《《完結》待されてる奴隷を救った、異世界最強の龍騎士》第35話「クラウス・ヒューリーⅢ」

まぁ、落ちつけ――と父は続けた。

「聞いたところによると、この奴隷はまだソトロフ男爵の所有だそうだ。つまり、シラカミリュウイチロウは他人の奴隷を盜んだのだ」

「それで?」

盜んだわけではない。

保護したのだ。

そんなこと容易に推察できた。

「この奴隷がここにあるということは、そのうち、シラカミリュウイチロウはここに助けに來るはずだ」

「ええ」

彼なら來るだろうと思った。

「そこで、私はスクラトア君からこの奴隷を買いうけて、保護していたことにする。ついでに所有権を彼に渡そうではないか。つまり、彼に貸しを作ったようにするわけだ。溫じた彼は、我がヒューリー家に頭こうべを垂れるというわけだよ」

父は得意気に語った。

それを聞いて、抱いた想は――。

(腐ってやがる)

要するに、マッチポンプをしようと言っているのだ。

「そ、そんなことのために、外燈のチューブを切ったのですか? 貧民街にはクロエイが出沒していたんですよッ」

「なに、貧民街などどうなろうと知ったことか。それに、あまり騒ぎが大きくなるようであれば、兵士をよこすつもりであった」

「この奴隷のことは、ホントウに保護するんでしょうね?」

「保護したと言っておけば良い。死なない程度にはソトロフ家の子息の好きなようにやらせてやろうではないか。勝手に飼い主から逃げ出した奴隷を、ただ保護するわけにもいかんだろう」

「そうですよ。それではこのオレのメンツが潰れてしまいますからね」

そう言って、スクラトアがベルのワキバラを蹴り上げた。

ベルはまだ意識があるようだ。

「ううっ」

と、うめいている。

見ていられない。

「保護するのなら、せめて今ここで保護するべきでしょうッ。これ以上やると死んでしまいますッ」

ベルを保護しておく。シラカミリュウイチロウは救助に來るだろう。そのとき、すべて話してベルを差しだせば良い。

友人が大切にしていた奴隷を半殺しにしてしまった。クラウスはもう顔向けできる気がしない。友人を騙してヒューリー家に招きれるなど、もっての他だ。

「バカ者ッ」

と、父が吠えた。

「バカはどちらですか。もしこれで、この奴隷が死んでしまったらどうするんですか。シラカミリュウイチロウは怒りますよ」

「死んだら、保護したけど間に合わなかったと言っておこう。それでも、所有権を渡せば恩は売れる。それに、ちゃんと詫びの品は用意してある」

父は自信満々に鼻息を荒げた。

「詫びの品?」

「これだ」

父がテーブルの上に《影銃―タイプ0》を置いた。父の蔵の品だ。これを差しだしてもシラカミリュウチロウがしいのだろう。この武はたしかに優秀だ。けれど、の消費量が激しすぎる。使いならない。

それに――。

品なんかより、人の命のほうが重い」

ベルの命の代用品になるとは思えなかった。

「たかが奴隷だろうが。侯爵の息子だというのに、これじゃあ、ソトロフ男爵の子息のほうが、いくらか分りが良い」

父は、あきれるように頭かぶり振った。

「いえ。そんなことはありませんよ」

と、スクラトアは薄笑いを浮かべながら、ベルの顔を土足で踏みにじっていた。

毆りかかりそうになった。

しかし、出來なかった。

クラウスはふと自分の手のひらを見つめた。自分の手が、ありえないぐらい黒くなっていたのだ。

「こ、これは――」

間欠泉のように、恐怖が吹き上げてきた。

さっきの貧民街でクロエイとやり合った。そのときに影を食われてしまったに違いない。暗黒病にかかっている。あわてて、黒く染まってゆく手を隠した。

「どうした。クラウス」

と、父は怪訝な表をしてみせた。

「ち、父上……。オレは昔から父上のようなやり方が嫌いでした。貴族なんかみんな腐ってやがる。命はみんな平等でなければならない」

「お前は、いつまでたっても子供だな。理想と現実の區別もつかんか」

「父上。オレはシラカミリュウイチロウと友人になりました。彼と背中を合わせてクロエイと戦ったのです」

「ほぉッ。個人的なコネクションを築いたのか」

「しかし、こんなことをしてしまった以上、もう彼に顔向けできない。せめて、父上だけはこのオレの手で」

自分のカラダが、黒に呑み込まれてゆくのがわかった。理のあるうちに、ナイフを抜きはらった。父の腹にナイフを刺しこむ。を貫くが、手に伝わってきた。

「ク、クラウス。狂ったかッ」

「狂っているのは。あ、あなたのほうです」

もうダメだ。

あの奴隷を助けることは出來ない。友人にたいして謝罪の念を抱く。しかしそのも暗黒に塗りつぶされてゆく。クラウスの意識は、完全に闇に落ちていった。

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