《VRMMO生活は思ってたよりもおもしろい》47.ホラーイベント3

二つ目のスタンプを探すため屋敷に來た僕とモモは、如何にもな雰囲気の屋敷の中へと足を踏みれた。

中にる前からそうだったんだけど、モモは僕の腕にしがみついたままだ。

今更だけど、くっつきすぎて歩きにくい……。

「中、結構薄暗いね」

「リュウさん。結構をつけると、薄いの意味が無くなりますよ?」

「あ、そうだね。うっかりしてた。というか、もう怖くないの?」

「へっ? …………あ、いえいえ、怖くありませんよ? 決してやせ我慢ではないです。えぇ、斷じて違います」

やせ我慢してるんですね、わかります。

「そ、そんなことより早く行きましょう!」

「そうだね」

まぁ、外見は平靜を保っているように見えて、よく見ると足が震えていたり、まだ僕の腕にしがみついたままだから、怖がっているのがよくわかる。

たぶん、足が震えてるのを指摘すると、「こ、これは、武者震い……そう! 武者震いなんです!」という言い訳か、「そうです! 怖いんです! 文句ありますか!?」という開き直りのどちらかが返ってくるのが目に見えているので、指摘しないでおく。

屋敷が大きいからか、両壁の間のやけに橫幅のある廊下を通って屋敷の奧へと進んでいき、とある部屋の前にさしかかると、その部屋から小さいの子の啜り泣く聲が聞こえてきた。

うん、絶対幽霊の類いだね。だって、このゲーム、小さい子は保護者同伴が原則だから。この部屋からは、一人の聲つまりの子の聲しか聞こえてこないし、間違いないですな。

そう思ってチラッとモモを見ると、『ムンクのび』のようなポーズをとっていた。

「……モモ?」

「リュウさん!! ゆ、ゆゆゆ、幽霊ですよ!? ど、どど、どういたしますでしょうか!?」

「いや、落ち著いて!? 今までに一度も聞いたことのない言葉遣いになってるからね!? 取り敢えず、深呼吸しようか」

「は、はい……! ス~ ハ~ ス~ ハ~」

「どう? 落ち著いた?」

「ス~ ハ~ ス~ ハ~ ス~ ハ~」

「も、もう充分だと思うよ?」

僕がそう言ってもまだ止めないモモ。

「もしも~し、僕の聲聞こえてる?」

「ス~ ハ~ ス~ ハ~ ス~ ハ~」

……もしかして、深呼吸で落ち著きすぎて集中力が高まっちゃった?

深呼吸でこんなに落ち著く人、初めて見た……。

それから何回呼びかけても全く反応しないので、肩を揺さぶってみた。

「モモ! モモってば!」

「ス~……はっ!? あ、すみません、リュウさん。なんですか?」

「えっと、この部屋にるよ?」

「大丈夫です! 今なら、お化けでも幽霊でもバッチ來いですよ!!」

はぁ、やっといつもの明るいモモに戻った……。ビクビクして怖がってるモモも可いけど、やっぱりいつものモモの方がしっくりくる。

深呼吸がこんなに効果があるなら、最初から勧めておけばよかった。

そんなことを思いつつ目の前の扉を開けると、中は寢室になっており、ベッドの上でピンクのワンピースをに纏ったツインテールの5,6才のの子が、こちらに背を向けて啜り泣いていた。

「どうしたの?」

近寄ってそう聲をかけると、の子は泣きながらこちらを見た。

「あのね…グス…くーちゃんが…グス…くーちゃんがね……消えちゃったの」

「くーちゃんって誰のこと?」

「くーちゃんはくーちゃんだよ? くーちゃんはね、白くてモフモフで可いんだよ! いつも一緒に居たの! ……でも、くーちゃん、消えちゃった……グス」

その言い方が一番困るんだけど……。くーちゃんってなんなの? 白くてモフモフで可いって言われても、それだけじゃなんなのかわからない。

ところが、僕がそう思っているとの子がモモに抱かれたブランを見た途端にブランをモモから引き剝がして、自分で抱いて顔をすり寄せた。

「くーちゃん? くーちゃんだよね!? 探したんだよ! もう居なくならないでね」

えっと、どゆこと? もしかして、くーちゃんってシロクマのことなのかな?

「本當にその子がくーちゃんなの?」

「そうだよ! くーちゃんだよ! みうはまちがえないもん。ねぇ、くーちゃん♪」

「ク、クゥ?」

みうちゃんがそう言いながらブランに顔をすり寄せる一方、當のブランはなんの話かさっぱりわからないといった様子だった。

「これで、お外に出られる!」

「みうちゃんは、くーちゃんが居ないと外に出られないの?」

「うん。じゃないと、変なおじさんに捕まっちゃう」

「変なおじさん?」

そう聞いたところで部屋の扉がバーンッと凄い音を立てながら開かれた。

振り返ると、白の仮面のようなものを付け、チェーンソーをブンブンとエンジン音を鳴らしながら抱えた、背の高い格のいいおじさん(?)が居た。

「あの人だよ! みうを捕まえようとしてるの!」

『みぃうぅ、やぁっど見づげだぁ。八づ裂ぎにじでやるがらぁ、ごっぢへ來(ご)いぃ』

凄いダミ聲だ!? しかも、喋り方が特殊で気悪い……。というか、もうし普通のい方ないの? そのい方じゃあ近づきたくないでしょ。

「や~だよ~だ! あっかんべーのベロベロべー!」

みうちゃんがそんな子どもらしいことをすると、チェーンソーを持った男は怒ったのかエンジンをさらに吹かして近寄ってきた。

「り、りりり、リュウさん!! ど、どうするんですか!?」

「そりゃもちろん戦うでしょ。戦わないとみうちゃんが危ないし」

「そうですね。みうちゃんのことは任せてください!」

モモの言葉に頷き返してから刀を抜いてチェーンソー男と対峙した。

『邪魔ぁずるならぁ、お前がらだぁ』

そう言ってチェーンソーを橫凪ぎに振ってきたので、しゃがんで避けた。

すると、今度は真上から振り下ろしてきたので、右へ転がって避けた。

相手がチェーンソーだから、刀でけ止められないし、むやみやたらに突っ込むとチェーンソーの餌食になるし……どうしよう?

……ん? まてよ、突っ込む? そうだよ、突っ込めばいいんだよ! この部屋狹いけど、たぶん大丈夫でしょ。

その考えに至った僕は、全力で走ってチェーンソー男を通り過ぎる際に斬ってみた。

すると、それは功してチェーンソー男にダメージを與えることができた。

『ば、化げめぇ……!』

「その言葉、そっくりそのまま返す!!」

そう言いながら僕は再び全力で走り、今度は仮面のようなものを斬ってみた。

理由は、素顔が気になったから。

チェーンソー男の仮面のようなものが地面にカランと音を立てて落ち、チェーンソー男の素顔が(あらわ)になった。

「お、お父さん?」

「「えっ?」」

いやいや、八つ裂きにしてやるとか言ってた人がみうちゃんのお父さんな訳ないでしょ。

「すまない、みう。お父さん、限界だっだんだ……! お母さんに財布は握られ、會社では上司からコキ使われ、お酒もタバコもろくに飲めないし吸えなくてストレスは溜まる一方だったんだ! それで気づいたら仮面付けてチェーンソーを持ってたんだ」

お父さんだった……。しかも、典型的なストレスが原因での犯行だった……。ただ、そこでなんで仮面とチェーンソーなのかが理解できない。

「いいの。お父さん大変だったんでしょ? みう、お父さん大好きだからいいの」

「みう……」

なにこれ? ホラー要素どこ行った? 目の前で起こってるの完全にいい話じゃん。泣けてくる。というかもう、モモが涙ぐんでる。

「よかったですね」

「うん、まぁ、そうだね」

「あの、正気に戻していただいてありがとうございました。お禮にこれをどうぞ」

そう言ってみうちゃんのお父さんが渡してきたのは、スタンプだった。

まさかのこういう展開ですか。これ、間違ってお父さん倒しちゃってたら貰えなかったってこと? 危なっ!? 素顔が気になってよかった。

スタンプをけ取った僕は、紙にスタンプを押して屋敷をあとにした。

帰り際にみうちゃんに頬にキスされて、そのせいでモモが機嫌悪くしてしまって宥めると、「じゃあログアウトした後にキスしてくれたら許します」と條件を出され、僕が迷わずその條件を呑むと、「絶対、絶対ですよ?」と念押ししつつもモモの機嫌が良くなったので安心した。

その後、僕とモモは最後のスタンプを求めて學校へ向かった。

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