《不良の俺、異世界で召喚獣になる》5章5話

「―――かっ、はァ……?!」

「目が覚めましたみたいですねぇ……どうですぅ?変な所とかないですぅ?」

ほんのりと明るい夜空。おそらく、夜が明けようとしているのだろう。

キョーガはアルマに膝枕された狀態で、爽やかな風が吹き抜ける野原に寢転がっていた。

「俺ァ……どうなったんだァ……?」

「一応手加減したんですけどぉ……死んでなくて良かったですよぉ」

心底ホッとしたように肩を落とし、キョーガの前髪を優しい手付きで弄る。

―――俺は……どうなった?

アルマが『紅眼吸鬼ヴァンパイア・ロード』に変して、角のを蒼に変えた所までは覚えている……だが、それ以降の記憶が所々飛んでいる。

辛うじて覚えているのは……世界が紅に染まった事だけだ。

「はぁ……昨日の夜から家に戻っていないから、ご主人様に怒られちゃいますよぉ」

「あァ……そうだなァ……」

『蒼角』のせいでがダルいが、文句は言ってられない。

痛むを無理に起こし、キョーガは『プロキシニア』の外壁に目を向けた。

「……はァ、帰るかァ……クソッ、リリアナに怒られんのが一番きちィなァ……」

「ですねぇ……まあでも、ボクも一緒ですから大丈夫ですよぉ」

「何が大丈夫なのかわかんねェがァ……まァいいやァ。とりあえず帰ろうぜェ」

これから怒られる未來を想像しながら、キョーガとアルマは重い足取りで家を目指した。

―――――――――――――――――――――――――

「もう!これで2度目ですよ?!私の言った事、ちゃんとわかってますか?!」

「悪わりィ……」

「ま、まあまあご主人様、ちょっと落ち著いて―――」

「何を言ってるんですかアルマさんもですよ?!」

「……はいぃ……すみませんでしたぁ……」

帰ってきたキョーガとアルマに、リリアナが怒聲を浴びせる。

「まったく……本當にまったくですよ!」

キョーガたちが怒られている様子が面白いのか、リリアナの後ろでサリスがケラケラと笑っている。

そんなサリスを睨み―――余所見している事に気づいたのか、リリアナがキョーガの顔を摑んで正面を向かせた。

「キョーガさん! 今は私と話してるんですよ?! どこ見てるんですか?!」

「いやだってサリスがよォ……」

「サリスさんは関係ありません! いいですか?! そもそもキョーガさんは―――」

「【挨拶】 みんな、おはよう」

機械的な聲と共に、マリーが階段から降りてくる。

「【質問】 シャルアーラはいないか?」

「マリーちゃん、おはようございます。シャルアーラさんは……見かけてないですよ?」

「なんだマリー、一緒じゃねェのかァ?」

「【肯定】 いつも通り朝の調節を頼もうと思っていたのだが……」

ここにいないという事は、『サモンワールド』にでも行っているのだろう。

その場にいる全員がそう思い、特に気にした様子もない。

再びリリアナが表を怒りに変え、キョーガとアルマを叱りつける―――直前、玄関の扉が開けられた。

そこから現れたのは―――シャルアーラだった。

「【発見】 どこに行っていたんだシャルアーラ。早く當機の調整を―――」

「やあ二日連続で申し訳ない」

「がっ、學院長?!ど、どうされたんですか?!」

勢いよく椅子から立ち上がり、驚きに目を剝く。

「……シャルゥ、どこに行っていたんだァ?」

「朝空を見ていたであります。そしたらこの雑草使いがやって來たのでありますよ」

「雑草使いとは辛辣な言い方だね。まあ『森霊エルフ』と『地霊ドワーフ』の仲は知っているから、何も言わないけどね」

おどけたように肩を竦すくめるシエラが、しく長い薄緑の髪を揺らしながら室に足を踏みれる。

「……おめェが來たって事ァ、まさかァ……」

「うん―――『ギアトニクス』に魔の大群が迫っているらしい。すぐに出発しよう」

「え、え?も、もう『魔の波』が?」

慌てるリリアナとは逆に、キョーガたちは不敵な笑みを浮かべた。

そんなキョーガたちの表を見て、シエラ手を掲げ―――

「おいで、『森霊エルフ』のセレーネ」

カッと、室が眩いに包まれる。

が晴れた時、そこにはしい金髪のが立っていた。

「セレーネ、早速で悪いんだけど、この場にいる全員をこの前行った國に転移させてくれないかな?」

「わかったわ。『空間転移ムーヴ・ポイント』」

―――――――――――――――――――――――――

「……はァ……これ便利だなァ」

眼前の景が一瞬で切り替わる。

リリアナの家から、復興途中の『ギアトニクス』の口へ。

キョーガが々に吹き飛ばした石の門がそのままになっており……前來た時と、そんなに変わったとは思えない。

「……人がいねェなァ……」

「『魔の波』が來た時は、あの建に避難するように決めていたらしいからね。私たちも、あそこに行くとしよう」

「チッ……めんどくせェなァ……」

先導するシエラに続き、キョーガたちが『ギアトニクス』に足を踏みれる。

そのまま真っ直ぐ『ギアトニクス』の中央にそびえ立つ建に向かい―――その道中で、鎧にを包んだ男たちを見つけた。

おそらく、『帝國』の人間だろう。キョーガには遠く及ばないが、それでもかなり鍛えられているのがわかる。

「……キョーガさん?行きますよ?」

「あァ……わかってらァ……」

騎士の男たちと、目が合った。

そう、目が合ったのはキョーガだ。なのに、男たちはすぐにキョーガから目を外し―――リリアナたちに目を向け、下卑た笑みを浮かべたのだ。

今は考えても仕方がない―――男たちから目を逸らし、リリアナの後を追いかけた。

「……あはっ♪や〜なじ〜♪」

「あァ?」

「あの男たちだよっ♪気悪い視線を向けられて、思わず殺したくなっちゃったよ〜♪」

どうやらサリスも、男たちの視線をじていたらしい。おそらく、アルマやマリーもじただろう。

―――敵は『魔の波』だけではない。

一層気を引き締めた所で、建に著いた。

の四角い建だ。中なら多くの人の気配がする。ここに避難しているのだろう。

「……さて。リリアナ、君はどうする?」

「えっ、え?何がですか?」

「君も共に戦うのか、それともここに殘るのか……どちらだい?」

シエラの言葉に―――リリアナは、悔しそうに口を開いた。

「……私が付いて行っても、足手まといにしかなりませんから……私はここに殘ります」

無理に笑みを浮かべるリリアナ。

何とも言えない気持ちになったキョーガは―――とりあえず、リリアナの頬を引っ張った。

「んな面すんじゃねェ。おめェは俺らの召喚士なんだァ。堂々としてェ、俺らが帰ってくるのを待ってろよォ」

「キョーガさん……はい。キョーガさんたちを信じて、ここで待ってます」

ようやく普通に笑ったリリアナの頬から手を離し、キョーガはアルマに目を向けた。

「アルマァ。おめェはリリアナと一緒にいろォ」

「まぁ、別にいいですけどぉ……理由を聞いてもいいですぅ?」

「今は太が出てっからァ、おめェの力が制限されるだろうがァ。それにィ―――敵が魔だけとは限らねェ」

「……『帝國』、ですねぇ?」

「あァ。だからァ……リリアナの事は任せるぞォ」

「わかりましたよぉ」

リリアナとシエラと共に建の中にって行くアルマ―――と、非戦闘員であるはずのシャルアーラが、なかなか中にろうとしない。

「シャルゥ?おめェはどうすんだァ?」

「はっ。自分も戦うであります」

「……おめェ、戦えんのかァ?」

「あ、毆る蹴るの戦うではなくて、避難導をしたり、まだ避難できていない人を探したり……自分も一応『最上級召喚獣』で、リリアナ殿の召喚獣であります。召喚獣であるキョーガ殿たちが戦うのであれば……自分も、できる事をするであります」

そこまで言うのなら、キョーガはもう止めはしない。

グリグリと暴にシャルアーラの頭をで、キョーガがこの場に殘った者たちを見回した。

「……さァ、戦やってやろうかァ」

「あは〜♪ま、死なない程度にね〜♪」

「【報告】 『ギアトニクス』周辺に、大量の気配を知。おそらくモンスターだと推測」

「が、頑張るであります!自分だって、やる時はやるんであります!」

「……シエラの命令だから、仕方がないわね」

それぞれ言葉を言い殘し―――キョーガたちが散開。

唯一、シャルアーラだけが置いて行かれていたが……それについては誰も何も言わず。

―――『ギアトニクス』防衛戦が始まった。

―――――――――――――――――――――――――

「―――エリザベス様。モンスターの群れが『ギアトニクス』周辺に現れたようです」

避難所の裏。キョーガたちがいた方とは反対側。

そこに、數十人の騎士と、しいが立っていた。

「そうですか……聞きなさい、『プロキシニア』の勇敢な騎士たちよっ!」

突然の大聲に、騎士たちの視線がに集中した。

全員の視線が集まるのを確認し、は大聲で続ける。

「私たちの任務は、『魔の波』から『ギアトニクス』を守る事です!私たち以外にも、『帝國』の騎士たちが來ているようですが……あなたたちが『帝國』の騎士に劣っているとは思いません!実力主義の『帝國』に、私たちの力を見せつけてやりましょう!」

「「「「「「おおっ!」」」」」」

空気を震わせるほどの返事を聞き、は腰に下げていた剣を抜いた。

「さあ、行きましょう!私たちの力を、『帝國』に、『ギアトニクス』に―――世界に知らしめるのですッ!」

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