《《完結》待されてる奴隷を救った、異世界最強の龍騎士》第51話「フィルリア姫の頼み」

領主館。

クロエイに襲われた騒がウソみたいに整然としていた。クロエイに襲われたときは、壁やら家やらが壊されていたはずだ。すべて片付いている。

領主館のホールは吹き抜けになっていた。1階から2階を見ることができた。2階からは、フィルリア姫がのぞきこんでいた。

「どうも」

と、龍一郎は會釈した。

フィルリア姫は微笑みを浮かべて、階段を下りてきた。

ホントウにしい人だ。

こんなにしい人を、龍一郎は地球では、見たことがなかった。プラチナブロンドの髪を、ロングボブにしていて、前髪を切りそろえている。目鼻立ちがハッキリしているので、華やかさが際立っている。

この人のダンナになる男はいったいどんな男だろうか――想像すらできない。1人の男の手におさまりきる貌ではない。

ふつうの人というのは人を惹きつけるものだと思うが、あまりにしすぎると逆に気圧されるものをじる。

「待っていたぞ」

と、握手を求めてきた。

にぎりかえした。

とても剣をやっている人の手とは思えない。細くしなやかな指をしている。

「お招きいただき、ありがとうございます。それで、オレに用事というのは?」

「うむ。この都市の後任の領主が、王都のほうで決まったのだ。そろそろ私は王都のほうに戻ろうと思ってな」

「そうでしたか」

「その前に、ひとつリュウイチロウに頼んでおきたいことがある」

「なんです?」

専屬騎士になるという話は、お斷りですよ――と龍一郎は先手を打った。フィルリア姫は、龍一郎を自分の専屬騎士にしようという勧が激しいのだ。

フィルリア姫は苦笑して見せた。

らしい八重歯がのぞく。

「リュウイチロウは、その奴隷の娘が気になっているのだろう。今のところは、諦めるつもりだ」

フィルリア姫がそう言うと、ベルはをこわばらせて、龍一郎の背中に隠れた。どうやらベルは、フィルリア姫が苦手なようだった。

「じゃあ、頼みというのは?」

「北へ行ってしいのだ」

フィルリア姫は急にのような、上目使いを送ってきた。

「そりゃまた、どうしてですか?」

「恥ずかしいことに、このレオーネという世界は、質値によって人の価値が決まってしまう」

と、フィルリア姫は眉間にシワを寄せた。

「ええ」

それは、龍一郎も重々承知している。

「北のセリヌイアという都市は、特に酷くてな。まぁ、都市を治めている領主は、酷い差別主義者だから――というのもあるが、なにやら不穏なきがあるのだ」

「偵察して來いということですか」

「出來れば、げられている者たちのチカラになってやってしい」

どうしようか――と思った。

龍一郎は今のところ、この都市での生活に満足している。生活に困ることは何もない。別の都市に行くとなると、ベルの足のこともある。ベルは待をけていたせいで、ちゃんと歩くことができないのだ。

迷った。

「その北のほうは、フィルリア姫のチカラで何とかならないんですか?」

フィルリア姫は、沈鬱な表でかぶりをふった。

髪が揺れ、花のような香りが散る。

「私は第三王ということもあり、しかも養だ。権力は非常に小さい。〝純派〟の権力のほうがよほど大きい」

「なんですか、それ?」

「政治的な問題だ。差別主義を肯定する貴族たちの派閥だよ。北のセリヌイアの領主も、〝純派〟のひとりだ」

政治に関しては、まだ異世界経験が淺いということもあって、よくわからない。

「はぁ」

と、あいまいな返答をした。

ふいに、フィルリア姫は、龍一郎の頬に手をあてがってきた。なんのためらいもない、挙だった。このしい人の指が、自分の頬に當てられているのだと意識すると、張をおぼえた。

その張が伝わったかのように、ベルのしがみついてくるチカラが強まった。

「私は君を信用している。この世界で、質値にこだわらずに人を見るという考え方ができるのは、非常に稀だ。げられている人間がたくさんいる。私は、そういった者たちを救いたいと考えている」

「ええ」

それはもちろんだ。

この世界には、第2、第3のベルがいることだろう。

この都市でクロエイとなり、死んでいったクラウス・ヒューリーのことが思い出される。

彼もまた、この世界を変えたいのだと主張していた。クラウスの意見は理想論であり、龍一郎の意見とはすこし違っていた。それでも友の意思は、ちゃんと継いでいきたいとは思っている。

「私は龍神族だが、第三王ということもあり、自分のかせる部下が非常にないのだ。國王は、私を常に手元に置いておきたがっているしな」

フィルリア姫は龍神族だ。

フィルリア姫のには、暗黒病を治すチカラがある。常に手元に置いておきたがるのは、わかる気もする。

龍一郎は、ベルに目をやった。

「私は大丈夫ですよ」

と、ベルは言った。

結局、フィルリア姫の頼みを斷りきれず、龍一郎とベルは北のセリヌイアという都市へ行くことになった。

フィルリア姫が、2人分の通行手形を書いてくれた。

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