《初心者がVRMMOをやります(仮)》カナリアの持つ闇
「いってぇ。ディス、お前も來てたのか」
「あぁ。お前に言われて作ってみたら、存外いい出來だったからな。話たらジャスがしいって言ったから、持ってきた。ついでに織り機のメンテ」
頭をさすりながら問うジャッジに、ディスと呼ばれた犬耳の大男が何事もなかったかのように返していた。
「発端人のカナリアを連れてきた。今日はエンチャントについてジャスに聞くつもりで來たんだが、手間が省けた」
「じゃあ、後ろの子がカナリアか」
「あぁ。あとディッチさんも一緒に……あれ?」
いつの間にかディッチが消えていた。
ジャスの仕事が終わり、最初にった部屋に戻ってきた。
「んで、紹介する……って、ディッチさん、カナリア。お前ら何してんの?」
またしても気付いたら戻ってきていたディッチが、カナリアと何か話している。
「いんや? 俺はセバス君から預かったものをカナリア君に渡してただけ」
「『君」ってことはネカマ?」
ジャスティスがやや引き気味に訊ねてきた。
「普通にの子。現役子高生。君らの後輩だからね」
簡潔にディッチが紹介している。この役目、本來であればジャッジがすべきだと思うのだが。
「何故に『君』づけ?」
「現教え子♪ 俺のこと『先生』って呼ぶから、だったら俺は『君』付けで呼ぶよって言っただけ」
「ついでにディッチさんが墓掘ってVRでも先生をするんだと」
「ジャッジッ!! おまっ!!」
どうやらジャスティスには聞かれたくない話だったらしく、ディッチがジャッジの口を塞ごうとしていた。
「お前ら。俺が作業中に騒いでんじゃねぇ!!」
織り機のメンテが終わったディスカスが、不機嫌そうに戻ってきた。
カナリアがおずおずと自作のアクセサリーをその場にいた面々に差し出す様は、怯えた子羊のように思えた。勿論、現実世界の子羊だ。
「で、紹介しないとね。俺がしちゃっていい?」
楽しそうにディッチが言う。
「構いませんよ」
「ジャッジじゃなく、カナリア君」
聲をかけられただけで、びくっと怯えた姿に、その場にいた他の面々から笑いがれた。
「あのね、これは現実世界でも言えるけど、殻にこもっちゃダメだよ。ジャッジと仲良くなれたのは喜ばしいけどね。俺とのフレンド登録だって、ほとんど気圧されたじでしょ?」
ディッチの言葉に、カナリアが涙目で見つめてきた。
「そんな顔をしてもダメ。しは自分で世界を切り開きなさい。で、俺がカナリア君のこと紹介してもいいの?」
すぐさまカナリアがこくこくと頷いていた。
「今の頷きを了承と取ろうか。この子がカナリア。今有名になっているアクセサリー職人だね。それからお前達が持っているアクセサリーの製作者でもある。
で、こっちのエルフ族の男がジャスティス。ジャッジと同級生だ。『TabTapS!』の中じゃ織職人として、あと裁師としてかなり有名だよ。俺らの服も全てジャス製だからね。防系も作るから、そちらでも有名だよ。
で、さっきジャッジにスパナを投げた犬耳の大男がディスカス。鍛冶師として有名だ。錬金もし嗜んでるんだっけ?」
「しだけな」
ディスカスが答えていた。
「ちなみにディスは俺の二つ上だから、ジャッジたちとは同級生じゃない。
はい、あとは自分の口で言おうか、カナリア君」
「は……はい。カナリアです。四月からこのゲームを始めました。こちらは私のパートナーのセバスチャンです。ジャッジさんには初めて間もなく、危ないところを助けてもらいました。そこから、々お世話になってます」
この自己紹介を聞いた面々はしばかりため息をついた。もうし好きなものとか、どうしてこのゲームにしたとか、この前にやってたゲームは何だとか、そういった事も言っていいのではないかと思ったのだ。
その中でただ一人ジャッジは、ほとんどゲームをしたことがないという、カナリアからの自己申告を聞いている。正直な話、やはり一人ずつ顔合わせをしたほうがよかったのではないかと、後悔していた。
「ジャスティス。メインは織と裁……というか防製作だな。防を著ても見栄えのいい服を作りたくて、裁師としてのスキルもあげている。ディッチさんから話があったとおり、俺とジャッジは同級生だ。ゲームは小學校時代からやってる。それからAIのミラージとこの家の管理をしているNPCのサラだ」
「ディスカス。基本的に鍛冶関係をメインにやってる。その派生で錬金をし勉強している。あとは機械のメンテナンスも俺の仕事だ。ジャッジやディッチとは別のゲームからつるんでいる。多分このゲームはディッチの次に長いはずだ。そしてこっちがAIのナーヴ」
「ははははは……初めまして!」
張のあまり、聲が震えたままカナリアが挨拶をし、そのまま頭をテーブルにぶつけていた。
「ミ・レディ!!」
がたがたと震えたカナリアは、今にも失神しそうだった。慌てたセバスチャンが、カナリアを外へ出していた。
「何だ、ありゃ」
「今まで知ったやつとしか話してないんだ。いきなりディッチさんが來た辺りからもしかしたらおかしかったのかもな」
「弱すぎだろ」
ディスカスが突き放したように言う。
「いんや。あの子學校でも孤立してんだわ。こっちで療法いけるかと思ったけど、存外難しいな」
ディッチの言葉に、ジャッジが息をのんだ。
「何人かのクラスメイトとか、擔任にも聞いたんだが、どうやら自分から壁を作るらしい。今うちの學校、連絡はメルアドに送ることになってんだが、最後までメルアドの設定をしなかったんだ。擔任も呆れていて、副主任と二人であの子の攜帯設定したんだ。
そうしたら、どうなったと思う?」
暗い口調で言っていたディッチが、最後だけ明るく訊ねてきた。
「誰も想像つかんだろ? 親が怒鳴り込んできた。『親が認めたメルアド以外との送信は認めない』って。俺と副主任と教頭で何とか説得して、そん時は終わったよ。
中學だってメルアドで連絡網を回すことが多いんだ。そんな狀態じゃ、孤立して當たり前だよ」
かなり個人報を言っているが、その場にいた全員が言葉を失った。
あの時「メルアドの管理は私じゃない」と言っていた。おそらくそれに繋がるのだろう。もし仮に、カナリアが自分のアドレスを知っていたとしても、ジャッジには教えられなかったはずだ。親にばれれば大変なことになるらしいから。
「SMSでやり取りしてますが、まずいですかね」
「まずいだろうな。……俺が間に立つわ」
「すみません」
「いんや。土日以外は學校で顔合わせるわけだし、何とかなる。それよりもあんな顔して笑ったり、興味津々にのぞくんだな」
「學校では?」
「ほぼ無表。図書室の住人だよ。髪長くしたり、男の服を著たりしてるのは親への反抗心からだろうな」
ディッチの「図書室の住人」という言葉に別の意味が含まれていることを、三人がすぐさま思い當たった。
おそらく図書室の、誰も來ないような奧深くでひっそりと本を読んでいるのだろう。
「自己評価低すぎですよ。こんなアクセサリー誰も作れませんって。それなのに俺にエンチャントの方法聞いてくるってどういう了見だよ」
「そのあたりは、本人から聞いた方がいい」
ジャスティスの言葉に、ジャッジはそう返した。
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