《VRMMO生活は思ってたよりもおもしろい》52.プールにて 2

「龍さん、早く早く!」

「はいはい」

「“はい”は一回ですよ!」

「はいはい」

50メートルプールの中から手招きしながらそう言ってきた桃香といつかと同じ問答をした後、僕はプールにった。

とても暑い日だからか、プールの水は上の方が溫(ぬる)くて下の方が冷たかった。

するとその時、聞き覚えのある聲が聞こえてきた。

「龍! 待っていたぞ、この時を!」

えっ、何を? と思いつつ聲がした方を見ると、幸也がプールサイドで仁王立ちをしていた。

傍らには佐倉さんもいる。

「あれ、幸也? よく僕達を見つけられたね」

「あのね猿渡くん、幸也くんったら猿渡くんと丹紫さんが二人っきりになるのをずっとスタンバってたんだよ?」

「あぁ、そうだよ! あの時の、夏祭りでのリベンジのためにな!」

あぁ、なるほど。そういうことね。だからあの時、「彼も居るんだよな?」って聞いてきたのか。

「それで? リベンジって言うけど、なにやるの?」

「そりゃもちろん、泳ぎの速さを競うんだよ。この50メートルプールを往復して速かった方が勝ちだ」

100メートルも泳ぐの? キツくない?

「泳ぎ方は?」

「自由だ。クロール・背泳ぎ・平泳ぎ・バタフライでなら、どれでも好きな泳ぎ方でいい」

それは自由と言うのだろうか? まぁいいか。泳ぎ方それくらいしか無いし。あ、でも、犬かきとかあるじゃん。

でもまあ、速さを競うのに犬かきを選択するバカはいないだろうから気にしないでおこう。……犬かきが一番速く泳げる人なら話は別だけどね。

桃香に了承を取り、一旦あがってもらい、それとれ替わる形で幸也がプールにってきた。

「言っとくけど手加減しないからな!」

「いや、リベンジって言ったのに、なんでそのセリフ?」

ワケわからん。ボケなのかなんなのかハッキリしてほしい。

幸い、50メートルプールには僕達以外には3,4組の二人組が居るだけだったので、競爭はなんの障害もなくできる。

僕と幸也が位置につくと、佐倉さんが「よーい、ドンッ!」とんだ。

その合図と共に、僕と幸也は泳ぎ始めた。

幸也がなんの泳ぎをしているかはわからないけど、僕は一番楽な平泳ぎにした。

平泳ぎは、水のかき方をきちんとすればグイグイ進める泳ぎ方だから、個人的にはクロールや背泳ぎやバタフライよりも泳ぎやすいと思う。

やっぱり暑い日はプールだよね。冷たくて気持ちいい。これなら負けてもいいかな。なんてことを思いながら軽い気持ちで泳ぎ、そしてゴールに著いて橫を見るも、幸也の姿がない。

そんなことを思いながらなんやかんやで折り返し地點まで行ったので、ターンして50メートル先のゴールを目指す。

あれ? 幸也は? そう思って探すと、まだ25メートル辺りをクロールでこちらに向かって泳いでいた。

おかしいな、そんなに速く泳いだつもりは無かったんだけど……幸也の調子が悪かったのかな?

「やりましたね、龍さん! 龍さんの勝ちですよ!」

「平泳ぎって、あんなに速く泳げるもんなんだね。知らなかった」

二人がプールサイドから見下ろしながらそう言ってきた。

あまり嬉しくないというか、気楽に泳いでいたのに勝ってしまったことに幸也への申し訳なさが募る。

そうこうしているうちに幸也がゴールインした。

そしてこちらを見るなりこう言った。

「今日はし調子が悪かったんだ。次は負けないからな!」

なんだ、やっぱりそうだったのか。……ん? 次? 次って、まだ勝負するの?

幸也の負けず嫌いに呆れる僕であった。

◆◇◆◇◆

――桃香視點

幸也さんと菜奈さんが現れて、幸也さんが夏祭りの時のリベンジだと言って勝負を仕掛けて來たのを、龍さんは無下にすることなく快く勝負をけました。

しかもちゃんと私に了承を取ってから勝負をけてくれました。

さすが龍さんです。他人に気配りのできる、優しい心の持ち主です。私にとって、龍さんは最高の彼氏です。

私がプールサイドへ上がると、れ替わるようにして幸也さんがプールにりました。

そして、龍さんと幸也さんが並んで位置につくと、菜奈さんが「よーい、ドンッ!」とびました。

それにより競爭が始まり、龍さんは平泳ぎ、幸也さんはクロールで泳ぎ始めました。

「猿渡くん、平泳ぎなんだね。競爭には向いてないと思うけど。どうしてだと思う?」

「たぶん一番楽だからだと思いますよ」

「なんで、そう思うの?」

「勝負を快くけたとは言え、龍さんの格上勝とうとは思っていないでしょうし、元々ここには避暑目的で來たので負けてもいいと思ってるでしょうから」

「そのわりにはどんどん幸也くんが離されてるんだけど?」

「それは龍さんのフォームがしっかりしてるからです。平泳ぎって、水のかき方次第で速くも遅くもなりますから」

私が最近得たにわか知識を教えると、菜奈さんはなるほどといったじに首を縦に振りながらこう言ってきました。

「へぇ、丹紫さん知りだね」

「龍さんに比べたらまだまだです」

「あぁ、確かに。猿渡くんいつも學年一位取ってるからね。しかも全部百點満點。幸也くんとは大違いだよ」

「そうなんですか?」

「そうだよ~? いつも赤點ギリギリの績で毎回ヒヤヒヤするし、そろそろ真面目に勉強してくれないと験に差し支えるぐらいなんだから」

はぁ、幸也さん、ゲームではトップなのに勉強の方はからっきしなんですね……。可哀想に……。

そんな會話をしている間に、龍さんは既に折り返して現在25メートル辺りを泳いでいました。対する幸也さんはたった今折り返すといったところでした。

「幸也さん大丈夫でしょうか」

「あれは終わった後、今日はし調子が悪かったんだ! って言うよ。絶対」

そんな予言めいたことを言った菜奈さん。

そしてその會話の後、龍さんがゴールインしました。勝ったにもかかわらず、キョロキョロと辺りを見回している龍さんを見て、菜奈さんは疑問を口にしました。

「なんで喜ばないのかな? やっぱり丹紫さんの言う通り勝つ気は無かったのかな」

「たぶん、負けてもいいと思って気楽に泳いでいたのに幸也さんがゴールしてなかったので揺してるんだと思いますよ」

そこで試しに龍さんに「やりましたね、龍さん! 龍さんの勝ちですよ!」と言い、それに続いて菜奈さんが「平泳ぎって、あんなに速く泳げるもんなんだね。知らなかった」と言ったところ、龍さんはあまり嬉しくないと言いたげな微妙な顔をしました。

「凄いね、丹紫さん。猿渡くんの思ってたことズバリだったよ!?」

「フフフ、だって私、龍さんの彼ですから!」

そんな會話をしていると、漸く幸也さんがゴールインしました。

そして、龍さんを見ると「今日はし調子が悪かったんだ。次は負けないからな!」と言いました。

「菜奈さんも凄いじゃないですか! 幸也さん、菜奈さんが言ったセリフそのまま言ってましたよ!?」

「そりゃ私、幸也くんの彼だから」

そう言ってきた菜奈さんが笑ったので、私もつられて笑いました。

そして、幸也さんの「次は負けないからな!」というセリフに、私と菜奈さんは目を合わせると、同時に苦笑いをしました。

この短い間で、私と菜奈さんとの距離は大分まったのではないかと思う私でした。

    人が読んでいる<VRMMO生活は思ってたよりもおもしろい>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください