《不良の俺、異世界で召喚獣になる》4章7話

「『三頭犬の狩猟ヘル・ハウンド』っ♪」

サリスの足下に魔法陣が浮かび上がり―――そこから、2人のサリスが現れる。

笑みを浮かべていない2人のサリスが近くのモンスターに飛び掛かり……見るも無慘な姿に変えた。

「ん~♪い~いじだね~♪」

「うっ―――ふはぁぁぁぁ……」

目にも止まらぬ速さで剣を振るアグナムが、いきなり息を吐き出した。

魂までも抜け落ちてしまうのではないかと思うほどに深いため息……と、かなくなってしまったアグナムに、黒騎士の群れが襲い掛かる。

錆びた剣を構え、アグナムの首を斬り落とさんと迫り―――

「『白雷の一閃ライトニング』、『暴風の剣撃サイクロン・エッジ』」

の魔法陣と、緑の魔法陣が浮かび上がり―――目を閉じてしまうほどに眩しい白雷と、不可視の暴風が吹き荒れた。

迫る黒騎士の半數を白雷で焼死させ、殘る半數を暴風が斬り刻む。

「……あなた……今、魔法を……♪」

「あら?何か不思議だったかしら?」

「……異なる種類の魔法を同時に使う『複數士マルチ・ソーサラー』……あは~……♪冗談でしょ♪」

―――『複數士マルチ・ソーサラー』。

異なる種類の魔法を、同時に展開する事のできる者の呼び方……だが。

『複數士マルチ・ソーサラー』は、『霊族スピリット』の最上級召喚獣である『森霊エルフ』が得意とする分野。

サリスでも、異なる種類の魔法を同時に展開するなんて、難しすぎてできない……『風魔法』の『追撃の風爪エア・クロウ』と『獄炎魔法』の『付屬魔法・エンチャント・獄炎加護ヘルフレイム』を同時に使う事はできない……のに、『人類族ウィズダム』ごときの彼が使えるなど……

「……何か勘違いしてるわね?」

「あたしが……勘違い~……?」

「召喚獣は確かに強力な力を持っているわ。でも、人間だって強くなれるのよ―――『人類族わたしたち』を甘く見ない事ね、召喚獣」

「―――ッ?!」

ニッコリと笑うユリエが、靜かに覇気を放つ。

その覇気は、アルヴァーナが放っていた覇気にそっくりだ。

「それより……アグナム、大丈夫かしら?」

「はぁ……はぁぁぁぁ………………心配っ、かけました……もう、大丈夫……です……行きます!」

荒々しく呼吸を整えるアグナムが、に手を當てながらゆっくり顔を上げる。

ユラリと剣を構え―――再びアグナムの姿が消えた。

迷宮の床が割れるほどに強く踏み込み、剣を振るった衝撃で壁に亀裂をれる。

「……ほんと、『人類族ウィズダム』ってのは侮あなどれないね~♪」

引きつったような笑みを浮かべ、近寄るモンスターを剛爪で迎撃しながら……サリスは、ふと考えた。

―――『地獄番犬ケルベロス』のサリスでさえ眼で追えないスピードを持つアグナム。

『森霊エルフ』の得意分野である『複數士マルチ・ソーサラー』を使うユリエ。

『死霊族アンデッド』に対しては最強のシャーロット。

アルヴァーナやアグナムには及ばぬが、それでも人間の中では最強クラスであろうカミール。

なるほど……才能に溢れた一家だ。

そりゃあ、リリアナが學院の生徒に『無能』だと言われるだろう。

「……あれ……?」

そこでようやく気づいた。

―――リリアナとシャーロットの姿が消えている事に。

―――――――――――――――――――――――――

「―――ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

吼える黒竜の口から、黒炎が放たれる。

全てを焼き殺さんと猛たける黒炎が、目の前でユラリユラリと揺れている年に迫り―――

「きひはははははははははははははははははははははははッ!あっはははははははははははははははははははははははッ!」

気が狂ったように笑う年が、雑に腕を振るう。

直後、辺りに暴風が吹き荒れ―――燃え盛る黒炎を薙ぎ払った。

先ほどまでは比べものにならない威力に、黒竜が低く唸り―――次の瞬間には、兇牙の姿が消えていた。

「ふひはははははははははァッ!」

「ルォッ―――」

黒竜の腹部に潛り込んだ兇牙が拳を放ち―――ズンンッ!と鈍い打撃音が響き、黒竜の巨が壁にめり込んだ。

を起こそうと黒竜が顔を上げた―――瞬間、再び兇牙の拳撃が襲い掛かる。

笑いながら毆り続け―――迷宮の壁が耐えられなくなってきたのか、しずつ崩壊し始めた。

壁を、床を、天井を破壊しながら、拳の雨が黒竜に降り注ぐ。

「ァアアアア―――ガッ」

笑う兇牙を殺さんと、左腕の剛爪が構えられ―――その前に、兇牙が黒竜の顔面を毆った。

短く悲鳴を上げながら、黒竜の頭が地面に沈み―――轟音と共にクレーターが作られる。

陥沒した地面目掛けて、兇牙が追い討ちを掛けんと腕を振りかぶり―――

―――《ザザッ》と。

兇牙の意識が不鮮明になった。

「あ…………ァ……?」

ピタリときを止め、大きく目を見開く。

からどんどん力が抜け始め、兇牙が地面に膝を突いた。

―――『鏡に映る《ザザッ》三日月』『反する線』『曲がっ《ザザッ》た鉄格子』『眼の殺戮者』

「あァクソったれェ……今來んのかよォ……!」

兇牙が―――否、キョーガが苛立たしそうに舌打ちし、膝を突いたまま荒々しく呼吸を繰り返す。

視線はどこを見ているのか定まっておらず、拳を握る力もないらしい。

「ルルル……ァアアアアアアアアアアアッッ!!」

けなくなったキョーガを前に、黒竜が勝利の雄びを上げた。

余裕を持って剛爪を振り上げ、獲の命を狩り取らんと―――

「【焼卻】 『滅殺の魔熱線ネオ・イグナイツ・レーザー』」

「ァオッ―――ォオオオオオオオンンッッ!!」

崩壊した壁の奧から蒼い熱線が迫り、黒竜の剛爪を焼き飛ばす。

左腕が消し飛んだ痛みに黒竜が絶を上げ……線を放った人を見て、鋭い目を細めた。

「【謝罪】 すまないマスター、々時間が掛かってしまった……だが、威力は充分のようだな」

「マ、リー……かァ……?」

右腕を大きな銃に変えたマリーが、塵を撒き散らしながら現れた。

ヒーローのように參上したマリーの後ろに、ドライバーやペンチを持ったシャルアーラが、どこかドヤ顔でキョーガに視線を向け―――辛そうなキョーガの姿を見て、慌てて駆け寄ってくる。

「きょ、キョーガ殿?!どうしたのでありますか?!」

「シャルかァ……何もねェ、気にすんなァ」

「気にするでありますっ!この前気絶したあ・れ・がまた始まったのでありますか?!」

「……まァ、そんなじだ―――」

「アアッ!アアァアアアアアアアアッッ!!」

頭を振り上げ、キョーガたち目掛けて振り下ろした。

それに気づいたマリーが、もう一度線を放とうと右腕を構えるが―――その前に、黒竜がかなくなった。

「―――モンスターの分際で、ボクのキョーガになにやってるんですぅ?」

背中に深々と突き刺さっている紅の槍。

口からを吐いた黒竜がゆっくりと振り返り―――そこに浮かぶ、青髪のを捉えた。

「ルオオッ―――」

黒竜の口に黒い炎が浮かび―――青髪に向けて発

迷宮の床や壁を熱で溶かしながら迫る黒炎が、青髪を焼き盡くさんと―――

「『結晶技巧ブラッディ・アーツ』、『三重大剣ドライ・ブレイド』」

―――ボゴッと、床を割って巨大な大剣が現れる。

ゆっくりと大剣が振り下ろされ―――迫る黒炎ごと、その奧にいた黒竜を真っ二つにぶった斬った。

「まったく……無事でよかったですよぉ。怪我はないですぅ?」

「……アルマァ……?おめェ、なんでェ……?」

「何となく、嫌な予がしたんですよぉ……その様子だと、ボクの予は當たったみたいですねぇ……」

キョーガの目の前に膝を突き、心配そうに顔を覗き込む。

力が戻ったのか、辛そうに呼吸を繰り返しながら、キョーガが立ち上がった。

「……ふゥ……悪わりィ、心配掛けたァ……もォ大丈夫だァ」

「ウソ、ですよぉ?……全然、大丈夫じゃないですよねぇ?」

―――コイツは、何でもお見通しなのだろうか。

相手の心を読む魔法とか使えるんじゃないか?と本気で疑うキョーガが、目の前で真っ直ぐ見つめてくるアルマの頭をでた。

「……はァ……アルマァ」

「はい」

「………………付いて來やがれェ。ふざけた『忌箱パンドラ』の顔面ぶん毆ったらァ」

「もちろんですよぉ」

「マリー、シャルゥ。おめェらァリリアナたちと合流しとけェ……リリアナの事ォ、頼んだぞォ」

「【了解】」

「はっ!了解でありますっ!」

しフラフラとしながら歩くキョーガ。

その隣をアルマが歩き……迷宮の奧へと消えて行った。

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