《不良の俺、異世界で召喚獣になる》4章16話
―――あたし、何のためにリリちゃんの召喚獣をやってるんだろうね?
目の端に涙を溜め、震える聲でが青年に問い掛ける。
……こんな表のサリスなんて、見た事がない。というか、想像もできなかった。
なのに今……こうして、泣いている。
いつもと違うサリスの姿に、キョーガは―――
「……急にィ、どうしたんだよォ?」
事を尋ねる事しか、できなかった。
なんで泣いているのかわからないし、なんで急にこんな事を言い出したのかもわからない。
何より、泣いているの子に対して、どう接すれば良いのか、わからない。
掠れる聲で問い掛けるキョーガに、サリスはぽつりぽつりと話し始めた。
「……あたし、何もできなかった……リリちゃんも、あたしがしっかりしてなかったから拐さらわれちゃったし……ど~すればいいかわかんないから、キョーちゃんを頼る事しかできなかったし……」
何より―――と。
「……キョーちゃんと『忌箱パンドラ』の戦いを見て、自分の『才能』を疑っちゃったよ……」
膝に顔を埋め、悲しみに染まった聲で呟くように言葉をらす。
「あたしの持ってる『才能』は……殺しの才能。逆に言うなら、あたしはこれしか持ってない……のに………………この才能まで疑っちゃったら、あたしはどうやって……リリちゃんに恩返しすればいいの……?」
サリスの言葉を聞き―――キョーガは、サリスの気持ちを直的に理解した。
要するに―――俺と同じだ。
迷宮での俺は……『最強』である事が俺の存在意義だと思っていた。
『最強』じゃない俺なんて、存在価値がない……『最強』じゃない俺なんて、必要ない……そんな俺は、リリアナの隣にいる資格がない、と。
おそらく、今のサリスも同じ気持ちなのだろう。
リリアナの溫かさを知って、リリアナの優しさを知って。
―――離れたくない。そう思ったのだろう。
「……おめェ……」
キョーガと『忌箱パンドラ』の戦いを黙って見ていたのは……自分だと、足手まといになると判斷していたからなのか。
なるほど……確かに、今のサリスの雰囲気からは、自信が失われている。
「……はァ……おめェも俺と同じでアホだよなァ?」
「………………へ……?」
「要はあれだろォ?自分に価値が見出みいだせなくなっちまってんだろォ?殺しの才能とか言ってたがァ……誇れるもんが否定されてェ、どうすりゃいいかわからねェんだろォ?」
『最強』じゃなければ自分に存在価値はない―――そんなキョーガの考えを『違う』と言ってくれたのは、アルマだ。
だから……アルマの言葉を借りるなら―――
「……いつリリアナがァ、弱よえェおめェとは一緒にいたくねェっつったよォ?いつマリーがァ、弱よえェおめェは必要ねェっつったァ?」
「それ、は……言われてない、けど……」
「いつシャルがァ、弱よえェおめェは意味がねェっつったんだァ?……いつこの俺がァ、おめェの事ォ、嫌いなんて言ったよォ?」
顔を上げ、目の前に立つ年と目が合う。
その年の口元が、ニイッと兇悪に裂けた。ヘタクソな笑顔だ。
「……キョーちゃんに……あたしの何がわかるの?他人のキョーちゃんに……あたしの気持ちがわかるわけ―――」
「わかるに決まってんだろォ」
即答。
お前の気持ちがわかる、と即答し―――ふとキョーガは、迷宮でアルマに言われた事を思い出した。
―――アイツが、俺の気持ちを『わかる』と言っていたのは……本當に、俺の気持ちをわかってたからなのかも知れない。
今の俺は……サリスの気持ちが、痛いほどにわかる。
その気持ちは……ついさっきまで、俺が味わっていた気持ちなのだから。
「わかる、なんて……!適當な事言わないでっ!」
「あァ?」
「わかるわけないじゃんっ!暴力的でガサツなキョーちゃんが、他人の気持ちなんてわかるわけないっ!」
クシャクシャに顔を歪め、拒絶するように大聲を上げた。
「嫌い……!嫌い、嫌い、嫌い、嫌い、嫌い、嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌いっ!キョーちゃんなんて、大っ嫌い!」
「そうかよォ。俺ァおめェの事ォ好きだけどなァ」
―――自分は今、何を言われたのか。
涙でボヤける視界の中、最強を自稱する年が、苦笑を浮かべながら話を始めた。
「……俺もよォ、リリアナに恩返ししねェとって思ってたんだよォ」
「……………」
「だがァ、俺が誇れる事と言やァ……戦う事ォ。だからァ、俺ァ『最強』を目指してたァ……『最強』にりゃァ、リリアナは俺を頼るゥ。だから獨りにならねェって思ってなァ……はっ。今改めて考えてみりゃァ、バカみてェだなァ」
サリスの背後に腰を下ろし、背中合わせとなって続ける。
「だけどよォ、アルマに言われたんだァ。『ご主人様が、弱いキョーガさんなんていらない、なんて言うと思いますぅ?』ってなァ……そこで気づいたんだァ。俺ァリリアナの事を信じてなかったってなァ」
「……リリちゃんを……信じて、ない……?」
「あァ……まァよく考えりゃァそりゃそうだよなァ。あのリリアナがァ、弱いからいらないなんて言うはずねェよなァ」
「でも……あたしはキョーちゃんより弱いよ。キョーちゃんがいるなら、あたしは必要―――?!」
ふっと、背もたれが―――キョーガがいなくなった。
無意識のにキョーガに寄り掛かっていたサリスは、簡単にバランスを崩し―――直後、後ろから暴に頭をで回され、を直させる。
「……弱いから必要ねェ、なんて事ァねェ。弱いおめェでもォ、弱い俺でもォ……リリアナは頼りにしてくれるゥ。必要ねェ事なんてェ、永遠にねェよォ……それでも不安になるんだってんならァ、俺を頼れェ。もたれかかる背中ぐれェは貸してやるよォ」
サリスの頭をぐしゃぐしゃとで回しながら、キョーガらしからぬ溫かい言葉を掛ける。
頭に置いてあるキョーガの手を摑み、自分のに當て……震える聲を絞り出した。
「……弱くても、いいの?」
「おめェの弱さはァ、俺がカバーしてやらァ」
「……役立たずでも、いいの?」
「役立たずなわけねェだろォがァ……おめェは俺より鼻が利くしィ、耳だっていいんだァ……できねェ事よりィ、できる事を數えろォ」
「……笑ってても、いいの?」
「むしろ笑ってろォ。あんまり言いたくねェがァ、俺ァおめェの笑顔が好きなんだァ」
「……………」
「それでもォ、自分が弱よえェ事やァ、俺や『忌箱パンドラ』に負けてる事が悔しいんならァ……強くなれェ。下を向いてる暇なんざねェぞォ?俺だって『最強』を目指して鍛えてんだからなァ」
と、サリスがバッと振り向いた。
そのままキョーガに抱き付き、顔を隠すようにキョーガの部にぐりぐりと顔をり付ける。
抱き締められる痛みに、キョーガの口からき聲がれそうになるが……グッと堪え、今度は優しく頭をでた。
「……ね、キョーちゃん♪」
「なんだァ?」
「…………………………あり、がと……ね♪」
「禮ぐらい顔見て言えよォ」
「あはっ♪見れるわけないじゃ~ん♪」
目に涙を溜めながら、いつもの調子でサリスが顔をり付け続ける。
その涙は……先ほどまでの涙とは違い、しくっていた。
―――――――――――――――――――――――――
「戻ったぞォ……っとォ……?」
サリスを連れて會議室に戻ってきたキョーガは……眼前の慘狀を見て、思わず扉を閉めたくなった。
マリーのスカートの中に隠れるシャルアーラに、そんなシャルアーラを引きずり出そうと闘しているアルマ。
無表のままシャルアーラをけれているマリーは―――両腕を武に変え、金髪碧眼のと向かい合っていた。
耳の先端は尖っており、腕や頬に不思議な紋様が刻み込まれている金髪のは……一目ひとめで、異質な力を持つ者だと認識させる。
「はっはあっ!どうでありますかぁ?!手も足も出ないでありますよね?!無敵であります最強でありまぁす!ほら、黙っていないで何か喋るであります!」
「うるっさいですぅ!いい加減黙って外に出てくださいよぉ!」
「【警告】 魔法陣を消して當機たちから離れろ。さもなくば、この場で貴様を殺す」
「ちょっとアルマ殿?!引っ張らないでほしいであります!あ、あ、ストップであります!」
「だったらしっかり謝ってくださいぃ!セレーネを怒らせたのはあなたなんですよぉ?!」
「あああああ謝らないでありまぁす!雑草が立って話すのが悪いのであります自分は悪くないでありまぁす!」
「【警告】 早く離れろ『森霊エルフ』。この建もろとも吹き飛ばすぞ」
……混沌カオス、と呼ぶ他にない。
ひょっこりとキョーガの後ろから室を確認するサリスも、うわぁ……と言わんばかりに顔を歪めている。
と、キョーガたちに気づいたのか、わたわたしていたリリアナが駆け寄ってきた。
「キョーガさん!サリスさん!お願いしますどうにかしてください!」
「わっけわかんねェよォ……何がどうなりゃこうなるんだァ」
「―――いい加減にしなさいモグラ。とっとと顔を出して、正々堂々と―――」
「うるっせぇ正々堂々なんて知った事じゃねぇでありますっ!というか、雑草が許可なく話すんじゃねぇでありますっ!刈り取るぞオラ!であります!」
褐と金髪の罵聲を聞いたキョーガは……なるほど、と理解した。
……『地霊ドワーフ』と『森霊エルフ』が出會うと、こうなるのか。
Monsters Evolve Online 〜生存の鍵は進化にあり〜
一風変わったVRゲーム『Monsters Evolve』があった。モンスターを狩るのでもなく、モンスターを使役するのでもなく、モンスターになりきるというコンセプトのゲームである。 妙な人気を得たこのゲームのオンライン対応版がVRMMORPGとして『Monsters Evolve Online』となり、この度発売された。オフライン版にハマっていた吉崎圭吾は迷う事なくオンライン版を購入しプレイを始めるが、オフライン版からオンライン版になった際に多くの仕様変更があり、その代表的なものが初期枠の種族がランダムで決まる事であった。 ランダムで決められた種族は『コケ』であり、どう攻略すればいいのかもわからないままゲームを進めていく。変わり種ゲームの中でも特に変わり種の種族を使って何をしていくのか。 人間のいないこのゲームで色んな動植物の仲間と共に、色んなところで色々実験してやり過ぎつつも色々見つけたり、3つの勢力で競いあったり、共に戦ったりしていくそんなお話。 カクヨムにて、先行公開中! また、Kindleにて自力での全面改稿した電子書籍、第1~6巻を発売中! そしてオフライン版を描くもう1つの物語。 『Relay:Monsters Evolve ~ポンコツ初心者が始める初見プレイ配信録~』も連載中です。 良ければこちらもどうぞ。 https://ncode.syosetu.com/n9375gp/ 無斷転載、無斷翻訳は固く禁じます。
8 84【書籍化】え、神絵師を追い出すんですか? ~理不盡に追放されたデザイナー、同期と一緒に神ゲーづくりに挑まんとす。プロデューサーに気に入られたので、戻ってきてと頼まれても、もう遅い!~
【書籍版発売中!】 富士見L文庫さまから2022年1月15日に書籍化されています!! ========== 【あらすじ】 「仕事が遅いだけなのに殘業代で稼ごうとするな! お前はクビだ。出ていけ夜住 彩!」 大手ゲーム開発會社のデザイナーとしてデスマーチな現場を支えていたのに、無理解な無能上司のせいで彩はチームを追放され、自主退職に追いやるための『追い出し部屋』へと異動させられる。 途方に暮れる彩だったが、仲のいい同期と意気投合し、オリジナルのゲーム企畫を作ることにする。無能な上司の企畫にぶつけ、五億の予算をぶんどるのだ。 彩を追放した上司たちは何も分かっていなかった。 ――優秀すぎる彩にチームは支えられていたことを。 ――そして彩自身が、実は超人気の有名神絵師だったことを。 彼女を追放した古巣は瞬く間に崩壊していくが、デスマーチから解放された彩は華やかな表舞臺を駆け上っていく。 夜住 彩の快進撃はもう止められない――。 ※ほかの投稿サイトでも公開しています。
8 109Duty
「このクラスはおかしい」 鮮明なスクールカーストが存在するクラスから、一人また一人と生徒が死んでいく。 他人に迷惑行為を犯した人物は『罪人』に選ばれ、そして奇怪な放送が『審判』の時を告げる。 クラスに巻き起こる『呪い』とは。 そして、呪いの元兇とはいったい『誰』なのか。 ※現在ほぼ毎日更新中。 ※この作品はフィクションです。多少グロテスクな表現があります。苦手な方はご注意ください。
8 180世界一の頭脳を持つ母と世界一力が強い父から生まれた雙子
かつて、世界最強の頭脳を持っていると言われた母 とかつて世界最強の力を持っていると言われた父の 息子の主人公と、その妹 主人公とその妹は、世界最強夫婦の子供(雙子)ということもあり、普通じゃないくらいに強かった。 主人公が強いのは力ではなく頭脳。 そして、殘念なことにその妹が強いのは當然頭脳ではなく、力。 両親は、それを僕達が14の時にやっと気づいた そして、15になったその瞬間、僕達は異世界にいた... 最後までお付き合いいただけると嬉しいです!!
8 116感傷
悲しみ、怒り、喜びなどの 人間の感情を話の軸にした短編小説集。 「犠牲」 とあるきっかけで殺人を犯してしまった遠藤翔 (えんどうしょう) その殺人の真相を伝えるための逃走劇 そして事件の真相を追う1人の若き記者、水無月憐奈の物語 「メッセージ」 20歳の誕生日の日、家に帰ると郵便受けに手紙が入っていた。 その內容は驚くべきものだった。 「犠牲」のその後を描いたAnother Story 「ニセモノカゾク」 當たり前が當たり前じゃない。 僕は親の顔を覚えていない。 ここに居るのは知らない親です。 家族の形が崩壊していく様を描いた物語
8 168魔法が使えないけど古代魔術で這い上がる
地元で働いていた黒川涼はある日異世界の貴族の次男へと転生する。 しかし魔法適正はなく、おまけに生まれた貴族は強さを求められる家系であった。 恥さらしとバカにされる彼は古代魔術と出會いその人生を変えていく。 強者の集まる地で育ち、最強に鍛えられ、前世の後輩を助け出したりと慌ただしい日々を経て、バカにしていた周りを見返して余りある力を手に入れていく。 そしてその先で、師の悲願を果たそうと少年は災厄へと立ち向かう。 いきなり最強ではないけど、だんだんと強くなる話です。暇つぶしになれば幸いです。 第一部、第二部完結。三部目遅筆… 色々落ち著いたら一気に完結までいくつもりです! また、まとめて置いているサイトです。暇潰しになれば幸いです。良ければどうぞ。 https://www.new.midoriinovel.com
8 113