《究極の捕食者 ~チート融合スキルで世界最強~》第31話 抑止力の目覚め
素空達がマスマテラ・マルケニス邸を襲撃してから約一ヵ月後。姫川璃緒を中心とする勇者一行は、東の森を攻略していた。
東の森の魔や魔族を殲滅する為である。始めこそ森の魔達の強さに苦戦したが、《限界突破(オーバーリミット)》を持つ姫川は強い魔と戦う度にその魔力數値を大きく上げる。姫川の魔力數値は既に15萬を超え、負けなしだった。他のクラスメイト達も、姫川には及ばないものの、確実にその実力をばしていた。
ジエルという凄腕ベテラン冒険者も仲間に加え、順調に森の攻略を進めていた。だが、森の中央部。古代の跡の調査をしていた時の事だった。
***
神殿のような跡。それは彼等に世界史の授業で見たアンコールワットを思い出させる、石造りの神殿のような建だった。石棺が多く設置されており、その殆どは蓋が外され、中は既に持ち去られていた。
お寶を期待していたクラスメイト達は落膽する。まぁ、仮に寶を見つけたとしても、それはボスであるガルム王子に報告しなければならないのだが。
だから自分たちのになるという事は決して無いのだが、それでも、このトレジャーハンターのような狀況を皆楽しんでいるようである。一人張した面持ちをしているのは、ジエルという冒険者。
「どうしましたジエルさん?」
年齢は20代半ばといった見た目だが、眉間に刻まれた皺が、くぐってきた経験の多さを語る。姫川璃緒から見て、常にしかめっ面を崩さないジエルであるが、同時に彼の機転によって、何度も危険を潛り抜けてきた。恐らく、油斷というものをしない人なのだろうと、姫川は彼を評している。
「ああ、姫川璃緒か。いや、何。ここに満ちた魔力が気になってな」
「魔力……ですか?」
「お前達はじないか? ここには毒になりそうなほど、聖なる気が充満している」
「すみません。未者ですので」
姫川は頭を下げた。そして、自分の未さを呪った。
ここには、聖なる魔力が満ちているとジエルは言った。聖なる……と聞けば、一見危険は無いように思える。
だが、冒険者であるジエルがここまで険しい顔をしているのだ。何か危険があると見て間違いないだろう。
(なんという事。私はまた何か見逃したというの? また皆を危険に曬すの? こんな事じゃ)
こんなことじゃ駄目だ。姫川がそう自分を責めようとしていた時、ぽんと肩を叩かれた。ジエルだった。
「そう落ち込む事は無い。聖なる魔力をじ取れないのは、キミの心に邪な気持ちが無いからだ。寧ろ、聖なる魔力なんてをじ取れる方が、恥だ」
それがめだと理解している。だが、姫川の心は軽くなった。こんな頼れる先導者が初めからいれくれたら。きっとあのような悲劇は起こらなかっただろう。そう思うと口惜しい気持ちで一杯になった。
(けれど、本當は私がこうならなくてはいけなかったんだ)
今は只、良き先輩を得た。良き見本を得た。そう思い、このジエルというベテラン冒険者から、々と吸収しよう。そう決心する姫川だった。
「お前たち。ここには聖なる魔力が満ちている。不用意に跡にれるなよ」
ジエルが怒鳴るようにクラスメイト達に注意を促す。一瞬で遠足気分が霧散し、張が漂う。
「そう言うけどさジエルさんよ。ここには邪悪な魔力は一切じないぜ? 注意する必要があるのかよ」
ジエルに文句を言ったのは篝夜蛍だった。アスリートのようなスポーティなスーツにを包んだである。。年上相手に舐め腐った態度だが、ジエルは別段気を悪くした様子も無く、その質問に答えた。
「邪悪な魔力をじないから注意をする必要があるんだ」
「あ?」
首を傾げる篝夜。頭が悪いを絵に描いたような表をしている。
「それの何が悪い? 悪いやつの気配は無いんだ。だったら今日はここでキャンプだぜ」
「考えても見ろ篝夜。ここは西の森と雙璧を為す魔達の救う東の森だぞ? 神樹の影響もなく、人間なんて暮らしてはいけない土地だ。強大な力を持つ魔達が生き殘る為に戦い、殺し合う場所。それがこの森だ。そんな場所で、全く魔の気配をじないんだぞ? 何かあると思った方がいいだろう」
「……た、確かに」
言いくるめられた篝夜が気を引き締める。自分が間違っていると理解したら、きっちりと方向修正できるのが彼の長所だろう。だが、その話を聞いていても尚、ジエルの話に逆らおうとする者が居た。
久住強太である。グループである大田と羅と共に、ジエルを睨みつけていた。彼らは敵対こそしないものの、ジエルの事を心良く思っていなかった。
急に現れて自分たちのリーダーである姫川に対し、先輩風を吹かせて気取っている。姫川に頼られ、篝夜や仙崎、その他の子たちの神的支柱になっていくあのジエルという男が、久住には許せなかったのだ。
そんな稚でくだらない反抗心から、久住達はとんでもない行に出る。
まだ蓋の閉じられた石棺の一つに、その蓋に三人で手を掛ける。
「おっ、結構重いじゃねーか」
「中にはミイラか、それともお寶かな」
ジエルの忠告を無視し、石棺を開く。
「おい、貴様等何をしている!!」
それに気が付いたジエルが怒鳴る。一瞬怯んだ久住達だったが、もう止まらない。蓋が、急に軽くなったのだ。まるで中に封じ込められていた者が、手助けしたように。
「うおおお!?」
中から激しい輝きと共に、バスケボール大の銀の球が飛び出した。空中に浮かんだそれは、まるでシャボン玉のようにぶるぶると震えている。
「あ、あれは?」
「魔なのか?」
「魔か……おーいみんなー! やっちまおうぜ!」
久住のびに、面倒そうに応じるクラスメイト達。驚いたが、別段強そうな魔ではない。どちらかと言えば、面倒ごとを増やした久住達にイライラしているようだ。
だが。
「ちょっと待って、そいつは危険だよ!」
んだのは姫川の親友、仙崎ゆとりだった。スマホを銀のに向けた先崎は、いつもの余裕ぶった表を崩している。
「データが読み込めない。そいつ、正不明のモンスターだよ」
途端、クラス中に張が走る。皆武を構える手に、汗を握った。その時。
「えっ?」
突如、銀のは姫川の前に移していた。そして、まるでスライムの様に形狀を変え、質量を増やし、姫川を飲み込んだ。
「璃緒!?」
「噓、噓でしょ!?」
「ええいっ!!」
「離れろやコラああああ」
すかさず剣で攻撃するジエルと、蹴りを加える篝夜。だが、その銀のは、鉄の様にく、そして水のように捕らえどころがない。
「チッ、なんて化けを呼び出してくれたんだ。このままでは姫川が」
滅多に見せないジエルの焦る表に、クラスメイト達の顔が絶に包まれる。姫川のは、全てが銀のに包まれており、中からもがく様子も見られない。
このままでは息が出來ずに死んでしまうかもしれない。いや、単純に圧力で殺されてしまうかも。
「糞、なんとか、なんとかならないのかよおおおお」
涙の混じった篝夜のびに応じたのは、彼等が初めて聞く聲だった。
『この娘じゃないな』
そんな無機質な聲が聞こえた。途端、姫川から離れる銀の。ねられるパン生地のようにうねうねとうねった後、そのは人間の姿へと変貌した。
その神々しい姿に、クラスメイト達は息を呑んだ。
それは、一人ののようであった。銀の輝く髪、病的に白い、そして真っ赤な真紅の瞳。服はに著けていない。にある小さな二つの房がになっているが、まるでいやらしい気持ちにはさせなかった。そして、局部には何も無かった。そう、無なのだ。寄りの、無生。それは、姫川のをトレースしたからに他ならないのだが、今のクラスメイト達には知る由も無かった。
「璃緒に……似てる?」
気を失った姫川に駆け寄った仙崎が、そんな事を呟いた。そう言われて、クラスメイト達も思い至る。その銀のの顔は、どこか姫川に似ていた。そっくりではない。くなったという訳でもない。だが、どこか面影があるのだ。
そのはきょろきょろとクラスメイト達を見回している。目が合うたび、小さな悲鳴をらすクラスメイト達。この無の生の、毒の様な神々しさが恐ろしかったのだ。
「君たちじゃないな。ねぇキミ。《竜帝》って知らない?」
銀は、宮本正のすぐ目の前まで一瞬で移し、小首を傾げて尋ねた。その様子に腰を抜かした宮本君は、震えながらもなんとか答える。
「し、知らない。竜帝なんて知らない」
「そ。キミ達からは竜帝との縁をじたんだけどなぁ。あっ。ああ、じる。じるぞ。そうか。あっちか」
銀は形狀を弾丸の様に変化させ、西の空に消えていった。その様子を、唖然として見つめるクラスメイト達。
「あれは……抑止力か。アレならば、もしかしたら竜帝を滅ぼせるかも」
ジエルがそう呟いたのを、聞いていた者は居なかった。
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