《《完結》待されてる奴隷を救った、異世界最強の龍騎士》第38話「領主館へ」

フィルリア姫は剣を抜きのまま、ユックリと歩いていた。この雨音は多の足音を消してくれるはずだ。

正面には領主館が見えるが、おぞましい景が広がっていた。

ストリートにひしめくようにクロエイたちが群れをなしていたのだ。

2種類のクロエイがいた。

1種は龍一郎もよく知っている闇が形をなしたクロエイだ。もう1種類は、顔のあるクロエイだった。

「あれは――」

「見るのははじめてか? もともと人間だったものが、暗黒病にかかってクロエイになった姿だ」

カラダそのものはクロエイと同じなのだが、顔だけは人の顔なのだ。中途半端に人間である分、よりいっそう怪じみて見えた。

もし、影を食われたら自分もああなるのかと思うと、龍一郎はカラダを震わせずにはいられなかった。いくら質の高いを示しているとはいえ、影を食われたら終わりなのだ。

「このストリートを突っ切るのはさすがにが持たん。他の道を探そう」

「はい」

裏路地を通ることになった。裏路地も暗いことに変わりはないが、ストリートほどクロエイにあふれてはいなかった。

「どうしてストリートにクロエイが、あんなにあふれてるんでしょうか」

「領主館が原因だろう」

領主館には奴隷がたくさんいる。そのにクロエイたちが惹きつけられているとのことだった。

「クロエイって、別にを吸ってくるわけじゃないですよね。なのに、に臭いにわれるって、あらためて考えてみると妙じゃないですか?」

「クロエイというのは、この地に眠る龍の怨念だからな。龍はを求めるものだ。おそらく、そのあたりの経緯が関係しているのだろう」

「なるほど」

「しッ」

フィルリア姫は鼻に人さし指を當てて、壁に背を張り付けた。

すぐ目の前は十字路になっていた。クロエイがおもむろに橫切っていくところだった。クロエイが立ち去ったのを確認して、ふたたび歩を進めた。

「この道を抜ければ、領主館の裏口に通じている。しかし――」

と、フィルリア姫が目配せした。

クロエイが3匹。

たたずんでいた。

く様子はない。

「あれを倒さないと進めないわけですか」

「退いてくれるのを待つのが良いのだが、暗闇で長居しているのは得策ではないからな」

龍一郎たちが通ってきた道を振り返ると、すでにクロエイが沸きはじめていた。

「3匹程度なら、オレが処理します」

「しかし、音が生じる。周囲にいるクロエイたちが一斉に襲いかかってくるはずだ。私が処理するから、君は全力で私の後ろについて來い。いっきに領主館に突っ込むぞ」

「わかりました」

フィルリア姫はをかがめて疾駆した。それに気づいた3匹のクロエイが、「キェェェェ」と耳障りな聲で鳴いた。

フィルリア姫に踴りかかる。真正面から迎え撃とうとしたクロエイは、あっけなくレイピアに突き殺された。たちまち泥のように溶けてゆく。

2匹目はクモのように壁をつたい、フィルリア姫に跳びかかった。それも容易く突き殺す。

最後の1匹は大きく跳躍して、フィルリア姫の頭上に落ちてきた。その3匹目に関しては、龍一郎にも援護できそうだった。

影銃》を構える。照準を合わせて、トリガーを引き絞った。の弾丸が、クロエイを貫いた。

「よし。行くぞ」

「はい」

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