《不良の俺、異世界で召喚獣になる》4章9話

―――リリアナが、いなくなった。

その言葉を聞いた瞬間、キョーガの眼から溫度が無くなり、アルマが驚いたように目を見開く。

「……事を聞こォじゃねェかァ」

ボロボロとなって現れたサリスに、鬼気を放つキョーガが問い掛ける。

「う、うん……♪……モンスターの數が増えてきたから、ちょ~っと本気になって暴れてたの……♪で、気づいたら……♪」

「いなくなってたァ……ってかァ?」

無言で頷くサリスを見て、眉を寄せ舌打ちする。

―――これも『忌箱パンドラ』の仕業か?だとすれば、何故リリアナを連れ去った?

リリアナを連れ去る理由がわからないし……そもそも、サリスが敵の気配を見過ごすはずがない。となると―――

黙って考え込むキョーガを見て、サリスがわたわたと慌てながら謝罪した。

「……ごめんね~、キョーちゃん……♪あたしがもっとしっかりしてれば……♪」

「気にすんなァ、おめェが悪わりィわけじゃねェ……それにィ、リリアナを見つける方法はあっからなァ」

「キョーガ、何か思い付いたんですぅ?」

「んァ……思い付いたのァ俺じゃなくてシャルだがなァ」

「……あの褐ロリが、ですぅ?」

不愉快そうに目を細め、頬を膨らませた。

そんなアルマに苦笑を向け、キョーガが口を開く。

「一度『サモンワールド』に行ってェ、リリアナに召喚してもらえばいいだろォ?そォすりゃァ―――」

「もう試したんだよ~……♪……でも、リリちゃんが反応しなくて……♪」

「……反応しねェってのァ、どういう事だァ?」

「あたしが『サモンワールド』に行って、リリちゃんに召喚してもらお~と思ったんだけど……なんでかわかんないけど、リリちゃんが反応してくれないんだよ~……♪あたしが『サモンワールド』にいた事には気づいてたみたいなんだけどな~……♪」

不思議そうに、不安そうに。

らしくない表のサリス―――その頭を、キョーガがグリグリとでた。

「リリアナが反応しねェんならァ、俺らで探すしかねェだろォ」

「でも、どうやって探すんですぅ?」

「んなの俺が知るかよォ。気合いでどォにかするしかねェだろォがァ……オイこらサリスゥ」

まだで回されていたサリスが、キョーガの呼び掛けに顔を上げた。

そこにいるのは……『反逆霊鬼リベリオン』のキョーガではなく、先ほどの狂った『鬼神』の兇牙でもない。

優しく、慈に満ちた眼で。でも口の悪さはいつものままの―――誰かを信じようとしているナキリ・キョーガがいた。

「いつまでしょげてやがんだァ?人探しはおめェの得意分野だろっがよォ。さっさと探し始めんぞォ」

「あたしの……得意分野……?」

「言わなきゃわかんねェのかァ?おめェも俺も同じでアホだなァ?……おめェは鼻が利きくしィ、耳だっていいんだァ……だったらァ、リリアナを探すのァおめェに頼るしかねェ……言わなくてもわかんだろォがァ」

初めて、キョーガがサリスを―――いや、誰かを頼った。

その事実にサリスが驚愕すると共に、キョーガの言葉を聞いて表を引き締める。

「……ん~♪そりゃそっか~♪キョーちゃんは鼻が利かないし、あたしがやるしかないか~♪」

「急に調子戻しやがってよォ……まァ、いつまでもヘナヘナしてられるよりゃァマシかァ」

「うるさいな~♪……それと、いい加減でるのやめない?何だかムカつくんだよ~♪」

「おォ悪わりィ悪わりィ、おめェの頭が低いからよォ、ついつい手ェ置いちまったァ」

「……………」

「……………」

無言で睨み合うキョーガとサリス。

やがてサリスが大きくため息を吐き、クルリとを返して迷宮を歩き出した。

「……リリちゃんは、あたしがど~にか探すよ~♪キョーちゃんは、諸悪の源をぶっ潰しといてよね~♪」

「あァ……任したぜェ」

「あは~♪……任されたよっ♪」

と、サリスが手足を床に付け、四足歩行で迷宮の奧へと消えていった。

本當に犬みたいだな、とか思いながら、キョーガもリリアナを探すべく、サリスとは反対方向へ歩き始める。

「……キョーガ?」

「んァ?」

「まだ、難しい顔してますよぉ……何を考えてるんですぅ?」

「……んやァ、ちっとサリスの言ってた事が気になってなァ」

そう……さっき言っていた事。

サリスは鼻が利きくし、耳だってキョーガとは比べにならないほどに良い。それに、かなり戦闘慣れしている。

それほどの手練れが……リリアナに近寄る敵に気づかないだろうか?

姿が見えない敵だったとしても、前のレテインみたいに匂いを辿る事ができるだろう。

それに……リリアナだって。

聲を上げるなり、サリスを呼ぶ方法はあるだろうに……サリスは、気づいたらいなくなっていたと言った。

とはいえ、リリアナだって18歳の人間。抱えて連れ去るにはちょっと大変だ。

「……サリスが気づけねェほどの手練れって事かァ……?」

「だとすれば、可能は1つですよぉ」

「あァ……『忌箱パンドラ』、だなァ」

キョーガの言葉に、アルマが頷く。

実際、『忌箱パンドラ』が強いのかはわからないが……こんな迷宮を作るぐらいだ。強いと思っておいて良いだろう。

「……ってかよォ、サリスはマリーたちと會わなかったのかァ?」

「……言われてみれば、確かにですよぉ……まあでも、ここは迷宮ですぅ。サリスがキョーガを見つけたのも、ボクがキョーガを見つけたのも、スゴく運が良かったんですよぉ」

言いながら、アルマが手を繋ごうとキョーガに手をばした。

その手をぺしっと払いのけ、足早に迷宮の奧へと進んでいく。

手を繋げなかった事に頬を膨らませ……どんどん進んでいくキョーガを見て、慌てて後を追い掛けた。

「……んァ……?」

「どうかしたんですぅ?」

「いやァ……ここにこんな通路あったかァ?」

「えっと……ボクはよく覚えてないですよぉ」

迷宮を見回して、不思議そうに眼を細める。

そして、何を思ったか、いきなり迷宮の壁を毆った。

轟音が響き、砂ぼこりが辺りを包み込み―――砂ぼこりが晴れると、そこには新しい通路が。

「……やっぱりィ……!」

「え?キョーガ、なんでここに通路があるってわかったんですぅ?」

「この道さっき通ったんだよォ……そん時ァ、もうちっと通路があったはずだァ」

「……確かなんですぅ?」

「俺ァ一度見た事は絶対に忘れねェ……あァ、間違いねェ―――」

そこで言葉を區切り、アルマと向き合って言った。

「―――この迷宮はァ、部が変化してるゥ……リリアナが突然消えたのもォ、サリスがマリーたちに會えなかったのも偶然じゃねェ……その『忌箱パンドラ』ってやつァ、迷宮の構造を変える事ができるらしいなァ」

―――――――――――――――――――――――――

「―――アナ!リリアナ!」

黒い迷宮に、切羽詰まったような聲が響く。

を揺さぶられながら名前を呼ばれるリリアナが、ゆっくりと眼を開いた。

「……お、姉様……?」

「良かった……目を覚まさないから、どうしたのかと……」

「……ここ、どこですか?」

「わからないわ……いきなり壁が盛り上がって、別の通路に飛ばされたみたい」

不安そうに瞳を揺らすシャーロットが、壁に手を當てながら眉を寄せる。

そんな姉の姿を橫目で見ながら、リリアナは集中を深めた。

召喚士は、自が契約した召喚獣がどこにいるかがわかる。

この前、キョーガとシャーロットが戦ったとき、すぐにリリアナが駆け付けたのは……自の召喚獣の居場所がわかるからだ。

今回も同様。集中を深め、キョーガたちの居場所を探る―――

「ねー。余計な事はしないほうがいいと思うなー」

ピリッと、が焼けつくような気配。

リリアナが恐る恐る振り返り、隣のシャーロットが黃の魔法陣を浮かべながら警戒を深める。

そこにいたのは……騒の元兇、『忌箱パンドラ』だ。

「んー……オレンジの髪……この子で間違いないよねー?」

「あ、う、うん……ありがとう、ミーシャ」

「いいよー。2人いたからどっちも連れてきたけど……どっちが『無能』の『人類族ウィズダム』なのー?」

「そ、そっち……優しそうな方……」

ガルドルがリリアナを指さし、ミーシャがシャーロットを冷たい眼で見た。

「ふーん―――じゃ、こっちの『人類族ウィズダム』はいらないよねー。『絶を封じ込めし匣ディスペアー・ボックス』」

と、ミーシャの手の上に、真っ黒で小さな箱が現れる。

ガパッと箱が開き―――そこから、黒い手のようなが現れ、シャーロットに襲い掛かった。

「―――危ないわね」

鮮やかな回避技手を回避し、ミーシャを見て不敵な笑みを浮かべる。

その笑みは……アルヴァーナやユリエが浮かべていた、強者の笑みで。

「ありゃー……?……避けるなんて、予想外だなー」

「そうかしら。この程度なら、私じゃなくても避けられると思うけど?」

リリアナを背後に隠しながら、シャーロットが再び黃の魔法陣を浮かべる。

素早く辺りを見回し、ここからどうしたものか―――と。

「―――來い、『巨人族ギガント』のサイクロプスッ!『命令 そいつを殺せ』ッ!」

「ゴァアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

突如、迷宮に轟音が響いた。

所狹しと現れた巨人が、目の前で笑っているミーシャに襲い掛かる。

1歩で距離を詰め、兵とも言える剛腕を振りかぶり―――

「おっとっとー」

ヒョイッと簡単に避け、ガルドルの腕を摑みながら、現れた巨人から距離を取る。

「……まったく。無能のお前が、なんでこんな所にいるんだよ」

「あ、アバン……さん?」

「ああ、僕さ……無能は下がってろ。あとは僕がやる」

制服のホコリを払うアバンが、満を持じして登場したのだった―――

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