《究極の捕食者 ~チート融合スキルで世界最強~》第41話 月夜の語らい2

俺の名はジエル。墮天使だ。

かつてはこの世界の為に働いていたが、抑止力の手によってヘルズゲート奧に封印されていた。今は訳あってその素を隠し、ベテラン冒険者として異世界からやって來た勇者、姫川璃緒たちを見守っている。

生意気なガキも多いが、何。數百年を生きた俺からしたら、可いものだ。寧ろ、生意気で負けん気が強い奴等ほど、鍛え甲斐があるというものだ。

彼等と共に冒険を始めて早一ヶ月。本當に早いものだ。復活直後はカス竜帝の下で働いていたが……。あれは辛い日々だった。復活早々に殺害され、蘇生されたと思ったら他の見知らぬ魔族共と《六柱》となって働いた。

はっきり言おう。クソだったと。しかし、今の生活はどうだろう?

世界を救おうと日々努力し続ける若者達とれあい、俺自、彼等に多くの事を學ぶ日々だ。特に、姫川璃緒は凄まじい。持ち合わせたスキル、才能、そしてセンス。全てにおいて群を抜いている。このまま実力を上げていけば……あのカス、じゃなかった、竜帝を倒す事も夢ではないはずだ。

その為にも。いつまで続くとも限らないこの偽りの関係。この期間中に、俺の持てる全てをコイツに叩き込まなくては。

***

夜。

人々が眠る時間。そして魔共が活発になる時間帯だ。今、俺と姫川達が探検しているのは太古の都。朽ちた跡と森が融合されたような場所だが、なんとここにダンジョンが発見された。

姫川璃緒の手柄だ。滾る若者達だったが、リーダーの姫川、冷靜に対処。まず不用意にダンジョンにはらず、彼たちのボスであるガルム王子に使いを送った。今は、その使いの返事を待っている途中である。

恐らくは、王都の調査隊と合流し、明日明後日にもダンジョンの調査を行う事となるだろう。良い。実に良い。このリアンデシアに存在するダンジョンの殆どは長い歴史の中で攻略され、全ての謎を解かれ、生息する魔も狩りつくされていた狀態。つまり、今まではダンジョン攻略なんて出來なかったと言う訳だ。

しかし、ここに來て新ダンジョンの発見。やはり姫川は持っている。姫川とその中間達。彼等で協力しダンジョンを攻略すれば、その経験は必ず寶となる。その為、俺も全力でバックアップする所存である。

さて、全員が寢靜まった夜。俺は定期報告をする為、キャンプから離れた小丘を目指している。

その途中。

俺は神に出會った。

「あれ、ジエルさんですか? どうして……ああそうか。見回りですね? ご苦労様です」

「あ、ああそんな所だ」

おっと、神かと思ったら姫川璃緒だったぜ。実際の神は心が醜いが、姫川璃緒は心も見た目もしい。月明かりに照らされた髪が神に輝いている。まるで後。マジ神。ふああ、可い。俺はテンションが顔に出ないように勤めてから、彼に近づいていく。

「姫川こそ、一こんな所で何をしていたんだ? 俺達人間は一日8時間睡眠をしないと、最高のパフォーマンスを発揮する事は出來ないぞ?」

もちろん墮天使である俺に睡眠は一切必要ない。だが、人間のフリをしているので、時々こうやって人間アピールをしているのだ。

「心配ありがとうございます。ちょっと、考え事をしていまして」

「そうなのか……んんっ!?」

言い掛けて、思わず変な聲が出てしまった。彼の目が赤く腫れていたからだ。

「ど、どうしたんだ姫川!? 泣いていたのか? 何があったんだ?」

泣き顔も可いよおおおんほおおお! じゃなかった。一何が!? 心配すぎて俺の墮天使が墮天使だぞ。

「誰かに何かをされたのか!?」

「うふふ。心配してくれてありがとうございます。けど、別に何かをされたとかじゃないんです」

そう言って気丈な表を見せながら、彼は手に握っていた四角いを見せてきた。確か、スマートフォンというモノだ。姫川達は、これで敵の報を引き出している。

しかし、姫川が見せてきたものは黒い。確か、彼が普段使っているのは黃緑だったはずだが。

「これは他人のなんです。七瀬くんという、私達の為に死んでしまった人の」

「……」

七瀬……という名前を出した途端、彼の表が曇った。

そんな表も可らしいが、やはり彼は笑っていてこそ輝く。彼にこんな顔をさせる七瀬という存在に怒りを覚える。だが、同時に羨ましくもあった。

「君にそんな顔をさせるとはな。さぞ、素晴らしいヤツだったのだろう」

「いえ、そんなに素晴らしい人という訳では」

「え、そうなのか?」

「はい。けど、私とは違う方法で、同じ結果を求めている人だった。趣味も話も考えも。まるで合わない人だったけれど。人と違うという事が間違いじゃないという事を。私に教えてくれた人でした」

「なる程。そいつが今の君を作っているという訳だな……」

「え……?」

男として激しく嫉妬する。だが、そいつの死を乗り越えて、姫川はここまで強くなったのだ。ならば。

「その七瀬という存在は、君の中で生きている」

「それって……」

「人は、ぶつかり合い、理解し合って、高め合っていくものだ。誰とも関わらずに生きていく事なんて不可能だ。君は七瀬の死を経験し、ここにいる。七瀬から影響をけた君が居る限り、そいつもまた生き続けているという事だ」

人は……そういうものだ。人間は……な。

「そうですね……彼が命を賭して教えてくれた事を、私はずっと覚えておかなくてはなりませんね」

「ああ、人間とは、そういうものだ。それに、君が泣くのを、七瀬も良しとはしないだろう? そういう奴だったんじゃないか?」

「そうかもしれません」

そう言って神のごとき笑顔で笑うと、姫川はキャンプの方へと足を向ける。どうやら、元気を取り戻してくれたようだ。

「ジエルさんは戻らないんですか?」

「ああ、俺はちょっと気になる事があってな。もうしばらくしたら戻るよ」

「そうですか。では、お休みなさい」

「ああ。良き夢を」

そう言って、別れる。しかし、背中にもう一度聲を掛けられた。

「あ、あの。明日からのダンジョン攻略も……々教えてくださいね」

「お、おう」

照れくさそうにそう言うと、小走りでキャンプに戻っていった。

すぎないか? なぁ? 可すぎないか? 天使過ぎないか? 転職する前は天界で働いていた俺だが、天使にだってあんな天使居なかったぞ。

照れてるリオリン可いよおおおおおおおおおおおおおおおおお!!

「ふぅ。おっと。これから同僚と會うんだった。気を引き締めなくては」

***

森を進む。すると、三本の角を生やした白髪のが立っていた。

「あ、ジエルさーん!」

俺を見かけて手を振る。として非常に可らしい姿をしているが、その本質は兇悪そのもの。本気を出されたら俺でも命を張る必要がある。それほどの強者。

種族をトライコーン、名をレティスという。ユニコーンとバイコーンの混種という、本來ありえない出生を持つ、イカれたバーサーカーだ。

明化やテレポート、さらには筋力倍加など、その能力は反則級。

しかも頭の出來が非常に殘念で、ヘルズゲートから復活させられた六柱の中で唯一竜帝を支持する馬鹿だ。愚かとしか言い様が無い。

以前、何故竜帝を支持するのか聞いてみたのだが。

『え、だって世の中強さが全てじゃないですか。弱強食、破壊と暴力。強さこそ法です。食も睡眠も、全て暴力で解決できるんですよ。だからこそ、強者である竜帝さんは私の王です』

などと意味不明の供述をしていた。暴力で全てが決まる世界などあってたまるものか。

さて、テレポートという便利な能力を持つレティスは、竜帝の命をけて、様々な場所を飛び回っている。俺の任務は姫川璃緒の監視。そして、危険が迫れば守れと竜帝直々に命じられている。

そして、週に一回、こうしてレティスに々と報告をするのだ。今日も、今週あった出來事を事細かに説明していく。

眠そうに話を聞いているレティスだが、毎度大丈夫かと思う。本當にコイツは俺の言ったとおりに竜帝に報告しているんだろうな? そして、話がダンジョンの発見のところまで進んだところで。

「あーハイハイ知ってます知ってます」

「は? お前、真面目に聞いていたんだろうな?」

「ええ。ダンジョンについては竜帝さんから直接聞いたんですよ」

「竜帝から?」

何を言っているんだコイツは? 何故今日発見されたダンジョンを竜帝が知っている。

「ランページさんが知っていたみたいですねー。もしかしたらヴァンさんに探させたのかも」

ランページ。あの時飛び立った時は竜帝を倒せると期待していたのだが。

まさか仲間になってしまうとは。一どうなってやがる。神の野郎、自分の部下の管理くらいはしっかりしておいて貰いたい。

まぁ、自分の役割を放棄したランページにはそのペナルティがあると思うが。

「で、竜帝さんとランページさんでこれからそのダンジョンを攻略するみたいですよ」

「お、おいちょっと待ってくれ」

あの二人がダンジョンを攻略? そ、それは非常にまずいのでは!? いくら姫川が天才とは言っても、流石にまだ竜帝には敵わない。ここでキャンプを襲われては。

「そこら辺の作戦については竜帝様本人から直接聞いてください」

そう言って、レティスは俺の背後を指差した。え、ちょっ。ちょっと待って。もう、來てるのか。

関節が錆びたのかと思うほどきにくくなった首をゆっくりと後ろに向け、振り返る。さっきまで俺が居た方向から、人姿の竜帝と抑止力が歩いてくる。畜生満載のゲスの様な笑みを浮かべて。

***

「あ、あの。明日からのダンジョン攻略も……々教えてくださいね。お、おうっ」

「あっはははははは。似てる似てる! そっくりですよ竜帝さん!」

さっきの俺と姫川のやり取りをまねして俺をイジってくるのはカス……じゃなかった竜帝。そして竜帝の親友を自稱するのは抑止力ランページ。

まるで至福だった先ほどの姫川とのやり取り。全て見られていたようだった。

死にてぇ……。ここは手っ取り早く話題を変えよう。

「こ、今回はどういった用でしょうか!? まさか、あの若者達を皆殺しにするおつもりで?」

もしそうなら。たとえ命と引き換えにしても、姫川達を守る。そう腹を決めての発言だったが、竜帝は一笑に付した。なんてムカつく笑顔なんだ。

「おいおい、なんでわざわざお前に護衛を頼んだのに、自分で殺すんだよ。お前には引き続き、姫川の護衛についてもらうつもりだよ。それに、訓練もね」

「彼達と鉢合わせしないように、今すぐにでもボク達はダンジョンに潛るよ。先にモンスターを皆殺しにして、素材全てを貰いたいからね」

どうやら竜帝の武を作るために、このダンジョンのモンスターの素材が必要らしい。これ以上竜帝が強くなる事に危機しかじないが、止められる訳もない。そして、何故コイツが姫川を強くしようとするのか。間違いなく融合目的だろう。

勇者のスキルをしているのだこのカスは。だが、そうはいかない。いつか見ていろよこのカス竜帝。

俺の、俺達の姫川がお前を必ず殺す。

「聞いてるジエル?」

「はいっ! 聞いていますとも!」

覚えていろ。

「では、俺の任務は姫川達をダンジョンにれないようにする。という事でしょうか?」

「聞いてねーじゃねーか」

をどつかれた。

「ダンジョン攻略が姫川達の実力上昇に大いに役立つというのは、俺も同じ意見だ。けど、元々のダンジョンのモンスターは、俺達が貰う。その代わり」

あ、コレやばい。やばみしかない。

「もっと強いモンスターを置いていくからさ。お前はこいつ等と姫川を戦わせておくれ」

まだ見ぬ竜帝のスキルを思い、俺は天を仰いだ。

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