《《完結》待されてる奴隷を救った、異世界最強の龍騎士》113話「サディ城の手前」

村をいくつか助けて回った。

村の者たちはみんな「我らも戦おう」とヴァルフィに味方をした。質値の低い者を殺そうとしているヒューリマン・サディ現國王に味方をする庶民などいるはずがない。

龍騎士軍に追隨する村の者は300人に達した。これで竜騎士軍はつごう1800人になった。竜騎士軍は敵の弓の程にらぬように、サディ城の手前に陣取った。

城を見てエムールは驚いた。

「木造――なのですね」

城壁も本丸もすべて木造のようだった。

「この森でとれる特別製の樹だ。たしか『スフィラの樹』とか言ったか。耐火能が高くて燃えることがないのだと聞いたことがある」

と、セリオットが応えた。

ときおりヴァルフィが、《車》の屋にのぼって、敵に向けて聲を放っている。

「第一王子ヒューリマン・サディよ。降伏してください。國王を暗殺したあなたを世間は許してはくれませんよ」「民を殺してもクロエイを避けることはできません」「このままでは絶の日はやがて、サディ國を滅ぼします」……などなど。

その言葉がちゃんと相手に聞こえているかはわからない。だが、ヴァルフィの存在はあきらかにサディ城に閉じこもっている相手に揺を與えていた。

先日まで第一王だった人が降伏を訴えかけてくるのだから、揺してしかるべきだ。

「お疲れさまです。なかなか見事なお聲かけでした」

エムールはヴァルフィに水をさしだした。

「ありがとうございます」

と、ヴァルフィは水を飲んだ。

ヴァルフィはリュウイチロウに慣れ慣れしくしていた過去があるので、エムールはあまり好きになれなかった。それに、ふとした拍子に気品が削ぎ落ちて、不気味さが際立つ瞬間があるのだ。

が、本質的に悪意のある人間ではないのだろう――とエムールはじていた。

「ひとつ気になっているのですが」

「なんでしょうか?」

「ヴァルフィさまは、未來から來た龍神族とおっしゃっておられましたが」

「ええ。そうです。私はリュウさまと同じ、龍神族ですよ」

リュウさま、という部分にだけ聲にチカラがこもっていた。

あえて気にしないことにした。

「それではどうして、サディ國の王なのですか? サディ國の王家のを引いているのですか?」

「いいえ。私はサディ國の前國王に養子としてもらわれたのです。ほら、ゼルン王國にも同じようなお人がおられるでしょう」

「フィルリア姫ですか」

「ええ。國王は龍神族を王家に迎えれたいのでしょう。それはトウゼンのことではありませんか?」

フィルリア姫はエムールが尊敬しているだ。一緒にされると釈然としないものをじるが、たしかにその通りだ。

「そうですね」

「だから私は、サディ國の第一王となったのです。サディ國の前國王は子寶には恵まれず、男児がひとりしかいませんでした」

「それが、國王を暗殺したヒューリマン・サディというわけですか」

「はい」

「たしかヴァルフィさまは、己のをもって未來を占うことができるんでしたか?」

「その通りです。しかし今は使えません。私のを注ぐ特がなければ、占うことはできないのです」

あ、とエムールは得心がいった。

サディ國は戦爭経験がとぼしく、小さい國だった。だが、渉や易に関しては非常に強かった。

こんな小國が生き殘ってこられたのは、未來を占うチカラをもった王がいたからなのだろう。

「また何度か、お聲をかけてもらう必要があるかもしれません。聲を休めておいてください」

エムールは引き下がろうとした。

「お待ちください」

と、引きとめられた。

「なんでしょう?」

「今晩は大丈夫でしょうか? このあたりの夜は非常に暗くなります」

「心配は無用。騎士のひとりひとりがランタンを持っておりますので。それにただのランタンではありません。リュウイチロウさまのを使ったランタンです。3日はクロエイを避けることができます」

「まぁ、リュウさまの……」

と、ヴァルフィは顔を赤らめた。

助けられたせいで、一時的にのぼせているだけだろうとエムールは侮った。

(リュウイチロウさまは、無事にやっておられるだろうか)

エムールも、リュウイチロウのことを想った。

彼は領主でおさまるではない。

いずれはフィルリア姫と同じく國を背負う立場につくべき人だ。そのためにリュウイチロウを補佐しようとエムールは心に決めていた。

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