《不良の俺、異世界で召喚獣になる》4章13話

辺りを、異様なほどの靜寂が包み込む。

……まさか、あれだけいたモンスターが一瞬で消し飛ぶなんて。

目の前の現実に、キョーガとアルマ以外の全員が息を呑んだ。

そんな一同の反応を見て、どこか満足そうにアルマがうんうんと頷き……それをしたキョーガが、『蒼角』を輝かせながら口を開いた。

「―――あっづゥ?!んっだこりゃァ?!」

初めて『焼卻角砲ホーン・ファイア』を使った時のように、熱を持つ角を必死に冷やす。

それでも全然冷えないのか、キョーガが近くの壁に頭を突っ込んだ。

ドゴオオオオオンッッ!!と迷宮が揺れ……しは角の熱が落ち著いたのか、できるだけを出さないように無表を保とうとする程度には冷えたようだ。

だが……本來紅いはずのキョーガの角は、今も蒼く輝いている。

「……『蒼角の反逆霊鬼リベリオン』……さすがキョーガですぅ」

「んァ……?なんだそりゃァ?普通の『反逆霊鬼リベリオン』と何か違ちげェのかァ?」

頷き、キョーガの問い掛けに答えようとアルマが口を開きかけ―――その前に、怯えたようなの聲が聞こえた。

「う、そ……『蒼角の反逆霊鬼リベリオン』……?!なんで……うそ……400年前に死んだはずでしょ……?!」

―――その聲は、震えていた。

いや、聲だけではない。

をガタガタと震わせ、怯えた眼でキョーガを見ている。

「あり得ない……あり得ないあり得ないあり得ないあり得ないッ!そんなのッ!絶対ッ!あり得ないんだから―――!」

聲を上げるミーシャ……だがやはり、聲は震えている。

先ほどまでの余裕もどこへ消えたのか、キョーガを見てイヤイヤと首を振り―――黒い箱を、キョーガに向けた。

「來るな……ッ!來るな見るな寄るな喋るなやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ―――」

「……オイアルマァ?アイツどうしたんだァ?」

壊れたように、狂ったように。おかしくなってしまった機械のように、震えながら何度も同じ言葉を繰り返すミーシャ。

さすがのキョーガも、その姿には悪寒を……いや、正しくは、嫌悪をじたのだろう。

盛大に顔をしかめながら舌打ちするキョーガが、全てをわかっているかのように1人で頷くアルマに聲を掛けた。

「……まぁ、無理もないですよぉ……『蒼角』なんて、普通の『神族デウスロード』からすれば、恐怖の象徴ですからねぇ」

「答えになってねェよォ……もうちっとわかりやすく説明しろォ」

「『蒼角』は、伝説の『反逆霊鬼リベリオン』であるオルヴェルグの特徴だったんですよぉ。なんでも、本気で戦う時のオルヴェルグは、『紅角』が『蒼角』になるとかならないとか……まぁ、400年も前の話ですから、本當かどうかは疑わしいですけどぉ」

一部の『神族デウスロード』にとって、『神殺し』を2度もし遂げた『反逆霊鬼リベリオン』は恐怖そのものだ。

まして、あのオルヴェルグの特徴である『蒼角』を生やした『反逆霊鬼リベリオン』など……ミーシャでなくても、恐怖をじる事だろう。

「ぜつ、ぼうをぉ……!『絶を封じ込めし匣ディスペアー・ボックス』……!」

黒箱が開き―――再び、黒い手が現れる。

だが、驚くべきは、その數だ。

先ほどの數を大きく上回り……手の數、およそ50本。

しかも―――全て、キョーガに向いている。

「……アルマァ」

「はいぃ」

「リリアナを頼むぜェ」

「任せてくださいよぉ」

「死んで……死んで―――!」

願うようにび、ミーシャの黒箱から手が放たれる。

しなりながら。うねりながら。回転しながら。不規則に変化しながら。

確実に相手の命を狩り取らんと迫る手―――と、何故かキョーガが首を傾げた。

なんだ、コイツ?俺を舐めてるのか?

そんな遅・い・攻撃……當たる方が難しい。

いや……違う?手の速さはさ・っ・き・よ・り・速・い・?

ならなんで……こんなにも、遅くじる?

「ふゥ―――」

頭を下げ、を傾け、足を引き―――最小限のきで、手を避ける。

鮮やかな回避技……相手をねじ伏せ、力で圧倒するキョーガからは考えられない繊細さだ。

あまりのしさに……まるで、手がキョーガを避けているようにさえ見える。

「……なんだァ……不思議なじだなァ」

「く、るなぁああああああああああッ!」

風を斬る音と共に、黒い手が放たれる。

ふらり、と倒れるようにして手を回避し―――加速。

踏み出したキョーガが、たった1歩でミーシャとの距離を詰めた。

ニイッと口の端を歪めるキョーガを見て、ミーシャが大きく後ろへ飛ぶが―――瞬またたく間にミーシャの背後に回り込み、拳を構えた。

絶対破壊の拳が、ミーシャの頭を毆り潰さんと放たれ―――ピタッと止まった。

「……キョー……ガ?」

いつの間に移したのか、リリアナの隣に立つアルマが、きを止めたキョーガを見て首を傾げた。

「……はっ、クッソつまんねェ……やめだやめだァ」

拳を下ろし、暴に頭を掻きながら振り返る。

その顔は……期待外れと失とで彩られており、心底つまらなさそうにため息を吐くキョーガが、リリアナの方へ歩きながらミーシャに言葉を投げ掛けた。

「……オイコラ『忌箱パンドラ』ァ、今すぐ俺らをこの迷宮から出せェ……そしたらァ、命までは取らねェで見逃してやるゥ」

予想外の言葉に、アルマとミーシャが驚いたように目を見開く。

つまらなさそうなキョーガの表と、忠告とも取れる言葉を聞き―――ミーシャが、顔を俯うつむかせた。

「……バ、カに……して……!」

俯うつむくミーシャから、震えた聲が聞こえた。

だが……誰もが気づいたはずだ。

その聲は、恐怖ではなく怒りで震えていた事に。

「あの忌々しいオルヴェルグが、この世に存在するはずがない……!あなたはただの『反逆霊鬼リベリオン』……!そう……恐れる必要なんて―――ないッ!」

ズアッと。空間が手で覆われる。

その數、先ほどの50本とは比にならない。

床を抉えぐり、壁を砕し、天井を突き破りながら迫る手―――次の瞬間には、半數以上がはぜた。

飛び散る手のに、ビチビチと床を跳ねる手。

もちろん原因はキョーガだ。

迫る手を見極め、アルマですら目で追えない速さで手を散させたのだ。

「……忠告はしたからなァ?どうなっても知らねェぞォ?」

キョーガの『蒼角』が強く輝き―――その先端に、蒼い炎球が現れる。

―――『蒼の太サン・シャイン』。それが、この蒼い炎球の本當の呼び名。

400年前、『死霊士』と共に戦っていたという最強の『死霊族アンデッド』、オルヴェルグが使っていた技だ。

『種族能力』である『焼卻角砲ホーン・ファイア』を極めた者だけが使える技と言われており……この蒼球を使えたのは、後にも先にもオルヴェルグだけだったと言う。

「失せろォ―――『焼卻角砲ホーン・ファイア』」

ボッ!と加速し、蒼球が発

破壊と滅亡をもたらす蒼球がミーシャに迫り―――

「……ホント……意味、わかんない……」

小さな呟き―――直後、蒼球が発。

迷宮部に轟音が響き渡り、床や壁、天井が簡単に吹き飛び―――ふっと、辺りの景が切り替わる。

黒く息苦しい迷宮から、明るい外へ。

一瞬にして消えた迷宮……原因は、何となくわかっている。

……『忌箱パンドラ』が死んだ。だから、能力で作られた迷宮は消えたのだろう。

「うっ―――ぎゃあああああああああああっ?!ひざっ、日差しがっ!死ぬ死ぬ死ぬっ!死んじゃいますよぉっ!」

迷宮が消えた事により、元の場所に戻った……という事は、太が存在する場所に戻ってきたという事だ。

現在、キョーガたちが立っているのは……外。時刻は、2時過ぎくらいだろうか。

全員が太けて目を細める中……たった1人―――いや2・人・、心地良いはずの日差しをけ、絶を上げた。

「なぁあああああああああああああッ?!ああああアバンッ!目が覚めたら太の下とはどういう事だッ?!貴様、私を殺すつもりかッ?!」

「レテイン……よかった、生きていたのか」

「今死にそうになっているのが見えぬのかッ?!クソッ、私は『サモンワールド』に帰るぞッ!」

「キョーガっ!を、をぉっ!」

騒がしい『吸鬼ヴァンパイア』たちを無視して、キョーガが元兇の元へと歩み寄った。

呆然と地面に座り込むガルドル……キョーガが近づいて來ている事にも気づいていないのか、虛ろな目で地面を見つめている。

「―――ぁ、いっ?!」

キョーガのデコピンをけたガルドルが、涙目になりながら現実に引き戻される。

目の前でうずくまるガルドルに舌打ちし、暴に襟元を摑んで持ち上げた。

顔と顔が當たりそうになるほど近い距離……そこで、キョーガが低く怒りを口にした。

「てめェ、なァに被害者面してやがんだァ?なァオイ、どォ考えてもてめェが加害者だろォがァ……!何の目的があってリリアナを拐さらったかは知らねェがァ―――調子乗ってるとぶっ殺すぞゴラァ……!」

『蒼角』が、キョーガの怒りを表すように強く輝く。

「ぼ、くは……僕は、ただ……見返したかっただけなのに……!バカにしてきたやつらを、見返したかっただけなのに……!」

泣きそうに顔を歪めながら……ガルドルが、リリアナに視線を向けた。

だが……その視線は、デントやラッセルが向ける視線とは全く違う。

「僕より才能がなかったのに……!リリアナだけは、無事に迷宮から出してあげようと思ってたのに……!『無能』なのに……!」

―――この視線は、アバンがリリアナに向けていた視線にそっくりだ。

「―――リリアナッ!シャーロットッ!」

「……お父様……?」

遠くから駆け寄ってくるカミール……シャーロットの姿を見て、固まった。

そして……己の無力を嘆くように、力なく地面に膝を突く。

……無理もない。自分の娘が……次に會った時には、片腕を失っているのだから。

「―――なんだ?!何があったんだ?!」

迷宮にいたのであろう、先生のような『人類族ウィズダム』がどんどん集まってくる。

座り込むガルドルと、怒れるキョーガを互に見て……キョーガを睨み付けた。

生徒を摑み上げる兇悪な年……この景だけ見れば、悪者は確実にキョーガだ。

誤解が広まらないに、キョーガが事を説明しようとして―――

―――クラっと、視界がブレた。

「なっ……ぶ、ふっ……あァ……?」

「キョーガさん?!」

「キョーガっ!」

ガクッと膝を落とし、顔を下に向けると同時に鼻が垂れる。

……腕に力がらない……意識が朦朧もうろうとする……記憶の放出が始まったわけでもないのに……頭がボーっとする……?

―――実はこの時、キョーガのには相當の負荷が掛かっていたのだ。

原因は―――『蒼角』。

筋力、そして視力を底上げする『蒼角』は……キョーガの脳に、尋常じゃない負荷を掛けていた。

もちろん、そんなのキョーガが知るはずもない。

どんどん不鮮明になっていく思考―――キョーガの意識は、現実から切り離された。

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