《《完結》待されてる奴隷を救った、異世界最強の龍騎士》第37話「都市の騒

龍一郎は娼館の場所を知らない。フィルリア姫が案してくれるなら、ありがたい。宿を出て、グランドリオンの口である城門棟へと向かった。城門棟には衛兵の姿がなかった。

「勝手に通っても良いんですかね」

「いや、そんなはずはないと思うが――」

そう言いつつも、フィルリア姫は城門棟のトンネルをくぐった。トンネルの中は明かりが強く燈されている。

トンネルを抜けると、喧騒が聞こえてきた。すれ違うようにいくつもの《車》が城門棟から出て行った。走ってくる人も大勢いる。あやうく雑踏に押し流されそうになった。奔流ほんりゅうに呑まれないように、道のわきにどいた。

「何かあったんでしょうか」

「クロエイが出たか」

正面。

がどんどんと失われている。闇がすこしずつその領域を広めているように見えた。

明かりを燈すには、を使う必要がある。そのを供給する人が逃げていくことで、すこしずつ明かりが消えていっているのだ。

「すまないが、君の連れを探しているどころではないようだな」

「そう……みたいですね」

ベルもこの闇に呑まれているかもしれない。あるいはもう、クロエイになっている可能だって大きい。

「私はマチス侯爵救出のために、領主館に向かう。腐っても貴族だ。助けに行かなくてはなるまい」

「オレも一緒に行きます」

もしかすると道中で、ベルを見つけられるかもしれない。

「わかった。君が一緒に來てくれると心強い」

お待ちください――と聲をかけて來る兵士たちが數人いた。フィルリア姫のお供の兵士たちだ。

「今、領主館に向かうのは危険です。フィルリア姫のにもしものことがあったら――」

案ずるなッ――とフィルリア姫はとは思えない大喝を放った。

「私はクロエイに影を食われても、暗黒病にかかることはない。特別なを持っていることは知っていよう。何も心配することはない。それよりもお前たちは、貧民街の者たちを避難させよ」

「し、しかしッ」

「このままでは、グランドリオンが闇に呑み込まれる。せめて民だけでも救わねばなるまい。これは第三王としての命令だ。お前たちは貧民街の者たちを避難させよ」

命令とあらば、仕方がないのかもしれない。

兵士たちはしぶしぶ承諾していた。

兵士たちは貧民街のほうへと引き返していった。

「さて、リュウイチロウよ」

「はい」

この世界の言語は、龍神族のによって翻訳されて龍一郎の耳に屆いている。だが、なぜか龍一郎の名前だけは、妙な発音で聞こえた。たしかにこの世界の人たちの名前とは、大きくかけ離れている。

「私を援護してくれ」

「わかりました」

フィルリア姫は剣を抜いた。クラウスが使っていたような大剣ではない。非常に細の剣だ。いわゆるレイピアだ。

ただのレイピアではなくて、ちゃんとチューブがびている。《吸剣》の一種なのだろう。そのチューブをフィルリア姫はみずからの腕に刺しこんでいた。

「私はクロエイに噛まれても、暗黒病にかかることはない。援護してくれとは言ったが、私のよりもまずは、君自を優先せよ」

「龍神族はクロエイに噛まれても、暗黒病にかからないんですか」

尋ねると、フィルリア姫は頭かぶり振った。

「これは私特有のチカラだ。龍神族と言われる者は、そのに何か特別なチカラを宿している。12龍神族はみんな、獨特なチカラを持っているよ」

たしか以前に、ベルがそんなことを言っていた気がする。

(オレも龍神族だとすると、何か特別なチカラがあるんだろうか)

自分の手のひらを見つめてみた。

いや。

龍一郎は、その手で雨に濡れた前髪をかきあげた。

自分がまだ龍神族だと決まったわけではない。油斷していて、暗黒病にかかったら目も當てられない。

「行くぞ」

闇に挑むようにフィルリア姫は、ストリートを疾走する。遅れをとるまいと龍一郎も追いかけた。

闇の境界線を前にフィルリア姫は一度、足を止めた。

「ここからは出來るだけ、音をたてずに進むぞ。クロエイは音に反応するからな。君と私ならば、クロエイに嗅ぎ付けられる心配もない」

質値の低いわれるんでしたよね」

「そうだ」

すると、クロエイたちの集まる場所に、ベルがいるという可能もあるわけだ。

そんな話をしている間に、また1つ明かりが消えた。龍一郎とフィルリア姫は闇に呑まれたのだった。

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