霧に対し、アルマとサリスが攻撃しようとするも―――遅い。

「『結晶技巧ブラッディ・アーツ』っ!『二重ツヴァイ―――」

「『追撃のエア・―――」

―――世界が、黒に包まれた。

―――――――――――――――――――――――――

「―――は……はっ?!」

「おォ、目ェ覚めたかシャルゥ……大丈夫かァ?」

「へ?は、大丈夫でありま……す?」

目をパチクリさせるシャルアーラが、ぷらんぷらんと揺れながら辺りを見回す。

上を見上げ、どこか不機嫌そうなキョーガと目が合い……自分が持ち上げられている事に気づいたのか、申し訳なさそうに地面へと降りた。

―――上下左右、どこを見ても真っ黒な空間。あちこちに通路がびており……まるで迷宮のようだ。

「えっと……ここ、どこでありますか?」

「今マリーに調べてもらってるゥ……どォだマリー?なんかわかったかァ?」

「【予想】 先ほどじた、尋常ならざる気配、おそらく『神族デウスロード』。その『神族デウスロード』がこの迷宮を造り出したと仮定した場合、『神族デウスロード』の中で、このような迷宮を造り出す能力を使えるのは、1匹のみ」

ペタペタと真っ黒な壁にれるマリーが、分析を続けながらキョーガに視線を向ける。

「【予想】 あくまで予想だが……『忌箱パンドラ』が現れたと思われる」

「『忌箱パンドラ』だァ……?」

「【肯定】 今、當機たちは、『忌箱パンドラ』の『種族能力』である『封じられし忌迷宮ナイトメア・パンドラ・ボックス』の中にいると予想される……さらに、『種族能力』の範囲は學院全と判斷される。どうする、マスター?」

真っ黒な空間なのに、何故かマリーやシャルアーラの顔がハッキリ見える事を不思議に思いながら、キョーガが壁に手を當てた。

そして、何を思ったか、キョーガがいきなり壁をぶん毆った。

迷宮が大きく揺れ、壁が々に砕け散り―――別の空間が現れる。

「……とりあえずゥ、リリアナと合流するのが最優先だァ……」

「そ、それならば、一度『サモンワールド』に行ってから、リリアナ殿に召喚してもらえば良いのではないでありますか?そうすれば、簡単に合流できるでありますよ?」

「アホゥ。んな事したらァ、マリーが1人になっちまうだろォがァ……置いて行くわけにゃァいかねェよォ」

そう。シャルアーラの言う通り、一度『サモンワールド』に行って、リリアナから再度召喚してもらうという方法がある。

しかし、『サモンワールド』に行けるのは召喚獣だけなので、マリーをここに置いて行く事になるのだ。

そうなれば、マリーは自力でリリアナやキョーガと合流しなければならない。

ただの迷宮ならば、まだ良いが……この迷宮は、最強の種族『神族デウスロード』が造り出した迷宮。何が起きるかわからない。

そんな所に置いて行くなど……昔のキョーガならともかく、今のキョーガにはできない事だ。

「……なァシャルゥ。もう卒業式は始まってたんだよなァ?」

「はっ!自分が育館を出て、すぐに場が始まったでありますっ!」

「そォかァ……なら安心だなァ」

しホッとしたように息を吐き、キョーガが先へと進む。

キョーガの言葉に首を傾げ、後を追いながら問い掛けた。

「キョーガ殿、何が安心なのでありますか?」

「とりあえずリリアナが1人じゃねェって事だよォ。多分だがァ、アルマとサリスと一緒にいるはずだァ」

「……どうしてそんな事がわかるのでありますか?」

「あァ?……確証はねェけどよォ。俺ら3人は一緒の所にいてェ、迷宮の中でも一緒の所からスタートしたァ……って事ァ、育館にいたやつらはァ、育館にいたやつらで固まってる可能が高たけェ。まァ、あくまで予想でしかねェからァ、リリアナたちを見つけんのが一番良いんだがァ……」

キョーガの考えだと、この迷宮を造り出す能力とやら、そこまで萬能な能力ではない。

仲間が遠くに離れていると、分斷されるため厄介だが……近くにいれば、分斷される事なく一緒に行できる。現に、キョーガたち3人は一緒にいるのだから。

だとすれば……卒業式が始まったならば、リリアナも育館にいる事だろう。キョーガの考えだと、育館にいた人たちは、迷宮にっても育館にいた人たちで固まってるはずだ。

育館には、アルマとサリスがいる。それに、卒業式にはデントもラッセルもいるだろうから、戦力的には心配はいらない。

「【嘆】 さすがはマスター。この短い時間で『忌箱パンドラ』の『種族能力』をほ・と・ん・ど・理解するとは」

「……ほとんどねェ……マリー、『忌箱パンドラ』の『種族能力』についてェ、詳しく教えろォ」

「【了解】 この迷宮は、部に閉じ込められた生の『絶』を糧として長する、特殊な迷宮だ」

「『絶』を糧にして長だァ……?」

「【肯定】 マスター、もう一度壁を毆ってみてくれ」

マリーの言う通り、キョーガが再び壁を毆り付けた。

圧倒的破壊力を前に、壁が々になって砕け散り……何かに気づいたのか、キョーガが眉を寄せながら壁を睨み付ける。

「……さっきより固くなってやがんなァ……『絶』ってやつで長したからって事かァ?」

「【肯定】 おそらく卒業式に來ていた『人類族ウィズダム』の『絶』を糧にしているのだろう」

「なるほどなァ……けどよォ、そんなに『絶』する事なんてあるかァ?ちょっと迷宮に閉じ込められた程度だろォ?そこまで『絶』なんてしねェだろォ」

「【説明】 この迷宮の中には―――」

ピタッときを止め、マリーが背後を振り返った。

キョーガとシャルアーラも、視線を追うように背後を振り向き―――

―――そこに、四足歩行の黒い狼のような獣の姿を見つけた。

「グルル……!ガァアアアアアアアアアアッ!」

「ぎゃあああああああああああああっ?!も、モンスターでありまぁす!」

悲鳴を上げ、勢い良くキョーガに抱き付く。

それを合図に、黒い狼がキョーガ目掛けて駆け出した。

速い。だが、俺なら―――!……っと。

「―――ッ!オイシャルゥ!手ェ放せェ!」

「嫌であります!絶対に嫌でありまぁす!」

グリグリとキョーガの腹部に顔をこすり付け、だらしなく涙を撒き散らすシャルアーラ。

黒狼は、すぐそこまで迫っている。だが、シャルアーラが邪魔できが取れない。

舌打ちし、『焼卻角砲ホーン・ファイア』で迎撃しようと―――

「【焼卻】 『魔の熱線イグナイツ・レーザー』」

「キャインッ―――」

渦巻く蒼熱線が、黒狼のを焼き飛ばした。

短く鳴いたかと思うと……黒狼が力なく地面に倒れ、かなくなった。

「【雑魚】 この程度でマスターに襲い掛かるなど、當機が許さない」

ガチャガチャと右腕を元に戻すマリーが、モンスターを冷たく見下ろした。

そのままクルリとを返し……キョーガに抱き付く、褐を無表のまま睨む。

「あっ、ひ……た、助かったでありますか……?」

「オイこらシャルゥウウゥウウウウウッ!てめェいきなり何やってんだァ?!」

「ひんっ!だ、だって!あんなグロテスクな生き、初めて見たであります!あんなの見たら、普通怖くてけなくなるでありますっ!自分は普通であります2人が異常なのでありますよ!」

「開き直ってんじゃねェ!」

キョーガの怒號に、再び泣きそうに涙を浮かべるシャルアーラが『當然のように迎撃しようとするのがおかしいのだ。普通は怖くて逃げるだろ!』と、開き直ったかのような発言を飛ばす。

「【報告】 マスターに伝えておく事がある」

「んァ?……んだよ言ってみなァ」

「【了解】 今のモンスターも、『絶』により産み出された。つまり、迷宮が『絶』を吸えば吸うほど、迷宮に現れるモンスターも強くなる」

「……時間が経てば経つほどォ、こっちが不利になってくるって事かァ」

「【肯定】 今程度のモンスターでも、『人類族ウィズダム』から見れば充分な脅威。『絶』をじる相手……どうする、マスター?」

「目的は変わらねェ。リリアナたちを探して見つけるゥ……行くぞォ」

「【了解】」

「あ、ま、待ってほしいであります!置いて行かないでほしいであります!」

リリアナたちを探すべく、キョーガたちは迷宮を歩み始めた。

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