《不良の俺、異世界で召喚獣になる》4章5話
「……逃のがした、ですぅ……!」
「ん~♪『封じられし忌迷宮ナイトメア・パンドラ・ボックス』か~……♪な~かなか厄介だね~♪」
黒く暗い迷宮の中、小さく舌打ちするアルマが虛空を睨み付けていた。
大きくため息を吐き、手の上に浮かぶ魔法陣を消すアルマの顔は……珍しく、焦っているように見える。
「―――アルマさんっ!サリスさんっ!」
「あ、リリちゃ~ん♪はぐれてなくてよかったよかった~♪」
ざわめく生徒を掻き分けながら、アルマとサリスに駆け寄ってくる、しい……リリアナだ。
「リリアナ!大丈夫だったか?!」
「ちょっと邪魔ですお父様!退どいてください!」
アルマとリリアナの間に割り込むカミールが、心配そうに聲を掛けるも……本気で嫌そうなリリアナの拒絶に、大人しくを引いた。
「……意味わかんない……ここ、どこなの?」
「さっきの男が召喚した召喚獣が原因か?」
「あらあら……何だか大変な事になってきたわね」
シャーロット、アグナム、ユリエも、迷宮を見回して眉を寄せ、警戒心を深めた。
「ミーシャ……!あれだけボクにやられておいて、まだ挑んでくるなんて驚きですよぉ……!」
「ん~♪アルちゃん、あの『忌箱パンドラ』と知り合いなの~?」
「……10年前、し手合わせをしたんですよぉ……まあ、1対1の戦いだったんで、簡単に倒せたんですけどぉ……」
この迷宮は、中にいる者の『絶』を糧として長する。
逆に言えば……中の者が『絶』しなければ弱いモンスターしか出てこないし、迷宮の耐久度も弱になる。だからこそアルマは勝つ事ができた。
ちなみに、止とどめを刺せなかった理由は、他の『神族デウスロード』に邪魔されたからだ。
「今の狀況は、ちょっと厄介ですよぉ……これだけたくさんの『人類族ウィズダム』がいたら、迷宮は簡単に長してしまいますぅ」
「ん~♪ま、あたしとアルちゃんがいるし、リリちゃんの安全はどうにかなるでしょ♪あとの『人類族ウィズダム』は―――」
「來い。『金竜ファフニール』のファニア」
「來て。『氷結銀狼フェンニル』のラナ」
突如、辺りが力強く輝いた。
が晴れ、そこにいたのは―――大きな竜と、しい銀髪の。
『……この迷宮はまさか……?主あるじよ、相手はまさか『忌箱パンドラ』か?』
「……『封じられし忌迷宮ナイトメア・パンドラ・ボックス』……厄介……『絶』、多い……ラッセル、離れないで……」
「……ま、最上級召喚獣のこの2人もいるし、あとの『人類族ウィズダム』の安全も、どうにかなるかな~♪」
ヘラヘラと狀況に合わぬ笑みを浮かべるサリスが、所狹しと存在する『金竜ファフニール』と、冷たい殺気を放つ『氷結銀狼フェンニル』に視線を向ける。
「サリスさん、どうしますか?」
「ど~するもこ~するも、『忌箱パンドラ』がどこに消えたかわからないしっ♪ど~する事もできないよ~♪あたしにできるのは、リリちゃんを守る事だけ♪」
「頼りになりますけど……キョーガさんたちは―――」
サリスと話すリリアナ……その口が固まった。
言葉の代わりに怯えたような吐息をらし、目は大きく見開かれ、サリスの背後を見つめている。
「ゴォォ……オオオオオ……」
「……へ~……♪」
全真っ黒な騎士のような何かが、のっそりと現れた。
しかも、1匹や2匹ではない。
黒騎士のようなモンスター……30匹以上が、続々と通路から現れる。
「―――わあああああああっ?!」
「も、モンスター?!」
「やだやだやだ!逃げないと!」
「おいちょっと押すなよ!」
一気に騒がしくなった迷宮……そんな『人類族ウィズダム』の群れを見て、黒騎士が錆びた剣を構えて突撃してきた。
「うわっ、うわああああああっ?!」
「『追撃の風爪エア・クロウ』っ♪」
剛爪を構えるサリスが、迫る黒騎士の群れに向けて不可視の爪撃を放った。
瞬またたく間に10匹ほどの黒騎士を慘殺し、崩れ落ちる黒騎士を見て、満足そうに笑みを深める。
「ラナ、お願い」
「『全面凍結コキュートス』」
「……やれ、ファニア」
『意―――『破壊の咆哮デストロイ・クライ』』
殘る黒騎士が、サリス目掛けて突っ込むが―――次の瞬間には足を凍結させられ、きが取れない所を破壊線で焼き飛ばされた。
その圧倒的な力……まさに最上級召喚獣と呼ばれるに相応しい。
「……み、みなさん、スゴすぎます!」
「これだと、ボクが出る必要はなさそうですねぇ……太がらない迷宮だから、ボクも普段以上の力を出せるんですけどぉ……」
「ど~せまだまだ増えるし♪アルちゃんの出番もすぐ來るよ♪……ほら、もう増えちゃった♪」
「……はぁ、頑張りますぅ」
壁がボゴッと盛り上がり―――そこから、黒い巖石のようなが何匹も現れる。
キョーガがこの場にいれば、この黒巖石の事をゴーレムだと呼んだ事だろう。
ズンズンと歩く黒巖石の眼が、目の前で気怠そうにしているアルマを捉えた。
「―――――」
例えようのない機械音のような聲を発しながら、黒巖石がアルマへと手をばした。
だが直後―――この場にいる誰もが、アルマの力を見て驚愕する事になる。
「……モンスターなんて、この程度で充分ですよぉ」
ギラギラと紅眼を輝かせるアルマが、パチンッと指を鳴らした。
ただそれだけの作で―――空中に、無數の魔法陣が浮かび上がる。
『力けつりょく解放』した時ほど多くはないが……それでも、かなりの數だ。
「……『結晶技巧ブラッディ・アーツ』、『三重舞剣ドライ・グラディウス』」
魔法陣から紅の剣が現れ、それぞれの切っ先が近くにいる黒巖石に向けられる。
「……舞え」
いつものアルマからは想像もできない冷たい一言。
それを合図に、紅剣が一斉に黒巖石へ襲い掛かった。
飛び回る紅剣は、黒巖石を簡単に切り裂き、バラバラにして、さらに切り刻む。まるでミキサーだ。
「……こんなやつら、『力解放』どころか、本気を出すまでもないですよぉ」
ヒュンヒュンと飛び回っていた紅剣が消え……殘ったのは、黒巖石の無慘なバラバラ死。
近くに転がっていた黒巖石の頭を蹴り飛ばすアルマ……ふと、みんなが靜かな事に気づいたのか、顔を上げて首を傾げた。
「えっとぉ……ど、どうかしたですぅ?」
「い、いえ、あの……アルマさんって、見た目に似合わず殘酷な方なんだなぁ、と思いまして……」
キョトンの自分を見つめるアルマに、若干じゃっかん引いたような笑みを浮かべながらリリアナが返答する。
「……あ、これの事ですぅ?……でも、このモンスターは、このぐらいバラバラにしないと再生するんですよぉ」
「え?そうなんですか?」
「はいぃ……家にあった書の中に、このモンスターについて書かれた本がありまして……バラバラにしないと倒せない、と書かれてあったんですぅ」
嫌な事でも思い出したのか、し表を暗くさせながら、アルマが散らばった黒巖石の死を眺める。
「……まあでも、無事に倒せて良かったですよぉ」
「ん~♪やるね~アルちゃん♪あたしと同じくらい殘酷だったよ~♪」
「躊躇ためらいなしに相手を殺すサリス一緒にしないでくださいよぉ……ボクはこの巖のモンスターを倒すためにバラバラにしたんですぅ」
「あは~♪言われちゃった♪」
楽しそうに笑うサリスと、怠そうにため息を吐くアルマ。
再びじたモンスターの気配に、2人は表を引き締めた。
「んんん~♪新手かな~♪」
「はぁ……どれだけ來ても、ボクたちには勝てませんよぉ」
剛爪を構えるサリスと魔法陣を浮かべるアルマが、殺気を放ちながらモンスターと向かい合った。
―――――――――――――――――――――――――
「……はァ……んの程度かよォ、つまんねェなァ」
壁にめり込んだ黒い巨人を見て、心底つまらなさそうに目を細める。
―――さすが、としか言えない戦闘だ。
次々に現れる黒狼の群れを、拳で瞬殺。騎士のようなモンスターを、『焼卻角砲ホーン・ファイア』で焼卻。強者のような雰囲気を持つ黒巨人を、一撃で沈黙。
キョーガとマリーの後を追い掛けるシャルアーラは、理解する間もなくモンスターが死んでいくのを呆然と遠目で見ていた。
「……キョーガ殿は、やっぱり最強であります!カッコいいであります無敵でありまぁすっ!」
「【當然】 マスターは最強。絶対に負けない……しかし、迷宮のモンスターが強くなっているのは確実。マスターならば負けないと思うが、當機では力不足になるかも知れない」
「心配すんなァ。おめェらの事はァ、俺がしっかり面倒見てやるよォ」
堂々と迷宮の通路を進むキョーガが、振り返る事なく宣言する。
その頼もしい背中を追い掛け―――再び、キョーガの歩みが止まった。
「………………モンスターかァ……?」
曲がり角の先―――そこから、モンスターの気配をじる。
だが……先ほどまでの黒狼や黒騎士、黒巨人とは比べにならないくらいの気配だ。
「……マリー、シャルゥ。ちっとここで待ってろォ」
「あ、き、キョーガ殿!待つであります!」
「【制止】 待てマスター、1人で行っては―――」
勢いよく駆けるキョーガ―――曲がり角の先を見て、固まった。
後を追い掛けてマリーも、曲がり角の先にいたモンスターを見て驚いたように目を見開いた。シャルアーラなんて、驚きすぎて倒れそうなほどだ。
曲がり角の先にいたモンスター……キョーガのじた、他のモンスターと比べにならないくらいの気配を持つモンスターの正は―――
「ガァアア――――――ァアアアアアアアアアッッ!!」
―――黒に包まれた、ドラゴンだった。
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