《《完結》待されてる奴隷を救った、異世界最強の龍騎士》第45話「フィルリア・フィルデルン第三王

フィルリア・フィルデルンには、いころの記憶がない。

気づくとレオーネという世界に足をつけていた。

龍神族にはみんな、同じようなことがあるらしい。

たとえば、記憶に欠落があったり、知識に偏りがあったり、常識を持ち合わせていなかったり……。

ただ、フィルリアの記憶には、龍が飛びまわる景が薄っすらと殘っていた。そこから、古代人なのではないかなどと言われたりもした。

(私と同じ、龍神族か)

そう思って、目の前の青年の背中を見つめた。同じ龍神族というだけで、親近が沸く。それにフィルリアにとって、非常に好印象の青年だった。

この世界の人間は、質値の高低によって人の価値を決める。高いものは崇められて、低い者は蔑まれる傾向が非常に強い。

國王に気に要られて第三王の地位につけたのも、フィルリアの質値が高かったためだ。

その価値観に、フィルリアは賛同できなかった。みずからの質値を振りかざすことも、他人を見下すことも、あまり気持が良いこととは思えなかった。

今まで専屬の騎士を選ばなかったのも、それが原因だ。王の騎士になるような人は、もちろん質値が高いことが條件となる。しかし、質値が高い人間であればあるほど、他人を見下す傾向が強かった。

(この青年であれば)

騎士にしても良いかと思う。

とりあえず今は、部屋にってきたクロエイを処理しなければならない。そう思ったやさき――。

BANG!

リュウイチロウの《影銃》が、を吹いた。

から拡散するように放たれた、の弾丸は2匹のクロエイに浴びせられた。考えていた以上のを噴出しており、部屋の壁面が真っ赤に染まっていた。

「キェェェッ」

クロエイが斷末魔の聲をあげた。

闇のがされて、スクラトアとマチス侯爵の生首がゴロンと転がり落ちた。

「一撃だと……」

これにはフィルリアも驚愕を覚えた。

スクラトアはともかく、マチス侯爵の質値は王族の者に薄する數値を誇っていたはずだ。

順當に行くと、公爵の爵位を與えられていたはずの人だ。そのマチス侯爵のクロエイは尋常ではない強さを誇っているはずだった。

いや。

リュウイチロウの質値は200だ。質計が200までしか計れないようになっている。200以上という可能だって考えられる。

そんな人が放った弾丸だ。一撃で仕留めることが出來るのはトウゼンと言えば、トウゼンだ。

しかも、ただの《影銃》ではない。一度に大量のを噴出するシロモノだ。

「すばらしいな」

フィルリア姫からは、リュウイチロウの背中が見えていた。

その背中は決して大きなものではなかった。けれど、我がをあずけても良いと思えるほどには、たくましいものだった。

「この銃のおかげです。オレはホントウにが減らないみたいですし、オレにピッタリの銃です」

リュウイチロウはそう言って、銃をナでていた。

フィルリアは、そんなリュウイチロウに見惚れた。

質値は1流、度もある。正義も強い。奴隷を見下すようなことはない。むしろ、奴隷に本気で惚れているがある。《影銃》の扱いはまだ未な面があるが、後々教えていけば良い。

自分の騎士に申し分ない。

むしろ、これ以上ないほどの逸材だ。

「君の実力はスバラシイものだ。ちゃんと武の扱いを覚えれば、きっと王國隨一の騎士になれるだろう」

「そうですかね」

照れるように後頭部をかいている。

華のある顔立ちではない。いかにも庶民といった容姿だが、ブ男というわけでもない。人を見下すような腐臭漂う貴族どもに比べたら、充分魅力的だった。

「さきほど一度、おいしたが、ぜひともこの私の専屬騎士になってもらいたい」

しばらくリュウイチロウは考えてくれたようだ。

しかし――。

「せっかくですけど、お斷りさせていただきます」

「私では不満か?」

「いえ。そういうわけではないです。フィルリア姫はすごく良い人だと思います。見た目もすごく……その、人ですし」

フィルリアは人だと言われ慣れている。近寄ってくる男どもは、たいていそう言ってくる。

お世辭だったり、妙に粘著質な視線を投げかけられたとしても、その言葉は嬉しいものだ。が、今更、恥じらうようなことはない。ない――はずだった。が、心臓が軽く跳躍するような覚をおぼえた。

今日1日とはいえ、ともに戦って背中をあずけた。その経験から、フィルリアとリュウイチロウの心の距離が、グッと近くなっているようだった。

「まぁ、私の容姿をホめてくる男は多い」

照れ隠しにそう言った。

「ええ。ですが、専屬騎士になったら、オレはフィルリア姫を護衛したり、兵士として闘ったりするわけでしょう」

「ああ」

訓練を積ませたいと、個人的にも思っている。

この男は、訓練しだいで化ける。

確信がある。

「ベルを放ったらかしには出來ませんから」

「……そうか」

チューブにつながされているに目をやる。あんな痩せこけて、傷だらけののどこが良いのか――と一瞬だけだったが、暗い気持を抱いてしまった。

フィルリアとて人間だ。この憎悪は、人を見下すときに発生するものではない。

純粋な、嫉妬だ。

「また、気が変わったら連絡をくれ。ゼルン王國第三王當てに手紙を出してくれれば、私のもとに屆く」

「はい。おいありがとうございました」

「私はまだ、諦めたわけではない」

々たる外の闇に、ほんのりと明かりを見出した。黒雲が開かれて、月明かりを落としはじめていた。6つの月が、闇を払拭していく。

「雨、あがったみたいですね」

「暁だ。この程度の明かりでは、クロエイを追い払うことは出來ないが、とはいえ、きは沈靜化するはずだからな」

戦いはまだ終わっていない。

夜明けまで籠城戦だ。

しかし、フィルリアはそこまで深刻には考えていなかった。《影銃―タイプ0》を構えているリュウイチロウの姿が、頼もしく見えていたからだ。

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