《S級冒険者パーティから追放された幸運な僕、神と出會い最強になる 〜勇者である妹より先に魔王討伐を目指す〜》第29話 『さらば、漆黒の翼』
 
「頼む!  どうか我らのパーティに加してくれ!  報酬はアンタのむ倍を払う!」
「え、えっと……あの」
勇者候補トレスとの決闘から1週間が経過していた。
決闘の結果。激闘の末に敗れてしまったのは意外にもトレスの方で、最近注目されるようになったS級パーティを追放されてしまった『1つ眼殺しのネロ』のボクの勝利は瞬く間に、全大陸中に広まっていた。
そのおかげでギルドの依頼を普段通りにけに行く時も食事を取る時も、王都の市街地を歩き回ることもが注目によって非常に大変になものになってしまった。
勧ももちろん……日が過ぎるたびに止まない。
「お願いだ!  ウチに人材が必要なんだよ!」
「ちょっと待ってよ!  ウチが先にってたんだけど!  そこ退いてよ!」
「噓つけい!  先に勧を頼んだのは俺だ!」
「私よ!!」 「僕だよ!!」 「儂じゃあ!」 「ワイ達だ!!」 「俺らだよ!!」
ボクの行きつけの酒場が『黒沼』であることを冒険者らに知られてから、大勢の客が店してくるようになっていた。
困ったことに、真顔で席に著くといっさい対面のない冒険者のなりをした他人がすぐさまテーブルを囲んできて勧の話を持ち出してくるのだ。
そういうのは店の方にも迷がかかるかと思えば廚房にいつもいるであろう褐巨漢の店主が、ボクの方に向けてタムズアップしながら嬉しそうにニヤケていた。
「ネロくん! 勇者候補であったトレスを倒したアンタなら分かるはずだ!  こんなシケた雑魚パーティどもに加するより、俺らのパーティに加した方が得なんだと!  綺麗なたちも沢山いる!  夜伽は彼らがけるからどうか……!」
いかにも戦士の格好をした男が、違うテーブルに座る自のパーティの仲間へと指を差す。
その席には気を放つらが4人も座っていて、するように上目でボクを見つめていた。
ゴクリと唾を飲み込んでしまうが、それより………も。
「んで、どうだ? 悪くないだろう!?」
「ゴホンゴホン、あの〜。必死な勧を申し訳ないんけど……『一つ眼殺しネロ』さんには、先客がとっくにいらっしゃるので、大人しくお引き取りできますかぁ?」
背後から放たれる無數もの殺気に全が震えてしまい、男の問いに答えられる事はなかった。
振り向くとそこには彼らがいた。
今にでもその剣を抜いて殺しにかかってきそうな元盜賊のリンカ。
を逆立たせて威嚇するミミ。
真っ赤な顔をしながら頰を膨らませて泣きそうなフィオラ。
彼らを宥めようとする聖ジュリエット様。
後から知った話だけど、どうやらジュリエットとミミもフィオラが見えるようになったらしい。
「ひ、ひぇーー!」
「きゃっ!?」
ボクを囲んでいた勧を目的としていた冒険者らの一行が、リンカ達から放たれる威圧によって一目散に酒場から逃げていってしまった。
「……あ、えっと、こんにちは?」
取り殘されたボクに彼らは怪訝な表で詰め寄り、最初にリンカが手を出してきた。
頭をコツンと叩かれ、強烈な痛みが走る。
「なんなのよ馬鹿っ!  たかが底辺冒険者らに囲まれただけで慌てふためいちゃって!  一言ぐらいは言い返しなさいよ!」
リンカに襟を鷲摑みにされ、元にまで顔を近づけられながら怒鳴られてしまう。
「ボクだって最初は斷ったんだよ?  だけど、あまりにしつこく付きまとってきてさ、だから仕方なく……」
「こっちはアンタの言い訳を聞きたいんじゃないのよ!」
バン!!  とリンカの腕力がテーブルを凹ませてしまう。
酒場とはそういう所だと言わんばかりに、その場で目撃していた店員たちらはスルーする。
いや、ただ単に怖いだけなので極力関わらないようにしている行だ。
「まあまあ、落ち著いてリンカさん。ネロくんだって嫌々絡まれていたそうだったし……ね?」
「ジュリエットは甘いのよ。こういう奴の場合、叩き上げるのが一番なのよ」
「私は別に気にしにゃいけど、ネロ兄にゃんのことになるとリンカにゃん、的になりやすいんだよね〜?」
「はぁ!?  な、急になによ?  そ、そ、そんなこと無いわよ!」
的。
最近のリンカの行からしたら確かにそんなじがしていた。
特にボクがジュリエットと二人で居ると、おどおどした様子を何故かみせてくる。
まるで何かに納得いかないような、そんなじだ。
「わ、私はただネロが1人だと心配なだけ!  人見知りな格を治してやる為にも……他人との接し方を叩き込んで……」
みるみるリンカの聲が弱くなっていく。
よく見ると頰が微かに赤く染まって、さらに覗きこめば覗き込むほど……濃くなっていって、
「ネロ、近いわよ……!」
無意識にリンカとの顔の距離を詰めてしまっていた。
鼻の先がくっつきそうな近さだ。
大気を流れる不穏な空気と殺気、リンカからそんな威圧が渦巻いていた。
「……あ」
リンカが拳を作ったその瞬間、反応する前にボクの意識は奈落の底へと落とされてしまった。
※※※※※※
王都、糞の臭いが充満した牛小屋。
そこで仕方なくアルバイトしていた勇者候補トレス一行がいた。
トレスは慣れない手つきでの搾り、カレンは鼻をつまみながら腹を空かせた牛たちの餌やり、アリシアは魔で牛たちの導、サクマは活き活きと牛と會話。
普段サクマが見せない笑顔がより一層にイケメンフェイスである。
楽しそうに仕事をしているのはこの場でサクマだけであり、作業中のS級パーティらはブツブツと文句を所々吐いていた。
それも仕方ないだろう。
あの決闘の日以來から、彼らは冒険者ギルドへと顔を出さなくなってしまったからだ。
もしギルドに訪れればバッシングの嵐が吹き荒れ、暴言に耐のない勇者候補トレスが堪忍袋の緒を切らしてし暴力を振るってしまう。
ギルドで暴力を振るった場合は高額の罰金が科せらる。
もっと酷ければギルドカードを剝奪されて活を停止される場合もある。それが冒険者にとってどれだけ致命的なのものなのか、未だトレスには分かっていなかった。
それを恐ろしく思ったカレンらはアルバイト先を探し、見つけたのがこの牧場である。
時給は700ゴルドという非常に安い値段だが、最も募集が多い風俗や娼婦よりかはマシだ。
そんな最初の1日目、誰もが想像通りに弱音を吐いたのはトレスだった。
汚れるわ、自分は勇者になる偉大なる男だと訴えるわ、疲れるわ、アレルギーだと言い訳するわ、愚癡を吐かれるせいか仲間たちにもストレスが溜まってしまっていた。
2日目にはカレンが泣いていてしまった。
どうやら牛の糞を踏んでしまったらしい。
3日目、腹が減ったせいでアリシアが倒れてしまった。
あまり食べずに仕事をやっていたのか原因である。
そして4日の夜、トレス主催の愚癡會が開催された。
容はネロのインチキ。
「俺はあいつに負けてなんかいない……あれはきっと偽の替え玉なのだ!」
「……ああジュリエット、いつか必ずキミを救いだしてみせるから待っていてくれ」
「なぜギルドへと行かないのだ!?  こんなゴミダメに働く必要はないだろう!!」
と、そんなじで8割トレスの拠のない言い訳、現実逃避、口によって愚癡會が進められる。
そんな弱音ばかりを吐く彼に、遂にカレンは嫌気をさしてしまった。
話を中斷させ、カレンは落ち著いた聲でトレスに言い放つ。
「もう耐えられないわ、解散しましょ」
「は?」
「……」
「……」
カレンの言葉を聞いて驚いたのはトレス1人だけだった。
俯いたままのサクマとアリシアの顔がうんざりしていた、まるで自分らもその話を持ちかけようとしたと言わんばかりに。
「だから解散しましょう……って、言ってんのよトレス」
「な、な、な、何故なのだカレン……妙なことを言って、気が狂ってしまったのか?」
トレスの震えた聲は、揺を隠しきれない証拠だ。
この男はに忠実である、だからこそ顔に浮かびやすい。
「……もう続けてられないのよ、こんなこと」
「こんなこと?  ああ、もしかして……この下品な下等生どもの子守がか?」
牛を下等生とディスったのが、そばで靜かにしていたテイマーのサクマをイラつかせた。
「おいコラ。牛になんてことを言いやがるんだよこの野郎。下等生だって?  人間と牛は同等の存在だ、形は違えど同じ生だ。
この世界で生きている限り、誰が上か下かなんてねーんだよ」
かなりの荒れた聲だ。
いつもなら面倒くさそうな表でけ流す彼だったが、のことになると顔つきと口調が荒くなる。
口がってしまったと自覚したトレスは反論せずに黙り込む。
「いきましょアリシア、私は故郷に帰るわ」
すでに纏めていた荷を手にして、カレンが野宿用のテントから出ていった。
サクマに好意を持つアリシアは、彼の豹変に恐れながらテントからすぐさま出ていってしまい、その先にいたカレンの橫に並んだ。
「くそが」
「なっ!?」
サクマも呆然とするトレスを放置し、眠るチビドラを手にしてテントから出ていく。
唯一と言ってもいい仲間たちが去っていってしまう。そのことの重大さに気がついたトレスはすぐさま、彼らを止めるためにもテントから出た。
「待て!  勝手な行は許さんぞ!!」
「ああ?」
去っていこうとするサクマとカレン、アリシアが足を止めて怪訝そうな表をしながらトレスの方へと振り返る。
「勝手な行ですって?  いつも自分勝手の自己中のアンタにだけは言われたくないわよ」
「なんだと?」
「もう耐えられないのよアンタのその常識知らずな態度がさ。やっと目が覚めたわ、ジュリエットが逃げる理由もやっと理解したよ」
「ジュリエットが逃げるだと……それはどういうことだ?」
嫌われているんだと自覚はなかったのかコイツ? と逆に驚かせられてしまうカレンたち。
この男は正真正銘のバカだ、前々から知っていたことだが想像を絶するほどの馬鹿さ加減で、言葉すら出てこない。
「もういい、じゃあね。アンタとは2度と逢いたくないわ……」
冷たい言葉を吐き捨て、再びカレンらはトレスに背中を向けて去ろうとする。
それを許さないのが『漆黒の翼』リーダーのトレスである。
鞘におさめられた聖剣に手に、何を思ったのかそれを引き抜く。
「「!?」」
「お前らぁぁあああ!!  調子に乗りすぎだぞ貴様ら!!  聞いていれば俺の意見ナシに決定しやがって!!  抜けることは許さん!!   この剣に集え!!   さもなけへば切り捨ててやる!!」
それを聞いた途端、3人は足を止めた。
「どうしようもない奴だな……まったく」
振り向き様にサクマとカレンとアリシアが武をその手に取る。
戦う気満々だ。
テイマーと錬金師と霊魔道士。
対する勇者候補のトレスの3対1だ。
腐っても彼らはS級パーティ。
そこらの冒険者を凌駕するほどの実力を兼ね揃えているのだ。
「俺に勝てると思っているのかぁぁぁぁ!!」
「本を現したわね」
武をその手にトレスは地面をありったけの筋力で踏み込み、それに対してカレンたちが応戦する。
勝つ気満々の余裕を顔に現にするトレスだったが、
「ギャァァァァァアッッッ!!!?」
強者同士の激闘の末、トレスは再び仲間の手によって敗北を強いられてしまった。
激痛に奇聲を上げるトレスを目に、しスッキリした様子のカレンらはその場を去ったていってしまった。
そう、今宵『漆黒の翼』は解散したのだ。
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