《《完結》待されてる奴隷を救った、異世界最強の龍騎士》115話「飲みくらべ」

龍一郎のもとに騎士がひとり、あわただしく駆けつけてきた。また城下町のほうでモメゴトがあったということだ。

「ガルス男爵が酒場で暴れておりまして」

「わかった。すぐに行こう。案してくれ」

「はッ」

問題が起こっている酒場はセセラギ亭だった。

以前、龍一郎も一度だけお酒を飲ましてもらったことがある。外観から裝まですべて木造で組上げられているバーだ。

切り株のようなイスに、巨木を切りにしたようなテーブルが並べられている。丸太を橫倒しにしたカウンターテーブルをはさんで、マスターとガルス男爵が怒鳴り合っていた。客席でもガルス男爵の騎士と酒場の民がつかみあってケンカしている。

「おい、ケンカは止せ。何があった」

と、龍一郎がる。

すると周囲にいた者たちが、「こいつが悪い」「いいや、こいつが悪いんだ」と一斉に言いつけてきた。聲が重なりあって、何を言っているのかすら判別できなかった。

「事はガルス男爵と、マスターの2人から聞こう。他の者は黙っていてくれ」

酒場はシンと靜まりかえった。

2人の意見を聞いた。

ガルス男爵が無料で酒を飲ませろと言ったということだった。マスターは當然反対した。それが端緒となって庶民とガルス男爵の騎士たちとのケンカに発展したということだ。

「そりゃあ支払いは必要でしょう」

と、龍一郎は言った。

「なぜです。このオレは男爵ですゾ。質値が35。このオレがどうして質値が6だか、7だかといった連中に、を払わなくてはいかんのですかッ」

他の都市では奴隷たちは、無條件に貴族にたいしてをさしだしている。奴隷にたいしてを差し出すという発想ができないのかもしれない。

「しかし、ほかの都市でも店で品を購すると、で支払いをするでしょう」

「外では、ここまで質値の低い者が店を持つことなど、ありはしない!」

「セリヌイアは、質値で人をはかることをしませんから」

諭すように言った。

怒鳴りたいのはヤマヤマだが、ここで龍一郎が怒ったらそれこそ収拾がつかなくなる。

「竜騎士さまにはプライドというはないのですか。これでは貴族の威厳がうしなわれてしまいますゾッ」

良いですか――とガルス男爵は続けた。

「オレはまだ若い竜騎士さまに忠告をしているのですゾ。質値の低い者と同列にいると、セッカクの質も無駄になってしまう。その質値は崇められてしかるべきものです。上下関係をハッキリさせておかなければ、ナめられてしまいますゾ」

そういう考え方もあるのだろう。龍一郎も今まで、いろんな人の意見を聞いているので、ガルス男爵にたいしても多の理解はできる。

「しかしここの酒は味しいとは思いませんか?」

「は? 酒?」

「ええ」

「酒がどうかしたのです?」

と、ガルス男爵は分厚いをゆがめた。

「オレはたしかに高い質値を持っていますが、お酒をつくることも、料理をすることもできません。奴隷や庶民のほうが優れていることもあります」

「しかし、品質の高いがなければ何もできやしませんゾ。火をつけることも、照明をつけることも」

「だからお互いに助け合って生きてゆければ良い、とオレは思うのです」

龍一郎の言葉は〝貴族と庶民や奴隷〟の関係を言っているように聞こえたかもしれない。だが、龍一郎は自分とベルの関係を思い描いて、そう言ったのだった。

「見解の相違ですな」

リュウイチロウさまが正しい――という聲があがる。

いいや、ガルスさまが正しいのだ――という聲が上がる。

ふたたびケンカに発展しようとしていた。

「まあまあ」

空気が再沸騰しようとしているところに、の聲が割り込んだ。後からってきたフィルリア姫の聲だった。

フィルリア姫がひとりやって來るだけで、男くさい酒場がいっきに華やかになった。

「げッ。こ、これはフィルリア第三王さま」

ガルス男爵は平伏していた。

第三王の威は、この高慢ちきな男爵すら頭を下げるようだ。いや。王の肩書きなどなくとも、この貌は人を威圧するだけのチカラがある。

「話は聞かせてもらった。このままではラチが明かん。そこでどうだろうか、ガルス男爵」

「は、なんでございましょう」

「ここは酒場。お互いに言いたいことはあるだろうが、この場は私と飲みくらべて決著をつけないか?」

「ほぉ」

と、ガルス男爵は舌なめずりをした。

「私が勝てば、ガルス男爵から一言、ここのマスターに謝ってもらう。その代わりガルス男爵が勝てば、そっちの要求を何か1つ聞いてやろう」

フィルリア姫がそう言うと、ガルス男爵の凜々しい瞳がキラリとった。

「それではオレが勝てば、フィルリア・フィルデルン第三王。あなたがこのオレのもとに嫁ぐというのはどうでしょう?」

いくらなんでも不相応な條件だ。

しかし、フィルリア姫はうなずいた。

「いいだろう」

ガルス公爵の騎士たちが、へへへ、と下卑た笑いを見せた。厭な予がした。「やめたほうが良いんじゃないですか?」と龍一郎は警告した。だが、フィルリア姫は一歩も引かなかった。

あまり果敢すぎる格も考えものだ。

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