《究極の捕食者 ~チート融合スキルで世界最強~》第7話 月夜の語らい
目を覚ます。
どうやらベッドの上のようだ。見慣れない天井。ってか暗くて天井が見えない。ここが久住の送られたという醫務室だろうか。
「ここはどこ? 今はいつ? 私は誰? 誰って何? 何ってどういうこと?」
「何を馬鹿なことを言っているの?」
その聲を聞いて驚く。暗くてわからないが、俺がこの聲を忘れる訳がない。姫こと姫川璃緒だ。
彼は黒く塗りつぶされた窓を指ですっとなぞる。すると、黒かった窓が明になる。明になった窓から、月明かりがり込んでくる。
「まだ日はいでないわ。あなたはそうね、半日近く眠っていわ」
そうか。そんなものか。あれだけの一撃を喰らったにも関わらず、の痛みは全くない。またクラスのみんなが回復してくれたのだろうか。
ボッチボッチ自稱しているが、結構みんなに迷を掛けてしまっているな。
「あの……どうして何も言わないの? もしかして本當に記憶を失っているの?」
姫が心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。
「大丈夫……あの時見た素敵な下著のことを俺はきっと一生忘れない」
俺にはひょっとしたら最初で最後の生のの下著姿かもしれないからな。あれ、悲しくなってきたぞ。
「あ、あれは忘れなさいよ! 覚えていても言わないのがマナーでしょ!」
「もう服を著てしまったんだな……殘念だ」
「當たり前でしょう?」
いやぁでも、あんなにいいものを見られて、その上生きていられるなんて、俺の人生結構捨てたもんでもないのかもしれないな。
しかし、何で姫はここに來たのだろう。
「トドメを刺しに來たわけではないんだよね?」
「七瀬君は私を何だと思っているの? それに、殺すつもりならレインボーオーバードライブの出力を最大にしたわ。あれでも手加減してたのよ?」
悪戯っぽく笑う。そんな顔ですら可いのだから、もう反則だろう。可さも強さも。また服を融合させてがしたいを必死に抑えながら、俺は尋ねる。
「だとしたら、どうしてここに?」
「わ、わからない? 私がここまでしているんだから、わかりそうなものだけど」
え……どうしようマジでわからない。イケメンとかだとわかったりするんだろうか。
「わからないみたいね。私は謝りに來たのよ」
「いやそれ絶対わからないわ」
「蛍とゆとりに言われたのよ。謝っておけって。でも、正直罪悪も謝罪の気持ちも全くないのよね」
本當に困っちゃうわと軽く言う。うん、やっぱりわかる訳無いよね。だが、ちょっと偉そうなところが姫っぽくて面白い。
「謝るのは、こっちのほうだよ」
俺は姫にまっすぐ向き直り、頭を下げた。
「クラスの和をして、本當にゴメン」
「え、ええ。わかってくれたのならいいんだけど。どうしたのよ七瀬君。今日はやけに素直じゃない?」
「君に負けて。真っ向勝負で容赦なく負けて、すっきりしたんだよ」
「???」
姫は困り顔で首をかしげている。無理も無い。俺自も、凄く驚いている。昨日までじていた焦りも、焦燥も。あの一撃で浄化されたかのように、心が晴れやかだ。負けて前に進む事があるのだと、驚いている。
「ま、意味は良くわからないけど、七瀬君が改心したのだとしたら、流石私としか言い様がないわ」
姫は腕を組み微笑む。
「いい七瀬君。私達のクラスは、この世界を救うっていう大事な使命に向かって突き進んでいるの! 遊んでいる暇なんてないのよ!」
そう言った姫川の目は。何の迷いも曇りもなく。ただ真っ直ぐだった。
「ああ、そうか……」
それを見て、俺は何故この子に対抗心を燃やしていたのか、理解した。
『やりましょうみんな』
あの日。この世界に初めてやって來た日。ガルム王子の言葉を聞いて、姫川は即こう答えた。そしてその時、俺は何を考えていた? 土地だとか、見返りだとか。そんなくだらない事を考えている間に、姫川は即、この世界の人々を救いたいと立ち上がった。そんな事が出來る姫川が、羨ましかった。見返りではなく、見知らぬ困っている誰かの為に立ち上がる。
その選択が出來る姫川が羨ましかった。
「けど、正直世界を救うのは姫川だけでも十分なんじゃないか? クラスメイトなんて居なくても……俺みたいな足手まといなんて居なくても、姫川一人で……」
「シャラップ! それ以上は七瀬君でも許さないわよ。」
シャラップって……。
「私はこのクラスが大好き。世界で一番、最高のクラスよ。そして、そんな最高のクラスメイト達と世界を救う。昔お父さんの部屋で読んだ漫畫みたいだわ。最高だと思わない?」
どうしよう、全然思わない。このクラスには確かに良い人も大勢居るが、久住みたいなクズも居る。姫川を持ってして『最高』と言わしめるほどのでは無い気がするのだが。
「ピンと來ていないという顔ね?」
「うん。正直。俺にはこのクラスで、仲の良い人なんて一人も存在しないからね」
「そう、なら教えてあげるわ。私のクラスメイト達の魅力をね」
そう言って姫川は語り始めた。とても、嬉しそうな顔で。
「
篝夜蛍(かがりやほたる)は陸上に命を掛けていて、走っている時は本當に輝いて見えるのよ。
仙崎ゆとりは適當そうだけれど、デザイナー志だったのよ。
久我茜さんは茶道の家元出だけれど、その文化をこの世界に伝えられないかと考えている。
宮本正(みやもとせい)くんは難関大學を目指す傍ら、クラスの男子の勉強の面倒を見ていたわ。
大阪(おおさかひかる)くんは格と頭皮の二つで場を明るくする1組のムードメーカーよ。
彩場順平くんは機械をいじらせたら右に出るものはいないわ。
古海あかりさんは手品が凄く上手なの。今度見せてもらうといいわ。
火燈環さんはファッションが凄いわよね。たまに校則違反をしているけれど、センスは抜群だわ。
久住強太くんは適當に見えるけれど、6人の弟さんたちの為に隠れてバイトをしている頑張り屋さんよ。
ジョシュア・鈴木くんは昆蟲の知識なら高校生の中でもトップクラスなのではないかしら。
大田瞳くんは実家の焼屋さんを手伝っている。
早鳥千早くんは陸上部で県大會のエース。後輩の指導が上手らしいわ。
白峰優さんは保健育の知識に秀でていて、看護師を目指していたらしくて、今は回復魔法の使い手。
綾辻里澄さんはアニメやゲームに凄く詳しいの。以前借りた漫畫は激しかったわ。
足立勇吾くんはバイクの知識に通している。
桐切恭介くんはボランティア熱が高いわね。よく被災地に行っていたわ。
羅涼くんは音ゲーが大好きで、とても上手らしいわ。
紫木櫂くんは家がとても貧しいらしいんだけど、バイトを掛け持ちして家系を支える偉い子よ。
中村圭祐くんはサッカー部で空気を読む力が素晴らしいわ。
加賀大志くんはバスケ部で、朽木さんとお付き合いしているわ。
日暮夜子さんは忍者マスターと名乗っていたわ。もしかしたら忍が使えるのかもしれないわね。
竹之麻子さんは軽音楽部の元部長で、繊細な指先をもっているわ。
朽木里奈さんは彼氏の加賀くんとの絡みでクラスのみんなを和ませているゆるふわガールよ。
館田祥子さんは學年でもトップクラスの績を誇る我がクラス自慢の傑ね。
壱外さんは大人しいけれど、ピアノのコンクールの上位賞者よ。
八神裕子さんはバドミントン部の副部長として、夏まで活躍していたわ。
芹沢貴子さんは系の大學を目指して勉強中。
狩野慎二くんは不良で績の褒められたものではないけれど、その実誰よりも熱い心を持っている人だわ。」
俺は絶句していた。彼のクラスへのに、ただただ言葉を返す事が出來なかった。同時にじたのは劣等だった。俺は人の嫌な部分を見つけるのが得意だ。けれど彼は、姫川は人のよい所を探すのが得意すぎる。
姫川の熱い臺詞を聞いて。俺が取るに足らないと思っていたクラスメイト達が、素晴らしい連中なんだと気付かされた。俺が知らない彼らの魅力を、彼は沢山知っているのだろう。だからこそ、姫川はこのクラスが大好きなのだ。
大好きなクラスメイトみんなで、世界を救う冒険をしたいのだ。
けれど。
「狩野君の事は覚えている?」
「と、當然よ。忘れる訳が無いわ。無事だと……いいんだけれど」
不安げに顔を伏せる姫。わずかに顔がる。
「姫川の気持ち、よくわかったよ。姫川のクラスが最高って話も理解した。その上で、言わせてもらうけど」
そう、前置きして。これは俺が言わなくてはいけないこと。俺だからこそ、言える事だと思った。
「みんなに戦いを強要することは、良くないと思う。俺はほら、ボッチだから反抗も出來るけど。心戦いたくなんて無いって思ってるヤツは、多いんじゃないかな? それを無理やり戦わせることは姫川にも出來ない……いや、許されないと思う」
「許されない……私でも?」
「君は一なんなの? 偉いの?」
いや、そうじゃなくて。
「戦いだけじゃない。新しい道を見つける奴がいるかもしれない。やりたい仕事が出來たり、住みたい場所が見つかったり、をして、結婚する奴だっているかもしれない」
「それは……でも、今はそんな事ないわ! みんな纏まっている。私を中心に、高いモチベーションを維持しているのよ?」
「仲間はずれになりたくないからだよ。空気を読んでいるだけさ」
「そんな……こと……」
言葉は続かなかった。思い當たる節があって、それを今まで気が付かないようにしていたのだろう。さっきまでの明るさはどこへやら。今にも泣き出しそうなこのの子に、それでも俺は言わなくてはならない。きっと姫川は、俺でも知らないような俺の良い所を言ってくれる。彼はきっと知っている。見つけてくれている。その評価をマイナスにしてしまうかもしれないけれど。それでも。
今のに。
「そんな事ない? でも、これからずっとそうとは限らない」
姫川璃緒は、普通のの子の様に、目に涙を滲ませ、こちらを睨んでいる。その表はとても等大だ。勇者とか、クラスのリーダーとか。そういった責任が剝がれた顔。只のわがままで、ちっぽけで、仲間思いの、しいの顔だった。
「小さなお城のお姫さま。君のお城は永遠じゃない。ここはあの狹い教室じゃないんだよ」
「……ッ!?」
とっさに手を上げた姫川。ビンタされるかと思ったが、その手は空中で止まったままだった。溢れ出した涙を気にすることもなく、こちらを抜くように睨み付けている。どうしてそんな事を言うのか……そんな顔に見えた。
けど、だからこそ。俺はこの子に言わなくてはいけないのだ。彼が今一番聞きたくないことを。いずれその時が來て彼の心が壊れてしまわないように。俺が今小さな傷をつけて、慣らしておかなくてはいけないのではないだろうか。
「地球に居た時のクラスの延長として今を考えているなら、改めた方がいい。きっといつか、みんなついていけなくなる。そして、君は裏切られるよ。君が大好きなクラスメイト達に」
「そんなことは……」
無い。とは彼は言わなかった。言えなかった。
「それでも私は……みんなを信じる。みんなで、このクラスでこの世界を正す」
「そう……」
その真っ直ぐな瞳に、俺の心は揺らいだ。一人くらい……そう、一人くらいは、こうやって馬鹿みたいに真っ直ぐな人間がいてもいいのかもしれない。きっと彼はこの先、數々の挫折を味わうのだろう。多くの裏切りを味わうだろう。かつての、俺の様に。その度に、さっきみたいに泣きそうな顔をして……傷つく。だから。だからこそ。
俺だけは、彼を裏切らないでいたい。そんな風になれたらと……強く思った。
 「ところで……」
一通り落ち著いたのか、仕切り直しとばかりに姫川が顔を上げた。再び強い意志の宿ったその目は、真っ直ぐにこちらを向いている。
「七瀬君、さっきからまるで他人事の様に話しているけど……まるで部外者であるかのように話しているけれど、あなたもこのクラスのメンバーなのよ? 大事なクラスメイトの一人なのよ? え、ちょっと何? なんでキョトンとしているの? ちょっと大丈夫?」
思わないところから不意打ちを喰らってしまった。だから……これだから真っ直ぐな人間は苦手だ。
まさか……散々ボッチボッチと言ってた俺が。
姫川にクラスのメンバーとして認識されている。たったそれだけのことで、滅茶苦茶嬉しいなんて。そんなことで喜んでしまうなんて、そんな自分を見つけたくなんてなかった。
「まったく七瀬君は不思議な人ね。あなたと話していると、いつもどおりの自分でいられなくなる」
「俺もだよ……」
ああ、もう。本當に、調子が狂う。
「姫川……俺……!?」
「何かしら……ッ!?」
姫川が立ち上がったその時だった。窓の外……西の方角から音が響き渡った。
高臺に設置されている城からは城下町が良く見回せる。煙が上がっている場所はすぐにわかった。
「アレは……西門」
西門がクレーターと化しており、その周りの城門も見る影も無い。
そして、城門から一のモンスターが飛び立つ。のいたるところに巖石パーツを著けたそのモンスターはゆっくりと垂直に上昇していく。
そのモンスターの寫真でも撮るかのようにスマホのカメラを構える姫川。
 「こうすると敵の報を得ることが出來るのよ」
メテオドラゴン 魔力1000
  雲の中に生息するモンスター。を丸めて落下してくるメテオインパクトは攻防一の強力な技。
「あんなの……市街地に落ちたらお終いだぞ」
「七瀬君、直ぐに裝備を整えて東広場に集合よ。私はみんなを呼んでくるわ」
「わ、わかった」
俺は立ち上がる。やっと聞こえて來たサイレンの様な不気味な音に、本當に今更ながら、戦いの世界に來たのだと、思い知った。
戦いが、始まる。
スクール下克上・超能力に目覚めたボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました★スニーカー文庫から【書籍版】発売★
西暦2040年の日本。 100人に1人の割合で超能力者が生まれるようになった時代。 ボッチな主人公は、戦闘系能力者にいじめられる日々を送っていた。 ある日、日本政府はとあるプロジェクトのために、日本中の超能力者を集めた。 そのタイミングで、主人公も超能力者であることが判明。 しかも能力は極めて有用性が高く、プロジェクトでは大活躍、學校でもヒーロー扱い。 一方で戦闘系能力者は、プロジェクトでは役に立たず、転落していく。 ※※ 著者紹介 ※※ 鏡銀鉢(かがみ・ぎんぱち) 2012年、『地球唯一の男』で第8回MF文庫Jライトノベル新人賞にて佳作を受賞、同作を『忘卻の軍神と裝甲戦姫』と改題しデビュー。 他の著作に、『獨立學園國家の召喚術科生』『俺たちは空気が読めない』『平社員は大金が欲しい』『無雙で無敵の規格外魔法使い』がある。
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