《不良の俺、異世界で召喚獣になる》4章6話

「―――ォオオオオオオオオオンンッッ!!」

「『焼卻角砲ホーン・ファイア』ッ!」

黒竜の放つ黒い炎と、キョーガの放つ紅蓮の火球が正面衝突し―――耳を突くような轟音が、辺りに響き渡る。

「うっ―――わあああああああああっ?!」

凄まじい衝撃が迷宮を駆け回り、壁や床、天井を砕していく。

頑張って衝撃を耐えていたシャルアーラが、とうとう吹き飛ばされる―――と。

「【危険】 しっかりしろ」

「ま、マリー殿……助かったであります」

壁に激突する―――直前。マリーがり込むようにシャルアーラをキャッチした。

そのままスピードを殺す事なく加速し、キョーガと黒竜から距離を取る。

「【分析】 ……マスターの『焼卻角砲ホーン・ファイア』と同等の炎。そこまで迷宮が長しているのか?」

「わ、わからないであります……あのドラゴン、そんなに強いでありますか?」

「【當然】 マスターの一撃を打ち消すなど、そこらのモンスターじゃ不可能。つまり、『封じられし忌迷宮ナイトメア・パンドラ・ボックス』が『絶』で急長しているという事……現時點で、當機は戦力外だ。戦い続けるマスターにも、いずれ……」

珍しく気弱なマリーを見て、シャルアーラが腰に付けてあるポーチを開いた。

中から出てくるのは……ドライバーやペンチなど、小さな工だ。

「……マリー殿、を弄らせてもらうであります」

「【理解不能】 今はそれどころでは―――」

「キョーガ殿っ!ドラゴンの事は任せるでありますっ!今から自分とマリー殿は、けなくなるでありますっ!」

そう言うと、シャルアーラが凄まじい速さでマリーの右腕を分解し始めた。

何をしているのかとキョーガが口を開きかけ―――黒竜の咆哮を聞いて視線を戻す。

「ギャーギャーうっせェんだよォ……そんなに死にてェんならァ、今すぐぶっ殺したらァッ!」

膝を曲げ、地面を蹴った。

それだけの作で―――地面が割れ、辺りを砂ぼこりが覆い隠し、キョーガが弾丸のような速度でドラゴンとの距離を詰めていく。

「おおっ―――らァあああああああッ!」

「ガァアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

吠える『反逆霊鬼リベリオン』と吼える黒竜。

拳と剛爪がぶつかり合い―――黒竜の右腕が吹き飛んだ。

ニイッと口の端を上げ、さらに距離を詰めて追い討ちを狙う―――と、もう片方の剛爪を橫薙ぎに振り、黒竜がキョーガをぶっ飛ばした。

迷宮の壁に激突し、珍しく苦痛に顔を歪めるキョーガが、唾を吐きながら舌打ちする。

「がッ……はァ……!」

まさか、右腕を犠牲にして左腕で攻撃するとは。

モンスターは知がないと思っていたが……どうやらこの黒竜ほどにもなると、知恵が回るようになるらしい。

「上等じゃねェかァ……!」

『反逆霊鬼リベリオン』の質のおかげで、の傷がどんどん治っていく。

裂けた皮がくっつき、折れた骨が音を立てながら修復され、いつものキョーガの姿に戻った。

傷が回復した事に腹を立てたのか、キョーガを睨んで一際ひときわ大きく咆哮を上げる。

ビリビリと振する迷宮……そこに対峙する、鬼と竜。

と、次の瞬間、キョーガの姿が消えた。

いや違う。尋常ならざる速さで距離を詰めたのだ。

「―――ァアアアアアアアアアッッ!!」

「ああァああああああああッ!」

黒竜の剛爪を避け、その顔を狙って飛び掛かるが―――迫るキョーガを食い殺さんと、黒竜が牙を剝き出しにした。

このままだと、キョーガが食べられてしまう―――と、空中でを回転させ、勢いを利用して踵かかと落としを放った。

口を大きく開いた黒竜、下顎部分が踵落としで砕され、鈍い音が響いた。

しかし、キョーガの足も無事では済まない。

剝き出しとなっていた牙が何本も足を貫通しており……ギリッと歯を食いしばって、聲が出そうになるのを我慢する。

「ルル―――ォオオオオオオオオオンン!!」

と、下顎を砕かれた黒竜が、痛みに絶を上げながら、牙が刺さったまま抜けなくなっているキョーガのを地面に叩き付けた。

自分の顔面が傷付く事も関係なしに、連続で、何度も何度もキョーガを地面に叩き付ける。

「ぐ、ぶふっ―――んんァああァああああああああッッ!!」

だらけのキョーガが雄びを上げ、黒竜の上顎部分を思いきり毆った。

ドウンッ!と重々しい打撃音が響き、もう一度毆ろうと拳を構え―――その前に、黒竜が勢い良く頭を振った。

足から牙が抜け、を撒き散らしながら飛んでいき―――迷宮の壁を何枚も破壊して、ようやく勢いが止まる。

力なく倒れるキョーガ……死んでしまったか。もしくは激痛でけないのか―――と。

「………………き、ひっ……」

―――キョーガの口から、乾いた笑い聲が弾けた。

ユラリとを起こし、笑いながら歩くそのだらけの姿は……まるで、獲を前にした死神のようで。

「………………あァ……スッゲェ楽しィなァ……」

凄い速さで癒えていく傷。

そんな事はどうでも良いのか、キョーガの意識は、壁の向こうから迫る気配に集中している。

「……オオ……ァアアアアアアア……ッ!」

通路を破壊しながら現れる黒竜が、目の前のキョーガを見て固まった。

何故か笑っているキョーガの姿に恐怖をじたのか、黒竜が怯えたように低く唸る。

「いいねいいな懐かしィな久々だなァ……こ・の・・じ・ィ………………きひっ、ひひひ……あっはははははッ!ははははははははははははははははははははははははッ!」

『紅角』が爛々と輝き、有り得ないほどの熱を放ち始めた。

そんな事もお構い無しに、頭のネジが飛んでしまったかのようにケタケタと笑い続ける。

「はァ……ふひっ、きひひっ……悪わりィなマリー、シャルアーラァ……もうしだけェ、コイツと二人っきりにしてくれェ」

何がそんなに楽しいのか、笑い聲が口かられている。

その顔は……今まで見た事のない、無邪気な表で。

「……今からの俺ァ『反逆霊鬼リベリオン』のキョーガじゃねェ……『鬼神』の百鬼 兇牙だァ……あっははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははッッ!!」

キョーガは―――否。兇牙は、笑い続ける。

ケタケタと。ケタケタケタケタと。

ケタケタケタケタケタケタ―――

―――――――――――――――――――――――――

「…………?」

黒狼と向かい合う青髪のが、どこか遠くを見て首を傾げる。

その作をチャンスと見たのか、黒狼の群れが一斉にに飛び掛かり―――不可視の爪撃をけ、バラバラとなって地面に落ちた。

「ど~したのアルちゃん♪よそ見してる時間なんてないよ~♪」

アルマを助けたのは、嬉々とした表でモンスターを狩り続けるサリスだ。

だが、サリスの問い掛けには答えず、アルマが背後を振り向き……何かをじたのか、形の良い眉を寄せる。

「………………キョーガ……?」

「ね~無視はヒドイんじゃな~い?悲しくてあたし泣いちゃうよ~?およよよ~♪」

「……サリス、ちょっとご主人様を任せますぅ」

「ん~……♪それはまた突然だね~♪ど~したの?」

「わからない、ですぅ……けど、何となく嫌な予がするんですよぉ」

不安そうに瞳を揺らし、アルマが黒翼を打って飛び上がった。

壁を蹴って加速し、迷宮の奧へと消えて行く。

その姿を不思議そうに見送り……迫る黒狼に、不可視の爪撃を放とうと―――

「『白雷の一閃ライトニング』」

バチチチチッ!と、黒狼の群れに白い雷撃が直撃。

が焼ける臭いに、サリスが不快そうに鼻を鳴らし……雷撃を放った人を見て、意外そうに笑みを浮かべた。

「……あはっ♪『魔士』とは聞いてたけど、ここまで強力な魔法が使えるとはね~♪」

「あらあら。私だって、それなりの魔院を出てるのよ?ちょっと老いちゃったけど、まだまだやれるんだから」

バチバチとから放電する……ユリエだ。

その背後には、剣を抜いたカミールとアグナムが立っている。

「……やるぞ、アグナム」

「はい、父上」

カミールとアグナムがお互いに頷き合い―――カミールが駆け出した。

とても三児の父とは思えないほどの速さでモンスターに斬り掛かり、神速の剣を振り回す。

アルヴァーナには及ばないが……それでも、黒狼程度なら簡単に倒せるようだ。

―――と。さっきまでそこに立っていたはずのアグナムが、いつの間にか消えている事に気づく。

どこに行ったのかとサリスが臭いを辿り―――見つけた時には、もう遅かった。

「ふっ―――はぁぁぁぁ……」

「……へぇ……♪」

斬り刻まれた黒狼の群れが、アグナムの足下に転がっていた。

に濡れた剣を見る限り……今の一瞬で、全て殺したのだろう。

「相変わらず素晴らしい腕前だな、アグナム」

「ありがとうございます、父上」

「さすがアグナム……カッコいいわ」

遠くで戦いを見守っていたシャーロットが、アグナムに駆け寄ってその頭をで回す。

どうやらシャーロットは、重度のシスコンでありブラコンのようだ。

「あらあらあら、さすが騎士學校の首席ね。頼りになるわ」

「母上……ありがとうございます」

「ん~♪……強いね♪アルヴァーナって人より強いんじゃな~い?」

「……アルヴァーナ様か……半年前に手合わせした以來だな」

「確かお前が勝ったのだろう?」

「いえ、たまたまですよ」

剣を振って付著しているを飛ばし、アグナムが鋭い眼で迷宮の先を見る。

……何やら、騒がしい。新たなモンスターだろう。

「行きましょう、父上」

「ああ」

そう言って駆け出す2人の男を見ながら……サリスも、剛爪を構えて走り出した。

―――『人類族ウィズダム』なんかに負けない。

競爭するように駆けるサリスは―――どこか楽しそうだった。

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