《不良の俺、異世界で召喚獣になる》5章2話
「……よォ」
「キョーガ……早かったですねぇ?」
「あんまり待たせても男らしくねェしなァ」
黒いだぼっとした服を著たキョーガが、部屋のベッドの上で座っていたアルマに近づく。
どこか火照ったように頬を上気させたアルマが、期待するような眼でキョーガを見つめた。
熱っぽい視線が差し……ふっと、アルマが力を抜き、キョーガに寄り掛かった。
顔を上げ、にへらっと笑い……そんなアルマを見て、キョーガの顔にも自然と笑みが浮かぶ。
「……ボクは―――」
「俺ァ、アルマが好きだァ。俺はとかよくわかんねェしィ、楽しいとか嬉しいとかってもォ、最近になってようやくわかるようになってきたァ……けどォ、アルマの事が好きだって確信してるゥ」
「ぁ、え……?」
先を越されてを囁かれ、アルマのが直した。
何を言われたのか?と呆然した顔でキョーガを見つめる。
「なんでだろォなァ?……おめェがしくてたまらねェんだァ……」
「……ズルいですぅ……ボクが先に言おうと思ってたんですよぉ?」
「どっちが先でもいいだろォがァ……こっち向けよォ」
「はいぃ……」
くるりとを回転させ、潤んだ『紅眼』が、黒髪の年を捉えた。
その小さな肩をガシッと摑み、若干じゃっかん張したようなキョーガがを引き締め……覚悟を決めたように、顔を近づけた。
桃のに引き寄せられるように、あるいは磁力のように。キョーガとアルマの顔が近づいていき―――
―――ゆっくりと、重なり合った。
「……………」
「……………」
……何秒ほど、そうしていただろうか。
やがて、キョーガからを離した。
「ぁ……もう、終わりなんですぅ……?」
「別に長くする必要もねェだろォ……おめェがしたいって言うんならァ、もうちっとしてもいいけどなァ」
「……それじゃあ、もうしだけ」
そう言って、アルマが顔を突き出した。
桃に染まる頰に手を添え……もう一度を落とそうと―――
「―――キョーガさんっ!」
―――突然の大聲に、キョーガとアルマが勢い良くその場から飛び退のいた。
「ォ―――いっだァッ?!」
「あうっ?!」
勢い余ってキョーガがベッドから転げ落ち、アルマが壁に頭をぶつけた。
バッとを跳ね起こし……扉からってきた橙髪のを見て、キョーガのから掠れた空気がれ出した。
「ァ……リリアナァ……起きてたのかァ……?」
「當たり前ですっ!どこに行ってたんですか?!キョーガさんが帰ってこなくて……私、心配したんですからね?!」
どこか涙聲なのは、気のせいではないだろう。怒ったように目をつり上げているが、目の端には涙が溜まっている。
キョーガの心に、珍しく罪悪が生まれた。
「……悪わりィ……」
「もう!これからは早めに帰ってきてくださいね?!」
「あァ……気を付けるゥ……」
ふんす!と鼻息を荒く吐き出し、リリアナがキョーガの部屋を後にする。
靜寂に包まれる室……と、ベッドに座っているアルマが、苦笑いを浮かべながら頰を掻いた。
「あはは……タイミング悪いですねぇ……」
「……マジで怒ってたなァ」
「そりゃそうですよぉ。ご主人様にとってキョーガは、初めてできた友だちですからねぇ……心配するのも、無理はないですよぉ……それで、どうしますぅ?」
「あァ?何がだァ?」
「続きですよぉ……仕切り直しますぅ?」
「あー……いやァ……また今度だなァ」
キョーガのヘタレ発言に、アルマがくすくすと小さく笑った。
「それじゃあ……寢ますぅ?」
「……あァ、そうだなァ」
ぽんぽんと自分の隣を叩き、早くこっちに來いと促うながす。
はぁ……と小さくため息を吐き、何も言わずにアルマと向かい合うようにして寢転がった。
「……そう言えば……キョーガ、1つ聞きたいんですけどぉ」
「なんだァ?」
「あの褐ロリは……異端児なんですぅ?」
意図のわからぬアルマの質問。
そう言えば、シャルアーラは自分の事を異端児と言っていた。
その事を思い出し、アルマの問い掛けを頷いて肯定する。
「あァ。なんかそれっぽい事ォ言ってたなァ……それがどうかしたかァ?」
「……いえ……ただの確認ですよぉ」
「んっだよオイ。なんかあんのかァ?」
「え?……あ、キョーガは異世界から來たんでしたねぇ。それじゃあ、あの褐ロリが言ってた異端児の意味も知らないですかぁ……」
キョーガのに顔を埋めながら、アルマが説明を始める。
「『地霊ドワーフ』は普通、『魔法の才』を持・た・な・い・種族なんですよぉ。それでも、數十年に一度、『魔法の才』を持って生まれてしまう『地霊ドワーフ』がいるらしいんですぅ。その子の事を、軽蔑と差別の意味を込めて『異端児』と呼ぶんですぅ」
「……って事ァ……シャルは『魔法の才』を持ってるってことかァ?」
「おそらく、そのはずですよぉ」
「けどよォ、アイツが魔法使ってる所なんざァ見た事ねェぞォ?」
「隠してるんじゃないですぅ?」
隠す理由がわからないのだが。
そもそも、本當にシャルアーラが『魔法の才』を持っているのか疑わしい。
本當に魔法が使えるのなら……『忌箱パンドラ』の迷宮の時、なんで何もしなかった?
ただ怯えるだけではなく、しだけでも戦う事ができたんじゃないか?
「……隠してるってのァ、なんか理由があるのかァ?」
「それをボクに聞かれましてもぉ……考えられる理由と言えば、使うと周りを巻き込んでしまう魔法、とかですかねぇ」
「周りを巻き込む魔法だとォ?」
「はいぃ。威力が強すぎて仲間にまで被害を出してしまう魔法……『発魔法』や『破滅魔法』、ボクのお祖父さんが使っていた『毒魔法』とかですよぉ」
「あー……おめェのじいさんが使ってた『毒魔法』かァ……確かにありゃァ危険だよなァ」
アルマの説明を聞いて、キョーガが納得したように頷いた。
「……もしくは……ボクたちに知られると、何か困る事でもあるのか……ですぅ」
「魔法が知られて困る事なんざあるかァ?」
「うーん……ちょっと思い付かないですけどぉ」
「……まァ、言いたくねェ事を無理矢理聞く趣味はねェからなァ。アイツが自分から言わねェって事ァ、なんか理由があるんだろォ」
「優しいキョーガ、素敵ですよぉ」
―――この時のキョーガとアルマは、後に後悔する事になる。
シャルアーラの『魔法の才』を、無理矢理にでも聞き出さなかった事を。シャルアーラ・オルオンという存在を、過小評価しすぎていた事を。
もちろん、そんな事を今のキョーガたちが知るはずもなく。
今日も、平和な睡眠に意識を預けた。
―――――――――――――――――――――――――
「―――『全能神ゼウス』様」
「……『伝令神ヘルメス』か……何用だ?」
「4度目の『神殺し』がされました」
「……なんだと?」
玉座に座る、神々しい男。
背中から生えている8対の羽や、中に刻まれている白い紋様を見る限り……かなりの力を持つ男だとわかる。
「……それで?殺された『神族デウスロード』は誰だ?まさか『十二神』の誰かではないよな?」
「はい。殺されたのは『忌箱パンドラ』です」
「………………あの最弱か……それで、殺した者は何者だ?『紅眼吸鬼ヴァンパイア・ロード』か?それとも……あの忌まわしき『始祖巨人ユミル』か?」
「いえ……『反逆霊鬼リベリオン』です」
淡い青の髪を揺らしながら、小柄の年が頭を下げる。
―――直後。辺りを殺気が覆った。
神々しい男のから、空間が軋むほどの殺気が溢れ出している。
「……確かなのか?」
「はい……先日、『紅眼吸鬼ヴァンパイア・ロード』のミロード・エクスプロードが、何者かによって瀕死の狀態に追い込まれていました。おそらく、それも『反逆霊鬼リベリオン』の仕業かと」
「そうか……」
「『反逆霊鬼リベリオン』が現れたと知り、『魔帝王ノーライフキング』もきを見せています……どうしますか?」
「『十二神』を集めるぞ。『魔帝王ノーライフキング』に先を越されるな。『反逆霊鬼リベリオン』は我々が殺す」
そう言って、神々しい男が手を鳴らした。
―――瞬間。男の座る玉座の回りに、12人の男が現れた。
「『全能神ゼウス』様。どうされましたか?」
「私たち『十二神』を集めるなんて……急事態ですか?」
「急事態だ……4度目の『神殺し』がされた」
男の言葉に、12人の男が表を引き締める。
「誰ッスか、殺されたザコは」
「『忌箱パンドラ』だ」
「あー……『忌箱パンドラ』ッスか。まあ、あのザコならいつ殺されてもおかしくないッスからね」
「ヘラヘラしている場合じゃないわ……由々しき事態よ」
「……『全能神ゼウス』様。4度目の『神殺し』をした者の名前は?」
「『伝令神ヘルメス』が言うには……『反逆霊鬼リベリオン』らしい」
ざわっと。
12人の男が一気にざわめき立った。
「……『鍛治神ヘパイストス』、お前は何も知らんのか?」
「俺は何も知らん……過去に関わったのは、オルヴェルグという『反逆霊鬼リベリオン』だけだ」
神々しい男の問い掛けに、白いひげを長くばした男が首を橫に振った。
「そうか……まあいい。『十二神』に選ばれし12人の『神族デウスロード』よ。お前らに任務を與える」
玉座から立ち上がり、神々しい男が獰猛に笑みを浮かべながら続けた。
「あちら側の世界に干渉し、『反逆霊鬼リベリオン』を殺せ。ただし、殺しに行って逆に殺される、なんてふざけた事だけは許さん……いいな?」
「「「「「はっ!」」」」」
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