《究極の捕食者 ~チート融合スキルで世界最強~》第13話 エピローグ 沈黙の負け犬
「敵は全滅。そして、リアンデシアの被害は西門と數軒の家の損傷程度で済んだようだ。良かったね。いやおめでとうと言うべきか。君達は役割を存分に果たしたと言えるだろう」
暗闇の中。見知った人の聲が聞こえた気がした。知っているはずなのに。まるで初めて聞いた聲のようにじる。不思議なその聲に耳を傾けていると、まるで再びこの世に生まれ出たかのような錯覚と共に、俺の意識が覚醒する。意識だけだが。
寒々しい空気が満ちる場所。俺にはここがどこなのかわからなかった。そんな中で、元擔任である男。防衛戦中はどこに消えていたのか、本気で問いただしたい男、黒崎トオルはいつもの調子で淡々と告げた。を打つ雨のが無かったら、俺はここが地球の、元居た世界の教室だと錯覚していたかもしれない。
「おおっと、一人が好きなお前はまるで興味がないかもしれないが、一応、我々のクラスの被害狀況も報告しておこうと思う。先ほど被害はなかったという旨を話したが、それはあくまでコチラの世界の人間の話なのでね」
一人が好きは余計だよ。
「白峰は城の魔法使いによる再生魔法でなんとか一命を取り留めた。綾辻も命に別狀は無い。脳へのダメージによって意識は戻っていないがね。二名とも、もう以前のように生活する事は不可能だろうな」
里澄……。
「そして、次に被害者……と言えるのか解らない狀態の者が一人だけいる」
……。まぁ予想はついていた。そんな奴がいるのは。
「七瀬素空……という生徒だ。友達がいないことを除けば概ね、まぁまぁ平凡な生徒だった」
ほっとけ。
「さて、ここで質問なんだが……君という存在は今、生きているのか?」
それは俺が一番聞きたいよ。意識を取り戻したのは12時間前くらい。その時も雨が降っていたようで、全に雨粒が當たるのをじられた。
  恐らくここは屋外。だが、人が來るときには扉の音がするんだよなぁ。恐らくは中庭か何かなのだろうが。そして、もう気が付いていると思うが、今俺は視力が無い。目は開いている間隔があるのだが、無いも見えてこない。黒くもなく白くもない、視界が無い。
また、腕や足の覚も當然無い。何もかもが無い。辛うじて頭部はに覚だけが殘っているが、當然かそうと思ってもかない。まして、完全に覚醒したのは黒崎の聲が聞こえたからなのだから。
「僕は毎日君に報告を繰り返しているんだよ。君がはたして生きているのか死んでいるのか解らないからね。せめて意識だけは戻っていてしいと願って、こうして毎日遊びに來ている。當然君のことだ。他のクラスメイトは寄り付かないからね」
最後に悲しいことを告げる。やめてくれ。
「そうだ……聞いた話によると、この世界には死者を復活させる魔法があるそうだよ。だから君の亡骸も保存しておくべきなのだろうが……王子の指示でね。しばらくはここに放置とのことだよ。かわいそうに」
全然かわいそうだなんて思っていないであろう聲でそう告げる黒崎。そして、しばしの沈黙の後、口を開く。
「まるで語の主人公にでもなった気分だっただろう?」
そんなことを呟いた。さっきまでの俺に話しかけている風な話し方とはし違う。なんというか、見えない誰かに囁いているような、獨り言を呟いているような、そんなじだった。
「そうだ。まるで映畫のようだった。力を與えられ、助けてしいと言われ。大した見返りも求めずに戦う道を選択した」
それは……この世界に來てからの俺達のことを言っているのだろうか。
「まるで魔法にでも掛けられたかのようだっただろう? 非日常の世界は楽しかっただろう」
俺は楽しくは無かった。ただ皆に置いて行かれないように頑張っていただけだった。けれど、みんなはどうだったのだろうか。
「だが、今回の件で皆が理解したはずだ。ここは決しておとぎ話の世界では無い。過酷な戦いの世界なのだと。そのことを理解したあの子達がどうなっていくのか。僕はね。楽しみで仕方がないんだ」
まるで我が子の長を見守る父親の様な慈に満ちた聲だった。それが逆に……不気味だった。
「今回、いち早くこの世界の特徴を理解し、日本での日常というぬるま湯を卻したのは、意外にも……七瀬素空だった。逆に、姫川は々期待はずれだったな。彼は未だに……あの教室の……狹いお城に執著している。ずっとみんなが一緒だと。ずっと自分がリーダーであらねばならないのだと、未だに信じて頑張っている。それが々哀れでね」
なんとでも言え。たとえそんなことを言われようと、俺は姫川が間違っているとは思わない。あの時、この世界の人たちを助けたい、頼られたのだから救いたいと一番に聲を上げた。
愚かだったのかもしれない。淺はかだったのかもしれない。考えなしだったのかもしれない。早まったのかもしれない。間違いだったのかもしれない。それでも、俺はその正義は素晴らしいと思う。
それは、俺が持ち合わせていないものだから。それに、あの時彼に決斷を任せてしまった以上、俺は絶対に彼を責めたりはしない。
たとえ今、こんな風に酷い狀態であっても、それでも彼のせいにはしない。彼の決斷に従った責任は、自分で負う。いや、そもそも、俺は自分で決めて、今こうしているのだ。
「楽しみだよ。夢の様なファンタジーの時間が終わって、これから彼等は自分で自分の行く末を考え始めるんだ。このまま姫について行く者もいるだろう。離し、自分の道を歩むものもいるだろう。姫の敵になるものもいるだろう。僕はそれをずっと見ていられる立場にいる。これは幸せなことだ。そして……」
一端言葉を選ぶような沈黙をして。
「キミの行く末にも……期待しているよ」
その言葉を最後に、黒崎はどこかへ歩いていったようだ。重苦しい重厚な扉の開閉音が聞こえた。その扉が閉じるのと同時に、人の気配が消えた。奴の戯言を深く考えるつもりは無かったが、それでも、の中にしだけしこりが殘った。さて……自分自がどんな狀態なのかもわからなくなったぞ。『真紅眼』も目が見えていないと使えないし、あの時手にれたスキルがまだ俺の中に殘っているのかも、ぶっちゃけ怪しいんだよなぁ。
***
そして、考えること數時間。再び耳障りな音が聞こえて來た。カツカツと獨特な音を立てながら、その人がってきた。
軽く息を吸う音が聞こえる。やがて、覚悟したように、ゆっくりとその人は喋り始めた。
「こんにちは、七瀬君。とても生きているとは思えない見た目だけれど……異世界だから生きているかもしれない。そんなことを黒崎の奴……いいえ、黒崎先生から聞きいたの」
來たのはやはり、姫川だった。って、ちょっと待って。マジで俺今どんな姿なの!? 教えて姫!
「だから、勇気を出して來たわ。とびっきりの、勇気をね。あなたがどうやってあの軍勢を退けたのか……おおよその予想はついているわ。驚いたわ。貴方と綾辻さんが、2人で協力して、あれだけのことを為したということに。同時に、誇らしくて……うぅ」
泣いているのだろうか。姫川はしばらく落ち著くまで時間を取ったようだ。そして、無反応の俺を見て、ため息をついた。
「どうしたんだろう。なんでがっかりしているんだろう私。もしかしたら、貴方なら……そんな姿であっても生きていてくれるんじゃないかって。誰にも言えない……私の話を聞いてくれるんじゃないかって……そう思っていたのかな。生きてる訳……無いのに。そんな姿で」
いやだからマジでどんな姿なんだって! なんか逆に怖くなってきた。
「あの後……変わってしまったあなたのを治すために回復していた。けれど、帰還したガルム王子によって、あなたのは奪われてしまった。私はね、追求したの、ガルム王子に。エッシャー王子の愚かな戦のことを。あの時、私達は上手く立ちまわれていた。でも、その戦線を崩壊させたのはエッシャー王子の迷った攻撃のせいだと」
それは割と気になることではある。エッシャー王子は何故あそこで攻撃をして來たのか。
「なんて言ったと思う? ガルム王子の、大好きな兄のお気にりである私達が許せなかったんですって。そんな理由よ。ガルム王子も『それならば許そう。今後は二度とこんなことしないように』ですって。やさしく微笑んでいたのよ!? もちろん私はそんなんじゃ気が収まらなかったわ。だから言ったの。私の大切な仲間が一人死んだ。その責任はとってもらうと。そしたら……」
 また、聲が震えていく。よほど悔しいことがあったのだろうか。それとも、言いくるめられた自分がけないのか。
「ガルム王子が言ったの。『責任は私が取ろう。近々、また異世界から勇者候補を呼び出そうと思う。そこから補填しよう』って言ったのよ。信じられないでしょう? それとも、王族ってそういうものなのかしら。人の命を……私の大切な仲間を……なんだと思っているのかしら」
あの時あの王子に従った事が。そしてクラスメイトを守れなかった事が。彼の細い肩に大きく圧し掛かっている。
それはとても16歳のの子が背負いきれるものではないだろう。
彼を強く抱きしめてあげたい。頭をでてあげたい。優しいことばを投げかけてあげたい。彼を襲う全ての者を倒したい。
……そう強く思った。
けれど俺には、その一つだって出來やしない。なんて無力なのだろう。死人に口無しとは言うが、口が出せないからこそ死人なのかもしれない。俺は、ここで何をしているんだ。
「私はずっと、貴方のことを自分勝手な人間なんだと思っていたの。みんなで楽しくまとまろうとしている時に、いつもつまらなそうに余所を向いている。それが、地球での貴方の印象。どうして貴方は私の事を見てくれないんだろう。そう……思っていた」
その評価は、多分間違っていないと思うよ。けれど、君のことはずっと見ていた。それは間違いない。
「本當に貴方は不思議な人だった。けれど、この世界に來て、貴方が為したことを見て思った。貴方は私とは違うやり方でいていた。違う考え方でいていた。違う覚悟でいていたのだと。けれど、目指すべきところは同じだったのだと、信じてるわ」
弱々しい聲。目指すべきところは同じだった……か。本當はし違うのだ。
ただ俺は。俺が出來ない事が出來る君の事が羨ましくて、妬ましくて……憧れていただけだったのだ。そこに誇るべき所は何もない。愚かしい対抗心と、稚な憧れと、しばかりの意地だった。
「ふふっ。私達、もっと分かり合えていれば、きっといいパートナーになっていたと思わない?……なんて、言ってももう遅いわね。貴方は十分仕事をした。これ以上、貴方に頼ることは出來ない。どうか。どうか……ゆっくり休んでください」
それはまるで、天に旅立つ者への祈りの様であった。
「ねぇ……あの時言いかけた言葉、なんて言おうとしていたの? 私の想像が正しければ……貴方はとても、私にとって嬉しいことを言ってくれるつもりだったんじゃないかって思うの」
まるで元気を振り絞ったかのような聲だった。
「けれどその前の臺詞、君のお城は永遠じゃないって。そうなんだろうなって、今回の戦いで思ったわ。でも、私、諦めるつもりないから。みんながついてきてくれる限り、私はみんなを守る『このクラスの姫』であり続ける。貴方が教えてくれた大切なこと、きっと忘れないから」
それは、俺に対する宣戦布告のようだ。思わず笑ってしまいそうになる。理的には笑えないが、とにかく、笑いたい気分だった。
それから隨分と長い時間が過ぎて、ようやく、姫川はこの場を去った。扉の音が閉まると同時に、人の気配が周囲から消える。
俺は……無力に襲われていた。どうすれば自分が生きていることを証明できる? あの空元気で笑った姫の為に戦える?
恐らく……考えたくは無いが、恐らく俺のは尋常ではなく破壊されているのだろう。その上でどこか野外に放置、あるいは拘束されている。思考を巡らせろ。
……。
ああ……考えごとをしているのにカラスの聲がうるさい。この世界にもカラスっているんだなとか、余計なことに思考がシフトしてしまう。
……。
糞……本當にうるさいなって、なんだ、だんだんカラスの聲が大きくなっている気がする。
あっ痛!
ちょっ、ま、待ってくれ、突っつかれている? 何してんだこのカラス……あれ……意識が……?
***
――そして、次に目が覚めた時……俺は森の中にいた。
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