《S級冒険者パーティから追放された幸運な僕、神と出會い最強になる 〜勇者である妹より先に魔王討伐を目指す〜》第25話 『勇者、七大使徒との対峙』
魔の大陸。
大雨により発生した霧に覆われた山脈、魔の大陸の西北を分裂する《ハイミスト山脈》に一瞬の轟音が鳴り響いた。
しかし何事も無かったように、すぐ靜まりかえる。
…………………。
の屆かない殺風景な樹海の奧に潛むように、宮殿のような《大聖堂》が佇んで靜寂に覆われていた。
微かに聞こえる音に耳を澄ませ、近づこうともそこには誰もいない。
中にってみれば、生気を失い枯れてしまった花により飾り付けされた奇妙な祭壇が待ちけていた。
目を離して周囲見渡せば、一見普通の教會と大差がない。
しかし目を凝らしてみせるとそこには、聖地とは思えないほどの殺伐とした景が広がっていた。
祭壇にまで続く支柱により支えられた蓮模様の天井から大理石の床まで、濁ったような真紅の水滴が何度もポタポタと溢れ落ちてきている。
悪臭の漂う天井の方へと目を凝らしながら見上げてみせるとそこには息を飲み込みたくなる程、腐ってしまった首無しの殘骸が無數もロープに巻きつけられて、ぶら下げられて揺れていた。
殘骸には大量のハエがたかり、どのような種族なのかさえも確認できないぐらいにまでに死が腐ってしまっていた。
鼻が曲がってしまいそうな異臭が漂うこの空間に到底好き好んで近づいたりする人はいないだろう。
しかし祭壇の最も近くに設置された椅子に、黒いローブを羽織り角を生やした悪魔のような姿を持ったが床に両膝をつけて、の紋章に手を當てながら深く祈っていた。
「……この世界を創造した神に憎悪があらんこと。どうか我を正しき道に導きあれ、さすれば主の加護が守護してくれるでしょう。ああ、大地が割れ、世界を覆う曇天は紅く……………あら?」
は耳をビクリとかし、言葉を止めた。
この大聖堂に一つしかないであろう扉の方へと気悪い笑みをみせながら振り向く。
するとそこには、強い眼差しを向ける翠の鎧を裝備したが一人立っていた。
「あら、お客さんなのかしら? 結構前からこの拠點はとうに閉鎖した筈。まあ、関係ないようだけど……」
膨大な魔力がめられた青白い結晶のような明の聖剣が力強く、の右手の中に握られていた。
の瞳から見れば、の握りしめた剣は自にとっては酷く忌々しい代當然。
間違ってもれたりはしたくない、自分らにとっては非常に危険な武である。
「どーせ、私を殺しに來たんでしょ?」
「……っ」
の問いに反応して、は微かな作り笑みを見せながら答えた。
「話さなくても分かるんだね。そう、これから私はアンタをブチ殺す予定なの……」
「あらま騒なこと、私たち仲良くできたりはしないのかしら?」
「斷る、そんなこと出來る筈がないじゃないの」
を心底から否定しながらは剣を構え、一歩前へと踏み出し戦闘狀態をみせる。
殺気はない、殺伐とした空気だけが変わらず周囲を漂っていた。
「あら? それは。 そう、わかったわ。貴方がここ最近魔王軍を怯えさせている有名な剣の勇者らしいじゃない。名前は確か……エリーシャちゃんだったかしら?」
はエリーシャを舐め回すかのように眺めながら、その正を口にした。
途端、エリーシャの表から微かな笑みが消えてしまう。
「ふん、そういうアンタこそ、ここ昔から相変わらず獨自のカルト教団を束ねている頭のおかしい魔王軍らしいじゃないの」
「フフ、頭がおかしいだなんてっ、照れるじゃないのぉ!  けど、私を存知ているのなら名前で呼んで頂戴よエリーシャちゃん♪」
「げっ……いやだよ」
「ヤダー冷たいわねぇ。まぁ、これから私に斬られて溫の方がもっと冷たくなる予定だけどねぇ」
「!」
にめがけて走り出そうとまた一歩前に踏み込んだ瞬間、はに手を當てながら丁寧に頭を下げた。
「勇者と殺りあえるだなんて恐よ。この私、主様直屬の部下である【七大使徒《第三使徒》レヴィア・ターナ】が貴方に敬意を稱しましょう」
挑発的な聲でエリーシャを呼びかけ、上目でレヴィアは舐め腐ったような視線を向けた。まるで自分の脅威ではないと言わんばかりの姿勢である。
それでもエリーシャはその程度で油斷したり激したりはしない。
相手は腐っても魔王軍の鋭、正面から迎え撃つなど以ての外だ。
ドサリ。
エリーシャのすぐ目の前の床に何かが落下してきた。
見ると先ほどからずっと天井にぶら下がっていた首の無い死である。
「?」
ロープが外れて、唐突に落下してきたのが生者であればエリーシャならすぐさま反応できる。
しかし降ってきたのが死だったためか、彼であろうと生のない者の気配は一切じられないのだ。
だけど今はそんな事はどうでもいい、目の前の標的だけがエリーシャの標的である。
死に目もくれず、エリーシャは息を整えてから剣を振るおうとしたその直後。
シュッ!!!
背後からの風切り音に耳が反応し、エリーシャは迫り來るなにかを回避しながらバックステップ。
エリーシャは音のした方へと目線を移させた。
「!!」
そこには、大斧を地面にめり込ませる首の無い戦士が両足で立っていた。
床に落下してきた死と同じ、生が一切じられない戦士が今そこにいる。
「…………死んでいるの?」
困するエリーシャに首の無い戦士は大斧を両手で持ち上げ、正面にいるエリーシャに狙いを定める。
バキン!!!
地面を踏み込んだ死の足元に亀裂がり、腐っていたとは到底思えない速さで瞬く間に死はエリーシャとの距離を詰めていた。
大斧の長さは2メートルもあった。
その攻撃範囲にはエリーシャは立っている。
死は大斧を振り絞って、エリーシャにめがけて重々しく振り下ろしてみせた。
「遅いよっ!」
だがエリーシャはそれを難なく余裕で握っていた聖剣で弾いていた。
く死に大きな隙を作らせたエリーシャは、空いた腹部にめがけて聖剣の切っ先を突きつける。
「あら傷を付けちゃうのぉ? それ死だけど元々善良な人間なのよ」
ニコリと笑いながら祭壇の前で観戦しているレヴィアが忠告をしてきた。
「!」
瞬間エリーシャの聖剣が鈍り、同時に聲をかけてきたレヴィアの方へとエリーシャは視線を移させた。
(あれは、っているの?)
レヴィアの微かにく手元を見て、エリーシャは確信したように歯を食いしばってんだ。
「レヴィア! アンタの仕業なのね!!」
「あらら、バレちゃった? 意外と早いのねぇ。このままエリーシャちゃんの戦い方を分析しようかと思ったけど、さすがは勇者様と言うべきかしら」
レヴィアは頰に手を當てながら、仕組みを包み隠そうとせずあっさりと明かしてしまう。
そして片方の手をエリーシャに見せつける。
明に近い糸が無數、10本どころではない。
100本、1000本もの糸がバラバラに何処かへと繋げられていた。
「よそ見はイケないわよぉエリーシャちゃん」
ニコリと笑いながら、レヴィアはかざした手の中指を折った。
瞬時にエリーシャは大斧を武にしている首なしの方へと向き直るが、もう遅かった。
エリーシャの行よりさきに首なしが攻撃を仕掛けてきていた。
青い閃とともに振り下された大斧への対応は間に合わない、そう判斷したエリーシャは何かを小さく口ずさんだ。
すると大斧を持った首なしは突如と強い衝撃をにけ、この大聖堂唯一の扉へと勢いよく吹っ飛び、大柄な死は扉をいとも簡単に破いてしまった。
「あら? それは屬の初級魔法じゃない」
驚いたように言うレヴィアの指に繋がれた糸が10本切れて消滅する。
それを見屆けたレヴィアは自の手を見ながら、なにを思ったのか小さく微笑む。
「やっぱり貴方も一筋縄ではいかないみたいね。指を溫めるためのウォーミングアップだったけど、まさか私のり人形を瞬時に倒しちゃうなんて、お姉さん怖いわよ?」
頭に生えた自の角をいじくりながらそう言うと、レヴィアは突如と手を広げた。
そして引っ張り下ろすような作と同時に天井にぶら下げられていた全ての死のロープが解け始め、地面へと落下してきた。
エリーシャは警戒しながら目線をあらゆる所へと移させ、破かれた扉へとしずつ後ずさりする。
の危険を察知次第いつでも離できる姿勢は重要だ。
師匠のレインが毎回耳にタコが出來てしまうほど、戦闘中に繰り返し忠告してくるめエリーシャは無意識にそれを行してしまっていた。
「もう、そんな警戒していたらつまらないじゃない? まあ、特別に仕組みを明かしてあげるわよ……まったく。私はマリオネットよ。能力は【糸り人形】特殊な魔力を糸に流して簡単に切れないように強度を上げてから、人形を丁度よくれるのかを調節するの。これが結構大変でね……だから」
無造作に転がっていた人間の死が次々と蘇ってくるかのように、レヴィアの作する糸よってきだし始めた。
甲冑をにつける死。弓矢を構えている死。杖に魔力を注ぎ始める死。前線で盾やバックラーを構える死。
全てをレヴィアがっているのだと考えると、とてもじゃないが化けもいいところだ。
エリーシャの知っているマリオネットは、魔力をあまり消費しない使い勝手のよい木質の傀儡を使用する。
なのにレヴィアは糸だけでなく、る人形にまで魔力を注がなければ戦闘では使用できない人間を使っている。
しかもソレが100もだ。
化《バケモノ》としか言いようがない膨大な魔力量である。
さすがのエリーシャでさえレヴィアのる集団を前にして困していた。
「面倒だから一気に全部、使っちゃうわねぇ! エリーシャちゃぁあん!!」
「煩いっなぁ」
レヴィアが両腕を広げたその瞬間、エリーシャの周囲を取り囲む死の軍勢が武を構えながら襲いかかり始める。
対するエリーシャは殺傷能力のある聖剣をしまい、拳を握りしめてファイティングポーズを作った。
いくら死であろうと元は呼吸する自分らと同じ人間達である。
まずにられて挙句にそのを傷つけられる、それぞれの分は知らないけど到底彼らに対してエリーシャは聖剣を握ることなんて出來るはずもなかった。
いくら不利になろうと、エリーシャは彼らを聖剣で斬ること決してしないだろう。
「あらあらあら、迷ったのかしら!?」
レヴィアは無數にいてくれる死を用に指でりながら、エリーシャに吠えた。
一方のエリーシャはるレヴィアを目に、周囲から迫り來る死に応戦する。
振り上げられてくる武より先に攻撃を仕掛け、抑えめの一撃を加えた。
1人だけならず、數10ものられた死がエリーシャの拳から発生した強力な衝撃に巻き込まれ宙に吹っ飛ばされてしまう。
「はあっ!」
エリーシャは次々と仕掛けられてくる攻撃を華麗にかわし続けながら、設置された椅子に足をかけて早口で呪文を唱える。
【風魔法・エアウィンド】
エリーシャは発生させた強風で自分を包み込みながら勢いよく跳び上がり、そのまま破壊した扉の方へと向かった。
一回転してから扉の前まで著地。
エリーシャは鞘におさめていた聖剣を抜き取ってすぐさま振り上げてみせる。
エリーシャの睨みつける目線の先には、無數もの死を糸で用にっている張本人の無防備のレヴィアが佇んでいた。
その前方には彼を守護する者は誰一人としていない、完全に大きな隙が空いているのだ。
「あらまぁ……案外見た目に反して頭が回るのねぇ。まさか私の人形たちを攻撃範囲外まで引き付けて大きな隙を作るだなんて。やっぱりエリーシャちゃんは偉いわね♪」
と言い終える頃、慌てた様子でレヴィアは凄い速さで指をかし、全ての死を自分の前方へと呼び戻そうと試みる。
その目に映る必死さにエリーシャはニヤケながら、振り上げた剣にありったけの魔力を注ぎ込む。
「もう遅いんだよ…………これでも食らって!【ー剣罪ー セイバージャッチメント】!!!!!!」
闇をも切り拓く神々しいが聖剣から放たれ、エリーシャは膨大なまでに膨れ上がった凄まじい魔力を必死に抑え込みながら、レヴィアにめがけてソレを振り下ろしてみせた。
ゴゴゴォォォォォォォォォォン!!!
轟音と衝撃が建を大きく揺らしながら、大聖堂は瞬く間にエリーシャの一撃によって崩壊してしまう。
そのままエリーシャ自も同様、降り注ぐ天井の瓦礫を避けることも出來なく飲み込まれてしまった。
【書籍化】天才錬金術師は気ままに旅する~世界最高の元宮廷錬金術師はポーション技術の衰退した未來に目覚め、無自覚に人助けをしていたら、いつの間にか聖女さま扱いされていた件
※書籍化が決まりました! ありがとうございます! 宮廷錬金術師として働く少女セイ・ファート。 彼女は最年少で宮廷入りした期待の新人。 世界最高の錬金術師を師匠に持ち、若くして最高峰の技術と知識を持った彼女の將來は、明るいはずだった。 しかし5年経った現在、彼女は激務に追われ、上司からいびられ、殘業の日々を送っていた。 そんなある日、王都をモンスターの群れが襲う。 セイは自分の隠し工房に逃げ込むが、なかなかモンスターは去って行かない。 食糧も盡きようとしていたので、セイは薬で仮死狀態となる。 そして次に目覚めると、セイは500年後の未來に転生していた。王都はすでに滅んでおり、自分を知るものは誰もいない狀態。 「これでもう殘業とはおさらばよ! あたしは自由に旅をする!」 自由を手に入れたセイはのんびりと、未來の世界を観光することになる。 だが彼女は知らない。この世界ではポーション技術が衰退していることを。自分の作る下級ポーションですら、超希少であることを。 セイは旅をしていくうちに、【聖女様】として噂になっていくのだが、彼女は全く気づかないのだった。
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