《究極の捕食者 ~チート融合スキルで世界最強~》第6話 激突、勇者
午前中には勉強。主に、この世界の常識や文字について。そして、午後には戦闘訓練というスケジュールをこなしながら、2週間が過ぎた。
戦闘訓練は、スキルの習得や技の開発、そして基礎的な剣や盾の使い方など様々だ。また、瞑想や魔力放出訓練などで、みんなの魔力は総合的に50~100近く上昇していた。
その中でも規格外の姫は、既に3000を突破している。王子や城の人達も大喜びだった。かくいう俺は7だけ上がって107。ダナトスさんが言うには、そもそも俺には才能が無いらしい。
剣にしても、スキルにしても、基礎力にしても。全てにおいて俺ほどび代が無いヤツは始めてだと驚かれた。
穏やかじゃない。
みんな2~3つのスキルを持っているため、組み合わせ次第で々な事が出來るようになっていた。だが、スキルを《融合》一つしか持っていない俺は、ひたすらとを融合させてゴミを量産する日々を送っていた。あげくには「をゴミにされるのは迷だから」と、城の連中にスキルの練習も止されてしまう。
ぐんぐん強くなっていくクラスメイトたち。だが、俺のここ二週間の果は魔力が7上昇したのと、ちょっと力がついたくらいだった。
焦る。
俺はみんなのから離れ、一人黙々と訓練場の隅でトレーニングをしていた。今のままでは駄目だ。もっと強くならなくては。そんな日々が、続いていた。元よりぼっちだったんだ。構わないさ。そう自分に言い聞かせる毎日だった。
***
リアンデシア城の敷地の中には、來客用のゲストハウスが建てられており、俺たちはそこで寢泊りをしている。食事も基本はこちらで食べていて、城自にったのは初日だけだ。夕食を終え、クラスメイト達が疲れを癒しに湯に浸かりに行ったり、談話室でくつろいでいる間。俺は裏庭にての特訓をしていた。
そして、日付も変わろうという時間。そろそろ自室に戻ろうと思い歩き始めたとき、擔任の黒崎先生と出くわした。どこで洗濯しているのか、未だに黒いスーツに赤いネクタイという、地球での服裝をしたままの黒崎がゲストハウスの方から歩いてきたのだ。
「なんだ七瀬、こんな時間に? 夜は危険だぞ。聞いたところによると、この世界にはオークがいるらしい」
オーク。旺盛な二足歩行の豚モンスターか。いやここ城の敷地の中ですし。
「いや、俺男子ですし。大丈夫ですよ」
「ノンケでも平気で食っちまうオーク♂が居ないと、何故斷言できる」
「もう夜出歩くのはやめます」
「よろしい。だがしかし、今まで一何をしていたんだね?」
あ、まずいな。初日にやらかして以來、俺の融合スキルは姫の監視下でのみ行うというルールがある。黒崎先生は職業柄か勘が良い。俺がこそこそスキルの練習をしていた事など、すぐに見抜くだろう。
消すか? 頭を叩き続ければ記憶を消せるだろうか。いや、あくまでも擔任だ。ここは、なんとかごまかそう。
「ちょっと見たことが無い蟲がいまして。実は俺、蟲には目が無くて」
本當は蟲なんて発見・即・殺なのだが、ここはこの噓で乗り切ろう。
「ほう。姫川に緒でのスキル練習か。恐れ知らずとはお前の為の言葉だな」
駄目だった。バレバレだった。
「しかし練習(笑)かw お前も頑張り屋さんだな」
ニヤニヤとしながらそう答える黒崎。草生やすな。イライラする態度だが、不思議と俺はこの黒崎という男に嫌悪を抱かない。
いつの日だったか、二者面談を行ったことがあった。中學時代苛められていた俺のことを心配してのことかと始めは思っていたのだが、実際は違った。
元苛められっ子という俺の立場をまるで意識していないかのように、自らのイジメ問題に関する持論を延々と、そして嬉々として語ってきたのだった。その強烈なキャラクターに圧倒された俺は、どうしてもこの男を嫌うことが出來なかった。多分、めたる強烈な個を気にってしまったのかもしれない。
「まさか七瀬。お前は姫川のようになりたいのではないだろうな?」
「姫川のように?」
どういう事だろう。ビジュアルが……という訳ではなさそうだが。今のところ、になりたいという願は俺には無い。
「つまりだ。最強スキルを手にれて、常に話題の中心となり、尊敬され敬される。何かすれば稱えられ、何かを作れば尊敬され、何かを殺せば正當化される。そんな人間になりたいのかと聞いている」
「それは……無いですかね。目立つのは苦手だ」
「なら、何故お前は隠れて特訓なんてしている?」
「それは……」
どうしてだろうか。俺は何故、頑張っているんだろうか。意地……なのだろうか。最弱なんてまっぴらだという、意地。
「いいか七瀬。耐えることと努力は別だ。今お前がつらそうな顔で行ってきたそれは、果たして本當に努力かな?」
「耐える事と努力は……別」
そういえば。最近の俺はただ何かに耐えているだけで……一歩も前に進んでいない。
「適材適所だよ七瀬。お前が姫川の様になる必要は全く無い。お前にはお前にしか出來ない、お前がやるべき事が必ずある。それを探すといい」
「はは、あるんすかね、そんな適所。正直、姫……姫川さんが居れば、他は要らないと思うんですけど」
そんな俺の発言を正すように、黒崎は靜かに口を開いた。その口調は、いつに無く真面目だった。
「姫川か……いいや、あいつだけでは駄目だ。篝夜と仙崎がバランスを取って、初めて姫川は機能する。
そうだな、アイツ一人じゃまず子がついて來ない。やがて男子にすら見捨てられるだろう」
意外に自分のクラスを見ているようだった。多分當の姫本人には相當嫌われていると思うけど。姫は男嫌いだからな。目上の人間だから態度にこそ出さないが。
「人間というのは一人じゃ何も出來ないものさ。これは道徳的なことを言っているんじゃないぞ?」
「わかりますって、黒崎先生の事だから」
「仮に完璧な人間がいたとしよう。そいつは自分が完璧であることを理解している。だから自分以外を全て切り捨てた。だが、人間が一人である以上、同時に二つの難問が押し寄せた時、破滅する」
「姫も……今そうなっていると?」
「そうだ。異世界を救うという問題。そしてクラスがバラバラになるかもしれないという問題だ。
後者を四條と仙崎が擔當することで、姫川は完璧なリーダーとしてやっていける」
そういえば四條にも「余計なことはするな」って言われてたな。完璧に無視した形になってしまったけど。
「まぁお前がこうして勝手なことをしている時點で、完璧なリーダーとは言えない訳だが」
笑いながら言いやがる。痛いところを突かれたと、視線を逸らす。
「あの……さっきから々言ってますけど、俺は別に姫川を倒したいとか、困らせたいとかじゃないんですからね?」
「違うのか? それでよくまあ、姫川の嫌がることを選択し続けることが出來るものだ」
「うぅ……」
「じゃあ、僕はこれで失禮するよ」
そういって、角を曲がって歩いていく。姿はもう見えない。
まぁ、姫の為に俺にも頑張れって言いに來た……ってところか。最後のほう笑いを堪えるようにしていたのが気になったが。まぁ気のせいだろう。まったく回りくどい先生だぜ。
***
そして小さな決意の翌日。俺は訓練場にて、姫こと姫川璃緒と対峙していた。姫は訓練用の鎧と剣と盾を裝備している。
「これは……どういう事?」
「黒崎先生から聞いたわ、特訓の事。スキルを使うときは私の前で。そう約束したのは覚えている?」
「……はい」
「よろしい。弁明はいらないわ。七瀬君。貴方は、自分の実力を試したいのでしょう? み通り、全力で相手をします」
カチャリと音を立てて、訓練用の刃の落とされた剣を構える姫。どういう事だ。一黒崎は何を言ったんだ。周囲を見渡し、視線の先に居た黒崎に目だけで問いかける。「あんた、何をした?」
「いや、僕は年漫畫が大好きでね。七瀬、お前達くらいの年頃に、難しい話し合いは必要ない。本気で戦えば、心が通じ合う。だから僕は言ったのさ。『七瀬が新技を試したがっている。是非戦ってやってくれ』とね」
「アンタは馬鹿かああああああ!!」
良いことしたぜ! みたいなウィンクやめろ! サムアップをやめろ! 相手は姫川だぞ!? 心が通じ合う前に死ぬわ。
「ふふ、安心して七瀬君。殺したりはしないから。今まで隅っこでサボっていた分、存分に可がってあげる!」
なんだその運部的なかわいがり(意味深)は。ありがたくはない。どう見ても私怨の制裁にしか思えない。バランサーの2人はどうした。
仙崎さん! 篝夜!
と、2人は遠くから見守るクラスメイト達に混じって、呑気に観戦していた。くそ、救いは無いようだった。
「七瀬君。貴方が訓練場の隅っこで一人で遊んでいた14日間。様々なことがわかりました。例えばこう」
俺の自主練を遊び扱いかよ……と思ったのもつかの間、姫が振り上げた腕で、空を斜めに切った。すると、目には見えない衝撃波のようなものがにぶつかる。衝撃に驚いて、一歩だけ後ろに引いた。
痛みは無いが……。
「痛みは無いでしょう?……でも本気を出せば、今ので魔が倒せるわ」
「何をしたんだ?」
「魔力をそのまま力として飛ばしたのよ。今のところこの技を使えるのは私だけだけど、皆練習している。その、使えるようになると思うわ」
 魔力をそのまま飛ばして攻撃!? いよいよドラゴン●ール化してないか。大丈夫かこれ?
「それは是非俺にも教えてしいね」
「はぁ、私が言いたいのはそこではないの。貴方がサボっている間に、ただでさえ大きかった私達と七瀬君の差が、さらに開いたと言いたいの」
「それを見せ付けるために、黒崎の提案を呑んだのか?」
「ええ、貴方みたいな男子は、一度痛い目を見た方が、言うことを聞いてくれるようになるんじゃないかと。先生が言っていたわ」
 姫の口角が上がる。 黒崎おのれぇ……。
「では、始めます。一応試合形式よ。どこからでも掛かってきなさい」
「どこからでもねぇ」
とはいっても迷う。盾をバシッと構えた姫には隙が全く見當たらない。いや、そもそも格闘技の経験もないのだ。隙なんて実際良く解らん。
なら。
「正面突破!!」
模擬剣を大きく振りかぶって走り出す。そして、適當な間合いで剣を降ろそうとして、が中に浮いた。
「なっ!?」
俺は走ってきた方向にそのまま吹き飛ばされ、餅をつく。
「フフ、さっきの技は予備作なしでも使えるのよ」
「マジかよ……」
目に見えない鉄壁の結界……冗談じゃない。こっちは飛び道ないんだぞ?
「遅い」
俺が苦痛に顔を歪めている間に、目にも止まらぬ速さで接近してきた姫。そのまま剣の柄を俺の腹にねじ込む。とっさに腹を意識したことでそこに魔力が集中したようで、大したダメージにはならなかった。
だが、その隙を見切られ、今度は剣本の攻撃を肩に食らう。その衝撃でまたも吹っ飛ぶ。勢を立て直し距離を取る。おでさらなる追撃は免れたが、盾を持つ左腕が痛む。まるで筋が捩れたようだ。
「灑落になんねぇ……強すぎる」
「ふふ、貴方が無駄にした時間の重みよ」
「ったく、さっきから時間を無駄にしたって言うけどさ、俺が何してたか知ってるのかよ?」
「どうせ模擬剣で地面に絵でも書いていたんでしょう?」
「違うね……」
  真面目に考えていた。訓練中も、食事の時も、午前中の勉強の時も。そして、俺は融合のスキルをなんとか役に立てようと実験をしていた。殘飯と殘飯を合させ、虹の腐食を作り上げた。食べと食べを合させ、虹の腐食を作り上げた。
だが、俺は勘違いしていた。融合なんてスキル名だからだろうか。とを合させて良いものを作らなくてはいけないという固定概念が出來ていた。
けれど違ったんだ。このスキルは、を駄目にするために使うべきだったんだ。俺は黙って手の平を姫の方に向ける。
せめて……一矢報いる。
姫との距離は10メートルほど。この距離なら直接れることなく融合を発出來る。
「な、何をする気!? まさか私と何かを融合させようっていうの!?」
「いいや、人間は融合には使えなかった。久住とウジ蟲を合させようとしたが、駄目だった」
「アイツ何言ってんのぉ!?」
遠くで久住の聲が聞こえた気がしたが、スルー。
「じゃあ……何をする気なの?」
「まぁ見てろって。鎧よ服よ剣よ……今われ――融合発!!」
その瞬間、姫のが輝きだし、やがてその輝きはガタンと音を立てて姫の足元に落ちる。やがてが消失すると、そこに現れたのは數十年雨風に曬されたかのようにさび付き風化した鉄くずだった。
「ふふ、何が狙いだったのか解らないけど、失敗だったようね……あ、え……きゃああああああああああああああ!?」
「やっと気が付いたか!」
俺の狙いに気が付いた姫は絶する。そして、ギャラリーの陣は絶句、男陣は狂喜舞して雄たけびをあげている。
そう、俺は姫の鎧と服を融合させた。融合結果こそ鉄くずだったが、融合元となった姫の鎧と姫の服は、足音に転がっている。ならば姫は今何を著ているのか? 答えは何も著ていないだ。
赤い大人っぽいランジェリー姿を盾と腕で必死に隠しながら、のまま、下著のよりも赤くなった顔で目に涙を浮かべながら俺を睨んでいる。
いいねぇゾクゾクするね。
思えばの下著姿なんて以外では初めてだ。あースマホの元々の機能が生きていたら、寫真を撮るんだけどなー。勿無い。しかしあれはこの世界のなのか、それとも異世界から履いて來たものなのだろうか。いや、今はそんなことはどうでもいい! とにかく目に焼き付ける。白い純白の。下著のとのコントラストが妙に扇的で、いけない気分にさせてくれる。
「下著を殘したのを俺の優しさと思ってくれると助かるんだけど」
「……」
一杯格好つけて言ってやった。ここまでで十分。流石に勝とうなんて考えてはいない。
「悪く思わないでしい。俺は知ってしかった。俺はただ遊んでいた訳ではないのだと。みんなの役に立ちたくて、自分のスキルで何が出來るのか、ずっと考えていたんだ。その結果、ほら見てくれよ!」
俺は周りで雄たけびをあげている男子達を指差した。全員嬉しそうだ。「もうシコるしかねーか!」とズボンに手を掛けた奴を本宮君が全力で阻止していたが、それはスルー。
「男子はみんな喜んでくれている」
「この変態っ! もう最低よ……。 やっぱり男って最悪の生きね……殺すわ。殺す!」
ですよねー。その時、姫のがうっすらとりだす。
「ふ、ふふふ、あはははははは!! このピンチに私は新たなスキルを習得したわ。行くわよ――《聖剣召喚陣》起!!」
恥ずかしい部分を隠しつつ、なんとか右手を開いた姫の手の先に、魔法陣が出現する。そして、ゆっくりとその魔法陣の中から、一本の剣が現れる。訓練用の剣なんて目ではない。白い刀と金の文字が刻まれたその剣は、素人目に見ても、素晴らしい名剣……。
「召喚――エクスカリバー!」
エクスカリバーって……。
「こりゃアカン……」
自分のを隠すため(かくれてない)に滅茶苦茶不自然な格好で剣を構える姫。冷や汗が流れるが、それ以上に恥らう姫の姿が可らしくて、命を掛ける価値のある行だったと誇りがに湧き上がってくる。この景が見られるのなら、俺の命なんて安いものだ。
「俺の訓練は……無駄じゃなかった……ぜ」
「死ねええええええ――レインボーオーバードライブ!!」
火水雷土風氷の全ての屬を乗せた一撃が盾から放出される。もはや避けるための予備作すら許さぬ速さで、その虹のは俺を包み込んだ。
そして、痛みをじる前に、意識を刈り取られたのだった。
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